離婚調停は安全か~東京家庭裁判所の殺人事件を受けて~

3月20日の午後3時20分、東京家庭裁判所の1階玄関において離婚調停中の女性が夫である男性に刺されるという事件が発生しました。

現場から逃走した男性は付近の公園で現行犯逮捕されましたが、被害者の女性は搬送先の病院で亡くなられました。

亡くなられた女性のご冥福を心からお祈りいたします。

この事件は、日本の家庭裁判所の中で最も防犯体制が整備されている東京家庭裁判所で発生したため、離婚調停中の人をはじめとして家庭裁判所を利用している人の中には、強い不安を抱いた人が少なくないでしょう。

この記事では、家庭裁判所の防犯体制とその限界について解説します。

(※事件の報道、実務上の知識や経験に基づいて作成しています。誤った内容がありましたら、適宜、修正します。)

家庭裁判所の防犯体制

家庭裁判所の防犯体制について、所持品検査と個別ケースへの対応に分けて確認します。

所持品検査

事件が起こった東京家庭裁判所では、2013(平成25)年10月1日から、入庁時に金属探知機などを使用して所持品検査が実施されています。

平成25年10月1日から,入庁時に金属探知機等を使用した所持品検査を実施しています。

多くの方々が来庁される時間帯(午前9時30分から午前10時30分まで,午後零時30分から午後1時30分まで。)には,入庁に時間を要することが予想されますので,御来庁の際には時間に余裕をもってお越しください。
なお,この所持品検査では刃物等(はさみ,カッター又はカミソリなど)の危険物は,退庁されるまで裁判所でお預かりさせていただく場合がありますので,そのような危険物は裁判所にお持ち込みにならないよう御協力ください。

利用者のみなさまには御負担をお掛けいたしますが御協力をよろしくお願いいたします。

引用:裁判所|入庁時の所持品検査について

庁舎の玄関口に金属探知機が設置され、刃物などの危険物を庁舎内に持ち込めないようになっているのです。

当時、入庁検査が実施されるのは東京家庭裁判所のみでしたが、2017年6月16日、仙台地方裁判所の法廷内で裁判中に被告人が傍聴人を切りつけて殺害しようとする事件が発生した後、風向きが変わります。

2018年2月13日に千葉地方・家庭裁判所合同庁舎が、2018年3月1日からさいたま地方・家庭裁判所合同庁舎が所持品検査を開始し、2019年4月1日からは、大阪家庭裁判所で家庭裁判所単独庁舎では初めて所持品検査が開始される予定です。

その他の裁判所と比較すると遅れてではありますが、都市部の家庭裁判所では整備が進んできたところであり、今後、地方にも波及することが予想されています。

個別ケースにおける対応

家庭裁判所では、庁舎内における当事者間の衝突などが予想されるケースについては、個別対応が行われることになっています。

例えば、当事者からの事前情報により、夫が妻に暴力を加えるおそれがある、夫が妻を待ち伏せしたりストーキングしたりするおそれがある、妻が夫を見るとパニックになるおそれがあるなどの場合、裁判官を中心として対応が検討され、当事者の安全に配慮した対応がとられます。

当事者の一方が他方に危害を加えるおそれがあるケース

DV加害者とDV被害者の離婚調停など、庁舎内で当事者の一方が他方に危害を加えるおそれがあるケースについては、申立人か相手方かに関わらずDV加害者を先に呼び出します。

また、必要に応じて、庁舎入口まで調停委員や職員がDV被害者を迎えに行ったり、当事者双方の待合室を別の階にしたりする対応がとられます。

通常は、調停委員が当事者を調停室に呼び入れますが、DVケースなどの場合には、当事者双方を別々の調停室に待機させて調停委員が調停室を行き来することもあります。

さらに、当事者の一方が他方に危害を加える危険性が高い場合には、職員が調停室やDV被害者の待合室周辺を巡回警備し、問題が発生したときには大勢の職員が現場に急行できる態勢が敷かれます。

調停終了後はDV加害者を調停室など職員の目の届く場所で待機させ、DV被害者を先に退庁させます。

当事者の一方が他方をストーキングするおそれがあるケース

夫婦が別居中で、夫婦の一方が住所を秘匿したいと希望しているケースでは、通常のケース以上に情報管理に注意が払われます。

例えば、住所を開示しないだけでなく、当事者の勤務先や子どもの学校など住所の把握につながるような情報の取り扱いについても、調停委員会がこまめに協議をして慎重に対応されることになります。

また、DVなどのおそれがあるケースと同じく、必要に応じて待合室や調停室を別にしたり、退庁時間をずらしたりする対応がとられます。

当事者の一方が他方に会うと不安定になるおそれがあるケース

基本的にはDVなどのおそれがあるケースと同じく、当事者同士が合わないような対応が検討・実施されます。

また、精神疾患のある当事者などの場合、家庭裁判所に勤務する精神科医や心理学などの知見を有する家庭裁判所調査官が調停に同席し、当事者の状態について調停委員会に助言したり、調停の進行を援助したりすることもあります。

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家庭裁判所の防犯体制の限界

以上のように、家庭裁判所は庁舎内における問題発生を防ぐための対策を講じています。

事件が発生した東京家庭裁判所庁舎は、全国で有数の金属探知機による所持品検査が実施されている家庭裁判所であり、包丁やナイフなど危険物を庁舎内に持ち込むことは禁止されています。

また、家庭裁判所が、事前に当事者の一方が他方に危害を加えるおそれがあることを把握していれば、被害者よりも先に夫である男性を呼び出していたはずです。

しかし、冒頭の事件では、犯行現場は「金属探知機の手前」で、男性は被害者を「待ち伏せしていたとみられる」と報道されています。

家庭裁判所の対応は庁舎内(金属探知機の手前)

家庭裁判所の防犯体制は、原則として、庁舎内で問題が発生した場合を想定しています。

したがって、家庭裁判所庁舎内では問題が起きないよう職員が最大限の注意を払い、当事者の安全にも配慮してくれますが、庁舎を出てしまうと誰も対応してくれません。

弁護士に依頼したり、親族を同伴したりできれば一緒にいてもらえますが、弁護士費用を捻出したり、平日の日中に同伴してくれる人を見つけたりするのが難しい場合、家庭裁判所の行き帰りは一人になってしまいます。

今回の犯行現場は金属探知機の手前であり、庁舎内か庁舎外かという問題はありますが、探知機の先と比較すると職員の注意が向きにくくなっていた可能性は否定できません。

個別対応は当事者からの情報提供に基づく

家庭裁判所は、当事者からの情報提供に基づいて個別対応の要否や内容を決定します。

例えば、申立書にDVの経緯や内容が記載されている、申立人本人から相手方が裁判所で粗暴な言動に及ぶリスクを伝えられる、相手方から申立人の異常性について情報提供があった場合などに、対応を検討するのです。

したがって、危険性が高いケースでも当事者からの情報がないと個別対応の準備ができず、調停中に当事者が鉢合わせして問題が発生するというケースも報告されています。

当事者の予想外の行動には対応しにくい

家庭裁判所が事前に個別対応が必要なケースであるとの情報に接し、当事者の出頭時刻をずらすなどの対応をしていたとしても、当事者が裁判所の指示に従わなかった場合は対応することが困難になります。

例えば、DV加害者を先に呼び出したにも関わらず、DV加害者が出頭時間を守らずに裁判所付近でDV被害者を待ち伏せした場合、家庭裁判所が当事者同士の接触を防ぐのは困難です。

DV加害者が時間どおりに出頭しないことをDV被害者に連絡する対応は求められるでしょう。

しかし、担当の職員は同じ時間帯に数件から数十件の調停事件を管理しており、DV加害者不出頭の情報に触れるのが遅れる可能性がありますし、情報に触れてDV被害者に連絡しても、運転中などで電話に出られない可能性もあります。

被害に遭わないために

夫婦であれ何であれ、他人の行動を100%予測することはできません。

危害を加えられるおそれが少しでもある場合、「裁判所という公的な場だから大丈夫だろう。」と思わず、事前に家庭裁判所(依頼している場合は弁護士)に情報提供し、対応を求めてください。

また、出頭時間、待合室、待機中の行動、調停の進行などは家庭裁判所の指示に従いましょう。

庁舎外で調停の相手と接触して危害を加えられるおそれがあり、弁護士や親族などに同伴してもらえない場合は、特に、注意が必要です。

実務上、DV被害者が警察に相談した結果、警察官が調停期日の行き帰りに同伴をしてくれたケースがあります。

また、婦人相談所に相談したところ担当職員が同伴してくれたという報告も受けています。

全てのケースで対応してもらえるわけではありませんが、相談してみる余地はあるでしょう。

家庭裁判所の対応は求められるが、、、

今後、家庭裁判所に対応が求められるのは間違いありません。

しかし、裁判所という大きな組織がすぐに対応を講じることは困難ですし、事件が発生したからといって、現在係属中の調停はなくなりません。

今日も、全国の家庭裁判所で多くの調停が行われます。

そのため、調停の当事者となっている人は、自分の身は自分で守るという意識を持って行動する必要があることを忘れないでください。

最後に、改めて亡くなられた女性のご冥福をお祈りするとともに、二度と同じような痛ましい事件が起こらないことを心から願います。

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【参考】

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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