弁護士会照会制度とは?利用条件は?相手方の財産や住所を照会できる?
- 調停離婚
最終更新日: 2019.11.14
離婚紛争を弁護士に依頼すると高額な費用がかかりますが、依頼によって得られるメリットもあります。
弁護士会照会制度は、弁護士に依頼するメリットの一つです。
目次
弁護士会照会制度とは
弁護士会照会制度とは、弁護士が依頼を受けた事件に必要な範囲で、所属する弁護士会を通して公務所や公私の団体に照会をかけ、証拠・資料の収集や事実の調査などを行う制度です。
弁護士会照会制度は、弁護士法第23条の2に規定されており、弁護士の間では「23条照会」と呼ぶことが多いものです。
- 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
- 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
(弁護士法第23条の2)
弁護士「会」照会制度という名称のとおり、弁護士個人の権限ではなく、弁護士が所属する弁護士会に申し出を行い、弁護士会が申し出の必要性や相当性を審査した上で照会を行います。
弁護士会の審査というフィルターを通すことにより、弁護士が照会制度を悪用または濫用することを防いでいるのです。
弁護士会照会制度の利用件数
弁護士白書2017年版では、2016年1月から12月の利用件数は、187,219件となっています。
また、2014年1月から2016年12月までの合計利用件数は、524,046件です。
利用件数の多さから、弁護士の実務で必要な情報や証拠の収集手段として頻繁に利用されていることが分かります。
弁護士会照会制度の意義
依頼を受けた弁護士が、客観的な事実に基づいて事件を解決できるようになることです。
実務上、事件を解決するために必要な証拠や資料が当事者から十分に提出されることは稀です。
当事者が十分な資料を集められずにいることもありますし、自分に不利になる証拠を提出しないことも珍しくありません。
そのため、弁護士が、依頼を受けた事件の解決に必要な資料や証拠を収集し、「依頼人の利益を守る」という使命を全うできるように、照会制度が設けられているのです。
依頼人の利益しか守られないという批判もありますが、建前上は、依頼人の利益を守ることが、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」ことに資するとされています。
依頼を受けないと利用できない
法律上、弁護士会照会制度が利用できるのは「受任している事件について」と規定され、弁護士に依頼することが前提となっています。
しかし実務上は、依頼予定の紛争があり、その解決のために必要な場合には、離婚紛争を弁護士に相談した段階でも照会制度を利用させることは可能です。
つまり、「相手の預貯金額を知りたい。」、「相手の住所を知りたい。」だけでは照会制度は利用できませんが、離婚紛争の解決のために必要であることが明らかであれば、照会を利用して資料や証拠を収集することができるのです。
弁護士会照会制度のメリット
弁護士会照会制度には、以下のようなメリットがあります。
相手に知られず資料や証拠を収集できる
弁護士会照会制度の手続きは、原則として、弁護士会と照会先の間のみで完結します。
したがって、照会内容を相手方に知られることなく必要な資料や証拠を収集することができます。
照会先が限定されていない
照会先について、弁護士法第23条の2では「公務所又は公私の団体」と規定されているだけです。
そのため、原則として、照会先から除外されるのは個人だけで、官公庁、法人、企業などを問わず照会することが可能となっています。
簡単に利用できる
弁護士会照会制度は、弁護士法第23条の2以外に法律上の規定はなく、弁護士会が個別に規則を定めてはいますが、いずれも簡易なものです。
そのため、文書提出命令や訴えの提起前における照会など他の手続きと比較して簡単に利用することができます。
弁護士会照会制度の利用手続きの流れ
弁護士会照会制度の利用手続きは、弁護士会によって異なるところはありますが、一般的には以下のような流れで行われます。
(回答がない場合)
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弁護士会照会制度を利用して照会できる内容
法律上は「必要な事項の報告を求めることができる。」と規定されているだけで、照会できる内容について規定はないため、依頼された事件の解決に必要な範囲であれば、原則として、照会することができます。
離婚調停で弁護士に依頼した場合、以下のような照会をさせることが考えられます。
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ただし、照会先に報告義務を課す規定はなく、照会に応じるか否かは照会先次第です。
照会先に報告義務があるとする判例もありますが、回答を拒否しても照会先にペナルティはなく、回答を強制することもできません。
報告義務に関する最高裁判所の判例(平成30年12月21日)
平成30年12月21日、最高裁判所第二小法廷は、「愛知県弁護士会から日本郵便に対して転居届(転送届)の情報を照会した件につき、日本郵便に報告義務があるか否かを争った裁判」で、報告義務について判断を示さず却下しています。
この事件は、愛知県弁護士会が、所在不明の詐欺加害者の住所を明らかにする目的で、郵便局に提出された転居届の新住所を照会したところ、日本郵便が情報開示を拒絶したことについて、同弁護士会と詐欺被害者が、弁護士会照会への報告義務の確認と損害賠償を求めて日本郵便を提訴したものです。
2016年10月、最高裁判所は、損害賠償を認めた名古屋高等裁判所の判決を破棄する一方で、報告義務については差し戻しました。
2017年6月、名古屋高等裁判所は、転居届の情報について報告義務を認める判決を出しましたが、日本郵便が上告し、今回の最高裁判所の判断となりました。
回答内容の取り扱い
回答内容の多くは、個人のプライバシーに関する情報や照会先の守秘義務の対象となる情報です。
そのため、照会申し出の目的以外で回答書記載の情報を使用することは禁止されており、目的外使用が明らかになった場合、懲戒処分の対象となることがあります。
回答書のコピーを依頼者に交付するか否かについても、弁護士には慎重な判断が求められるところです。
例えば、照会先の学校に子どもが在籍していることが分かったとしても、依頼者が学校に乗りこんだり子どもを連れ去ったりするおそれがある場合、情報の示し方に十分注意しなければなりません。
戸籍や住民票の取得は職務上請求
弁護士は、職務上、受任事件や事務に関する業務の遂行に必要な範囲で、戸籍や住民票などを請求することができます。
したがって、当事者の戸籍や住民票を取得する場合、弁護士会照会制度を利用する必要はないのです。
戸籍法では、職務上請求について以下のとおり規定されています。
第1項の規定にかかわらず、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士又は行政書士は、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、その有する資格、当該業務の種類、当該事件又は事務の依頼者の氏名又は名称及び当該依頼者についての第1項各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。
(戸籍法第10条の2第3項)
また、住民基本台帳法にも規定があります。
市町村長は、当該市町村が備える住民基本台帳について、特定事務受任者から、受任している事件又は事務の依頼者が同項各号に掲げる者に該当することを理由として、同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書が必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該特定事務受任者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
(住民基本台帳法第十二条の三第2項)
【参考】