カサンドラ症候群と離婚!症状を理由に慰謝料や治療費を請求できる?

カサンドラ症候群 離婚

近年、夫婦関係の問題の一つとしてカサンドラ症候群が注目されています。

カサンドラ症候群は、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の夫(または妻)と婚姻生活を送る中で生じる心身の不調のことで、夫婦の離婚原因になることもあります。

この記事では、カサンドラ症候群とはどのような症状か、離婚や慰謝料請求の理由になるか、症状や治療方法について解説します。

カサンドラ症候群とは

カサンドラ症候群とは、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の配偶者を持つ人に生じる身体的・精神的な症状の総称です。

英語では「Cassandra Affective Disorder」と表記され、日本語ではカサンドラ症候群と訳されます。

一般的には、「配偶者間の情緒的なコミュニケーションや意思疎通がうまくできないこと」や「そうした状態を周囲に人に理解してもらえないこと」によって心身に様々な症状が現れ、夫婦関係や家庭生活に大きな影響を及ぼした状態を指して用いられます。

精神的な暴力といわれる「モラハラ(モラルハラスメント)」のように直接的なダメージは受けにくいですが、日々の生活の中で徐々に、そして確実に心をむしばみ、夫婦関係に亀裂を入れていきます。

モラハラについては、関連記事で詳しく解説しているので、モラハラで離婚したいと考えている人は参考にしてください。

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「カサンドラ」の語源はトロイの王女

カサンドラは、ギリシャ神話に登場する予知能力を持ったトロイの王女の名前です。

カサンドラは太陽神アポロンの寵愛を受けて予知能力を授かりますが、その予知能力で自分がアポロンに捨てられることを知り、アポロンを拒絶します。

その結果、アポロンの怒りを買って「予言を信じてもらえない。」という呪いを掛けられ、予知をしても誰にも信じてもらえないという苦境に陥れられてしまいます。

カサンドラ症候群の「周囲の人に理解してもらえない」という特徴から、カサンドラの名前が付されました。

カサンドラ症候群は正式な病名ではない

カサンドラ「症候群」という名称から、「心の病気の1つだろう。」、「自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)と同じ発達障害だろう。」などと思っている人が少なくありません。

しかし、正式な病名として認知はされておらず、DSM-5やICD11などには掲載されていませんし、精神科や心療内科でカサンドラ症候群と診断されることもありません。

DSM-5
  • 正式名称:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(精神障害と診断の統計マニュアル)
  • 説明:アメリカ精神医学会が出版した書籍で、精神障害の分類のための共通言語や標準的な基準を示しされたものの第5版
ICD-11
  • 正式名称:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)
  • 説明:世界保健機関が公表している、死因や疾病の国際的な統計基準の第10版

隠れカサンドラが多い

カサンドラ症候群は、本人が気づきにくく、周囲はもっと気づきにくいものです。

そのためカサンドラ症候群だが本人の自覚がない「隠れカサンドラ」と呼ばれる人が一定数いるといわれています。

また、本人が「自分はカサンドラ症候群ではないか。」と自覚しても、周囲に受け入れてもらえず、助けや支援を得られず孤立する人も少なくありません。

「自分がカサンドラ症候群である=配偶者が発達障害(アスペルガー障害)」ということなので、「夫を障害者扱いして。」などと批判されるケースも珍しくありません。

そのため、カサンドラ症候群の症状に悩まされながら長期間にわたって婚姻生活を継続し、心が壊れてしまう人が少なからずいます。

アスペルガー症候群とは

アスペルガー症候群とは、社会性発達の障害、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏りという自閉症の3つの特徴を持ちつつ、知的障害や言語発達の遅れは見られない障害です。

DSM-ⅣやICD-10ではアスペルガー症候群の診断基準などが掲載されていましたが、コミュニケーションや言語の症状や常同行動が見られる様々な状態が「自閉症スペクトラム」と捉えられるようになり、DSM-5やICD-11では削除されて「自閉症スペクトラム障害」の中に位置づけられました。

ただし、アスペルガー症候群という名称は、医療現場においては現在も使用されていますし、カサンドラ症候群を説明するキーワードの一つとして一般的に定着しています。

そのため、この記事では、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)と記載しています。

カサンドラ症候群の原因

カサンドラ症候群は、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の配偶者との関係性によって生じる二次障害です。

自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の配偶者の社会性の未熟さ、情緒的なコミュニケーションの拙さ、想像力の乏しさ、共感性の低さなどに基づいた言動や態度に継続的に接し、そこで生じた悩みを相談しても周囲に理解してもらえないことが、無力感、孤独感、絶望感につながるのです。

カサンドラ症候群を引き起こす原因としては、夫婦間の情緒的コミュニケーションが円滑にできない、気持ちが思うように伝わらない、何を考えているか分からない、対人関係や子育ての悩みに共感してもらえない、非常識な言動や態度などを挙げることができます。

カサンドラ症候群の症状

カサンドラ症候群になると、心身に以下のような症状が現れます。

精神的な症状
  • 自己評価の低下
  • 自己喪失
  • 感情の混乱
  • 怒りや不安
  • 抑うつ
  • 情動剥奪
  • 罪悪感
  • 心的外傷後ストレス反応
  • 社会恐怖症
  • 広場恐怖症など
身体的な症状
  • 疲労感
  • 倦怠感
  • 免疫系疾患
  • ホルモン系疾患
  • 不眠
  • 頭痛(偏頭痛)
  • 体重の異常な増減
  • 月経前緊張症
  • 生理不順など

どのような症状がどれくらい現れるかは個人差がありますが、心身の複数の症状が継続的に出現することが多くなっています。

なお、カサンドラ症候群は、「心的外傷を受けている状態」だと説明されることがあります。

心的外傷としてはPTSD(心的外傷後ストレス障害)が有名で、夫婦関係が悪化した後や離婚紛争中に発症するケースもあります。

PTSDとは、自然災害や犯罪など苛烈な心的外傷体験をきっかけとして、体験から時間が経過した後もフラッシュバック、侵入的再体験(悪夢)、体験に関する刺激の回避、否定的な気分や思考、情緒不安定などの症状が続く状態です。

引用:離婚ハンドブック

カサンドラ症候群は、配偶者との婚姻生活の中で苦痛を感じ続けている状態であり、過去の心的外傷体験に苦しみ続けているわけではないという点においてPTSDと区別することができます。

カサンドラ症候群の治療

カサンドラ症候群を改善させる方法について、確認していきましょう。

自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)を理解する

カサンドラ症候群を改善させる第一歩として、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)を理解する必要があります。

婚姻生活や夫婦関係のしんどさの原因の一端が配偶者の障害にあることに気づき、その障害の特性を知ることで、理不尽だと思っていた配偶者の言動や態度の原因が分かり、「自分は悪くない。」という実感を持つことができます。

そして、自分が置かれた状況を冷静に振り返り、同居の継続、別居、離婚など、その後の生活について考えることができるようになります。

コミュニケーションの方法を変える

配偶者の障害特性に応じた対応方法を知ることで、夫婦関係やそこから生じるしんどさが改善することがあります。

例えば、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の人は、ノンバーバル(非言語的)な情報を処理することが苦手なので、できるだけ言語化や視覚化をして具体的に伝えることで、意思疎通が劇的に改善することがあります。

また、周囲の刺激を否定的に受け取りやすいため、否定や非難はせず、必要な情報を淡々と伝えることも効果的です。

配偶者と距離を置く

自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)の配偶者との婚姻生活における葛藤によって心身に不調が生じ、日常生活に支障が出るようになった場合、配偶者と距離を置いて冷静さや落ち着きを取り戻すことも有効です。

「距離を置く」とは、実家への帰省や一時的な別居など物理的に距離を置くだけでなく、心理的にも距離を置くということです。

特に、夫婦が共依存関係(夫婦がその関係性に過剰に依存し、囚われている状態)に陥っている場合は、早急に距離を置くことを検討する必要があります。

治療を受ける

配偶者と距離を置きつつ、日常生活に支障を及ぼしている症状の治療を行います。

カサンドラ症候群の症状は、自分一人で克服することが難しく、また、「周囲の人に理解してもらえない」ことが多いため、必要に応じて精神科や心療内科を受診し、症状に応じた薬を処方してもらったり、カウンセリングを受けたりします。

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カサンドラ症候群と離婚

近年、カサンドラ症候群の原因である配偶者と離婚したいと希望する人が増えています。

協議離婚や調停離婚であれば、夫婦間で離婚や条件面の合意ができれば離婚することができます。

カサンドラ症候群を理由として離婚を主張し、それを配偶者が受け入れれば離婚が成立するのです。

しかし、夫婦の協議や調停で離婚できずに離婚裁判までもつれ込んだ場合は、法定離婚事由があることを家庭裁判所に認めさせないと、離婚することができません。

離婚調停におけるカサンドラ症候群への理解の乏しさ

カサンドラ症候群は、最近になって登場した新しい概念なので、「聞いたことがない。」、「聞いたことはあるが詳しくは知らない。」という人が多いのが現状です。

離婚調停を運営する裁判官や調停委員も、カサンドラ症候群について詳しく知らない人が多いです。

知らないだけなら説明すれば済むのですが、問題なのは、いくら説明しても、「相手に対する悪口」や「思い込みに過ぎない」と思われてしまうリスクがあることです。

実際のところ、離婚調停でカサンドラ症候群を主張すると、「あなたの我慢が足りないんじゃないの。」、「そんな症状、本当にあるの。」と言われることが珍しくありません。

離婚調停の運営者である裁判官や調停委員に「悪口や思い込み」だと思われてしまうと、その後の調停進行が思うように勧められなくなることもあるので、伝え方には十分な工夫が必要です。

伝え方のポイント

カサンドラ症候群について調停委員に伝えるときのポイントを示しておきます。

以下の内容を具体的なエピソードを踏まえて話す

  • 人格を貶められた、人格を傷つける発言をされた
  • 威圧的な言動や態度をされた
  • 弱みに付け込む発言をされた
  • 夫婦や子供に関する重大な選択をするときに、真剣に向き合ってもらえなかった
  • 病気や怪我をしたときに、自分の予定を優先された

モラハラを伝えるときに注意するポイントと重なるところが多くなっています。

カサンドラ症候群は離婚の理由(法定離婚事由)になるか

民法上は、5つの離婚事由が規定されています。

夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

  • 配偶者に不貞な行為があったとき。
  • 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
  • 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
  • 配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがないとき。
  • その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

(民法第770条第1項)

自閉症スペクトラム障害(アスペルガー症候群)は発達障害の一つであって精神病ではないため、「配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがないとき。」には当てはまりませんし、不貞、悪意の遺棄、生死不明にも該当しません。

したがって、カサンドラ症候群を理由として離婚を請求する場合、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」の一事情として主張することになります。

「一事情」と書いたのは、カサンドラ症候群だけを離婚理由としても離婚が認められる可能性は低く、その他の事情と一緒に主張する必要があるからです。

その他の事情は夫婦によって異なりますが、通常は不貞や悪意の遺棄など法定離婚事由に当てはまる主張を行い、なければDV(ドメスティックバイオレンス)、モラハラ(モラルハラスメント)など離婚を決意した事情を主張するのが一般的です。

離婚裁判では証拠資料が重要な意味を持つため、精神科や心療内科を受診して何らかの診断を受けた場合は、診断書を入手しておくことが大切です。

カサンドラ症候群とは診断されませんが、症状が進行すると、うつ病などと診断されることがあります。

カサンドラ症候群は慰謝料請求の理由となるか

結論から言うと、カサンドラ症候群だけで慰謝料請求が認められるのは困難です。

離婚時に慰謝料請求が認められるには、慰謝料請求の根拠となる事実と、それを裏づける客観的な資料が必要になりますが、カサンドラ症候群は日常のコミュニケーションや意思疎通の行き違いの積み重ねによって生じるものですし、医学的な病気でもないため、資料で証明することができません。

そのため、カサンドラ症候群だけを主張しても慰謝料請求は認められず、離婚請求の場合と同じく、その他の事情と組み合わせて主張していかなければなりません。

でっち上げの問題

カサンドラ症候群で真剣に悩んでいる人がいる一方で、離婚したいがためにカサンドラ症候群を装うケースが散見されます。

精神的な症状は外から見えにくいため、カサンドラ症候群に限らず、事実と異なることをでっち上げて主張しやすい傾向があります。

しかし、発覚した場合のリスクが大きい上、夫婦間の信頼関係を完全に破壊してしまいます。

離婚裁判で事実と異なる主張をしたことが、離婚後の面会交流や養育費の支払いに影響するケースは珍しくないため、注意が必要です。

なお、弁護士に依頼して離婚裁判に臨む場合、でっち上げまではいかなくても、事実を拡大解釈したり誇張したりして主張するよう勧められることがありますが、後々のことを考えて応じないようにしてください。

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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