嫡出否認とは?訴え(裁判)と調停手続きの期間とDNA鑑定の位置づけ

嫡出否認

法律上の婚姻関係にある妻が「夫以外の男性との間の子ども」を出産した場合、嫡出否認の調停や訴え(裁判)で父子関係を否認することができます。

しかし、嫡出否認の調停や訴え(裁判)ができる期間は短く、申立人(原告)となれる人も限られるなど要件が厳しく定められています。

嫡出否認とは

嫡出否認とは、嫡出推定の及ぶ嫡出子(推定される嫡出子)との父子関係を否認するための民法上の規定です。

嫡出否認を理解するには「嫡出推定」と「嫡出子」の意味を知っておく必要があるため、以下、簡単に解説します。

(嫡出推定と嫡出子について理解している場合は、「嫡出否認ができる場合」へ進んでください。)

嫡出推定とは

嫡出推定とは、一定の条件下で「命を授かった」または「生まれた」子どもについて、夫の子どもだと推定する民法上の規定です。

母子関係は分娩の事実から明らかになりますが、父子関係は外見上は明らかにならないため、父子関係を確定させて子どもの地位を安定させる目的で創設されたのが嫡出推定の制度です。

嫡出推定が及ぶのは、以下の3つの場合です。

  • 法律上の婚姻関係にある妻が婚姻中に妊娠した子ども
  • 婚姻成立日から200日を経過した後に生まれた子ども
  • 離婚成立日または婚姻取消しの日から300日以内に生まれた子ども

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嫡出子とは

嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子どもです。

日本の民法では、親の婚姻の有無によって子どもの身分を分けており、婚姻外の男女の間に生まれた子どもは嫡出子と呼ばれます。

嫡出子は、嫡出推定が及ぶ子ども(推定される嫡出子)の他、推定されない嫡出子と推定が及ばない嫡出子の3つに分類されます。

推定される嫡出子 嫡出推定期間内に生まれた子ども
推定されない嫡出子 嫡出推定期間外(夫婦の婚姻から200日以内など)に生まれたが、戸籍実務上は嫡出子の身分を得られる子ども
推定が及ばない嫡出子 夫の子どもでないことが明らかな事情(夫が所在不明な期間に妻が妊娠・出産したなど)があるが、嫡出推定期間内に生まれたため、戸籍実務上、嫡出子の身分を得た子ども

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嫡出否認しないことによる影響

「妻が出産した子どもは、自分の子どもではない」と確信していても、嫡出子として法律上の父子関係が成立すると、以下のような影響があります。

  • 親子間に扶養義務が生じる:扶養義務に基づいて養育費を支払わなければならない
  • 相続権が生じる:死亡した場合に子どもに相続権が発生する
  • 親権者になる:子どもの親として親権を行使する

夫婦関係が破綻して妻と別居や離婚をした後であっても、父子関係がある以上は子どもに対する扶養義務を負うため、子どもが成熟するまで養育費を支払い続けなければなりません。

また、死亡時には子どもに相続権が発生し、自分の財産の一部を相続させることになります。

嫡出否認ができる場合

嫡出推定は「子どもの地位を安定させる」という子の利益(子の福祉)のための制度であるため、それを否認する嫡出否認については、要件が厳しく規定されています。

子どもとの間に血縁関係がないこと

当然ですが、嫡出否認をするには当該子どもとの間に血縁関係がないことが前提となります。

後ほど詳しく解説しますが、嫡出否認の手続きではDNA鑑定が実施され、血縁関係があった場合は嫡出否認は認められません。

申立人(原告)となれるのは夫のみ

嫡出否認調停の申立人となれるのも、嫡出否認の訴えの原告(出訴権者)となれるのも、原則として、夫のみです。

妻や生まれた子ども、夫婦の親族などが申立て(訴えの提起)をすることは認められていません。

申立て(出訴)期間は子どもが生まれたことを知ったときから1年間

嫡出否認の申立て(出訴)期間は、子どもが生まれたことを夫が知ったときから1年間です。

子どもの地位を安定させる観点から、申立て(出訴)期間も規定されており、期間を過ぎるといかなる事情があっても申立て(訴えの提起)は認められません。

期間を過ぎた後は、事情によっては親子関係不存在確認の調停または訴訟の手続きを利用できることがあります。

なお、推定されない嫡出子や推定が及ばない嫡出子については、親子関係不存在確認調停または訴訟で父子関係が存在しないことを請求します。

嫡出否認手続きの流れ

嫡出否認を請求する方法は、嫡出否認調停(特殊調停、合意に相当する審判)と嫡出否認の訴えの2つあります。

しかし、嫡出否認の訴えは人事訴訟事件で調停前置主義がはたらくため、調停を経ずに訴えを提起しても裁判所の職権で調停に付されます。

したがって、原則として、まずは嫡出否認の調停を申し立て、調停での解決ができなかった場合に嫡出否認の訴えを提起することになります。

嫡出否認調停の申立て方法

嫡出否認調停は、家庭裁判所に申し立てを行います。

申立権者(申立人)

原則として、夫のみです。

夫の判断能力が低下して成年後見制度を利用している場合、夫の成年後見人や成年後見監督人が嫡出否認調停を申し立てることができます。

また、夫が子どもの出生前または申立てができる期間内に死亡した場合、子どもによって相続権を害される者や、その他夫の三親等内の血族による申立てが認められます。

申立先(管轄の家庭裁判所)

相手方(子どもまたは子どもの親権者である母)の住所地の家庭裁判所、または、当事者が合意で定める家庭裁判所(合意管轄)です。

合意管轄を利用する場合、管轄合意書を作成して申立書に添付する必要があります。

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必要書類

嫡出否認調停の申立てには、以下の書類を提出する必要があります。

  • 申立書:原本とコピーを各1通(自分用にもう1通余分にコピーしておく)
  • 進行に関する照会回答書:1通
  • 連絡先等の届出書:1通
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書):1通
  • 子どもの戸籍謄本(全部事項証明書):1通(出生届を提出していない場合、子の出生証明書のコピーと母の戸籍謄本(全部事項証明書)が必要)

子どもとの父子関係を生じさせないため、生まれた子どもの出生届を提出していない場合、子どもは無戸籍(戸籍がない状態)となるため、子どもが生まれたことを証明する「子の出生証明書」と母の戸籍謄本を提出しなければなりません。

申立てにかかる費用

  • 収入印紙:1200円分
  • 郵便切手:各家庭裁判所が指定する金額及び枚数

郵便切手の金額と枚数は各家庭裁判所が独自に決めているため、事前確認が必要です。

嫡出否認調停の流れ

嫡出否認調停の一般的な流れについて解説していきます。

嫡出否認調停は特殊調停(合意に相当する審判)に分類される家事事件で、離婚調停とは流れが大きく異なるため、注意が必要です。

調停期日の通知

嫡出否認調停の申立てが受理されると、約2週間で調停期日通知書が届きます。

調停期日通知書には調停期日(通常は申立てから約1ヶ月後に指定)の他、担当裁判所書記官の氏名と電話番号(連絡先)、事件番号、期日に必要となる書類などが記載されています。

調停期日の流れ

調停は平日の午前または午後の半日をかけて行われ、1期日あたりの時間は2~3時間程度です。

調停委員会(裁判官1人と調停委員2人のグループ)が運営し、申立人と相手方が交互に調停室に入室して調停委員に主張や意見を伝え、それを調停委員が相手に伝える方法によって進行します。

通常の裁判とは違って非公開の手続きであり、調停室には当事者以外入室できませんし、調停委員や裁判官など調停に関与する職員には守秘義務が課されており、調停の内容が外部に伝わる心配はありません。

また、当事者の合意によって紛争解決を目指す手続きであり、裁判所が判断を下すことはなく、当事者間で合意ができなければ調停は不成立で終了します。

期日間に合意ができなかったが調整の余地がある場合には、約1ヶ月後に次回期日が指定されます。

DNA鑑定

近年、DNA鑑定によって親子関係の有無がほぼ100%明らかにできるようになっています。

嫡出否認調停では、父子関係の有無を科学的に明らかにするために、原則として、DNA鑑定が実施されることになります。

DNA鑑定にかかる費用(約10万円)、父子関係がないことを立証する申立人が負担するのが原則ですが、相手方が負担する意向を示せば相手方に負担させることができます。

DNA鑑定の結果は家庭裁判所に報告され、調停員会は鑑定結果に基づいて調停を進行します。

つまり、DNA鑑定が父子関係がないという結果だった場合は相手方に嫡出否認に応じるよう求め、父子関係があるという結果だった場合は申立人に取下げを促します。

合意に相当する審判

嫡出否認は身分関係の存否を確認する人事訴訟事項であり、本来は人事訴訟事件で裁判所が判断すべきものですが、当事者が調停(審判)での解決を望み、前提となる事実などに争いがない場合には調停(審判)で解決することが認められています。

しかし手続き上、調停における当事者の合意のみで決めるのではなく、家庭裁判所が当事者の合意の相当性などを審判で判断しなければならないことになっています。

したがって、当事者が嫡出否認について審判で解決することを合意し、前提となる原因や事実に争いがないことが調停で確認された場合、家庭裁判所が調停委員会の意見を聴取して必要な事実の調査を行います。

そして、当事者間の合意が相当と判断したときに、当事者の合意に従った審判が出されることになります。

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審判後の手続き

審判結果に不服がある場合、審判の通知から2週間以内に即時抗告すれば高等裁判所で再審理されます。

即時抗告がなされないまま2週間が経過すると、審判が確定します。

その後、家庭裁判所で審判書謄本や確定証明書を取得し、審判確定日から1ヶ月日以内に、市区町村役場に戸籍訂正届を提出してください。

届出人 審判(調停)の申立人
届出先 父の所在地または本籍地
届出期限 審判の確定日から1ヶ月以内
必要書類
  • 戸籍訂正届:審判(調停)の申立人の署名押印が必要
  • 印鑑:認印可
  • 戸籍謄本(全部事項証明書):本籍地以外で届出を行う場合
  • 審判書謄本・確定証明書
  • 届出人の本人確認書類:運転免許証、パスポート、住民基本台帳カードなど

嫡出否認調停にかかる期間

嫡出否認調停にかかる期間は6ヶ月程度が一般的です。

申立ての受理から第1回期日までが1ヶ月、第1回期日から第2回期日(通常はDNAを採取する期日)までに1ヶ月、第3回期日(DNA鑑定の結果に基づいて調停を行う期日)までに1ヶ月かかります。

当事者の合意ができた場合、家庭裁判所が必要な調査を行うのに2~3ヶ月かかるため、合計すると約6ヶ月です。

DNA鑑定を実施するか否かでもめた場合は、さらに時間を要します。

嫡出否認調停が不成立で終了した場合は嫡出否認の訴えを提起する

嫡出否認調停が不成立になると、そこで手続きが終了します。

さらに嫡出否認を求める場合は、嫡出否認の訴えを提起することになります。

なお、嫡出否認の訴えを起こして付調停となっていた場合は、訴えの手続きが開始します。

嫡出否認の訴えを提起すると、家庭裁判所が原告(原則として父)と被告(子どもやその母)の主張を聴取し、DNA鑑定を含む必要な事実の調査をした上で、判断を下します。

裁判の結果に不服がある場合は、2週間以内に控訴することができます。

嫡出否認を認める裁判が確定した場合、嫡出否認調停後と同じく、戸籍訂正届を提出することになります。

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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