父を定める訴えとは?嫡出否認や親子関係不存在確認との違いを解説

母親が再婚した後に子供を出産した場合、嫡出推定が重複し、元夫(前婚の夫)と現夫(後婚の夫)の両方が子供の父と推定されることがあります。

こうした場合に、元夫と現夫のいずれが父親なのかを決める手続きが、「父を定めることを目的とする訴え(父を定める訴え)」です。

父子関係を明らかにする手続きには、父を定める訴えの他に「嫡出否認」や「親子関係不存在確認」がありますが、要件や効果が異なります。

この記事では、父を定める訴えとはどのような手続きなのか、嫡出否認や親子関係不存在確認との違いは何なのかについて解説します。

父を定める訴え(父を定めることを目的とする訴え)とは

父を定める訴えとは、母親が再婚禁止期間(民法第733条第1項)に違反して再婚し、その後に出産したことにより、嫡出の推定(民法第772条)を重複して受ける子供について、父親を定めることを求める訴えです。

民法第773条に規定されています。

第733条の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。

(民法第773条)

父を定める訴えを理解するには、民法に規定されている嫡出推定と再婚禁止期間について知っておく必要があります。

嫡出推定とは

嫡出推定とは、民法第772条に規定された要件を満たす子供について、夫の子供だと推定する民法上の制度です。

  1. 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
  2. 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

(民法第772条)

民法第772条には、嫡出推定の要件が3つ定められています。

嫡出推定の要件
  • 妻が婚姻中に妊娠した子供
  • 婚姻日から200日を経過した後に生まれた子供
  • 離婚日または婚姻取消日から300日以内に生まれた子供

母子関係は分娩の事実によって明らかにできますが、父子関係を客観的に明らかにするのは難しいので、嫡出推定の規定を設けることで、法律上、父子関係が生じる要件を定めているのです。

しかし、母親が離婚後すぐ再婚・出産した場合、「婚姻日から200日」と「離婚日または婚姻取消日から300日」が重なり、嫡出推定が重複することがあります。

そこで、再婚禁止期間が規定されています。

再婚禁止期間とは

再婚禁止期間とは、離婚または婚姻の取消しをした女性が再婚を制限される期間のことです。

女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して100日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。

(民法第733条第1項)

元々は、「前婚の解消または取消しの日から6ヶ月」でしたが、最高裁判所(2015年12月16日大法廷判決)が「再婚禁止期間のうち、100日を超える部分について違憲」という判決を下しました。

その結果、翌年に民法が改正されて現在の「100日間」に短縮されています。

女性にのみ再婚禁止期間が規定されているのは、嫡出推定の重複を防ぐためです。

女性が離婚後100日以内に再婚した場合、嫡出推定が重なる期間が生じることになり、再婚後に生まれた子供の父親が前夫なのか現夫なのかはっきりしなくなります。

再婚禁止期間を設定することにより、嫡出推定の重複を防ぎ、生まれた子供の地位を安定させようとしているのです。

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再婚禁止期間とは?女性だけ?例外と違憲訴訟で100日になった理由

父を定める訴えを検討するケース

再婚禁止期間の規定により、通常は嫡出推定が重複することはありません。

しかし、母親が離婚後に再婚禁止期間を待たずに婚姻届を提出し、市区町村役場が誤って受理した場合、民法の規定に違反していますが婚姻は成立します。

そして、再婚後すぐに子供が生まれると、嫡出推定の重複が生じ、子供の父親が前夫なのか現夫なのか分からなくなる可能性があります。

こうした状況で、子供の父親を確定させ、子供の地位を安定させるための手続きが、父を定める訴え(父を定めることを目的とする訴え)です。

メモ

判例や通説では、重婚関係が生じて嫡出推定が重複した場合についても、父を定める訴えができるとしています。

重婚とは、2つ以上の婚姻が成立した状態のことですが、婚姻中に別の婚姻届が受理されることはごく稀です。

父を定める訴え(父を定めることを目的とする訴え)の手続き

父を定める訴えの手続きについて、具体的に解説していきます。

調停前置主義

父を定める訴えは人事訴訟事件で、調停前置主義が適用されます(家事事件手続法第257条第1項)。

そのため、訴えを提起する前に調停を申し立て、当事者同士の話し合いをすることになります。

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特殊調停事件・合意に相当する審判

父を定めることを目的とする調停は、父子関係を確定させるという公益性の高い内容を取り扱うので、特殊調停事件に分類されています。

特殊調停事件では、当事者の合意だけで物事を決めることができません。

調停で当事者の合意ができた後、家庭裁判所が調停委員の意見を聴取し、必要な調査をしたうえで、相当と認める場合に父子関係について判断を示します(家事事件手続法277条1項)。

調停が不成立になった場合や、合意に相当する審判で父子関係が父親が定まらなかった場合は、父を定める訴えを提起します。

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原告(訴えを提起できる人)

原告になれるのは、子供、子供の母親、母親の現夫(後婚の夫)、母親の前夫(前婚の夫)です(人事訴訟法43条1項)。

限定されているのは、嫡出推定の重複に利害関係がある人に限定し、子供の地位を適正に形成することを目指しているからです。

被告

被告となる人も、人事訴訟法第43条に規定されています。

原告となる人被告となる人
子供または子供の母親母親の前夫と現夫が共同で被告

(人事訴訟法第43条第2項第1号)

母親の現夫母親の前夫

(人事訴訟法第43条第2項第2号)

母親の前夫母親の現夫

(人事訴訟法第43条第2項第3項)

被告となる人が死亡している場合検察官

(人事訴訟法第43条第2項)

訴えを提起する時期

父を定める訴えには、訴えを提起する時期が指定されていません。

そのため、嫡出否認のように手続きを急ぐ必要はありません。

ただし、父子関係を確定させる重要な手続なので、できるだけ早く手続きを進めるのが一般的ですし、子供のためになるでしょう。

父を定める訴えと嫡出否認・親子関係不存在確認の違い

父を定める訴えと似た手続きとして、「嫡出否認」と「親子関係不存在確認」があります。

嫡出否認とは

嫡出推定とは、嫡出推定の及ぶ嫡出子(推定される嫡出子)との父子関係を否認する手続きです。

嫡出推定の手続きができるのは、子供との間に血縁関係がないことが明らかな場合に限られます。

例えば、DNA鑑定で父子関係があることが明らかな場合、嫡出否認は認められません。

父を定める訴えと嫡出否認の違い

父を定める訴えができるのは、嫡出推定が重複する場合です。

一方で、嫡出否認は、嫡出推定が及ぶ嫡出子と親子関係がないことが明らかな場合に利用できる手続きです。

いずれも要件が厳格に規定されていますが、要件の内容に違いがあります。

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嫡出否認とは?訴え(裁判)と調停手続きの流れ・期間とDNA鑑定の要否は?

親子関係不存在確認とは

親子関係不存在確認とは、父子関係がないことが明らかな場合などに、親子関係が存在しないことを確認し、父子関係を解消する手続きです。

親子関係不存在確認ができるのは、以下のような事情がある場合です。

親子関係不存在確認ができる事情
  • 婚姻日から200日以内に子供が生まれた
  • 夫が服役中に妻が妊娠した
  • 夫が行方不明の間に妻が妊娠した
  • 夫が長期海外赴任中に妻が妊娠した
  • 夫が生殖不全の状態で妻が妊娠した
  • 別居後に妻が妊娠した
  • 子供と夫の血液型が一致しない
  • DNA鑑定の結果、父子関係が否定された
  • 子供と夫の人種が異なる

父を定める訴えと親子関係不存在確認の違い

父を定める訴えができるのは、嫡出推定が重複した場合のみです。

一方で、親子関係不存在確認は、上に挙げたような事情があれば手続きをすることができます。

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離婚ハンドブック編集部

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家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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