調停調書の調停条項:離婚成立時の養育費や年金分割、親権の記載内容
- 調停離婚
最終更新日: 2019.11.14
離婚調停は、夫婦間で離婚やそれに伴う条件面の合意ができると調停調書が作成され、調停が成立します。
調停調書の記載事項(調停条項)は、離婚調停の成立時以外に目にすることはほぼないものですが、実は、夫婦の関係や家庭の状況などに応じて様々なパターンがあります。
調停条項のパターンを知っておくことは、調停での主張のバリエーションが広がることにつながり、ひいてはより自分の希望に合った離婚を実現することになります。
目次
調停調書の調停条項とは
調停条項とは、調停成立時に裁判所書記官が作成する書面(調停調書)に記載された、調停において夫婦が合意した内容をまとめた文章です。
離婚調停では、夫婦である申立人と相手方の間で離婚の合意ができると調停が成立させられる状態となります。
裁判官が、夫婦の合意に基づいて調停委員会が作成した調停条項案を読み上げ、夫婦が内容に異議を唱えなければ調停が成立します。
その後、裁判所書記官が夫婦の合意内容(裁判官が読み上げた調停条項案の内容)を元に調停条項を清書して調停調書を作成し、当事者に交付することになります。
調停調書には、夫婦が離婚することだけでなく、夫婦が合意した子どもの親権者、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割など離婚に伴う諸条件に関する調停条項も記載されます。
離婚成立時の調停調書に記載される調停条項
離婚調停が成立する場合の一般的な調停条項は、以下のとおりです。
条件 | 調停条項 |
離婚 | 申立人と相手方は、本日、調停離婚する。 |
親権者 | 当事者間の長男○○(平成○○年◯◯月○○日生)及び長女△△(平成○○年○○月○○日生)の親権者を、母である申立人と定める。 |
養育費 | 相手方は、上記記載の長男及び長女の養育費として、平成○○年◯◯月から同人らがいずれも成年に達する月まで、一人について月額◯◯万円を、毎月末日限り、○○銀行○○支店の申立人名義の預金口座(口座番号○○○○○○○)に振り込む方法により支払う。 振込手数料は、相手方の負担とする。 |
面会交流 | 申立人は、相手方に対し、上記記載の長男及び長女と、月一回程度の面会交流することを認める。面会交流の日時、場所、方法等の具体的な内容については、子どもらの福祉を慎重に考慮して、当事者間で事前に協議して定める。 当事者間の協議は、スマートフォンのメールにより行う。 |
財産分与 | 相手方は、申立人に対し、別紙物件目録記載の不動産について、本日付けの財産分与を原因とする所有権移転登記手続をする。 登記手続費用は、申立人の負担とする。 |
慰謝料 | 相手方は、申立人に対し、本件離婚に伴う慰謝料として○○万円の支払義務があることを認め、これを平成○○年◯◯月限り、上記記載の申立人名義の銀行預金口座に振り込む方法により支払う。 振込手数料は、相手方の負担とする。 |
年金分割 | 申立人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を、0.5と定める。 |
清算条項 | 当事者双方は、本件に関し、本調停条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認し、今後、名義のいかんを問わず、互いに金銭その他一切の請求をしない。 |
調停調書の調停条項:離婚
調停で離婚する場合、原則として、調停条項には「申立人と相手方は、本日、調停離婚する。」とだけ記載されます。
協議離婚する旨の合意
しかし、調停離婚が成立すると、調停で離婚したことが戸籍に記載されます。
離婚の方法 | 戸籍の記載事項 |
協議離婚 | 【離婚日】平成○○年◯◯月○○日 |
調停離婚 | 【離婚の調停成立日】平成○○年◯◯月○○日 |
裁判離婚 | 【離婚の裁判確定日】平成○○年◯◯月○○日 |
そのため、戸籍を見た家族や第三者に「調停という家庭裁判所の手続を利用して離婚した=争って離婚した。」と思われるのを避けたい場合、協議離婚する旨の合意をして調停を成立させることができます。
協議離婚する旨の合意をした場合の調停条項の例は、以下のとおりです。
協議離婚する場合 | 申立人と相手方は、協議離婚することを合意し、申立人がその届出をする。 |
調停で離婚届を作成して届出を依頼する場合 | 申立人と相手方は、協議離婚することを合意し、本件調停の席上で、離婚届を作成し、申立人は、相手方に対してその届出を依頼した。 |
ただし、協議離婚する旨の合意をして調停を成立させたとしても、調停後に夫婦の一方が離婚届の作成を拒否したり、協議離婚届出書を提出しなかったりするおそれが残ります。
また、離婚届不受理申出がなされていた場合、離婚届を提出しても受理されません。
したがって、協議離婚する旨の合意をして調停を成立させるか否かは、協議離婚ができないリスクを理解した上で検討する必要があります。
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夫婦関係をやり直す旨の合意(円満)
調停で協議した結果、夫婦が関係をやり直すことに合意した場合、夫婦が協力して円満な家庭を築く努力をする旨の合意をして調停を成立させることもできます。
円満で調停を成立させる場合の調停条項の例は、以下のとおりです。
円満 | 1 申立人及び相手方は、今後、互いに協力し合って円満な家庭を築くよう努力する。 2 相手方は、申立人に対し、次のことを約束する。
|
円満で調停を成立させる場合、夫婦関係が悪化した事情を踏まえ、円満な家庭を築くために夫婦の一方または両方がすべき努力目標を設定することがあります。
ただし、円満な家庭を築くよう努力することも努力目標も夫婦間の問題であり、守られなかったとしても履行勧告や強制執行にはなじみません。
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当面別居することの合意
すぐに離婚したり夫婦関係をやり直したりする決断または合意ができない場合、夫婦関係を考え直す冷却期間を置くために別居するという内容で調停を成立させることができます。
当面別居の合意をして調停を成立させる場合、原則として、別居期間中の婚姻費用も同時に取り決めます。
別居 | 1 申立人と相手方は、当分の間、別居する。 2 相手方は、申立人に対し、別居期間中の婚姻費用として、平成○○年◯◯月から別居の解消または婚姻の解消をするまで、月額○○万円を、毎月末日限り、○○銀行○○支店の申立人名義の預金口座(口座番号○○○○○○○)に振り込む方法により支払う。 振込手数料は、相手方の負担とする。 |
夫婦間に子どもがいる場合、非監護親と子どもの面会交流について取り決めることもあります。
民法上、夫婦には同居義務があるため、夫婦間で別居する旨の合意ができたとしても、それを強制することはできません。
一方で、婚姻費用や面会交流については、調停条項に基づいて履行勧告や強制執行の手続を利用することができます。
調停条項:親権
親権は、子どもの監護教育と財産の管理・処分をする権利義務であり、内容によって監護権と親権に分けられます。
監護権 | 子どもの監督保護をする権利 |
親権 | 子どもの財産を管理・処分する権利 |
未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、子どもの親権者を夫婦の一方に定め、その旨を調停条項に記載する必要があります。
親権者と監護権者の分離
離婚時には子どもの親権者を夫婦のいずれにするか協議して定めますが、民法上は、監護権者と親権者を分けることができます。
親権者と監護権者を分離させる場合の調停条項の例は、以下のとおりです。
親権者と監護権者の分離 | 当事者間の長男○○(平成○○年◯◯月○○日生)の親権者を相手方、監護権者を申立人と定め、今後、申立人において、監護養育する。 |
親権者と監護権者の分離は、子どもの健全な成長のために、離婚後も元夫婦が役割を分担できるようにするためのものです。
しかし実際のところ、離婚した元夫婦同士が、子どものためとはいえ離婚後に協力し続けるのは困難であり、親権者と監護権者で歩調が合わず、かえって子どもの成長に悪影響を及ぼすケースが少なくありません。
また、離婚時に分離した親権者と監護権者を離婚後に変更するには、再び家庭裁判所の手続きを利用する必要がある上、変更の基準が厳しくなっています。
したがって、離婚後の紛争を予防するためには、原則として親権者を夫婦の一方に決めておくべきです。
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調停条項:養育費
養育費の調停条項を取り決める場合に問題となりやすいのは、支払い終期です。
子どもが「成年に達する月まで」と取り決めるのが一般的ですが、親の学歴・収入・社会的地位、子どもの学歴・進路希望などを踏まえ、「18際に達する月まで」、「大学を卒業する月まで」などと取り決めることがあります。
事情変更があった場合に改めて協議する旨の合意
養育費を調停で取り決めた後に、親の収入や子どもの病気など事情の変更があった場合、改めて養育費の増額または減額を請求することができます。
元夫婦間の協議または養育費調停(増額または減額)を申し立てる方法がありますが、離婚調停で養育費を取り決める段階で、「事情変更があった場合に改めて協議する」旨の合意をしておくことができます。
事情変更があった場合に改めて協議する旨の合意 | 長男の入院、進学等により高額の費用の支払いが生じた場合には、その費用の負担について、当事者双方で協議することとする。 |
協議することを約束するというだけの内容であり、守られなくても強制執行の手続きを利用することはできません。
しかし、離婚後に養育費を増額または減額する可能性があることをあらかじめ認識させる目的で、養育費の条項に書き加えることがあります。
養育費を一括払いする旨の合意
養育費は子どもの生活費であり、日常生活の中で費消されることが想定されるため、原則として定期的(通常は1ヶ月単位)に支払われます。
しかし、養育費の支払義務者の収入が安定せず、長期にわたって安定して養育費の支払いがなされない可能性が高い場合などは、将来の養育費を一括払いする旨の合意をすることがあります。
養育費を一括払いする旨の合意 | 相手方は、申立人に対し、長男○○(平成○○年◯◯月○○日生)の平成○○年◯◯月○○日から成人に達する月までの養育費として、○○万円を、平成○○年◯◯月○○日限り、○○銀行○○支店の申立人名義の預金口座(口座番○○○○○○○)に振り込む方法により支払う。 |
ただし、一括払いをした場合は事情変更があった場合の養育費の増額や減額が認められにくくなり、また、権利者が浪費するおそれも高くなります。
したがって、定期的な支払いが相当でない事情がある場合に限り、一括払いを検討することになります。
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調停条項:面会交流
面会交流の調停条項は、ケースに応じて、一般的条項または個別的条項が選択されています。
一般的条項 | 【定める内容】
【一般的条項が選択される場合】
|
個別的条項 | 【定める内容】
【個別的条項が選択される場合】
|
面会交流の一般的条項の例は「離婚調停が成立する場合の一般的な調停条項」で示したとおり、間接強制を意識した個別的条項の例は、以下のとおりです。
個別的条項 | 1 申立人は、相手方に対し、相手方が当事者間の長男○○(平成○○年◯◯月○○日生)と面会交流することを認め、その時期及び回数を次のとおり定める。
2 上記1の1.及び2.の面会交流の場所は、相手方の住所地とする。 3 上記1の1.及び2.の面会交流において、相手方は、申立人の住所地まで上記長男を迎えに行き、面会交流を実施した後、上記1の1.及び2.に定めた時間までに、申立人の住所地に送り届けることとする。 |
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調停条項:財産分与
財産分与の調停条項のパターンは無数にあり、この記事内で全てを解説することはできません。
ここでは、離婚調停における財産分与で問題になりやすい、金銭及び住宅ローンに関する調停条項の内容について確認しておきます。
金銭 | 申立人は、相手方に対し、本件離婚に伴う財産分与として、○○万円を支払うこととし、平成○○年◯◯月○○日限り、○○銀行○○支店の相手方名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○○)に振り込む方法により支払う。 |
連帯債務者の一方を脱退させる旨の交渉を約束する合意 | 1 申立人は、相手方に対し、当事者双方が平成○○年◯◯月○○日付金銭消費貸借契約に基づいて、○○銀行○○支店から借り受けた債務(債権額○○万円)について、相手方が連帯債務者から脱退するように、○○銀行○○支店と交渉することを約束する。 2 申立人は、相手方に対し、前項記載の借入金債務の支払いについて、平成○○年◯◯月の支払分から支払うことを約束する。 |
自宅名義と住宅ローンの債務者を変更する旨の合意 | 1 申立人は、相手方に対し、別紙物件目録記載の建物について、本日付け財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをする。 2 申立人は、相手方に対し、申立人が平成○○年◯◯月○○日付け金銭消費貸借契約に基づいて、○○銀行○○支店から借り受けた債務(債権額○○万円)について、相手方を債務者とするように、○○銀行と交渉することを約束する。 3 相手方は、申立人に対し、前項記載の債務について、申立人が債務者から脱退するために、○○銀行○○支店と行う交渉及び手続に協力する。 4 相手方は、申立人に対し、調停条項第◯項記載の○○銀行○○支店に対する借受金債務について、その残額の支払義務を申立人から引き継ぎ、平成○○年◯◯月の支払分から支払うことを約束する。 |
自宅名義を変更し、住宅ローンの債務者は変更しない旨の合意 | 1 申立人は、相手方に対し、別紙物件目録記載の建物について、本日付け財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをする。 2 申立人は、相手方に対し、申立人が○○銀行○○支店との間で平成○○年◯◯月○○日に締結した金銭消費貸借契約(債権額○○万円)に基づく分割債務を申立人において引き続き弁済することを約束する。 |
離婚後に夫婦のいずれが住宅ローンを支払うかについての調停条項は、夫婦間の合意であり、金融機関との関係で効力は及びません。
したがって、夫婦の一方を連帯債務者から脱退させる旨を夫婦間で合意して調停が成立したとしても、債務者である金融機関が承諾しない限り効力は生じません。
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調停条項:慰謝料
夫婦の一方がDV(ドメスティックバイオレンス)、モラハラ(モラルハラスメント)、不貞、悪意の遺棄などの破たん原因を作って離婚する場合、離婚することに対する慰謝料を請求することができます。
財産分与に慰謝料を含める旨の合意
離婚調停では、財産分与に慰謝料を含めて調停を成立させることができます。
つまり、離婚に伴う慰謝料は、不法行為に基づく損害賠償として請求することも、財産分与として請求することもできるのです。
財産分与に慰謝料を含める旨の合意 | 申立人は、相手方に対し、本件離婚に伴う慰謝料及び財産分与として、○○万円の支払義務があることを認め、平成○○年◯◯月○○日限り、○○銀行○○支店の相手方名義の預金口座(口座番○○○○○○○)に振り込む方法により支払う。 |
当然ですが、同じ原因で慰謝料を何度も請求することは認められません。
したがって、離婚調停において、財産分与とは別に損害賠償を請求するのか(財産分与を請求する余地を残す)、財産分与と慰謝料をまとめて請求するのか(財産分与はできなくなる)、事前に検討しておく必要があります。
不貞相手に慰謝料を請求しない旨の合意
離婚調停では、不貞相手に対する慰謝料請求をしない旨の合意を、夫婦間で行うことができます。
不貞相手に慰謝料を請求しない旨の合意 | 相手方は、申立人に対し、申立外○○○○に対して、申立人と不貞行為をしたことに基づく慰謝料を請求しないことを約束する。 |
例えば、不貞をした夫または妻に対して多めに慰謝料を支払わせるための条件として、不貞相手に慰謝料を請求しないという条件を提示することがあり得ます。
ただし、あくまで夫婦間の合意であり、不貞をされた人と不貞相手との間では慰謝料請求権に関する合意をしていません。
したがって、不貞相手に慰謝料を請求しない旨を合意して調停を成立させた後、不貞相手に対して慰謝料を請求することは事実上は可能です。
しかし、不貞をした人から、調停での合意内容に違反したことを理由に損害賠償を請求される可能性が生じます。
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調停条項:年金分割
離婚調停で協議できる年金分割は合意分割のみです。
合意分割 | 3号分割 | |
開始 | 2007年4月1日 | 2008年5月1日 |
対象者 | 離婚した夫または妻 | 第3号被保険者 |
対象期間 | 婚姻期間 | 2007年4月1日以降の婚姻期間で第3号被保険者であった期間 |
分割割合 | 2分の1を上限とする範囲で按分 | 2分の1 |
合意 | 按分割合につき夫婦の合意が必要 | 不要 |
分割方法 | 厚生年金の標準報酬月額と標準賞与額が多い方から少ない方へ分割 | 対象期間内に第3号保険者であった人から第3号被保険者へ分割 |
出典:離婚ハンドブック
年金分割に関する調停条項は、一般的な調停条項として示した内容が原則であり、夫婦間の合意で按分割合を0.5以外とする場合に限り、割合の部分が変化します。
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