調停前の処分(調停前の仮の措置、調停前の仮の処分)とは?

家事調停係属中、調停委員会が調停前の処分を命じることがあります。

調停前の処分とは

調停前の処分とは、調停委員会または裁判官が、調停のために必要であると認める処分を命ずる手続きです。

家事審判法時代は調停前の仮の措置と呼ばれ、現在は調停前の処分または調停前の仮の処分と呼ばれています。

家事調停では、離婚、財産分与、遺産分割、子どもの親権など、家族や親族間の様々な紛争を取り扱われるところ、通常、調停第1回期日が指定されるのは申立ての1ヶ月以上後になり、その後も1ヶ月に1回程度の頻度で調停期日が指定されます。

そのため、調停申立て後や調停期日間に当事者の一方が財産を費消したり隠匿したりするおそれがあります。

そこで、調停の進行を円滑にする目的で、調停前の処分をすることが規定されています。

例えば、婚姻費用分担調停中に婚姻費用の仮払いを命じる処分や、財産分与請求調停中に当事者の一方が分与対象財産である不動産の登記を変えないようにする処分などを行うことができます。

調停委員会または裁判官が調停前の処分を命じることができる期間

調停前の処分は、家事事件手続法第266条第1項、第2項に規定されています。

  1. 調停委員会は、家事調停事件が係属している間、調停のために必要であると認める処分を命ずることができる。
  2. 急迫の事情があるときは、調停委員会を組織する裁判官が前項の処分(以下「調停前の処分」という。)を命ずることができる。

(家事事件手続法第266条第1項、第2項)

調停「前」の処分と呼ばれますが、条文上「家事調停事件が係属している間」と規定されています。

したがって、調停委員会または裁判官が調停前の処分を命ずることができるのは、「家庭裁判所が調停の申立てを受理してから、成立・不成立・取下げなどで調停が終了するまで」に限られており、調停の申立て前には認められません。

調停前の処分は調停委員会の職権だが、職権発動を促す上申ができる

調停前の処分は調停委員会の職権で行われるもので、当事者が申立てを行うことはできません。

ただし、職権発動を促す上申、平たく言えば「調停委員会に調停前の処分をするようにお願い」をすることができます。

調停前の処分を求める上申は、調停申立てと同時でも、調停申立てが受理された後でも行うことが可能です。

上申を行う場合、申立ての趣旨や申立の理由などの必要項目を記入した上申書を作成するのが一般的ですが、調停の申立書(共通書式)に必要事項を記入する方法も認められています。

調停前の処分でできること

調停前の処分については、条文上、「調停のために必要であると認める処分」としか規定されておらず、調停委員会の裁量によって様々な処分を命じることができると考えられています。

しかし、調停の進行を円滑にする目的で命じられる処分であり、処分によって当事者が出頭しなくなったり、紛争性が著しく高まったりしては意味がないため、調停委員会が身長に検討して判断されます。

実務上は、調停の進行に支障が出たり、調停申立てが無意味になったりすることのないように、必要な処分が命じられています。

例えば、以下のような調停前の処分を命じられるケースがあります。

婚姻費用の仮払い

夫婦関係が悪化して別居した後に生活が困窮し、配偶者に婚姻費用を請求しても支払われないため婚姻費用分担調停を申し立てたが、調停成立まで待つと生活維持が困難になる場合、配偶者(相手方)に対して当面の婚姻費用の仮払いを命じる調停前の処分が出されることがあります。

なお、婚姻費用分担に限らず、遺産分割の申立人が当面の生活に困っている場合など、当事者が経済的に困窮していれば同様の処分が命じられる可能性があると言えます。

面会交流への協力要請

面会交流を実施すると、非監護親が子どもを連れさるおそれがある場合に、子どもの福祉(子どもの利益)を尊重した面会交流に協力するよう命じる処分が出されることがあります。

子どもの引渡し

離婚調停で子どもの親権や監護が争点となっており、監護者が決まらない状態が継続することが子どもの福祉(子どもの利益)を著しく損なわせると認められる場合、暫定的に夫婦の一方を監護者として子どもの引渡しを命じることがあります。

調停前の処分が命じられるのはごく限られたケース

実務上、調停前の処分が命じられるのはごく限られたケースだけです。

その主な理由は、以下のとおりです。

調停前の処分の効力は調停係属中だけ

調停前の処分の効力は、調停継続中だけに限られており、調停成立だけでなく、不成立や取下げで調停が終了した場合も効力が失われます。

そのため、いくら調停前の処分を命じても、調停が不成立または取下げで終了すると意味のないものとなってしまいます。

当事者の反感を買いやすい

調停は、調停委員会を交えた当事者の話し合いによって合意形成を目指す手続きであり、本来、家庭裁判所の命令はなじみません。

そのため、調停前の処分を出された当事者は反感を抱きやすく、処分が原因で調停に出頭しなくなったり、態度が硬化して調停で話し合う余地が失われたりするおそれがあります。

家事調停の当事者の多くは家族や親族同士であり、調停前の処分によって関係性がこじれると、調停申立て前よりも関係が悪くなって日常生活に支障が及ぶことになりかねません。

執行力がない

調停前の処分が活用されない最大の理由は、処分に執行力がないことです。

調停前の処分は、執行力を有しない。

(家事事件手続法第266条第3項)

執行力とは、処分によって命じられた内容が守られない場合に、当事者の申立てによって強制執行ができるようにする法的効力です。

この執行力が調停前の処分にはなく、実効性に乏しい制度となっています。

過料が規定されている

家事事件手続法第266条第4項では、正当な理由なく処分にしたがわない場合、過料に処すと規定されています。

調停前の処分として必要な事項を命じられた当事者又は利害関係参加人が正当な理由なくこれに従わないときは、家庭裁判所は、十万円以下の過料に処する。

(家事事件手続法第266条第4項)

過料制裁については、調停前の処分を命じる段階で当事者に告知されます。

「裁判所から命令され、守らないと制裁を受ける。」という心理的圧力をかける効果があるとされていますが、当事者同士の話し合いの手続きである調停において、調停前の処分をした上に過料制裁をちらつかせて履行を促すと、まとまる話もまとまらなくなってしまいます。

調停前の処分は例外的な取り扱いと考えるべき

上記のとおり、調停前の処分が活用されるのはごく限られたケースだけですし、処分が命じられた結果、調停で話し合う余地が失われて不成立で終了したケースも報告されています。

職権発動の上申が可能ではありますが、現実的には調停前の処分を求めるよりも、調停の中で相手の主張を踏まえて譲歩や交渉をして、穏便に話し合いを続けた方が良いケースが多いものです。

調停前の処分が必要な事情がある場合には、制度の特徴を理解した上で、必要最低限の範囲で職権発動を促す上申をしてください。

審判前の保全処分を申し立てられる事件もある

審判前の保全処分とは、調停成立や審判確定を待つと当事者の権利実現が困難になって権利者が重大な損害を受けるおそれがある場合に、必要な保全を行う手続です。

審判前の保全処分という名称ですが、実は、別表第2事件であれば調停段階でも申し立てることができます。

また、審判前の保全処分は、調停前の処分とは違って執行力があるため、より実効性が高い手続きとなっています。

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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