扶養的財産分与とは?離婚時の相場は?熟年離婚や実家でも請求できる?

財産分与は、婚姻期間中に夫婦で協力して形成した財産を離婚時に分けることですが、その性質上、3つに分類することができます。

清算的財産分与婚姻期間中に形成した夫婦の共有財産を個人財産に清算する財産分与
扶養的財産分与夫婦の一方が離婚後に生活苦に陥る場合に、その経済的自立まで支援するための財産分与
慰謝料的財産分与慰謝料相当額を財産分与として請求するもの

このうち、離婚後に元配偶者を経済的にサポートする目的で行われるのが扶養的財産分与です。

この記事では、扶養的財産分与の相場、請求方法と要件(熟年離婚や実家暮らしなど)について解説します。

扶養的財産分与とは

扶養的財産分与とは、夫婦の収入や資産に大きな格差があり、離婚後に夫婦の一方が生活に困ることが見込まれる場合に、その人が経済的に自立するまで支援する目的で行われる財産分与です。

財産分与の本来の性質は、婚姻期間中に形成した夫婦共有財産を離婚時に清算すること(清算的財産分与)です。

また、離婚して他人同士になれば、互いに相手を扶養する義務はなくなりますし、互いに自立して生活していくのがあるべき姿です。

子どもがいれば養育費について取り決めますが、あくまで子どものための費用で、親自身は自分で働いて得た収入で生活していくべきです。

しかし、婚姻中に夫婦の一方だけが働いて、もう一方が専業主婦だった(または扶養の範囲内でパートやアルバイトをしていた)場合、離婚後は元夫婦間に著しい経済格差が生じてしまいます。

「離婚後に仕事を見つけて働けばいい。」と思うかもしれませんが、婚姻中に専業主婦だった人が、安定した収入を得られる仕事に就くのは困難ですし、乳幼児の子育て中であれば就労時間や勤務体制も制限されます。

そのため、収入がない(または少ない)配偶者が離婚後に生活苦に陥るような場合、経済的に自立した生活を送れるようになるまではサポートすることが公平であるとされています。

日本では、婚姻中に専業主婦(主夫)で、就職に役立つ資格や経験がなく、離婚後に実家のサポートなども受けられない場合に、扶養的財産分与を請求して認められるケースが多くなっています。

関連記事

シングルマザーや専業主婦の仕事の探し方と離婚後の就職・転職のコツ

扶養的財産分与は法律上の根拠がない

離婚時の財産分与は、民法第768条に規定されています。

  1. 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
  2. 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
  3. 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

(民法第768条)

このように、扶養的財産分与は法律上の規定がありません。

判例や学説では扶養的財産分与が認められている

判例や学説では、「清算的財産分与や慰謝料的財産分与でも離婚後の生活維持が困難な夫または妻について、自立して一定の生活水準を維持できるまでの援助を認めるべき」とされています。

そもそも、「婚姻中に形成した財産を分け合って夫婦の均衡を保つこと」が清算的財産分与の考え方であり、その考え方の延長線上に扶養的財産分与があるといえます。

婚姻による所得能力の不均衡を補填するという考え方

扶養的財産分与によって、「婚姻によって生じた所得能力の不均衡を補償する」という考え方もあります。

婚姻すると、夫婦間で「婚姻後も共働きをする」、「一方が専業主婦として家事育児に専念する」などと役割分担を決めますが、その結果、夫婦間の所得能力に不均衡が生じることがあります。

例えば、夫が就労を継続し、妻が退職して専業主婦になったとします。

夫は、仕事を継続して知識や経験を蓄積し、昇進や昇格によって婚姻当時よりも所得能力を向上させていきます。

一方の妻は、家事育児に尽力することで夫の所得能力向上に貢献していますが、退職によって著しく低下した所得能力が向上することはありません。

通常は、いったん決めた役割分担を変更すること(このケースでは夫が専業主夫になり、妻が就労すること)は難しいため、婚姻期間が長くなるほど、夫婦間の所得能力の不均衡は拡大します。

夫婦間の所得能力の不均衡は、婚姻期間中は大きな問題になりませんが、離婚後は、所得能力が下がった人が大きな不利益を被り、離婚後の生活維持が困難になってしまいます。

そのため、婚姻中に所得能力が向上した人が、その対価として、所得能力が低下した人に対して当然に財産分与するというのが、所得能力の不均衡を補償するという考え方です。

扶養的財産分与が認められる事情

離婚時における夫婦の収入や資産に相当な格差が存在しても、離婚後に生活を維持できると見込まれる場合、扶養的財産分与を請求することはできません

家庭裁判所の審判や離婚訴訟で扶養的財産分与が認められるには、夫婦の一方が離婚後に生活苦に陥ると見込まれる特殊な事情が必要です。

例えば、病気や怪我で就労できない、乳幼児の監護があり就労が難しい、他の財産分与(清算的、慰謝料的)で得られる財産が少ない、親や親族のサポートが得られないなどの事情が求められます。

ただし、こうした特殊な事情を挙げて扶養的財産分与を主張していても、離婚手続中に特殊な事情がなくなったことが明らかにされた場合、請求は認められません。

例えば、安定した収入が得られる仕事に就くことができたり、生活保護を受けられるようになったりした場合などが考えられます。

熟年離婚と扶養的財産分与

熟年離婚をしたというだけでは、扶養的財産分与は認められません。

熟年離婚をする場合でも、夫婦の一方が離婚後の困窮する見込みがあるという要件を満たす必要があります。

例えば、長年専業主婦として家庭を支え続けた人が熟年離婚をし、再就職が難しく日々の生活に困窮するような時事要がある場合は、扶養的財産分与が認められます。

熟年離婚については、関連記事で詳しく解説しています。

関連記事

熟年離婚後の生活を後悔しない準備:年金分割や退職金の財産分与など

実家暮らしの場合

実家暮らしの場合、実家の親やきょうだいからサポートが得られると考えられるので、扶養的財産分与は認められません。

実家に暮らしていなくても、親きょうだいからサポートを受けていることが明らかな場合も同じです。

いずれも離婚後に生活が困窮するといえる事情が見当たらないからです。

扶養的財産分与の請求方法

扶養的財産分与の請求方法は、夫婦の協議、離婚調停、離婚訴訟の3つです。

夫婦の協議

離婚やそれに伴う諸条件の一つとして、扶養的財産分与を請求します。

夫婦の所得能力が不均衡であることは夫婦双方が理解しているはずなので、単刀直入に請求するのが正攻法です。

ただし、離婚するほどに関係が悪化した相手から離婚後の生活保障を求められて、素直に応じる人は決して多くありません。

そのため、実家の援助が得られない、預貯金が底をついている、子どもの監護があり働けないなど、離婚後の生活維持が困難な事情を具体的に説明するとともに、自立に向けた努力や自立時期の目安などを具体的に伝えることが重要になります。

離婚調停

夫婦の協議がまとまらない場合、協議の場を家庭裁判所の離婚調停に移しますが、夫婦の合意で紛争を解決するところは変わりなく、ポイントは夫婦の協議と同じです。

強いて言うなら、調停委員に「扶養的財産分与に応じるよう相手方を説得しよう。」と思ってもらえるよう、離婚後の生活維持がいかに困難かについて具体的に語ることは意識した方が良いでしょう。

離婚訴訟

離婚訴訟は、家庭裁判所が当事者の主張と提出した証拠、職権による事実の調査を行った上で、離婚やそれに伴う諸条件を判断する手続きです。

したがって、重要になるのは主張を裏づける証拠です。

扶養的財産分与を求める場合、婚姻前の職業、専業主婦の期間、預貯金残高、親族の援助が受けられないことを裏付ける資料など、離婚後の生活維持が困難である根拠を証拠として提出することが重要です。

離婚後は財産分与請求調停・審判

財産分与の話し合いをしないまま離婚した場合、離婚後に財産分与を請求することができます。

すでに離婚が成立しているので、離婚調停や離婚訴訟を利用することはできず、家庭裁判所の財産分与請求調停や審判を申し立てることになります。

離婚後の財産分与は「離婚してから2年以内」です。

2年を過ぎると、財産分与請求調停や審判を申し立てることができなくなります。

元夫婦間の話し合いで財産分与をする場合は期限を気にする必要はありませんが、離婚から日が経つほど財産は変化しますし、話し合いはまとまりにくくなります。

関連記事

離婚後に財産分与請求する方法は?財産分与調停や審判の申立て方法は?

扶養的財産分与の相場と支払い方法

扶養的財産分与の相場と支払方法について確認していきます。

扶養的財産分与の金額の相場

扶養的財産分与で支払われる金額は、夫婦の収入や資産、予想される離婚後の生活困窮の程度などによって異なります。

したがって、金額の相場を算出することは困難です。

ただし、扶養的財産分与は、元配偶者が生計を維持できる程度で支払えば足りるので、生活保持義務に基づいて支払う別居中の婚姻費用よりも低く算出されるのが一般的です。

実務上の感覚としては、婚姻費用の2/3~1/2程度で取り決められるケースが多くなっています。

関連記事

婚姻費用分担とは?婚姻費用の内訳と婚費を請求できる期間は?

扶養的財産分与の支払方法

扶養的財産分与は、元配偶者の生活のサポートが目的なので、原則として、定期的に一定の金銭を支払う方法となります。

つまり、離婚前の婚姻費用分担や離婚後の子供の養育費と同じく、「毎月末日限り3万円を支払う」などと月ごとに取り決めます。

ただし、一時金を支払うことが元配偶者の利益となる場合は、一時金による支払いを取り決めても問題はありません。

例えば、離婚後に住む場所を借りるための金銭を一括で支払うなどのケースが考えられます。

扶養的財産分与の支払期間(判例)

支払期間について法律上の規定はなく、「再婚するまで」、「就職するまで」、「死ぬまで」、「子どもが一定の年齢に達するまで」など様々です。

判例では、「離婚判決確定の日から原告の死亡または再婚するに至るまで(昭和43年7月19日新潟地方裁判所長岡支部)」と判断したものもあります。

ただし、曖昧な期限を設定すると、分与を受ける元配偶者者が、扶養的財産分与を当てにして自立する努力をしないおそれがあります。

そのため、実務上は、自立するまでの猶予期間として離婚してから2~3年程度を支払い終期とすることが多くなっています。

また、離婚後に再婚した場合は、再婚相手が扶養義務を負うので、扶養的財産分与は打ち切られることになります。

関連記事

離婚の財産分与とは?離婚後の時効(期限)と分与対象・性質を解説

>>>「財産分与」の記事一覧に戻る

アバター

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

この著者の最新の記事

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権
    離婚後単独親権に対する問題提起や批判は以前からありましたが、近年、欧米諸国などで採用されている離婚後…
  2. 専業主婦 離婚 準備
    「専業主婦(主夫)だけど離婚したい。でも、離婚後の生活が不安。」、「離婚したいが、専業主婦は離婚後に…
  3. 離婚協議書 公正証書
    協議離婚する場合、離婚することと諸条件について夫婦で話し合い、合意した内容を離婚合意書にまとめた上で…
  4. 離婚調停 相手方 準備
    「ある日突然、見知らぬ住所と差出人の名前が書かれた茶封筒が自宅のポストに届き、中を開けてみると「調停…
  5. 弁護士会照会制度
    離婚紛争を弁護士に依頼すると高額な費用がかかりますが、依頼によって得られるメリットもあります。 …
  6. モラハラ 離婚
    配偶者のモラハラ(モラルハラスメント)を理由に離婚したいと考える人は少なくありません。 しかし…
  7. 離婚調停 成立 調停条項
    離婚調停は、夫婦間で離婚やそれに伴う条件面の合意ができると調停調書が作成され、調停が成立します。 …
  8. 養育費 強制執行 手続き 流れ
    夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合の対応には、履行勧告、履行命令、強制執行があります。 …
  9. 離婚 弁護士費用 相場
    離婚問題を弁護士に依頼する場合にトラブルになりやすいのが、弁護士費用です。 「離婚 弁護士費用…
  10. 離婚調停 弁護士
    「離婚調停で弁護士は必要か」と聞かれたら、弁護士の立場からは「必要です。ぜひご依頼ください!」と答え…

スポンサーリンク

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権

    選択的共同親権とは?法務省が検討する「離婚後の親権の選択制」の意味

  2. 専業主婦 離婚 準備

    専業主婦の離婚準備:仕事と生活費、子どもの親権、年金のことなど

  3. 離婚協議書 公正証書

    離婚協議書の書き方:自分で作成する方法と公正証書の作り方を解説(雛形付)

  4. 離婚調停 相手方 準備

    離婚調停を申し立てられた相手方が調停第1回期日までに準備すること

ページ上部へ戻る