婚姻費用の減額・増額請求事由は?婚姻費用減額・増額調停の申立て方法
- 婚姻費用分担
最終更新日: 2019.07.22
婚姻費用の分担額は、取り決めた時点における夫婦の収入・資産・社会的地位や、子どもの人数・年齢などの一切の事情を考慮して、夫婦の協議や家庭裁判所の調停・審判で決めます。
しかし、取り決めた後の夫婦の経済状況などの変化、子どもの進学や病気・ケガ、社会情勢の変化などによって婚姻費用を調整する必要が生じた場合、減額または増額することが認められていいます。
家庭裁判所の調停や審判で決めた婚姻費用についても、婚姻費用分担請求(減額・増額)の調停または審判を申し立てることにより、変更することができます。
この記事では、婚姻費用分担の減額や増額の請求が認められるための事由、婚姻費用分担請求(減額・増額)調停や審判を申し立てについて解説します。
目次
婚姻費用分担の減額・増額請求の方法
夫婦間の合意で取り決めた婚姻費用分担額の増額や減額を希望する場合、夫婦間の協議と合意に基づいて変更することができます。
一方で、家庭裁判所の調停や審判で取り決めた場合、減額や増額を請求して取り決め直すには、婚姻費用の減額・増額の調停や審判を改めて申し立てる必要があります。
婚姻費用分担請求(減額・増額)の調停では、夫婦間の合意に基づいて分担額を調整しなおし、調停を成立させることができます。
しかし、夫婦の協議や調停での話し合いがまとまらず、審判で婚姻費用の減額・増額を決める場合、減額・増額が認められるか否かは以下の基準で判断されます。
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聞きなれない言葉なので、分かりやすく解説していきます。
事情の変化とその予測可能性
家庭裁判所の調停や審判では、調停成立や審判時点における夫婦の収入などに応じて、婚姻費用を分担する人(義務者)、分担額、支払方法を取り決めます。
そのため、調停成立後や審判確定後に夫婦の収入などが「大きく変化」し、その変化が「婚姻費用を取り決めた時点で予測できないものであった」場合には、婚姻費用の減額・増額が認められます。
平成26年11月26日に東京高等裁判所が出した判決では、婚姻費用の変更について、以下のとおり判示されています。
事情の変更による婚姻費用分担金の減額は、その調停や審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により、その内容をそのまま維持させることが一方の当事者に著しく酷であって、客観的に当事者間の衡平を害する結果になると認められるような例外的な場合に限って許される
(平成26年11月26日東京高等裁判所判決)
婚姻費用が頻繁に変更されることで夫婦の生活が不安定になることを防ぐために、こうした基準が設けられています。
婚姻費用を減額・増額することの必要性
家庭裁判所で取り決めた婚姻費用を変更するには、減額や増額が必要になる程度の事情の変更があったことを主張する必要があります。
夫婦の収入に変動があっても、取り決められた婚姻費用の範囲内で支障なく生活できていると判断されると、婚姻費用の減額・増額が認められません。
婚姻費用分担額の減額事由
婚姻費用分担額の減額が認められる主な事由は、以下のとおりです。
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義務者の収入や資産が減少した
婚姻費用を取り決めた後、その当時は予想できなかった事情によって義務者の収入や資産が大きく減少した場合、減額事由となります。
例えば、リストラによる失職、転職による収入の大幅な減少、病気やケガによる就労困難、自営業の経営破たん、自己破産、生活保護受給などが考えられます。
ただし、婚姻費用の支払義務は、夫婦間の扶助義務や、親の子供に対する扶養義務に基づくもので、離婚により婚姻が解消されるまで消滅しません。(子どもの扶養義務は離婚後も継続します。)。
したがって、収入や資産の減少は、婚姻費用の減額事由にはなりますが、免除事由にはなりません。
一時的に婚姻費用の支払いが困難な事情が生じた場合でも、支払えるようになった時点で再び支払う必要があります。
支払えるようになった時点で離婚が成立していれば、夫婦間の扶助義務は解消されているので、子供の養育費を支払うことになります。
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権利者の収入や資産が増加した
権利者の収入や資産が大幅に増加した場合も、婚姻費用を減額する事由となります。
例えば、権利者が就労した、権利者の就労形態がパートから正社員になった、起業したといった事情により、権利者の収入や資産が増えた場合が考えられます。
ただし、権利者の収入が増えたからといって必ず婚姻費用の減額が認められるわけではなく、権利者が監護する子どもの教育費や医療費、生活費などを総合的に考慮して判断されます。
物価変動などによる生活費の上昇
物価変動などにより、取り決めた婚姻費用の支払いが困難になったことが明らかな場合、婚姻費用の減額が認められることがあります。
例えば、婚姻費用と取り決めてから何年も別居を継続するうちに、当時では予想できなかったくらい物価が高騰した場合などが考えられます。
婚姻費用の増額事由
婚姻費用の主な増額事由は、以下のとおりです。
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義務者の収入や資産が増加した
義務者の収入や資産が減少すると婚姻費用の減額事由になりますが、反対に増加すると増額事由となります。
例えば、転職による収入の大幅増加、起業の成功などが考えられます。
減額の場合と同様、収入や資産の増加だけでなく、夫婦の生活水準や子どもの人数・年齢など、一切の事情を考慮して増額を認めるか否か判断されます。
権利者の収入が減少した
権利者の収入が減少し、取り決めた婚姻費用の分担額では生活できなくなった場合も、増額事由です。
例えば、病気やケガで長期療養が必要になった、リストラにより失職したなどで収入が減少することが考えられます。
実務上、義務者が「不足分は権利者が生活保護を受給すれば良い。」と主張することがあります。
しかし、生活保護よりも夫婦の扶助義務が優先されるので、権利者が生活保護を受給しないからといって増額が認められないことにはなりません。
子どもの治療費や養育費が増加した
婚姻費用には、子どもの扶養義務に基づく養育費が含まれています。
そのため、子どもが私立学校に進学して教育費が増加したり、子どもが病気やケガで継続的に治療が必要になったりした場合、婚姻費用の増額事由となります。
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婚姻費用分担(減額・増額)調停の申立て方法
家庭裁判所の調停や審判で取り決めた婚姻費用を変更するには、婚姻費用分担(減額・増額)調停や審判を申し立て、分担額や支払方法を決めなおすことになります。
夫婦間の合意により、事実上、婚姻費用の分担額を変更することはできますが、法律上の効力はありません。
つまり、権利者は、いつでも調停や審判で決まった金額を支払うよう請求することができますし、事実上減額していた分の婚姻費用を未払分として請求することもできます。
そのため、調停や審判で決まった婚姻費用の減額・増額を希望する場合は、後々のトラブルを回避するために、必ず調停や審判で決めなおすようにしてください。
婚姻費用分担(減額・増額)については、まず調停で話し合い、夫婦の合意ができない場合に不成立で終了させて審判移行となるのが一般的なので、以下、調停の申立て方法について解説します。
なお、調停を経ずに審判を申し立てることもできますが、通常、家庭裁判所の職権により調停に付されます。
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申立権者
夫または妻です。
申立先(管轄)
婚姻費用分担の調停や審判をした家庭裁判所です。
調停や審判の後に転居している場合なども、調停や審判をした家庭裁判所に申立てを行うことになります。
他の家庭裁判所での調停を希望する場合は、申立て時に問い合わせてください。
申立ての必要書類
申立てに必要な書類は、以下のとおりです。
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その他、追加で資料提出を求められることがあります。
申立てにかかる費用
申立てには、以下の費用がかかります。
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申立ての窓口
家庭裁判所の家事部(係)です。
申立権者である夫または妻が、必要書類と費用を持参する方法により申立てを行います。
窓口で書面審査や費用の確認が行われ、申立てが受理されます。
申立て後の流れ
家庭裁判所は、申立てを受理した事件について、担当裁判官1人と調停委員2人を決定し、調停の初回期日を指定します。
申立ての受理から2週間前後で、調停の初回期日(申立ての受理から1ヶ月程度後の平日)が記載された調停期日通知書が申立人と相手方に届きます。
相手方に対する封書には、申立書のコピーや進行に関する照会書が同封されています。
婚姻費用分担請求(減額・増額)調停の流れは、一般的な婚姻費用の調停と同じです。
関連記事で分かりやすく解説しているので、関心がある人は読んでみてください。
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