調停委員と離婚調停で話すときの留意点

離婚調停は、夫婦が離婚やそれに伴う諸条件について協議して合意形成を目指す場であり、弁護士に頼らず問題解決が図れるような配慮がなされています。

しかし、離婚調停を経験したことがないと、様々な不安や心配を抱きやすいものです。

特に不安を抱きやすいのが、「離婚調停で何を話せば良いのか」、「離婚調停で話すと調停委員の心証を悪くすることはあるのか。」など、「離婚調停で調停委員と話すときに、どのようなことに気をつければ良いか。」というものです。

離婚調停で調停委員と話すの前提

まず、調停委員と話す上で前提となることに触れておきます。

調停委員は変更できない

調停委員は、建前上、中立かつ公平な立場で離婚調停を運営することになっており、どの調停委員が担当しても調停の結果は同じだとされています。

しかし、調停委員も人です。

気質や性格、生い立ち、成育環境、家族構成、職業などが一人ひとり異なり、金太郎飴を切ったように同じ考え方や振る舞いができるわけではありません。

例えば、せっかちで夫婦の主張を十分に聞かずに調停を進めようとする、金銭面の調整ばかりで子どものことを後回しにする、調整をせず不成立で終わらせようとする調停委員がいます。

酷い場合には、夫婦の主張を聞かず独断と偏見で作った調停案を提示する、男尊女卑的な考え方で離婚を求める妻を批判する、子どもの親権者は母親が得るべきだと主張するなど、明らかに夫婦の一方に肩入れする調停委員も報告されています。

そのため、担当調停委員に問題がある場合、変更したいと思う人が一定数いますが、調停委員の変更は認められていません。

離婚調停の目的を意識する

離婚調停を申し立てた場合、通常は「離婚やそれに伴う諸条件について夫婦間で合意し、調停を成立させること」が目的となります。

そして、その目的を達成するには、調停委員に自分の主張を正しく理解させ、相手に伝えて説得させたり、主張に沿った調停案を示させたりする必要があります。

また、夫婦の合意ができない場合は調停が不成立で終了します。

そのため、離婚について訴訟で争う可能性も想定し、相手の主張や今後の動きなどの情報を語らせてことも大切です。

離婚訴訟ありきで離婚調停を行う場合、調停に出す情報と訴訟まで出さない情報を選別し、調停段階で話しすぎないことも忘れてはなりません。

離婚調停で話すときの留意点

以下、前提を踏まえて、離婚調停で調停委員と話すときに留意することについて解説します。

調停委員の考え方や価値観を把握する

調停委員の考え方や価値観は一人ひとり異なるため、それを踏まえて話す内容を検討することが大切です。

初回調停期日では、申立ての主張や動機などを話しながら、調停委員の年齢、話し方、話の聞き方、受け答えの内容などから、家事育児に関する夫婦の役割分担、家庭内暴力に対する考え方、お金に対する感覚などを大まかに把握します。

例えば、「男は仕事、女は家事育児」という古い夫婦館を持つ調停委員の場合、妻がワンオペ育児を理由に離婚を主張すると「女が家事を嫌がるなんて。」、「イマドキの若い者は我慢が足りない。」などと思われる可能性があるため、伝え方を検討しなければなりません。

調停委員に合わせた発言をする必要はありませんが、調停委員と自分では考え方や価値観が異なることを意識し、調停委員の価値観でも理解しやすい主張をした方が調停が円滑に進みやすいことは間違いありません。

なお、調停委員は、原則として「年齢40年以上70年未満のものの中から、最高裁判所が任命する。(民事調停委員及び家事調停委員規則第1条)」とされています。

また、最高裁判所が公表している統計では、50~60歳代が約90%を占めています。

そのため、若い年代の場合、そもそも年代の違いにより考え方や価値観が異なる可能性があります。

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礼節をわきまえる

「調停委員の考え方や価値観を把握する」で書いたとおり、調停委員の約90%が50~60歳代であり、当事者よりも年上であることが多いものです。

したがって、調停委員と当事者という関係ではありますが、一般社会における最低限の礼節はわきまえるべきです。

意識しておきたいのは、以下のような内容です。

対応具体例
呼び方先生、調停委員さんなど
話し方
  • 敬語が原則
  • 話すときは目を見て話す
  • 調停委員の話はうなづきながら聞く
入退室時
  • 入室時:「失礼します」と言ってドアを開ける
  • 退室時:「失礼しました。」と言ってドアを閉める
スマホ・携帯電話電源オフまたはマナーモード

調停委員にへりくだる必要はありませんが、日常生活の中で目上の人と接するのと同程度の礼節はわきまえておくべきです。

主張を明確に伝える

離婚調停の1期日は午前または午後の2~3時間程度である上、夫婦が約30分交代で調停室に入室して主張を述べる形式なので、夫婦の一方が調停委員と話す時間は1~1時間30分だけです。

夫婦関係悪化の経緯や相手に対する不満を述べていると、あっという間に期日終了の時間になります。

調停委員の同情を引きたい、感情的に訴えれば調停委員を味方に引き込めると思っている人もいますが、たいていの場合は逆効果です。

また、「積もり積もった不満やつらさを誰かに聞いてもらいたい。」という目的で離婚調停を申し立てたのであれば、納得できるまで話し続けて気持ちが晴れるかもしれませんが、離婚に関する協議をする時間が無くなります。

そのため、離婚調停を申し立てた動機、離婚に伴う諸条件についての主張、主張の理由をはっきりと伝えることを意識して話すことが重要です。

主張が正当であることを分かりやすく伝える

離婚調停は、離婚紛争を夫婦の合意によって解決する手続きです。

夫婦の主張が対立している場合、調停委員が夫婦の一方の主張を踏まえてもう一方に譲歩を求めます。

協議内容全体を見ると、夫婦双方が譲歩し合うかたちになることが多いですが、各条件で見ると、調停委員が正答だと考える夫婦の一方の主張をベースとして、他方に譲歩を求める方法で調整が図られます。

したがって、自分の主張の正当性を調停委員に理解させないと、伝書鳩のように「向こうの言い分は○○です。」と相手に伝えられるだけですし、相手の主張をベースに譲歩を求められるおそれもあります。

離婚調停で調停委員に主張の正当性を理解させるというのは、訴訟のように客観的な証拠や法的な根拠を示すことではなく、調停委員の共感を得ることです。

つまり、自分が置かれた状況を踏まえ、離婚することが家族に与えるメリット、または、離婚しないことが家族に与えるデメリットを伝え、調停委員を納得させることです。

例えば、離婚したい場合、夫婦が対立したまま別居が継続することにより、婚姻費用や調停・裁判にかかる費用がかさみ、面会交流の調整の度に夫婦喧嘩になり、子どもも不安定になるなどと主張することが考えられます。

意識したいのは離婚が自分だけでなく相手や子どもにもベターな解決策であることを強調し、調停委員に伝えることです。

「離婚して夫のモラハラから解放されたい。」、「離婚すれば人生をやり直せるはずだ。」などと自分にとってのメリットばかり伝える人が多いですが、「自分のことしか考えていない。」と思われてしまいかねないため、注意してください。

譲歩しない雰囲気を醸し出す

離婚調停は、夫婦双方が互いに譲歩しながら合意を目指すというのが建前ですが、実際の調停では、調停委員は譲歩しやすいと見た方に譲歩を求めようとする傾向があります。

譲歩しにくい人を説得するよりも、譲歩する人に働きかけた方が時間も手間もかからずに済むためです。

したがって、相手にできる限りの譲歩をさせたい場合は、調停委員に「この人は簡単に譲歩しなさそうだ。」という雰囲気を醸し出して、まずは相手に譲歩を求めるよう仕向けることが重要になります。

なお、「私は一切譲歩しません。」と言い切ったり、「相手が譲歩すべきだ。」と主張したりすると、譲歩しないことは伝わりますが、離婚紛争を調停で解決する気がないと思われるおそれがあります。

そのため、「譲歩しない雰囲気を醸し出す」ことが大切なのです。

調停場面で用いる方法としては、以下のようなものを挙げることができます。

  • 調停委員に主張を伝えた後、「私としては最大限譲歩して主張しているつもりです。」と付け加える
  • 調停委員から相手の主張を聞かされたときに、内容に関わらず即答を避ける

反論よりも聞き流すことを意識する

離婚調停は、証拠を出し合って自分の主張の正当性を主張したり、相手の主張が誤りであることを示したりする手続きではなく、夫婦間で主張をすり合わせて合意を目指す手続きです。

夫婦双方が証拠の有無に関わらず、また、事実か否かを問わず、自由に主張を述べることができるため、相手が明らかに虚偽の主張を展開したり、自分の記憶と異なる主張をしたりすることがあります。

相手が虚偽や事実と異なる主張をすると反論したくなるもので、特に、自分が不利になることを主張されたり、自分が有利になる事実を否定されたりすると、感情的になって反論してしまいがちです。

しかし、いくら反論しても証拠を示しても、調停手続きの中で事実を証明したり相手にペナルティを課したりすることはできず、水掛け論になって時間を浪費するだけです。

それどころか、相手の主張に反論することに気をとられ、自分が主張したかった内容を十分に主張できずに調停期日が終わることも珍しくありません。

相手の主張が虚偽や事実と異なる内容であっても、冷静さを保って聞き流して「私の把握している事実とは異なります。」と伝え、自分が主張したい内容を淡々と話すことが大切です。

相手の主張や出方を把握する

離婚訴訟が見込まれる場合、調停段階から相手の主張や出方をできる限り把握することが重要です。

離婚訴訟では、争点となっている内容について、夫婦が互いに自分の主張の正当性を示す証拠を提出する必要があるところ、事前に相手の主張が分かっていれば、反論やそれを裏づける証拠を準備しやすいためです。

例えば、相手がDVの怪我の診断書を作成している、不貞相手を特定しているなど、自分に不利な証拠を握っていることが判明すれば、それを踏まえてあらかじめ離婚訴訟の戦略を練ることができます。

また、自分が提出した証拠であっても、内容によっては相手の主張を裏づける証拠として認定されるおそれもあるところ、相手の出方が予測できれば提出を控えることができます。

さらに、相手の主張を把握しておけば、早い段階で和解案を提示するなど離婚訴訟の早期解決に役立つこともあります。

離婚訴訟で予定している主張や証拠を悟られないようにする

相手の主張や出方を把握しておきたい一方で、自分が訴訟で予定している主張や証拠を悟られないようにすることも重要です。

相手に主張や提出予定の証拠を把握されると、反論や裏付け資料をあらかじめ準備されたり、不利になり得る証拠の提出を控えられたりする可能性があります。

例えば、相手の不貞の証拠をつかんでいる、モラハラ場面の録画データを持っているなどの情報が相手に伝わると、証拠を踏まえた弁解や矛盾しない嘘の主張を準備されてしまいかねません。

調停が終了した後を意識する

離婚紛争を調停で解決したいと望んでも、離婚やそれに伴う諸条件について夫婦間で合意できなければ、離婚することはできません。

例えば、相手が離婚を頑なに拒否する、離婚には合意したが子どもの親権で折り合わないなどの場合、調停を成立させることができません。

離婚調停では、主な争点全てで夫婦の合意ができないと調停を成立させることができず、調停不成立で終了することになり、調停で合意した内容が何も決まらないまま手続きが終了します。

そのため、調停期日を重ねても成立の見込みが乏しい場合、離婚調停が望んだかたちで成立しないことを想定し、調停後につながる終わらせ方を意識することが大切になります。

調停後の予定対応
離婚訴訟調停不成立で終了させる
当分の間別居別居、婚姻費用、面会交流を取り決めて調停を成立せる
夫婦関係の再検討取下げ

以下、調停を不成立で終了させて離婚訴訟を目指す場合に留意する内容を解説します。

調停を終了させるタイミング

夫婦の協議が難しいため、調停の場で調停委員を交えて離婚の話し合いがしたい人もいれば、最初から離婚訴訟を念頭におき、調停前置主義の要件を満たすため形式的に離婚調停を申し立てた人もいます。

このように、離婚調停に何を求めるかは人によって異なり、求めるものによって調停を終わらせるタイミングも異なります。

離婚訴訟での解決を求めるのであれば、早い段階で調停の話し合いを打ち切った方が、離婚までの時間と手間を省略できます。

ただし、離婚訴訟での解決を求める場合でも、調停を引き延ばした方が良いケースもあります。

例えば、離婚訴訟で提出予定の証拠を得るのに時間がかかる場合は、証拠の準備が整うまで調停を引き延ばす方が良いと言えます。

離婚訴訟までは考えておらず、調停での解決を望む場合、多少は難航しても調停期日を重ねてじっくりと話し合いを進めることになります。

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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