審判前の保全処分とは?後見、財産分与、子の引渡しで申立てができる?

審判前の保全処分

家庭裁判所が取り扱う家事事件の手続きの多くは、申立てを行ってから調停成立や審判などで結論が出るまでに時間がかかります。

しかし、相手が子供を連れて逃走するおそれがある、強度の精神病のある相手に連れ去られた子どもの引渡しを求める場合など、通常の手続による合意や判断を待っていては取り返しがつかなくなるケースがあります。

審判前の保全処分は、迅速な対応や判断が求められるケースについて、調停成立や審判確定の前に必要な保全処分(保護)をするために設けられた手続きです。

審判前の保全処分とは

審判前の保全処分とは、調停成立や審判確定を待っていたのでは、当事者の権利の実現が困難になり、権利者が重大な損害を受けるおそれがあるときに、必要な保全を行う手続です。

家事事件手続法第105条第1項では、以下のとおり規定されています。

本案の家事審判事件(家事審判事件に係る事項について家事調停の申立てがあった場合にあっては、その家事調停事件)が係属する家庭裁判所は、この法律の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずる審判をすることができる。

審判前の保全処分は、あくまで本案が終局するまでの暫定的な措置です。

そのため、本案となる調停事件または審判事件の申立てを行う必要があります。

本案となる事件と審判前の保全処分の申立てを同時に行うことが多いですが、本案を申し立てた後に保全処分を追加することもできます。

審判前の保全処分の要件

審判前の保全処分が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 保全の必要性
  • 本案認容の蓋然性

保全の必要性

審判前の保全処分は、申立てを行えば必ず認められるものではなく、保全の必要性が存在しなければ認められません。

例えば、子の引渡しに関する保全の必要性について、東京高等裁判所が以下のとおり判示しています。

子の福祉が害されているため早急にその状態を解消する必要があるときや、本案審判を待っていては、仮に本案で子の引渡しを命じる審判がされてもその目的を達することができないような場合がこれにあたる。

引用:東京高裁決定平成15年1月20日家裁月報55巻6号122頁

保全の必要性は、審判前の保全処分の対象となる事件によって異なりますが、いずれも調停成立や審判確定までに迅速な対応をしないと、権利の実現が困難になり、権利者が重大な損害を受けるおそれがあることが求められます。

本案認容の蓋然性

本案認容の蓋然性とは、本案が認められる確からしさのことです。

つまり、審判前の保全処分が認められるためには、「申立人が本案で請求した事項が認められ、申立人の権利が形成されると思われる状況にある(本案審判で認容の判断を示すであろうという確からしさがある)」と、家庭裁判所の裁判官が認識する必要があります。

例えば、審判前の保全処分の決定が出される時点で、裁判官が、子の連れ去りの状況や現在の監護状況などを踏まえると子の引渡しの審判(本案)を認めることになるであろうという認識を持っている必要があるということです。

夫婦関係調整(離婚)調停で子の引渡しや財産分与を求める場合

夫婦関係調整(離婚)調停事件では、離婚以外に子の引渡しや財産分与などを求めることができます。

しかし、離婚調停事件は一般調停事件であり、審判前の保全処分の対象ではないため、離婚調停事件を本案として子の引渡しの仮処分や、財産分与請求権の仮差押えを求めることはできません。

そのため、子の引渡しの仮処分は、子の引渡しの調停または審判の申立てを行い、それを本案として保全処分の申立てを行います。

財産分与請求権の仮差押えについては、離婚前に財産分与調停の申立てを行うことができないことから、離婚裁判を本案として保全処分の申立てを行います。

離婚訴訟に調停前置主義が適用されることから、実務上、離婚調停事件の申立てを行うことで離婚訴訟を提起したとみなされ、保全処分の申立てが可能となります。

なお、保全命令のみの申立てについては、離婚調停事件の申立ての前であっても可能です。

  • 子の引渡しの仮処分を求めるとき:子の引渡しの調停・審判の申立てを行い、それを本案とする
  • 財産分与請求権の仮差押えを求めるとき:離婚調停事件を申し立てる(調停前置主義により、離婚訴訟を提起したものとみなされるため、離婚訴訟を本案とする)

審判前の保全処分の類型

審判前の保全処分は、保全する対象によって以下のとおり分類されています。

  1. 財産の管理者の選任
  2. 財産管理または本人の監護に関する指示
  3. 後見命令(保佐命令、補助命令)
  4. 本人の職務の執行停止または職務代行者の選任
  5. 仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分

通常、「1.財産の管理者の選任」と「2.財産管理または本人の監護に関する指示」を一つに分類することが多いですが、混同されやすいため、便宜上、分けて記載しています。

1.財産の管理者の選任

財産の管理者とは、本人の財産を代わりに管理する人です。

審判前の保全処分で選任される財産の管理者は、原則、民法103条所定の範囲内(保存行為、代理の目的である物または権利の性質を変えない範囲内の利用行為・改良行為=管理行為)で代理権を付与される法定代理人です。

後見・保佐・補助開始、遺産分割、財産分与などの事件で財産の管理が必要なときに、財産管理者に財産を管理させることができます。

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2.財産管理または本人の監護に関する指示

審判前の保全処分では、財産の管理者を選任する以外に、事件の関係者に対して財産管理や身上監護などの指示をする審判をすることもできます。

財産管理に関する指示は後見・保佐・補助開始、遺産分割、財産分与などの事件、本人の監護に関する指示は、後見・保佐・補助開始の事件などで出される保全処分です。

例えば、後見関係事件では、本人の施設入所など身上監護に関して早急に対応する必要がある場合などに、事件関係者に本人の身上監護に関する指示をすることがあります。

3.後見命令(保佐命令、補助命令)

後見命令とは、後見開始の審判事件において、本人(後見を開始される予定の人)に対して、財産上の行為につき財産の管理者の後見を受けることを命じる保全処分です。

財産の保全については、「1.財産の管理者の選任」で足りると思うかもしれませんが、保全処分による財産の管理者の選任では、本人の財産処分権は影響を受けません。

つまり、本人の財産を財産管理者と本人が管理している状態で、本人は財産を処分することができます。

そのため、本人が審判前に自分の財産を処分するおそれがあるときは、後見命令の保全処分によって本人の財産上の行為を制限します。

後見命令の保全処分が出ると、財産の管理者と本人は、本人がした日用品の購入等の行為以外の財産上の行為を取り消すことができるようになります。

なお、保佐命令と補助命令も同様の保全処分ですが、対象となる行為が限定されます。

  • 保佐命令:民法第13条第1項所定の行為
  • 補助命令:同意権付与の申立てで請求した行為

4.職務の執行停止または職務代行者の選任

職務の執行停止または職務代行者の選任とは、法律上の権限を有する人による権限の濫用のおそれがあるときに、その権限(職務)の執行を停止または職務を代行する人を選任する保全処分です。

法律上の権限を有する人とは、成年後見人・保佐人・補助人、成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人、未成年後見人、親権者、監護権者、遺言執行者などです。

対象となる事件は、成年後見人・保佐人・補助人の解任、成年後見人・保佐監督人・補助監督人の解任、未成年後見人の解任、親権喪失、管理権喪失、遺言執行者の解任などがあります。

5.仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分

仮差押えとは、金銭債権の強制執行を保全するために、債務者の財産を仮に差し押さえる(財産の処分を制限する)保全処分です。

仮処分とは、金銭債権以外の権利を保全するために、現状維持を命じたり(係争物に関する仮処分)、仮の地位を定めたり(仮の地位を定める仮処分)する保全処分です。

  • 係争物に関する仮処分:不動産の処分禁止・占有移転禁止など
  • 仮の地位を定める仮処分:子の引渡し、婚姻費用の仮払い、養育費の仮払い

審判前の保全処分と供託

財産分与事件で相手方の財産の仮差押えを請求する場合など、財産に関して審判前の保全処分をするときは、金銭などによる供託を求められることがあります。

審判前の保全処分と本案の決定が異なる結果となり、相手方に損害を与えたときの担保です。

供託した金銭は、本案である審判の確定、調停の成立、または強制執行の手続きに着手した後、相手方に損害を与えた場合は損害に相当する額が相手方に渡され、損害がなければ申立人に戻されます。

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審判前の保全処分の申立てができる事件

審判前の保全処分の対象は、家事事件のうち別表第1事件(別表第1審判事件)と別表第2事件(別表第2審判事件、別表第2調停事件)です。

調停の合意内容に基づいて審判を行う「調停に代わる審判」や、調停の合意を前提として必要な事実の調査をした上で審判を行う「合意に相当する審判」、訴訟事項について調停を行う特殊調停事件や一般調停事件は、審判前の保全処分の対象外です。

審判前の保全処分の対象となる事件 審判前の保全処分の対象とならない事件
別表第1事件、別表第2事件(調停、審判) 調停に代わる審判、合意に相当する審判、特殊調停事件、一般調停事件

「審判」前の保全処分なのに、別表第2調停事件が対象となることに違和感を覚えるかもしれません。

家事審判法時代には、乙類調停事件(現在の別表第2調停事件)は審判前の保全処分の対象ではなく、保全処分の申立てを行うには、乙類審判事件(現在の別表第2審判事件)の申立てを行う必要がありました。

しかし、調停中に保全の必要性が生じた場合、調停を取り下げて審判の申立てをするか、調停を不成立で終了させて審判移行しないと審判前の保全処分が申し立てられず、手続の迅速性や効率性の観点から問題視されていました。

また、別表第2事件は、調停と審判の両方の手続きが利用でき、調停が不成立で終了すると、調停の申立て時に審判の申立てがあったとして自動的に審判移行するところ、審判前の保全処分について調停と審判で差を設けるべきではないとの指摘もありました。

その結果、家事事件手続法では、別表第2調停事件の申立てを本案として審判前の保全処分の申立てができると規定されました。

審判前の保全処分の申立てができる別表第1事件・別表第2事件

審判前の保全処分の申立てができる事件は、以下のとおりです。

別表第1事件と別表第2事件で分類し、審判・調停事項、保全処分の内容と類型を記載しています。

別表第一事件
審判事項 保全処分の主な内容 類型
後見開始 財産の管理者の選任
事件関係者に対する本人(後見を開始される予定の人)の財産管理または身上監護に関する指示
後見命令
成年後見人の解任 成年後見人の職務の執行停止または成年後見人の職務代行者の選任
成年後見監督人の解任 成年後見監督人の職務執行停止または成年後見監督人の職務代行者の選任
保佐開始 財産の管理者の選任
事件関係者に対する本人(保佐を開始される予定の人)の財産管理または身上監護に関する指示

 

保佐命令(民法第13条第1項所定の行為)
保佐人の解任 保佐人の職務執行停止または保佐人の職務代行者の選任
保佐監督人の解任 保佐監督人の職務執行停止または保佐監督人の職務代行者の選任
補助開始 財産の管理者の選任
事件関係者に対する本人(補助を開始される予定の人)の財産管理または身上監護に関する指示
補助命令(同意権付与の申立てで請求した行為)
補助人の解任 補助人の職務執行停止または補助人の職務代行者の選任
補助監督人の解任 補助監督人の職務執行停止または補助人の職務代行者の選任
夫婦財産契約による財産の管理者の変更等 財産の管理者の選任
事件関係者に対する、夫婦の一方が管理する財産(申立人の所有財産または夫婦の共有財産)の管理に関する指示

 

仮処分その他の必要な保全処分の命令
特別養子縁組 養子となる者の監護者の選任
養子となる者の親権者または未成年後見人の職務執行停止、または、養子となる者の親権者または未成年後見人の職務代行者の選任
特別養子縁組(離縁) 養子となる者の親権者または未成年後見人の職務執行停止、または、養子となる者の親権者または未成年後見人の職務代行者の選任
親権喪失、親権停止または管理権喪失 親権者の職務執行停止または親権者の職務代行者の選任
未成年後見人の解任 未成年後見人の職務執行停止または未成年後見人の職務代行者の選任
未成年後見監督人の解任 未成年後見監督人の職務執行停止または未成年後見監督人の職務代行者の選任
遺言執行者の解任 遺言執行者の職務執行停止または遺言執行者の職務代行者の選任
任意後見監督人の解任 任意後見監督人の職務執行停止または任意後見監督人の職務代行者の選任
任意後見人の解任 任意後見人の職務執行停止(任意後見人の職務は本人との任意後見契約により定められており、職務代行者の選任はできない)
都道府県の措置についての承認 児童の身辺のつきまといまたは児童が所在する場所の付近の徘徊を禁止する命令
破産手続が開始された場合における夫婦財産契約による財産の管理者の変更等 財産の管理者の選任
事件関係者に対する、夫婦の一方が管理する財産(申立人の所有財産または夫婦の共有財産)の管理に関する指示
親権を行う者につき破産手続が開始された場合における管理権喪失 親権者の財産管理権の執行停止または親権者の職務代行者の選任(この類型では、親権のうち監護権の執行停止は必要性がなく認められない)
別表第2事件
調停・審判事項 保全処分の主な内容 類型
夫婦間の協力扶助に関する処分 仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分(金員仮払仮処分など)
婚姻費用の分担に関する処分 仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分(仮差押え、婚姻費用の仮払仮処分など)
子の監護に関する処分 仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分(子の引渡しの仮処分、仮に監護者を指定する仮処分、養育費の仮払仮処分など。試行的面会交流は保全処分ではない。)
財産の分与に関する処分 仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分(財産の仮差押えなど)
親権者の指定又は変更 親権者の職務執行停止または親権者の職務代行者の選任
仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分
扶養の順位の決定及びその決定の変更又は取消し 仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分(金員仮払仮処分など)
扶養の程度又は方法についての決定及びその決定の変更又は取消し 仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分(金員仮払仮処分など)
遺産の分割 財産の管理者の選任
事件関係者に対する財産管理に関する指示
仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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