移送とは?離婚調停で移送される事情と移送申立書・上申書の書き方

移送 家事調停

離婚調停を含む家事調停の管轄は、家事事件手続法第245条第1項で「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。」と規定されています。

しかし、必ずしも管轄のある家庭裁判所に申し立てがなされるとは限りませんし、管轄があっても他の家庭裁判所で事件を処理するのが相当な場合もあります。

そのため、家事事件手続法では移送の規定が設けられています。

移送とは

移送とは、家庭裁判所が、自庁に係属している(申立てを受理した)事件を別の家庭裁判所に移す手続きです。

家事事件の移送については、家事事件手続法第9条に規定されています。

1裁判所は、家事事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。ただし、家庭裁判所は、事件を処理するために特に必要があると認めるときは、職権で、家事事件の全部又は一部を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に移送し、又は自ら処理することができる。

2家庭裁判所は、家事事件がその管轄に属する場合においても、次の各号に掲げる事由があるときは、職権で、家事事件の全部又は一部を当該各号に定める家庭裁判所に移送することができる。

  1. 家事事件の手続が遅滞することを避けるため必要があると認めるときその他相当と認めるとき 第5条の規定により管轄権を有しないこととされた家庭裁判所
  2. 事件を処理するために特に必要があると認めるとき 前号の家庭裁判所以外の家庭裁判所

3前2項の規定による移送の裁判及び第1項の申立てを却下する裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

4前項の規定による移送の裁判に対する即時抗告は、執行停止の効力を有する。

5民事訴訟法 (平成8年法律第109号)第22条 の規定は、家事事件の移送の裁判について準用する。

(家事事件手続法第9条第1項)

法律上、管轄のある家庭裁判所への移送だけでなく、管轄のない家庭裁判所への移送についても定められています。

移送先 移送できる場合
管轄
  • 家事事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるとき(職権または申立て)
  • 事件を処理するために特に必要があると認めるとき(職権のみ)
管轄外
  • 家事事件の手続が遅滞することを避けるため必要があると認めるときその他相当と認めるとき(職権のみ)
  • 事件を処理するために特に必要があると認めるとき(職権のみ)

管轄外の家庭裁判所から管轄の家庭裁判所への移送(家事事件の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるとき)

離婚調停を含む家事事件の管轄は、合意管轄を利用しない場合は「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」です。

原則として、家事事件は管轄のある家庭裁判所で処理されるため、自己都合で管轄外に申し立てたとしても、管轄のある家庭裁判所へ移送されます。

管轄のある家庭裁判所への移送は、調停の相手方が本来の管轄の家庭裁判所で調停をする権利を保障するため、家庭裁判所が職権で行うだけでなく、当事者からの申立ても認められています。

当事者から移送申立てがあった家庭裁判所は、移送の裁判または移送申立てを却下する裁判を行います。

いずれも即時抗告が認められており、即時抗告があると移送の執行は停止されます。

当事者からの移送の申立て

当事者からの移送の申立てについては、家事事件手続規則第7条に規定されています。

  1. 移送の申立ては、家事事件の手続の期日においてする場合を除き、書面でしなければならない。
  2. 前項の申立てをするときは、申立ての理由を明らかにしなければならない。

(家事事件手続規則第7条)

移送の申立ては、原則として、書面でしなければならず、申立ての理由も明らかにする必要があります。

書面でする移送申立てについては、「移送申立書の書き方」の項目で詳しく解説します。

離婚調停の場合、調停期日(家事事件の手続きの期日)に口頭で申立てを行うことが認められています。

調停期日に移送の申立てを行う場合、調停委員に加えて裁判官と裁判所書記官が調停室に入り、申立ての事実と理由が調書に記載されます。

管轄外の家庭裁判所への移送(事件を処理するために特に必要があると認めるとき)

家庭裁判所が「事件を処理するために特に必要がある」と認める場合、管轄外の家庭裁判所へ移送できることが規定されています。

管轄外への移送は、家庭裁判所が職権で行うものであり、当事者からの申立ては認められていません。

移送の上申

何らかの事情により、管轄外の家庭裁判所で離婚調停を行いたい場合、移送の上申をする方法があります。

上申とは、家庭裁判所に希望を伝える「お願い」であり、必ずしも聞き入れられるわけではありませんが、当事者の一方が移送を希望している旨は裁判官に伝わり、移送の判断要素の一つとなります。

管轄の家庭裁判所からの移送

例外ですが、管轄の家庭裁判所に家事事件が申し立てられた場合でも、家事事件の全部または一部を別の家庭裁判所へ移送することが認められています。

家事事件の手続が遅滞することを避けるため必要があると認めるときその他相当と認めるとき

→第5条の規定(複数の家庭裁判所が管轄権を有する事件につき、手続きを先に始めた家庭裁判所を管轄とする「優先管轄」の規定)により管轄権を有しないこととされた家庭裁判所

事件を処理するために特に必要があると認めるとき

→前号の家庭裁判所以外の家庭裁判所

管轄の家庭裁判所から管轄外の家庭裁判所への移送は、職権で行われるものであり、当事者からの申立ては認められません。

例えば、夫婦の合意で定めた家庭裁判所で離婚調停が始まったが、相手方が合意管轄の家庭裁判所に出頭できなくなった場合などは、事件が相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に移送されることがあり得ます。

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所で離婚調停を始めた後、申立人が親の介護などの事情で調停に出頭できなくなった場合などは、事件が申立人の住所地を管轄する家庭裁判所に移送されることがります。

いずれも稀なケースですが、制度として知っておくと、何らかの事情で調停への出頭が困難になった場合、移送の上申をするという選択を検討することができます。

移送の上申

「管轄外の家庭歳場所から管轄外の家庭裁判所への移送」の場合と同じく、当事者による移送の申立てはできませんが、移送の上申をして職権発動を促すことができます。

移送申立書の書き方

管轄外の家庭裁判所に申し立てられた離婚調停について、当事者が移送を求める場合、移送申立書を作成し、調停が係属している家庭裁判所に提出する必要があります。

  • タイトル
  • 文書作成年月日
  • 宛名
  • 申立人の住所、氏名、押印
  • 事件番号
  • 申立ての趣旨
  • 申立ての理由

タイトル

「移送申立書」と記載します。

事件番号をタイトルに含める書き方もあるようですが、移送申立書のみとするのが一般的です。

文書作成年月日

文書の作成日を記入します。

文書の作成日と提出日に開きがある場合、提出日の数日前の日づけを記入しておきます。

宛名

離婚調停を申し立てた家庭裁判所です。

  • 本庁の場合:○○家庭裁判所
  • 支部の場合:○○家庭裁判所○○支部

申立人の住所、氏名、押印

申立てを行う人の住所と氏名を記載し、押印します。

住所は、管轄と関わるため、忘れず記載してください。

なお、離婚調停の申立人と移送申立ての申立人が異なる場合、申立人(離婚調停の相手方)などと分かるように記載する必要があります。

事件番号

家事調停事件の事件番号は、「和暦+(家イ)+第○○号」で表示され、調停期日通知書に記載されています。

事件名については、家庭裁判所は事件を事件番号で特定するため記載しなくても受け付けてもらえます。

申立ての趣旨

「「本件調停を○○家庭裁判所(○○支部)に移送する」との裁判を求める。」と記載します。

申立ての理由

移送を希望する理由を具体的に記載します。

  • 管轄外の家庭裁判所に申立てがなされているため、管轄の家庭裁判所に移送してほしい
  • 離婚調停の申立人は自庁処理の上申書を提出しているが、上申書の記載は事実とは異なり、本来の管轄で離婚調停を行ってもらいたい
  • 移送されない場合、調停期日への出頭が困難である(子育て、親の介護、経済的理由など)

移送申立ての記載例です。

移送申立書

平成○○年○○月○○日

○○家庭裁判所 御中

住所

申立人(相手方)         印

 御庁平成○○年(家イ)第○○号○○調停事件について、申立人(調停事件相手方)は、次のとおり移送を申し立てる。

1 申立ての趣旨

「本件調停を○○家庭裁判所(○○支部)に移送する」との裁判を求める。

2 申立ての理由

 本件調停の相手方である申立人の現住所は上記のとおりであり、本件は御庁の管轄に属しない。

 したがって、申立人の住所地を管轄する申立ての趣旨記載の家庭裁判所への移送を求める。

移送上申書の書き方

法律上、職権による移送のみが認められている「管轄外の家庭裁判所への移送」や「管轄の家庭裁判所からの移送」について、当事者から移送を求める場合の上申書の書き方です。

  • タイトル
  • 文書作成年月日
  • 宛名
  • 当事者の表示
  • 事件番号
  • 上申の趣旨
  • 上申の具体的な理由
  • 申立人の住所、署名、押印

タイトル

「移送上申書」と記載します。

「上申書」や「移送の上申書」、「移送申出書」と記載しても問題はありませんが、申立ては認められていないため、「移送申立書」と記載すると訂正を求められます。

宛名

離婚調停が係属中の家庭裁判所です。

文書作成年月日

移送申立書と同じです。

当事者の表示

当事者の氏名を記載します。

事件番号

移送申立書と同じです。

上申の趣旨

上申の趣旨に記載すべき内容は、以下のとおりです。

  • 本来の管轄裁判所がどこであるか
  • 移送を求める正当な理由があること
  • 上申であること

申立てが認められていないことについて家庭裁判所の職権発動を促すものであり、上申であることは明記しなければなりません。

上申の理由

以下のポイントを踏まえて、自庁処理を希望する理由を具体的に記入します。

  • 移送されないと調停ができない事情
  • 移送されないと調停を行うことが難しい事情

原則として、移送されないと調停ができない事情を具体的に記載します。

調停ができない事情がない場合も、移送を求める何らかの事情を記載しないと、移送が認められることはありません。

申立人の住所、署名、押印

最後に、申立人の住所と氏名を記載し、最後に押印します。

その他

用紙は、家庭裁判所に提出する他の書類と同じく、A4を使用してください。

各項目の記載順、フォント、文字数、余白などは自由に決めて問題ありません。

以下、書式例です。

移送上申書

○○家庭裁判所(○○支部)御中

平成○○年○○月○○日

  申立人 ○○○○

相手方 ○○○○

 上記当事者間の平成○○年(家イ)第○○号の管轄裁判所は○○家庭裁判所(○○支部)ですが、下記理由のため、○○家庭裁判所(○○支部)へ移送していただきたく、上申します。

(具体的な理由を記載)

住所○○○○○○○○○

申立人 ○○○○ 印

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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