離婚時の寡婦控除:申請書類の書き方と住民税はいくら戻るか?【年末調整・確定申告】
- シングルマザー
最終更新日: 2019.11.2
寡婦控除は、母子家庭のシングルマザーなどの所得税や住民税の負担を少なくする制度です。
しかし、「聞いたことはあるけど、税金のことってややこしそう。」、「何となく手続きが面倒くさそう。」などと敬遠してしまう人は少なくありません。
また、「住民税はいくら戻るの?」「所得(収入)がいくらなら所得税が免除されるの?」などと関心を持ちながら放置してしまい、経済的に苦しい生活を送るシングルマザーも一定数います。
寡婦控除は、一定の要件を満たせば誰でも利用できる控除ですし、基礎さえ理解すれば簡単に手続きをすることができるので、是非利用してみてください。
この記事では、離婚した場合に寡婦控除が利用できる条件、確定申告と年末調整の申請書類の書き方、住民税がいくら戻るかについて解説します。
目次
寡婦控除とは(母子家庭の所得税の免除・減免)
寡婦控除とは、納税者が一般の寡婦である場合に、一定の金額を所得から控除を受けることができる税法上の制度です。
寡婦とは、以下のいずれかに当てはまる女性です。
- 法律上の婚姻をした夫と死別した後に婚姻をしていない、夫と離婚した後に婚姻をしていない、または、夫の生死が明らかでない人で、子どもや扶養親族を養っている
- 法律上の婚姻をした夫と死別した後に婚姻をしていない、または、夫の生死が明らかでない人で、合計所得金額が500万円以下
寡婦控除は、上記の要件を満たす女性の所得から一定の金額を差し引くことにより、税金の負担を軽減させる所得控除の一つです。
簡単に言えば、税金負担を軽くできる制度で、年末調整や確定申告で寡夫控除を利用することで、すでに支払った住民税や所得税の一部が戻ってきます。
後述しますが、寡婦控除の制度には男性を対象とした寡夫控除もあります。
寡婦控除の法的根拠
寡婦控除は、所得税だけでなく住民税でも利用することができ、それぞれ根拠条文が異なります。
所得税の寡婦控除
所得税の寡婦控除は、所得税法第81条に規定されています。
1 居住者が寡婦又は寡夫である場合には、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から27万円を控除する。
2 前項の規定による控除は、寡婦(寡夫)控除という。
(所得税法第81条)
住民税の寡婦控除
住民税の寡婦駆除は、地方税法第34条に規定があります。
道府県は、所得割の納税義務者が次の各号のいずれかに掲げる者に該当する場合においては、それぞれ当該各号に定める金額をその者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除するものとする。
(中略)
寡婦又は寡夫である所得割の納税義務者 26万円
(以下略)
(地方税法第34条第8項)
寡婦控除の種類
寡婦控除には、3つの種類があります。
- 寡婦控除
- 寡婦控除(特定の寡婦)
- 寡夫控除
それぞれに所得控除の条件が設定されており、条件を満たせば、一定の金額を所得から差し引くことで税金の負担を減らす所得控除を受けることができます。
寡婦控除の「特定の寡婦」は、「特別の寡婦」と記載されることもあります。
例えば、国税庁ホームページでは特定の寡婦ですが、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書では「特別の寡婦」と表記されています。
紛らわしいですが、同じものと考えて問題ありません。
寡婦控除
寡婦控除とは、その年の12月31日の時点で、以下のいずれかに当てはまる女性が、所得控除を受けることができる制度です。
- 法律上の婚姻をした夫と死別した後に婚姻をしていない、夫と離婚した後に婚姻をしていない、または、夫の生死が明らかでない人で、親きょうだいまたは同一生計の子どもがいる
- 法律上の婚姻をした夫と死別した後に婚姻をしていない、または、夫の生死が明らかでない人で、合計所得金額が500万円以下
控除額
寡婦控除 | 所得税 | 住民税 |
控除額 | 27万円 | 26万円 |
寡婦控除の子どもとは
寡婦控除の子どもとは、総所得金額が38万円以下で、寡婦控除の請求者以外の控除対象配偶者や扶養親族になっていない子どもに限定されています。
合計所得金額とは
合計所得金額とは、繰越控除をする前の全ての所得を合計した金額です。
年収と勘違いされがちですが、合計所得金額と年収は別物ですので、注意してください。
具体的には、以下の金額の合計金額が合計所得金額です。
- 純損失、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失、特定居住用財産の譲渡損失及び雑損失の繰越控除をしないで計算した総所得金額
- 分離短期譲渡所得の金額(特別控除前)
- 分離長期譲渡所得の金額(特別控除前)
- 分離課税の上場株式等に係る配当所得の金額(上場株式等に係る譲渡損失との損益通算後で、繰越控除の適用前の金額)
- 株式等に係る譲渡所得等の金額(上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除及び特定株式に係る譲渡損失の繰越控除の特例の適用前の金額)
- 先物取引に係る雑所得等の金額(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用前の金額)
- 山林所得額(特別控除後)
- 退職所得金額(2分の1後)
給与収入のみの場合、年収から給与所得控除(給与所得者が給料をもらうのにかかる費用の概算、いわゆる「必要経費」を控除すること)を差し引いた金額が合計所得金額です。
つまり、合計所得金額が500万円以下とは、年収が約688万8000円以下の人と考えてください。
寡婦控除(特定の寡婦)
寡婦控除(特定の寡婦)とは、以下の要件の全てを満たす寡婦が、通常の寡婦控除27万円に8万円を加算した35万円(住民税は30万円)の所得控除を受けることができる制度です。
- 法律上の婚姻をした夫と死別した後に婚姻をしていない、夫と離婚した後に婚姻をしていない、または夫の生死が明らかでない
- 扶養親族である子どもがいる
- 合計所得金額が500万円以下である
子どもとは、総所得金額が38万円以下で、寡婦控除の請求者以外の控除対象配偶者や扶養親族になっていない子どもです。
合計所得金額とは、繰越控除をする前の全ての所得を合計した金額です。
詳しい解説は、寡婦控除の欄のとおりです。
控除額
特定の寡婦控除 | 所得税 | 住民税 |
控除額 | 35万円 | 30万円 |
寡夫控除
寡夫控除とは、その年の12月31日の時点で以下の全ての要件を満たす男性が、27万円(住民税は26万円)の所得控除を受けることができる制度です。
- 法律上の婚姻をした妻と死別した後に婚姻をしていない、妻と離婚した後に婚姻をしていない、または妻の生死が明らかでない
- 扶養親族である子どもがいる
- 合計所得金額が500万円以下である
子どもとは、総所得金額が38万円以下で、寡夫控除の請求者以外の控除対象配偶者や扶養親族になっていない子どもです。
合計所得金額とは、繰越控除をする前の全ての所得を合計した金額です。
詳しい解説は、寡婦控除の欄のとおりです。
控除額
寡夫控除 | 所得税 | 住民税 |
控除額 | 27万円 | 26万円 |
寡婦控除の控除額
寡婦控除が適用された場合の所得税と住民税の控除額をまとめておきます。
区分 | 所得税 | 住民税 |
寡婦控除 | 27万円 | 26万円 |
寡婦控除(特定の寡婦) | 35万円 | 30万円 |
寡夫控除 | 27万円 | 26万円 |
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離婚した場合の寡婦控除の申請方法
離婚した場合に年末調整や確定申告で寡婦控除を利用する方法について解説していきます。
寡婦控除が利用できるかどうかチェック
まずは、寡婦控除または寡婦控除(特定の寡婦)の条件に当てはまるかどうかチェックしましょう。
寡婦控除の利用可否フローチャート | ||||
離婚後に再婚した | ||||
Yes | No | |||
⇩ | ⇩ | |||
⇩ | 扶養親族の子どもがいる | |||
⇩ | No | Yes | ||
⇩ | ⇩ | ⇩ | ||
⇩ | 扶養親族または総所得金額が38万円以下&同一生計の子供がいる | 本人の所得が500万円以下 (給与年収688万8,999円以下) | ||
⇩ | No | Yes | No | Yes |
⇩ | ⇩ | ⇩ | ⇩ | ⇩ |
寡婦控除の対象外 | 一般の寡婦 | 特定の寡婦 |
寡婦控除を利用するには、扶養親族のまたは同一生計の子供がいる必要があり、いないと対象外です。
扶養親族の子供がいて、所得が500万円以下の場合は、特定の寡婦として寡婦控除以上の控除が受けられるようになります。
離婚後の年末調整で寡婦控除を申請する方法
会社員(サラリーマン)の場合、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書に必要事項を記入することで寡婦控除の申請を行います。
一般の寡婦の場合
フローチャートで一般の寡婦に当てはまる場合は、「C 障害者、寡婦、寡夫又は勤労学生」欄の「寡婦」に「レ点」を付けます。
また、「左記の内容」欄には、一般の寡婦に当てはまることを箇条書きで記入します。
- 離婚したこと
- 申請者本人の年間所得見積額
- 扶養親族または同一生計の子供の氏名と年間所得見積額
【扶養親族の子供がいる場合】
年間所得の見積額が500万円を超えているので、特定の寡婦ではなく一般の寡婦で申請しています。
【扶養親族の親がいる場合】
親を扶養している場合、所得要件は設定されていないので、離婚した事実だけを記載すれば足ります。
年間所得の見積額は、1年間に得た給料の総額(年収)から給与所得控除を差し引いた金額です。
1年間に得た給料の総額 | 給与所得控除 |
180万円以下 | 年収×40% 65万円以下の場合は65万円 |
180万円超360万円以下 | 年収×30%+8万円 |
360万円超660万円以下 | 年収×20%+44万円 |
660万円超1000万円以下 | 年収×10%+110万円 |
1000万円超 | 195万円 |
例えば、年収600万円の場合、「600万円×20%+44万円=164万円」が給与所得控除金額で、年間所得の見積額は436万円となります。
ただし、年末調整をする時点では年収が確定できていないことが多いので、毎月の給料やボーナスを合算した「大まかな年収」をベースに計算すれば足ります。
特定の寡婦の場合
特定の寡婦に当てはまる場合は、「C 障害者、寡婦、寡夫又は勤労学生」欄の「特別の寡婦」に「レ点」を付けます。
また、「左記の内容」欄には、特定の寡婦に当てはまる事情を記入します。
- 離婚したこと
- 申請者本人の年間所得見積額
- 扶養親族の子供の氏名と年間所得見積額
寡婦控除によって「いくら戻るか(いくら安くなるか)」
寡婦控除は、所得から一定額を差し引く制度です。
「控除額=負担が軽減される金額」だと勘違いされがちですが、控除額は課税所得の計算に使われる数値に過ぎず、税金額から直接差し引かれるわけではありません。
住民税や所得税は、課税所得(寡婦控除を含む各種控除が年収(収入)から差し引かれた後の金額)に基づいて、負担する額が決まります。
寡婦控除の控除額についてはすでに解説しましたが、控除によって「いくら戻るか(いくら税金が安くなるか)」についても確認しておきます。
寡婦控除で軽減される税金額の計算方法
寡婦控除が適用されることで軽減される税金額については、以下の計算式で計算することができます。
- 控除額×税率
所得税や住民税の税率は課税される所得金額によって異なりますが、ここでは分かりやすいように一律10%として試算しています。
試算であり、その他の控除が適用されることで実際の負担額は変動します。
寡婦控除・寡夫控除
所得税 | 27万円×0.1(10%)=27,000円 |
住民税 | 26万円×0.1(10%)=26,000円 |
寡夫控除(特定の寡婦)
所得税 | 35万円×0.1(10%)=35,000円 |
住民税 | 30万円×0.1(10%)=30,000円 |
寡婦控除の留意点
最後に、寡婦控除の留意点について触れておきます。
事実婚(内縁)や未婚では寡婦控除を受けることはできない
事実婚(内縁)とは、実質的には法律上の夫婦と同様の関係にありながら、婚姻の届出をせず法律上の夫婦と認められない状態です。
夫婦生活を成立させる意思がある点は法律婚と同じで、婚姻届を提出・受理されていないという形式面のみが異なります。
男女が単に一緒に住んでいるだけの同棲とは区別されます。
寡婦控除は、法律上の婚姻をした人を対象とした所得控除であり、事実婚(内縁)関係にある男女には適用されません。
また、シングルマザーであっても、「未婚」のシングルマザーは寡婦控除の対象には入っていません。
この点、シングルマザーの経済的な困窮を税金面から援助するという制度の趣旨を踏まえ、税法の改正を求める声が強まっています。
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寡婦控除のみなし適用
寡婦控除のみなし適用とは、寡婦控除が適用されない未婚のシングルマザーなどのひとり親が行政の各種サービスを利用する場合に、寡婦控除に相当する分を差し引き、サービス利用の可否を判定する制度です。
価値観の多様化に伴って事実婚(内縁)を選択する男女が増え、未婚のシングルマザーも増加傾向にある現状に即して、各自治体が独自に寡婦控除のみなし適用制度を設けています。
例えば、寡婦控除のみなし適用により、未婚のシングルマザーの保育料の減免、児童扶養手当の支給基準緩和、公営住宅の家賃を軽減するなどの自治体が増えてきています。
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【追記】
これまでは各自治体レベルで実施されていた寡婦控除のみなし適用ですが、2018年6月以降は国レベルで実施されるようになり、厚生労働省が管轄する25の事業については、全国の自治体でみなし適用が受けられるようになりました。
寡婦控除のみなし適用が全国的に実施されている子どもに関係する事業は、以下のとおりです。
事業 | みなし適用の内容 |
子どものための教育・保育給付費負担金 | 利用負担額の決定 |
児童扶養手当 | 手当の支給を制限する場合の所得の額の計算方法 |
高等職業訓練促進給付金 | 給付額の決定 |
ひとり親家庭等日常生活支援事業 | 利用料の決定 |
児童入所施設措置費等 | 徴収額の決定 |
未熟児童養育医療費給付事業 | |
結核児童療育給付事業 |
まとめ
寡婦控除は、数あるシングルマザーの税金対策の中でも手軽な部類に入り、年末調整や確定申告で簡単に手続きができます。
「ややこしそう」と食わず嫌いしていると、簡単な手続きで戻ってくる何万円もの税金が受け取れなくなるので、基本的な内容を理解して手続きしてみてください。
会社員として働いているなら、職場の担当職員に問い合わせれば分かりやすく教えてくれますし、書類の書き方も手ほどきしてくれるはずです。
何かと敬遠されやすい税金対策。
離婚して仕事と家庭の両立で手一杯になると、手を付ける余裕がなくなるかもしれませんが、離婚後の生活の負担を軽くしてくれる重要な仕組みなので、是非、時間を作って利用を検討してください。
離婚大国の日本では、シングルマザー(ひとり親)や母子家庭(父子家庭)に対する支援制度が年々充実しています。
しかし、支援制度の多くは離婚した人が自ら申請する必要があり、黙っていても利用することはできません。
そのため、離婚したら、自分がどの支援制度を利用できるのかを調べ、利用できる制度は早めに申請することが大切です。
シングルマザーの話を聞くと、「忙しくて支援制度を調べたり申請したりする時間がない」、「周囲の目が気になる」という理由でロクに制度を利用していない人が多く、その結果、貧困にあえいでいる人も珍しくありません。
支援制度の利用を恥ずかしがる必要は全くなく、むしろ生活のために積極的に利用しましょう。
また、時間がないなら、厳しいようですが、無理やりにでも時間を作るべきです。
無理をして時間を作って手続きをすれば、生活の負担が軽くなり、結果として時間的余裕も生まれてくるはずです。
【参考】