家事調停官とは?弁護士が非常勤裁判官として離婚調停を運営できる?

離婚調停を運営するのは家事調停委員会です。

家事調停委員会は、原則として、裁判官1人と調停委員2人(男女各1人)で組織されますが、近年、裁判官の代わりに家事調停官が調停委員会に入るケースがあります。

家事調停官とは

家事調停官とは、弁護士が、弁護士資格を有したまま非常勤裁判官として任官し、調停委員会の一員として家事調停を運営するものです。

「弁護士から常勤裁判官への任官を促進するための環境整備」と、「調停手続をより一層充実・活性化すること」を目的に、司法制度改革の一環として創設された非常勤裁判官制度の1つです。

非常勤裁判官制度には、家事調停官制度の他に民事調停に関する業務を行う民事調停官制度があります。

家事調停官に任官要件

家事調停官は、弁護士で5年以上その職にあったもののうちから、最高裁判所が任命する。

(家事事件手続法第250条第1項)

家事事件手続法に規定される「弁護士として5年以上その職にあったもの」というのは、家事調停官の募集に応募する資格です。

注意したいのは、家事調停を含む家事事件に従事している必要はないということです。

つまり、弁護士として5年以上働いた経験があれば、家事事件の経験が一切なくても任官要件を満たすのです。

当然、任官前や任官後に家事事件を学習し、実務の中でも知識やノウハウを身につけますが、任官直後には民事や刑事の弁護士の感覚が抜けきらない人も少なくありません。

年齢要件

法律上の規定はありませんが、任官時点で55歳未満の弁護士が多くなっています。

家事調停官に任官するまでの流れ

毎年、全国の弁護士会や弁護士会連合会が家事調停官任官希望者を募集しています。

応募した弁護士は、弁護士会連合会主催の推薦委員会による審査を受けることの承諾書を提出し、委員会と弁護士会連合会の推薦議決を経た上で、日本弁護士連合会を通して最高裁判所に採用申込みを行います。

その後、採用予定先である地方裁判所や家庭裁判所の所長などとの面接が実施され、面接結果によって最高裁判所が任命(採用)するか否かを決定します。

採用された場合は、7月下旬に内定通知が発送され、10月1日付けで家事調停官に採用されます。

家事調停官の任期と地位

3.家事調停官は、任期を二年とし、再任されることができる。

4.家事調停官は、非常勤とする。

(家事事件手続法第250条第3項、第4項)

家事調停官の任期は2年、地位は「非常勤」の裁判官です。

任官中の実績や本人の希望などにより、1度に限って再任が認められています。

また、本人の希望、弁護士の欠格事由に該当する、心身の故障によって職務執行ができなくなった、職務上の義務違反などがあったなどの場合を除き、解任されないことも規定されています(家事事件手続法第250条第5項)。

家事調停官の仕事内容

家事調停官の仕事内容は、家事事件手続法第250条第2項に規定されているとおり、「家事調停事件の処理に必要な職務」です。

2.家事調停官は、この法律の定めるところにより、家事調停事件の処理に必要な職務を行う。

(家事事件手続法第250条第2項)

家事調停官が担当する事件は家庭裁判所の指定を受けることになっており(家事事件手続法第251条第1項)、事件処理については家庭裁判所の裁判官と同等の権限を行使することができ(同条第2項)、独立して職権を行うことができます(同条第3項)。

また、常勤裁判官と同じく、裁判所書記官、家庭裁判所調査官、医務室技官に対して職務に必要な命令をすることが認められています(同条第4条)。

具体的には、常勤裁判官と同じように調停委員会を組織し、調停委員とともに調停の方針を決定し、必要に応じて調停期日に立ち会い、家庭裁判所調査官に子どもの調査などを命令し、裁判所書記官に期日指定などをさせるなどの仕事を行います。

家事調停官の勤務日

家事調停官に任官した弁護士が家庭裁判所に登庁して家事調停を行うのは、原則として、週に1回だけです。

家庭裁判所の規模によりますが、午前と午後にそれぞれ調停事件を受け持って調停委員会を運営することになります。

待遇

家事調停官の手当は、1執務日につき30,700円です。

家事調停委員の報酬が1件(半日)につき8,650円、1日の上限額が1万7,250円であることを考えると高額です。

ただし、1日に担当する事件数は調停委員の否ではありませんし、残業手当もつきません。

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家事調停官が担当になった場合のデメリット

家事調停官が自分の調停の担当になった場合、以下のようなデメリットがあります。

弁護士感覚で調停を運営する

裁判官として任官し、公平性や中立性が求められる立場になったにも関わらず、弁護士の感覚で調停を運営する家事調停官が少なからずいます。

例えば、当事者の一方の主張ばかりを聞き入れて調停を進行させたり、当事者の主張のウィークポイントをついて正論を押し付けたり、調停委員の意見を無視したりするなどの問題が報告されています。

任官直後の家事調停官に顕著な傾向であり、実務経験を積むにつれて調停委員会の一員としての立場を自覚するようになることが多いですが、中には時間が経っても弁護士感覚で調停を動かし続ける人もいるので、要注意です。

家事事件の知識や経験が乏しい

任官要件の項目でも触れましたが、家事調停官の任官要件に家事調停の実務経験はなく、家事調停を未経験のまま家事調停官に任官する弁護士もいます。

そうした場合、任官当初は、当事者や代理人弁護士よりも家事事件の知識や経験が乏しく、調停を適切に運営することが難しくなります。

家事事件と民事事件・刑事事件では勝手がまったく違いますし、家事調停は当事者の話し合いを軸とする手続きであり、弁護士が得意とする「依頼者を勝たせる」知識やノウハウはほぼ役に立たないため、家事調停官地震が困惑することも多いようです。

別表第2審判事件は担当できない

家事「調停」官という名称のとおり、原則として、担当できる事件は家事調停事件だけです。

調停と審判が一連の流れとなっている「調停に代わる審判」や「合意に相当する審判」では審判を担当できますが、別表第2審判事件は担当できません。

別表第2調停事件が不成立となって審判移行した場合、常勤裁判官に引き継ぐことになります。

調停に代わる審判当事者同士の協議では調停成立が難しいが、不成立にするのではなく、当事者の合意内容に基づいて審判をすることが相当と家庭裁判所が認めた場合に、合意内容に沿った審判を出す手続き

例:離婚調停など

合意に相当する審判離婚と離縁を除く身分関係の形成や存否確認に関する調停(特殊調停)で当事者が合意などをした場合に、家庭裁判所が必要な調査をした上で行う審判

例:認知、離婚無効確認など

別表第2審判第一次的には当事者の話し合いで解決を目指し、難しい場合は家庭裁判所が判断することが相当とされる事件の審判

例:養育費、面会交流、婚姻費用分担など

調停委員との連携がとれていないことがある

常勤裁判官の場合、日々の調停事件だけでなく、調停委員の研修会や調停委員協会との懇親会などで調停委員と交流し、性格や能力、人となりを把握しており、それらを踏まえて調停事件を任せたり、助言を与えたりしています。

しかし家事調停官の場合、家事調停以外で調停委員と接する機会が乏しく、各調停委員の特性に応じた接し方をしたり、調停委員と足並みをそろえて調停を運営したりしにくい傾向があります。

その結果、調停の進行がちぐはぐになったり、当事者間で合意した内容と異なる調停案が示されたり、家事調停官と調停委員が対立したりする問題が生じるケースがあります。

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【参考】

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家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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