成年後見制度の医師による鑑定とは?鑑定費用と鑑定書の書式は?

成年後見制度は、精神上の障害により判断能力が低下した人(本人)の財産や権利を保護するための制度です。

本人や親族の申立てにより、家庭裁判所が本人に後見等を開始し、それを援助する後見人を選任します。

しかし、家庭裁判所の裁判官は医療の専門家ではないので、「精神上の障害により判断能力が低下した」か否かは自身で判断することはできません。

そこで、精神科の医師などが作成した本人の診断書を申立ての段階で提出させますが、後見等を開始するか否かを判断するために、申立てを受理した後の審理の段階で、本人の状態を詳細に調べる鑑定手続きが行われます。

この記事では、成年後見制度の流れ、鑑定手続きの概要、鑑定書の書式、鑑定費用、鑑定の流れについて解説します。

成年後見制度の流れ

まず、成年後見制度の利用を決めてから、家庭裁判所の申立てを行い、家庭裁判所の審判で後見等が開始されて後見人が選任されるまでの流れを確認しておきます。

申立ての準備

まず、本人の判断能力の低下の程度から、法定後見の3つの類型(後見、保佐、補助)から利用する類型を決めます。

利用類型が決まったら、申立権者(申立てをする人)を決めて、本人の住所地を管轄する家庭裁判所(申立先)を確認した上で、申立てに必要な書類等や費用を準備します。

成年後見制度では申立て時に提出する資料等が多いため、申立の準備の段階が全手続きの中で一番大変です。

弁護士や司法書士などの専門職に申立てを依頼することもできますが、数万円から数十万円の費用がかかり、その費用を申立人が負担するよう求められることもあるので、慎重に検討する必要があります。

申立て

申立てに必要な資料等が揃ったら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所の窓口へ行き、申立てを行います。

本人確認を求められるので、運転免許証など顔写真付きの身分証明書を持っていきましょう。

また、申立書等の訂正を求められた時に備え、認印も持参しておきます。

家庭裁判所の審理

家庭裁判所に後見開始の審判などの申立てを行うと、窓口で申立書等、申立て費用、添付書類の書面審査が行われます。

問題がなければ申立てが受理され、家庭裁判所の審理の流れが伝えられますが、不備不足があれば訂正や追加の書類提出などを求められます。

申立てが受理された後は、調査期日通知書または面接期日通知書が届くので、記載された期日に家庭裁判所へ出頭し、担当者に申立ての動機・事情、本人の財産・収支、後見人候補者の情報などを説明し、必要に応じて資料等を提出します。

また、家庭裁判所調査官が本人や後見人候補者と面接したり、本人の親族に書面で照会をしたりすることもあります。

その後、家庭裁判所から精神科の医師や主治医などに対して、本人の判断能力を詳細に調べる鑑定手続きを依頼し、依頼を受けた医師が鑑定を実施します。

審判

家庭裁判所は、申立て時に提出された書類、申立人・後見人候補者・本人・親族の調査や照会、鑑定の結果などを総合し、本人に後見等を開始し、後見人を選任します。

審判結果は本人、申立人、後見人に選任された人に通知され、審判確定後に選任された後見人が後見事務に取り掛かります。

また、審判結果は東京法務局に登記され、後見人や本人などが登記事項証明書の交付を申請できるようになります。

手続きの流れのまとめ

異常の説明をまとめると、以下のようになります。

手続きの流れ具体的な手続き
申立ての準備
  1. 法定後見制度の3類型(後見、保佐、補助)から利用する類型を決める
  2. 申立人を決める
  3. 申し立てる家庭裁判所を決める
  4. 申立て費用と必要書類を準備する
申立て費用と必要書類を管轄の家庭裁判所に提出する
審理
  1. 書面審査
  2. 参与員または家庭裁判所調査官による事情聴取・調査
  3. 本人面接
  4. 親族照会
  5. 鑑定
審判
  1. 後見等の開始の審判(後見人等の選任)
  2. 審判書の受領
  3. 審判の確定
  4. 後見登記

成年後見制度の鑑定とは

鑑定とは、本人の判断能力の程度について、精神科の医師や主治医などが医学的に判定する手続です。

申立て時に医師の診断書を提出しますが、それとは別に、家庭裁判所の審理の中で医師に鑑定依頼をかけて、依頼を受けた医師によって鑑定が行われます。

主治医など本人の状態を申立て前から把握している医師に依頼がかかることが多いですが、主治医が依頼を引き受けない、主治医に依頼できないなどの場合は、申立人が鑑定を引き受ける医師を探さなくてはなりません。

鑑定書の書式

鑑定書は、裁判所が定型書式を作成しており、裁判所ウェブサイトからダウンロードすることができます。

定型書式の項目が全て記載されていれば、定型書式を使用せずに鑑定書を作成することも認められています。

鑑定書の項目は、以下のとおりです。

  • 事件の表示
  • 本人の人定事項
  • 鑑定事項
  • 鑑定主文
  • 鑑定経過
  • 既往歴及び現病歴等
  • 生活の状況及び現在の精神の状態等
  • 説明
  • 欄外

事件の表示

家庭裁判所名(支部名)、事件番号、事件名を記載します。

本人の人定事項

氏名、性別、生年月日、年齢、住所を記載します。

住所は、本人が住んでいる住所です。

鑑定事項

鑑定事項として医師が記載する必要があるのは、以下の4点です。

  1. 精神上の障害の有無、内容及び障害の程度
  2. 事故の財産を管理・処分する能力
  3. 回復の可能性
  4. その他

鑑定主文

  1. ①鑑定事項の1.につき、精神上の障害(認知症、その他(病名を記入))があり、その程度は重い、②2.について、自己の財産を管理・処分することはできない、③3.について、開腹の可能性は低い
  2. 次のとおり(自由記載)

鑑定経過

本人の診察を実施した年月日、場所、内容(問診、検査、その他)、参考事項を記載します。

既往歴及び現病歴等

学歴・婚姻歴・職歴等、既往歴、現病歴、その他を記載します。

生活の状況及び現在の精神の状態等

以下の内容を記載します。

  • 日常生活の状況(全介助、その他)
  • 身体の状態(理学的検査、臨床検査、その他)
  • 精神の状態(意識/疎通性)、記憶力、見当識、計算力、理解・判断力、知能検査、心理学的検査、その他

説明

生活の状況及び現在の状況などの説明を記載します。

欄外

鑑定書作成の年月日、鑑定医の住所、所属・診療科、氏名、押印

鑑定費用

鑑定には、鑑定を実施した医師への報酬となる費用がかかります。

鑑定費用は、鑑定に要した労力などに応じて決定されるというのが建前ですが、実際のところ、鑑定を引き受ける医師の言い値です。

一般的には5万円から10万円程度ですが、地域によって相場が異なるので、事前に確認しておく必要があります。

鑑定手続きの流れ

家庭裁判所から鑑定を実施する旨の連絡があったら、以下の流れで鑑定を実施します。

鑑定費用の予納

鑑定実施後に鑑定費用が払えないということにならないよう、鑑定費用は鑑定実施前に家庭裁判所に予納する必要があります。

ただし、鑑定が実施されずに手続きが進められることもあるため、申立て時に予納する必要はなく、家庭裁判所から鑑定を実施する旨の連絡があったときに予納すれば足ります。

鑑定を引き受けた医師と日時・場所を調整する

本人の主治医が鑑定を引き受けた場合は、受診時などに鑑定の日時を調整します。

主治医以外の場合は、家庭裁判所から鑑定を引き受けた医師の氏名、連絡先、勤務先を教えてもらい、医師に連絡して鑑定日時を調整します。

本人を鑑定実施場所に連れて行く

原則、鑑定は引き受けた医師の勤務先などで実施されます。

そのため、申立人や本人の親族が、実施場所まで本人を連れて行かなくてはなりません。

鑑定実施後

鑑定実施から1ヶ月程度で、医師から家庭裁判所に対して鑑定結果が書面で報告されます。

鑑定結果が申立ての類型が合致していれば手続きが進められますが、合致していない場合は申立ての変更を求められることになります。

例えば、後見開始の審判の申立てをしたところ、鑑定結果が保佐相当だった場合、保佐開始の審判の申立てに変更することになります。

申立ての変更に応じなかった場合、審判が却下されて終了します。

鑑定を実施しないことがある

診断書の記載や親族の陳述などから、本人が後見状態であることが明らかな場合には、鑑定が省略されることがあります。

例えば、長谷川式認知症スケールが実施不能、診断書に遷延性意識障害の記載があるなどの場合に、鑑定が省略されることがありますが、各家庭裁判所によって基準が異なるため、事前に確認する必要があります。

また、診断書の記載と親族の陳述を総合して鑑定をせず手続きが進められることもあります。

関連記事

成年後見制度とは?法定後見と任意後見の内容、離婚で利用する場合は?

>>>「成年後見」の記事一覧に戻る

【参考】

アバター

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

この著者の最新の記事

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権
    離婚後単独親権に対する問題提起や批判は以前からありましたが、近年、欧米諸国などで採用されている離婚後…
  2. 専業主婦 離婚 準備
    「専業主婦(主夫)だけど離婚したい。でも、離婚後の生活が不安。」、「離婚したいが、専業主婦は離婚後に…
  3. 離婚協議書 公正証書
    協議離婚する場合、離婚することと諸条件について夫婦で話し合い、合意した内容を離婚合意書にまとめた上で…
  4. 離婚調停 相手方 準備
    「ある日突然、見知らぬ住所と差出人の名前が書かれた茶封筒が自宅のポストに届き、中を開けてみると「調停…
  5. 弁護士会照会制度
    離婚紛争を弁護士に依頼すると高額な費用がかかりますが、依頼によって得られるメリットもあります。 …
  6. モラハラ 離婚
    配偶者のモラハラ(モラルハラスメント)を理由に離婚したいと考える人は少なくありません。 しかし…
  7. 離婚調停 成立 調停条項
    離婚調停は、夫婦間で離婚やそれに伴う条件面の合意ができると調停調書が作成され、調停が成立します。 …
  8. 養育費 強制執行 手続き 流れ
    夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合の対応には、履行勧告、履行命令、強制執行があります。 …
  9. 離婚 弁護士費用 相場
    離婚問題を弁護士に依頼する場合にトラブルになりやすいのが、弁護士費用です。 「離婚 弁護士費用…
  10. 離婚調停 弁護士
    「離婚調停で弁護士は必要か」と聞かれたら、弁護士の立場からは「必要です。ぜひご依頼ください!」と答え…

スポンサーリンク

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権

    選択的共同親権とは?法務省が検討する「離婚後の親権の選択制」の意味

  2. 専業主婦 離婚 準備

    専業主婦の離婚準備:仕事と生活費、親権や年金について分かりやすく解説

  3. 離婚協議書 公正証書

    離婚協議書の書き方:自分で作成する方法と公正証書の作り方(雛型付)

  4. 離婚調停 相手方 準備

    離婚調停の相手方が第1回期日までに準備すること(調停を申し立てられた人用)

ページ上部へ戻る