婚姻費用:住宅ローン、医療費、借金がある場合の決め方を解説

婚姻費用は、夫婦の収入、子どもの人数と年齢を婚姻費用算定表に当てはめて算出する方法が定着しており、家庭裁判所でも算定表を用いて婚姻費用が算出されます。

婚姻費用の算定表は、夫婦の個別事情を考慮できるように一定の幅を持った金額が算出される仕様ですが、夫婦の状況によっては個別に婚姻費用分担額を考慮すべきこともあります。

例えば、婚姻費用の算定表では、子どもにかかる一般的な治療費や教育費が考慮されていますが、重度の障害がある子どもの治療費や私立学校や学習塾にかかる費用は考慮されていません。

また、住宅ローンや借金返済などは考慮されていませんが、事情によっては婚姻費用の算定で個別に考慮されるケースもあります。

婚姻費用の算定方法(計算式)と算定表

婚姻費用の算定方法については法律に規定がなく、家庭裁判所の調停や審判では独自の算定方式に基づいて算出されていました。

しかし、いずれの方法も計算式が複雑で、当事者である夫婦が婚姻費用の金額を予想しにくいものでした。

また、算定の基礎となる数値を実額で認定していたので、資料が揃わないと正確な婚姻費用が算出できず、相当な時間がかかることも珍しくありませんでした。

こうした問題を踏まえて、東京や大阪の家庭裁判所の裁判官を中心に算定方式の見直しが行われた結果、2004年、簡易かつ迅速な算定が可能な新しい算定方式(標準的算定方式)が発表されました。

現在は、新しい算定方式が全国の家庭裁判所で活用されており、また、新しい算定方式やそれに基づく算定表が裁判所ウェブサイトなどで公開されています。

家庭裁判所の婚姻費用の計算式(標準的算定方式)

現在、家庭裁判所で採用されている標準的算定方式は、婚姻費用の分担額を簡易かつ迅速に算定することを重視しています。

そのため、職業費、公租公課(税金)、特別経費などの実額を基礎とせず、法律や統計に基づいて標準的な割合で推計します。

また、生活費についても実額ではなく、標準的な生活費を指数化した数値を使用します。

標準算定方式に基づく婚姻費用の基本的な計算式は、以下のとおりです。

  1. 権利者世帯の婚姻費用=(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)×(権利者の指数+子どもの指数)/権利者の指数+義務者の指数+子どもの指数
  2. 義務者が権利者に支払う婚姻費用の分担額=権利者世帯の婚姻費用-義務者の基礎収入

分かりにくい用語が多いので、簡単に説明しておきます。

用語説明
権利者収入が少なく、婚姻費用の分担を請求して支払いを受ける権利がある人
義務者収入が多く、婚姻費用を支払う義務がある人
基礎収入権利者または義務者の総収入×0.34~0.42(給与所得者)、権利者の総収入×0.47~0.52(自営業者等)
指数(生活費指数)親が100、0~14歳の子どもが55、15~19歳の子どもが90

関連記事

婚姻費用の計算式と算定表の見方を解説!新しい算定式は裁判所で有効?

婚姻費用分担の算定表

婚姻費用 算定表

出典:裁判所

婚姻費用分担の算定表とは、現在の算定方式に基づいて作成された、婚姻費用を簡易かつ迅速に算出するための表です。

標準的算定方式で算出される婚姻費用の分担額について、1~2万円の幅を持たせて一覧表にしたもので、子どもの人数や年齢に応じた表に夫と妻の総収入を当てはめるだけで、標準的な婚姻費用の分担額が一目で分かるようになっています。

婚姻費用分担の算定表は、裁判所ウェブサイトで公開されています。

家庭裁判所の調停や審判を利用する前に、夫婦が自ら婚姻費用の分担額を算定しておけば、裁判所から提示されるおおよその金額が分かるので、調停や審判を進めやすくなります。

関連記事

婚姻費用分担審判の流れと期間は?即時抗告の流れと審判結果の確定時期

婚姻費用の算定で個別に考慮される事情

現在、家庭裁判所で使用されている標準的算定方式は、簡易迅速に婚姻費用を算定することに重きを置いており、夫婦の総収入以外は実額ではなく標準的な割合や指数を用いています。

そのため、標準的な婚姻費用の分担額がすぐ分かりますし、算出額に一定の幅を持たせてあるのである程度の個別事情にも対応できます。

しかし、それでもなお個別の事情を十分に考慮すべきケースというものもあります。

実務上の経験を踏まえると、標準的算定方式やそれに基づく算定表の枠を超えて個別に検討すべき事情には、以下のようなものがあります。

  • 住宅ローン
  • 子どもの教育費
  • 子どもの治療費(医療費)
  • 借金
  • 住居費

婚姻費用と住宅ローン

婚姻費用分担額を決める上で問題になりやすいのが、自宅の住宅ローン返済が残っている場合です。

住宅ローンの支払いを、どこまで婚姻費用に反映させられるかということが争点になります。

住宅ローンは資産形成

典型的なのは、夫婦の持家に居住して住宅ローンを返済している義務者が、住宅ローン返済を理由に婚姻費用分担額の減額を求めるケースです。

この場合、住宅ローンの返済は夫婦の資産を形成しているという側面を考慮することになります。

つまり、住宅ローンの返済を理由に婚姻費用の減額を求めるというのは、「資産形成を理由として、生活保持義務のある権利者に対する婚姻費用を減らしたいと求める」ことになり、原則として、認められません。

婚姻費用と住宅ローンの両方を負担するのは義務者に酷

一方で、夫婦の持家に権利者と子どもが居住して、その住宅ローンを離れて暮らす義務者が支払っている場合は、事情が少し異なります。

この場合、義務者は住んでもいない自宅の住宅ローンを支払い、その上に婚姻費用まで払うことになります。

そのため、婚姻費用と住宅ローンの両方を負担するのは義務者にとって酷だと評価され、算定表で算出された婚姻費用の分担額から一定額が減額されることがあります。

ただし、算定表の算出額から住宅ローンを全額控除すると、婚姻費用がごくわずかになって権利者の生活が困窮しかねません。

権利者が、「今後も夫婦の持家に住み続けたい、住宅ローンは義務者に返済してほしい。」と希望する場合は、夫婦の収入や住宅ローンの返済額などを踏まえて、算定表の算出額から住宅ローンの一定割合を控除するのが一般的です。

権利者が転居を希望する場合は、持家の処分などを検討することになります。

婚姻費用と子供の教育費

婚姻費用の標準的算定方式に基づく算定表では、公立学校にかかる教育費は指数として考慮されますが、私立学校や学習塾にかかる費用などは考慮されません。

そのため、子どもを私立学校や学習塾に通わせることについて夫婦間の合意がある場合や、夫婦の収入・財産や子どもの学歴から義務者に私立学校などの費用を負担させることが相当な場合などは、個別に検討することになります。

原則として、算定表で算出された婚姻費用分担額に、教育費の不足分を加算することを検討します。

ただし、不足分を全て義務者に負わせるのは相当ではなく、夫婦の収入に応じて金額を調整することになります。

学習塾や習い事の費用は、夫婦の合意があれば婚姻費用の分担額に加算できますが、家庭裁判所の審判で認められることは稀です。

婚姻費用と子どもの治療費(医療費)

算定表で考慮されているのは、子どもにかかる一般的な治療費(医療費)です。

子どもが生まれつき難病や障害を抱えている、後天的な事故や病気で継続的な治療が必要になった場合などは、子どもの治療費を個別に検討して婚姻費用分担額を調整する必要があります。

基本的には、算定表で算出された婚姻費用の分担額に、夫婦の収入に応じて治療費相当分を加算する方法が考えられます。

治療費については、治療の終期や手術費用など臨時にかかる費用が争点になることがありますが、原則、婚姻費用の分担額を取り決める時点で明らかになっている事情のみ考慮します。

婚姻費用と借金

婚姻費用の分担額を決めるときに、義務者の借金が考慮されるかどうかは、借金の目的によります。

ギャンブルや遊興費目的の借金

義務者が、ギャンブルや遊興費目的で借金をしていた場合、自業自得です。

借金返済を夫婦の扶助義務や子どもの扶養義務に優先するのは相当ではなく、婚姻費用の分担額は考慮されません。

婚姻費用を補填するための借金

一方で、夫婦の共同生活を維持するための生活費を得る目的でした借金の場合、夫婦の収入や子どもの監護状況などに応じて、権利者も借金返済の一定割合を負担することになります。

実務上は、算定表で算定された金額から権利者が負担すべき借金額を控除した金額を、婚姻費用の分担額とすることが多いです。

婚姻費用と住居費

権利者の住居費についても、婚姻費用の分担額を決める上で個別に考慮されることがあります。

権利者が別居して実家に戻った場合、義務者から「住居費はかからないし、生活費も援助してもらっているはずだから、婚姻費用は減額されるべきだ。」と主張されることがあります。

しかし、権利者が実家にいるからといって、夫婦の扶助義務はなくなりません

権利者が住居費を負担していないことは考慮しつつ、算定表で算出された金額の幅の範囲内で調整されることになります。

一方で、権利者が別居して賃貸住宅に居住し、その家賃を義務者が支払っている場合、義務者は既に婚姻費用の一部を支払っているとみなします。

算定表で算出された金額から、権利者の住居費を控除した金額が婚姻費用の分担額となります。

関連記事

婚姻費用分担請求調停の申立てと流れは?欠席すると不成立で審判移行?

>>>「婚姻費用分担」の記事一覧に戻る

アバター

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

この著者の最新の記事

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権
    離婚後単独親権に対する問題提起や批判は以前からありましたが、近年、欧米諸国などで採用されている離婚後…
  2. 専業主婦 離婚 準備
    「専業主婦(主夫)だけど離婚したい。でも、離婚後の生活が不安。」、「離婚したいが、専業主婦は離婚後に…
  3. 離婚協議書 公正証書
    協議離婚する場合、離婚することと諸条件について夫婦で話し合い、合意した内容を離婚合意書にまとめた上で…
  4. 離婚調停 相手方 準備
    「ある日突然、見知らぬ住所と差出人の名前が書かれた茶封筒が自宅のポストに届き、中を開けてみると「調停…
  5. 弁護士会照会制度
    離婚紛争を弁護士に依頼すると高額な費用がかかりますが、依頼によって得られるメリットもあります。 …
  6. モラハラ 離婚
    配偶者のモラハラ(モラルハラスメント)を理由に離婚したいと考える人は少なくありません。 しかし…
  7. 離婚調停 成立 調停条項
    離婚調停は、夫婦間で離婚やそれに伴う条件面の合意ができると調停調書が作成され、調停が成立します。 …
  8. 養育費 強制執行 手続き 流れ
    夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合の対応には、履行勧告、履行命令、強制執行があります。 …
  9. 離婚 弁護士費用 相場
    離婚を弁護士に依頼する場合、注意しなければならないのが弁護士費用です。 「離婚 弁護士費用 相…
  10. 離婚調停 弁護士
    「離婚調停で弁護士は必要か。」と聞かれたら、弁護士としての立場では「必要です。ぜひご依頼ください。」…

スポンサーリンク

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権

    選択的共同親権とは?法務省が検討する「離婚後の親権の選択制」の意味

  2. 専業主婦 離婚 準備

    専業主婦の離婚準備:仕事と生活費、子どもの親権、年金のことなど

  3. 離婚協議書 公正証書

    離婚協議書を自分で作成:書き方サンプル付き!公正証書の作り方も解説

  4. 離婚調停 相手方 準備

    離婚調停を申し立てられた相手方が調停第1回期日までに準備すること

ページ上部へ戻る