婚姻費用の計算式と算定表の見方を解説!新しい算定式は裁判所で有効?

家庭裁判所の実務では、標準的な婚姻費用が算出できる算定表が活用されています。

現在の算定表は、婚姻費用を簡易かつ迅速に算定する目的で作成されたもので、夫婦の収入と子どもの人数・年齢が分かれば誰でも婚姻費用が算出できるようになっています。

裁判所ウェブサイトなどネット上で確認することもできるので、夫婦が自ら算定することも可能です。

しかし、どうして婚姻費用が算定表の金額になるのか、算定表のデメリットについてはあまり知られていません。

また近年、家庭裁判所の算定表に代わる新しい算定表が日本弁護士連合会から発表されていますが、認知度はいま一つですし、裁判所実務で使えるかどうかも知らない人が多いのが現状です。

この記事では、家庭裁判所の

婚姻費用の計算式(家庭裁判所の標準的算定方式)

現在、家庭裁判所の調停や審判で婚姻費用の算定に活用されているのは、標準的算定方式という計算式です。

現在の算定方式に至る経緯

婚姻費用の分担は民法760条に規定されていますが、婚姻費用の算定方法については法律に規定がありません。

そのため、家庭裁判所は、独自の算定方式によって婚姻費用の算定し、調停案として示したり、審判で決定を出したりしてきましたが、当事者や弁護士などから、以下の問題点が指摘されていました。

  • 算定方式が複数あり、家庭裁判所がどの方式を採用するかで算出される婚姻費用の分担額が変動する
  • 当事者である夫婦が婚姻費用の分担額を予想しにくい
  • いずれの算定方法も算定方式が複雑である
  • いずれの算定方法も算定の基礎となる数値を実額で認定するため、資料収集や算定に時間を要する

特に、日々の生活に必要な婚姻費用を請求しているにも関わらず、算定までに何ヶ月もかかることに多くの批判がありました。

そのため、家庭裁判所の裁判官を中心メンバーとする研究会が研究を重ね、「簡易迅速な養育費等の算定を目指して―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案―」(判例タイムズ1111号、判例タイムズ1114号)を発表しました。

現在、全国の家庭裁判所では、同発表に掲載されている標準的算定方式を採用されており、裁判所ウェブサイト上には標準的算定方式に基づく算定表が公開されています。

標準的算定方式の特徴

標準的算定方式は、従前の算定方式の問題を踏まえ、簡易かつ迅速に婚姻費用の算定ができるように作られています。

例えば、算定に必要な数値は夫婦の総収入のみで、公租公課(税金)、職業費、特別経費などは法律や統計に基づく標準的な割合で推計されます。

また、夫婦や子どもの生活費について、親子の標準的な生活費の割合を数値化した指数を用いるので、実額を把握する必要がありません(資料提出が必要ありません)。

さらに、標準的算定方式に基づく算定表が作成・公表されているので、夫婦の総収入さえ分かれば、誰でも手軽に標準的な婚姻費用を計算することができ、調停や審判で決まる婚姻費用分担額を予想することができます。

標準的算定方式による婚姻費用の算出

標準的算定方式では、以下の順番で婚姻費用を算出します。

  1. 夫婦の総収入を把握する
  2. 基礎収入を算出する
  3. 世帯収入を算出する
  4. 世帯の婚姻費用を算出する
  5. 義務者が権利者に支払う婚姻費用を算出する

以下、各手順について一つひとつ確認していきます。

1.夫婦の総収入を把握する

標準的算定方式で必要になる実額は、夫婦の総収入のみです。

源泉徴収票や給与明細(1月~12月分とボーナス)などで夫婦の総収入を確認します。

2.基礎収入を算出する

基礎収入とは、総収入から公租公課(税金)、職業費、特別経費などを控除した数値です。

総収入には公租公課(所得税や住民税など)が課せられますし、総収入を得るためには、給与所得者であれば職業費(交通費、交際費、被服費など)がかかります。

また、夫婦が婚姻生活を維持するためには、特別経費(子どもの養育費や教育費、医療費、住居費など)がかかります。

そのため、婚姻費用の分担額を算定するには、総収入から公租公課(税金)、職業費、特別経費などを控除して基礎収入を算出し、計算式に当てはめる必要があります。

標準的算定方式では、婚姻費用を簡易迅速に算出するため、公租公課(税金)、職業費、特別経費など標準的な割合で推計することになっており、実額を把握する必要はありません。

基礎収入は、以下の計算式で算出します。

  • 給与所得者の基礎収入=総収入×0.34~0.42
  • 自営業者の基礎収入=総収入×0.47~0.52

基礎収入の算出方法が給与所得者と自営業者で異なるのは、公租公課(税金)、職業費、特別経費などが異なるためです。

3.世帯収入を算出する

基礎収入を算出した後は、世帯収入を算出します。

世帯収入は、実際に同居しているか別居しているかに関わらず、夫婦が同居していると仮定して、夫婦の基礎収入の合計額を世帯収入とみなします。

  • 世帯収入=夫の基礎収入+妻の基礎収入

4.権利者世帯の婚姻費用を算出する

婚姻費用分担の調停や審判で算出するのは、義務者が権利者に支払う婚姻費用の分担額ですが、まずは、権利者世帯の婚姻費用を算出します。

権利者世帯の婚姻費用は、以下の計算式で算出します。

  • 権利者世帯の婚姻費用=世帯収入(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)×(権利者の指数+子どもの指数)/義務者の生活費係数+権利者の生活費係数+子どもの生活費係数×子どもの人数

生活費係数(生活費の指数)とは、生活保護法8条に基づいて厚生労働省が告示する生活保護基準の「生活扶助基準」を用いて積算される最低生活費に教育費を加算して算出される数値です。

  • 権利者の生活費係数:100
  • 義務者の生活費係数:100
  • 0~14歳の子どもの生活費係数:55
  • 15~19歳の子どもの生活費係数:90

子どもの生活費係数が年齢によって異なるのは、子どもの成長に応じて生活費や教育費が増加するからです。

ただし、子育てにかかる費用は子供の年齢とともに高くなるのが一般的なので、0~14歳までが同じ生活費係数になっていることには批判があります。

5.義務者が権利者に支払う婚姻費用を算出する

世帯の婚姻費用から権利者の基礎収入を控除することで、義務者が権利者に支払う婚姻費用を算出します。

標準的算定方式に基づく婚姻費用の算出方法を計算式で表示すると、以下のとおりです。

  1. 権利者世帯の婚姻費用=世帯収入(権利者の基礎収入+義務者の基礎収入)×(権利者の生活費係数+子どもの生活費係数×子どもの人数)/権利者の生活費係数+義務者の生活費係数+子どもの生活費係数×子どもの人数
  2. 義務者が権利者に支払う婚姻費用の分担額=権利者世帯の婚姻費用-義務者の基礎収入

※義務者の方が権利者より収入が多く、また、権利者が子どもと同居しているケース

標準的算定方式で算出される婚姻費用の分担額は、標準的な金額であり、教育費、医療費、住宅ローンなど特別な事情がある場合には、算定結果を元に個別に考慮することになります。

関連記事

婚姻費用の算定で教育費、医療費、借金、住宅ローンは考慮される?

婚姻費用の算定表の見方

婚姻費用の算定表とは、標準的算定方式に基づいて作成された婚姻費用算定に使用する表です。

算定表は、算定表の使い方、養育費の算定表(表1~9)、婚姻費用の算定表(表10~19)で構成されています。

婚姻費用算定表(表10)は、以下のとおりです。

婚姻費用 算定表

出典:裁判所

婚姻費用の算定表は、算出される婚姻費用の分担額に1~2万円の幅を持たせて一覧化されており、個別の事情にも一定程度対応できるようになっています。

また、夫婦のみの世帯用と子どもがいる世帯用に分かれており、子どもがいる世帯用はさらに子どもの人数(1~3人)と年齢(0~14歳と15~19歳に分類)に分かれています。

なお、子どもが4人以上いる世帯については、標準的算定方式の計算式を利用して個別に計算する必要があります。

算定表の使用方法は、以下のとおりです。

  1. 権利者と義務者の総収入の認定
  2. 使用する算定表を選択する
  3. 権利者及び義務者の収入欄を選択する
  4. 婚姻費用の金額を見つける

各手順について、解説していきます。

1.総収入の認定

算定表を利用するには、まず、権利者と義務者の総収入を認定する必要があります。

総収入を確認する方法は、給与所得者と自営業者で異なります。

  • 給与所得者:源泉徴収票の「支払金額」が総収入
  • 自営業者:確定申告書の課税される「所得金額」が総収入

給与所得者:源泉徴収票の「支払金額」

下の画像の赤枠部分に記載された金額です。

源泉徴収票

自営業者:確定申告書の課税される「所得金額」

下の画像の赤枠部分に記載された金額です。

確定申告書

なお、夫婦の一方が収入に関する資料の提出を拒否した場合、家庭裁判所が賃金センサスなどの資料を用いて個別に算定します。

2.使用する算定表を選択する

子どもの有無、子どもの人数、子どもの年齢から使用する算定表を選択します。

ここでは、上に示した表10を使うこととします。

3.権利者及び義務者の収入欄を選択する

使用する表を選択したら、給与所得者か自営業者かによって収入欄を選択します。

表の縦軸に義務者、表の横軸に権利者の収入欄があるので、それぞれ給与所得者か自営業者かを選択し、年収額に位置にチェックをつけます。

ここでは、権利者と義務者が共働き(いずれも給与所得者)で、義務者の年収が600万円、権利者の年収が300万円として表にちぇっくをつけます。

婚姻費用 算定表

4.婚姻費用の金額を見つける

表の縦軸の義務者の年収額から右方向に線を引き、その後、票の横軸の権利者の年収額から上方向に線を引きます。

2つの線が交わるところが、義務者が負担すべき養育費の標準的な月額です。

義務者の年収が600万円、権利者の年収が300万円の場合、婚姻費用の月額は4~6万円の範囲内となります。

婚姻費用 算定表

婚姻費用分担額が自動計算できるサイトについて

ネット検索で「婚姻費用 自動検索」と入力すると、婚姻費用分担額が自動で計算できるサイトが上位表示されます。

いずれも婚姻費用の標準的算定方式や算定表に基づいて式が組んであるので、権利者と義務者の総収入を入力すれば自動的に婚姻費用分担額の目安を算出してくれます。

ただし、サイトによっては式が間違っているものも散見されるので、自動計算した後に自分でも算定表で確認しておくことをおすすめします。

実務上、依頼者の相手方が「ネットの自動計算で算出された額だから間違いない。」と言って出してきた婚姻費用分担額が、算定表で確認すると間違っていたことがあります。

相手方だから笑い話で済みますが、自分が同じミスをした場合に笑い話で済むとは限りません。

念のための確認は徹底してください。

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婚姻費用分担請求調停の申立てと流れは?欠席すると不成立で審判移行?

新しい算定表(日本弁護士連合会が発表した算定表)

現在の標準算定方式やそれに基づく算定表の課題や問題については、弁護士や専門家から指摘されていました。

  • 子どもの年齢区分が2区分しかなく生活実態とかけ離れている
  • 職業費が過大に算出されている
  • 住居費、保健医療、保健掛金などを特別経費として総収入から控除すると、夫婦間の生活水準の格差を固定化する
  • 活用開始から13年以上経過するのに、税制や保険料率の改正などが反映されていない

こうした状況下、2016年11月15日、日本弁護士連合会が「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」を発表しました。

提言では、標準的算定方式やそれに基づく算定表について「事案によっては養育費等が義務者の生活水準と比較して著しく低く算定されて、別居世帯やひとり親家庭の貧困の固定につながる一因となっている」とされています。

また、「子どもの養育家庭の実態に即していない」と指摘し、新しい算定方式がこれらの問題を改善できると主張しています。

実際に新しい算定方式の中身を確認すると、年齢区分が細かくなり、養育費の金額が標準的算定方式より高く設定されているという特徴が見てとれます。

つまり、新しい算定方式の方が婚姻費用分担額が高く算出されやすく、権利者にとっては有利である一方で、義務者にとっては負担が増えることになります。

家庭裁判所の実務では使用されていない

現在は、新しい算定方式が認知され始めた段階であり、家庭裁判所では標準的算定方式が運用されている状況に変化はありません。

家庭裁判所の調停や審判で新しい算定表を使って婚姻費用を計算してほしいと希望しても、原則として、認められません。

しかし、現在の算定表の問題点は各方面から指摘されており、今後、新しい算定表が影響力を高めていく可能性はあります。

また、最高裁判所が養育費・婚姻費用算定表の見直しを始めており、新しい算定表に近い算定表や算定方式が発表される可能性も否定できません。

随時更新します。

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投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
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サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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