婚姻取消しとは?取消事由、婚姻取消し調停・訴訟と戸籍訂正の手続き

婚姻の取消し 婚姻届

婚姻届の提出・受理によって成立した婚姻が、実は詐欺や強迫による婚姻であったり、重婚や再婚禁止期間中の婚姻であったりした場合、その婚姻は家庭裁判所の手続きによって取り消すことができます。

婚姻取消しとは

婚姻取消しとは、民法に規定された婚姻障害事由に当てはまる不適法な婚姻が成立した場合、または、詐欺や強迫によって婚姻が成立した場合に、その婚姻を取り消すことです。

婚姻の取消し原因がある場合、家庭裁判所の婚姻取消し調停または訴訟で婚姻を取り消すことになります。

婚姻取消しの効力

婚姻取消しの効力は、取消しがなされた時点から将来に向かって効力が発生します。

したがって、男女の婚姻後に生まれて嫡出子としての身分を取得した子どもは、その立場を失いません。

婚姻によって財産を得た当事者は、婚姻取消し原因があることを知らなかった場合は「現に利益を受けている限度において」返還すれば足りますが、知っていた場合は「婚姻によって得た利益の全部」を返還しなければなりません。

  1. 婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。
  2. 婚姻の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が、婚姻によって財産を得たときは、現に利益を受けている限度において、その返還をしなければならない。
  3. 婚姻の時においてその取消しの原因があることを知っていた当事者は、婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において、相手方が善意であったときは、これに対して損害を賠償する責任を負う。

(民法第748条)

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婚姻取消しと婚姻無効の違い

婚姻無効とは、成立した婚姻が最初から効力を有しないことになるというものです。

婚姻無効が認められると、婚姻成立時点から婚姻の効力が生じていなかったことになり、戸籍訂正の申請によって戸籍が婚姻前の記載に戻され、嫡出子もその立場を失います。

婚姻取消しと婚姻無効の違いは、取消しまたは無効の効力が生じる時点です。

婚姻取消しが「取消しがなされた時点から将来に向かって」効力を生じるのに対し、婚姻無効は「婚姻成立時点に遡って」効力が生じるところが違います。

婚姻取消しができる場合

取り消すことができるのは、不適法な婚姻(婚姻障害事由がある場合)と、詐欺または強迫による婚姻です。

不適法な婚姻の取消し

役場職員のヒューマンエラーなどによって本来は成立しない婚姻が成立した場合、その婚姻は取消しの対象となります。

第731条から第736条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。

(民法第744条第1項)

具体的には、民法第731条から第736条に規定されている婚姻障害事由に当てはまる婚姻が成立した場合に、婚姻を取り消すことができます。

婚姻障害

(民法の条文)

内容
婚姻適齢

(民法第731条)

男は18歳、女は16歳に達していない

【取り消しができなくなる事情】

婚姻適齢に達して3ヶ月が経過した場合

重婚禁止

(民法第732条)

重婚(複数の異性と婚姻している)状態にある
再婚禁止期間

(民法第733条)

再婚禁止期間(離婚日または婚姻取消日から100日間)を経過していない

【取り消しができなくなる場合】

女性が離婚後に出産したなど

近親婚の禁止

(民法第734~736条)

配偶者が以下のいずれかに当てはまる

  • 直系血族:親と子、孫と子など
  • 三親等内の傍系血族:兄と妹、姉と弟、伯父・叔父と姪、伯母・叔母と甥
  • 直系姻族:夫や妻の父母や祖父母など
  • 養親とその直系尊属
  • 養子とその直系卑属

票に記載したとおり、婚姻適齢と再婚禁止期間については、婚姻後の事情の変化により、不適法な婚姻が取り消せなくなることがあります。

詐欺または強迫による婚姻の取消し

詐欺または強迫によって婚姻した場合も、その婚姻を取り消すことができます。

  1. 詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
  2. 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後三箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。

(民法第747条第1項)

詐欺による婚姻の場合、詐欺行為そのものに強い違法性があり、詐欺によって生じた誤解が一般人にとっても重要な内容でなければなりません。

強迫による婚姻と言えるのは、言動や態度に恐怖を感じたというだけでなく、強迫の内容に強い違法性がある場合に限られます。

また、婚姻する相手から詐欺や脅迫を受けた場合に加え、第三者から詐欺や脅迫を受けた場合も取消しの原因となります。

例えば、交際中の男性の親から強迫されてやむなく婚姻した場合、婚姻の取消しを請求することができます。

ただし、以下の場合には婚姻の取消権が消滅します。

  • 詐欺の当事者が詐欺と知ったときから3ヶ月を経過した後
  • 強迫を免れたときから3ヶ月を経過した後
  • 婚姻を追認したとき(婚姻後に事実を知った上で了承した場合)

婚姻取消し調停・訴訟の手続き

不適法な婚姻や詐欺または強迫による婚姻であっても、婚姻届が受理されて婚姻が成立した後に市区町村役場へ訂正を求めてもそのままでは対応してもらえません。

戸籍を訂正するには、家庭裁判所に婚姻取消しの調停を申し立てて合意に相当する審判を得るか、婚姻取消し訴訟を提起して判決を得なければなりません。

申立権者(申立人)

不適法な婚姻を取り消す場合は、婚姻した夫または妻、婚姻取消しの利益を有する親族、前婚配偶者・後婚配偶者(重婚や再婚因子期間を原因とする場合)など、検察官が申し立てをすることができます。

ただし、夫婦の一方が死亡した場合、検察官は取消しを請求できなくなります。

詐欺または強迫による婚姻を取り消す場合の申立人は、詐欺または強迫を受けて婚姻した人です。

申立先(管轄の家庭裁判所)

相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所(合意管轄)です。

合意管轄を利用する場合、以下の内容を記載した管轄合意書を作成して申立先の家庭裁判所に提出します。

記載項目
  • 表題:「管轄合意書」と記載
  • 提出先の家庭裁判所
  • 作成年月日
  • 申立人と相手方の住所・氏名の記載と押印
  • 管轄合意した旨の文言
文言例
  • 「上記当事者間の貴庁平成○年(家イ)第◯号調停申立事件は、家庭裁判所◯支部の管轄に属する事件ですが、当事者双方合意の上、貴庁を管轄裁判所と定めたので、届け出ます。」

なお、管轄合意書の書式は、家庭裁判所の窓口で交付してもらえますし、裁判所ウェブサイトからダウンロードすることもできます。

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必要書類

婚姻の取消し調停の必要書類は、以下のとおりです。

  • 申立書:原本とコピー各1通
  • 申立事情説明書:原本とコピー各1通
  • 進行に関する照会書:1通
  • 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書):1通
  • 婚姻届の記載事項証明書:1通

【利害関係人が申立人の場合】

  • 利害関係を証する資料:戸籍謄本など

申立てにかかる費用

収入印紙:1200円分

郵便切手:各家庭裁判所が指定した金額と枚数

婚姻取消し調停の流れ

婚姻取消し調停は、婚姻無効確認や嫡出否認などと同じく特殊調停に分類される家事調停です。

特殊調停とは、身分関係の形成や存否確認に関する事項の調停であり、本来は人事訴訟事件として裁判所が判断すべきものを、当事者の合意があり、前提事実などに争いがない場合に限り、訴訟より簡易な審判手続きで解決できるようにしたものです。

特殊「調停」事件ですが、当事者の合意だけでは終了せず、家庭裁判所が必要な調査を行い、合意が相当と認めた場合に、合意に従った審判がなされます(合意に相当する審判)。

家事調停では離婚調停や婚姻費用分担調停が有名ですが、これらの調停とは手続きの流れが大きく異なります。

調停期日

婚姻取消し調停は、裁判官1人と家事調停委員2人で構成される調停委員会が運営し、当事者を交互に調停室に呼んで事情を聴取する方法により進行します。

当事者間で婚姻を審判で取り消す合意ができ、婚姻の不適法さや詐欺・強迫に関する事実に争いがない場合、家庭裁判所が調停委員の意見を聴取した上で必要な事実の調査を実施し、当事者の合意が相当であれば合意に相当する審判をします。

当事者間の合意ができない、相手方が不出頭を続ける、事実関係に争いがある、家庭裁判所が当事者の合意が正当ではないと判断した場合などは、調停不成立で手続きが終了します。

婚姻取消し訴訟

調停が不成立で終了した後は、婚姻取消訴訟を起こして家庭裁判所の判断を求めることができます。

訴訟では、原告と被告が主張とそれを裏づける証拠を提出し、家庭裁判所が婚姻取消しが相当か否かを判断することになります。

家庭裁判所の判断について不服があれば、2週間以内に控訴することができます。

控訴されないまま2週間が経過すると婚姻取消しの判決が確定します。

戸籍訂正

審判または判決が確定すると、裁判所書記官が市区町村役場へ通知する取扱いとなっていますが、通知だけでは婚姻の事実が記載された戸籍は訂正されません。

戸籍訂正には、戸籍法第116条第1項の規定に基づいて、調停や訴訟の申立人が、戸籍訂正の申請を行う必要があります。

戸籍訂正の申請

戸籍訂正の申請は、審判確定から1ヶ月以内に市区町村役場に戸籍の訂正を申請する必要があります。

申請者

原則として、婚姻取消し調停の申立人です。

申立人が期限内に申請しない場合は、相手方が申請することもできます。

申請先

原則として、申請者の本籍地です。

所在地の市区町村役場に申請することもできます。

必要書類

  • 戸籍の訂正申請書:1通
  • 審判または判決の確定証明書:1通
  • 申請者の印鑑:認印

【本籍地以外で訂正する場合】

  • 申請者の戸籍謄本(全部事項証明書)

確定証明書とは、審判または裁判が確定したことを証明する資料です。

家庭裁判所で発行され、1枚につき150円の手数料がかかります。

申請にかかる費用

費用はかかりません。

申請が受理された場合

婚姻届が提出された後に訂正されたことが記載されます。

戸籍記載を婚姻前の状態にまで戻したい場合、戸籍の再製を申し出る必要があります。

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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