子の福祉(子の利益)の意味とは?子の意思と子の福祉は一致しない?

子の福祉 子の利益

「子の福祉(子の利益)」は、離婚調停や離婚訴訟で子どもの親権や面会交流を争う場合に必ず登場するキーワードです。

裁判官、調停委員、家庭裁判所調査官、弁護士が口をそろえて「子の福祉を尊重して取り決めましょう。」と言い、実際、家庭裁判所の子どもに関する手続きでは「子の福祉)」を重視した進行がなされ、判断が下されます。

しかし、手続きの中で子の福祉の内容について説明される機会は少なく、弁護士や調停委員を含めて漠然とした理解をしている人がほとんどです。

子の福祉(子の利益)とは

子の福祉とは、家庭裁判所が、親権者や面会交流など子どもに関する諸問題を判断するために準拠する原則です。

平たく言うと「子どもが健全に成長するために必要な環境」であり、そうした環境が整備された状態が「子の福祉に資する」状態です。

つまり、子の福祉は、ある子どもの気質や性格、出生から現在までの生活状況、家庭環境や家族関係、対人関係や所属する社会などを踏まえて整備されるものであり、全ての子どもに当てはまる子の福祉というものは存在しないのです。

例えば、離婚調停では、別居親から「子の福祉のために定期的な面会交流を実現すべきだ。」という主張がなされます。

確かに、面会交流を実施することは、多くの子どもの健全な成長にとって良い影響を与えますが、別居親から虐待されていたり、DVやモラハラを日常的に目撃したりしてきた子どもの場合、必ずしも良い影響を与えるとは限りません。

このように、子の福祉は、子どもによって異なるものであり、一律に定義できるものではありません。

民法上に子の福祉に関する明文規定はない

現在の民法には、子の福祉に関する明文規定が存在しませんが、民法第820条と同766条では子の福祉に相当する表現として「子の利益」があります。

親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

(民法第820条)

父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

(民法766条第1項)

子の福祉は、子ども一人ひとりによって異なり、一律に定義したり具体例を示したりすることが困難なため、いずれの条文も「子の利益」とだけ記載されています。

子どもの最善の利益と子の福祉

子どもの最善の利益とは、諸外国の裁判所が、子どもの福祉に関する問題を判断するための拠り所とする原則です。

子どもの最善の利益は、1989年に国連総会で採択された国際人権条約である「児童の権利に関する条約」で基本原則として掲げられ、条約批准国はこの原則に従って対応しなければならないとされました。

移行、子の連れ去りに関する条約である「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)」などで採用された他、各国の裁判所が子どもの福祉関連事件を判断するときに準拠しています。

日本では「子の福祉(子の利益)」が子どもの最善の利益に相当します。

民法の条文が子の福祉ではなく「子の利益」とされているのも、民法改正時に子どもの最善の利益を意識されたためと考えられます。

子の福祉を害する最たる行為は離婚

子の福祉は、親権や面会交流など離婚の条件面を争う中で取り上げられ、父母が「子の福祉に資する」、「子の福祉を害する」などと相手を批判します。

しかし、子の福祉を害する最たる行為は、親が不和になって離婚することです。

父母の関係が悪化し、互いに憎み合って離婚を決意したとしても、原則として、子どもにとってはこの世に2人しかいない実の親であり、父母が揃った家庭で生活することが何よりの幸せです。

そうした子どもの幸せを、離婚によって壊すことになるのです。

そのため、離婚を選択して子どもを傷つける以上、親権や面会交流で子どもの気持ちを考えない身勝手な主張を繰り返し、さらに子どもを傷つけることは控えなければなりません。

家庭裁判所の子の福祉

子の福祉は一律に定義することが難しい概念であるため、家庭裁判所は、子どもに関する事件では一貫して子の福祉を最大限尊重しますが、その内容は各事件の事情に合わせて個別に考慮するという運用をしています。

そのため、子の福祉を理由として、同じ事柄について全く異なる判断が下されることがあります。

例えば、ある事件では「面会交流を実施することが子の福祉に資する」と判断され、別の事件では「当面は面会交流を控えることが子の福祉に資する」という判断が下されることがあります。

しかし、過去の判例や家事事件関係の書籍を確認すると、実務上は子の福祉に関する複数の基準が設けられていて、原則として、それらに基づいて判断されていることが分かります。

監護の継続性

監護の継続性とは、裁判所が関与した時点における子どもの状況に特段の問題がなく、その状況が一定期間継続されていることが明らかな場合、現状を維持すべきという基準です。

その根底には、父母の離婚紛争に巻き込んだ時点で子どもには大きな負担がかかっているところ、生活環境まで変更すると、子どもの人間関係を断ち切ることになって情緒を不安定にさせるという考え方があります。

監護の継続性に基づくと、現状よりも別居親が準備する環境が明らかに優れていても、現在の監護状況に特段の問題がなければ、子どもの精神的・身体的負担を考慮して環境を変えないということになります。

従前の家庭裁判所の実務は、離婚時の親権者について監護の継続性を重視して判断する傾向が顕著でした。

極端な場合、違法な連れ去り(子連れ別居)をして一定期間子どもを監護した親であっても、監護の継続性を重視して親権者とし、連れ去りを追認するケースもありました。

現在は、日本がハーグ条約を批准したこともあり、違法性の高い子どもの連れ去りで監護が開始されたことが明らかな場合、監護の継続性を認めない取扱いとなっています。

しかし、監護の継続性が採用されることを見越して、「親権者になりたいなら子供を連れ去れ」と教唆する弁護士が少なからずいるのが現状です。

監護態勢(監護状況)

監護態勢とは、子どもが健全な成長を遂げることができるように親が準備する養育環境のことです。

父母の監護態勢に大きな差があることが明らかで、監護態勢の差が子どもの健全な成長に及ぼす影響が大きい場合、現状を変更する判断が示されることがあります。

監護態勢を評価する上で裁判所が把握する主な事情は、以下のとおりです。

  • 監護能力:年齢、職業、収入・支出・資産、健康状態、性格、前科前歴の有無、離婚歴の有無、生活の問題(過度の飲酒・喫煙、ギャンブル依存、浪費、家庭内暴力など)
  • 監護態勢:従前の監護実績(家事育児の負担の程度)、住む場所、周辺環境、監護補助者の有無と期待できる監護補助の程度など
  • 監護意欲:親権を主張する動機・理由、従前の子どもへの関わりの程度、監護教育方針とその実現可能性、子どもと離れて暮らす親との面会交流を認めるか否かなど

引用:離婚ハンドブック

父と母の事情を把握した上で監護態勢を比較し、明らかに差がある場合に現状の変更が検討されます。

例えば、現状(母との生活)では、母が夕方から深夜まで勤務していて監護補助者もいないため、夕食から就寝まで一人で過ごさなければならない一方で、父と生活すれば、同居する父方祖母が常に子どもの傍にいて監護できる状況にあるとします。

この場合、子どもの意思や年齢などにもよりますが、現状を変更し、より手厚い養育環境が準備できる父を親権者とする判断が下される可能性があります。

なお、離婚調停や離婚訴訟で親権者を争う場合、自らの監護態勢の優れたところをアピールするよりも、相手の監護態勢の至らなさを指摘して潰し合う構図になるのが一般的です。

自分の優秀さを示すより、相手の問題を示した方が裁判官や調停委員、家庭裁判所調査官の心証を操作しやすいためであり、弁護士に依頼すると、ほぼ潰し合いの構図になります。

子の意思の尊重

子の意思の尊重とは、子ども関連事件の当事者である子どもの意思を尊重する基準です。

子どもが、父母の一方と暮らしたいという意思を陳述したり、父母の一方への恐怖心や嫌悪感を示したり、別居親との面会交流を拒んだりした場合、原則として、その意思が尊重されます。

家事事件手続法では、親権者指定の審判、親権者変更の審判、子の監護に関する処分の審判について、15歳以上の子どもの陳述を聴かなければならないと規定しています。

また、これらの事件の調停についても、子どもが調停の結果による影響を受ける場合は、陳述聴取などで子どもの意思の把握に努めることとされています。

15歳(高校1年生)以上の子どもには、親の離婚などについて自分の意思を陳述する能力があるという考えに基づく規定で、子どもの陳述内容は最大限尊重されます。

また、健常な発達を遂げている子どもの場合、おおむね10歳前後になると一定程度の判断能力が備わっているため、実務上は、10歳前後の子どもについても陳述を聴く取り扱いです。

通常は、家庭裁判所調査官が子どもと面接して子の意思を確認し、面接結果を踏まえて裁判官が子の意思を尊重した(子の福祉に資する)判断を下します。

子どもの意思とは異なる判断が下される場合もある

子どもが15歳未満の場合、子どもの意思は尊重されますが、父母の陳述、家庭環境、学校や保育園・幼稚園などから得た情報を踏まえて総合的に子の福祉が評価されます。

したがって、子どもの陳述に現れた子の意思に反する判断が下されることがあります。

例えば、幼児期の子どもの陳述には監護親の影響が色濃く反映されますし、学童期の子どもでも言語能力などの影響で真意を言語化できないことも珍しくないため、周辺事情を踏まえて判断されるのです。

また、15歳以上であっても、知的障害などの影響で判断能力が十分でない場合、陳述は尊重されますが、その他の事情も踏まえて判断されます。

面会交流の原則実施

面会交流への意向も子の福祉を評価する基準の一つとなります。

現在は、親が離婚した子どもが健全に成長するためには、母だけでなく父が果たす役割も大きいことが明らかにされており、父母が子育てに関与することが望ましいと考えられています。

つまり、原則として、親の離婚後も父母の両方と交流を続けることが子どもの人格形成に良い影響を与えるとされているのです。

こうした考え方に基づいて、欧米諸国では離婚後共同親権制度が採用され、離婚後も父母が子育てに関与する共同養育が実践されています。

日本では離婚後単独親権制度が継続しており、共同養育も浸透しているとは言えない状態ですが、面会交流については定期的かつ継続的に実施すべきという考え方が広まり、家庭裁判所も面会交流の原則実施を掲げています。

子の福祉に反する特段の事情がある場合

例外的に、面会交流が子の福祉に反すると判断されることがあります。

例えば、親が子どもを虐待していた、過去の言動から面会交流中に子どもに危害を加えるリスクがある、子どもを連れ去るおそれが高いなどの場合などです。

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フレンドリーペアレントルール

最後に、近年、注目を集めているフレンドリーペアレントルールを挙げておきます。

フレンドリーペアレントルールとは、離婚などで親権者を決める場合に、より寛容で友好的な父母関係を築ける親を優先する基準です。

父母がフレンドリーであることは、面会交流の円滑な実現・継続につながり、子の福祉の観点から望ましいことです。

欧米諸国では、離婚後共同親権制度が採用され、非監護親が当然の権利として子どもとの交流を保って子育てに関与する(共同養育)ため、離婚した父母には当然にフレンドリーペアレントであることが求められています。

しかし、離婚後単独親権制度を採用する日本では、親権者による面会交流拒否や子どもの洗脳などが横行し、ごく限定された面会交流すら実現しないことがあるなど、フレンドリーペアレントとは程遠い父母が多いのが現状です。

家庭裁判所の実務でも、フレンドリーペアレントルールが採用された事件はごく限られていますが、今後、採用されるケースが増え、子の福祉の新たな評価基準になる可能性があります。

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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