後見制度支援信託とは?デメリットと後見人の報酬、解約の方法まで解説

成年後見制度を利用する本人の財産が多い場合、その財産の一部を信託銀行等に管理・運用させる場合があります。

これを後見制度支援信託といいます。

この記事では、後見制度支援信託制度のメリットとデメリット、報酬、信託契約締結までの流れ、信託できる金融機関について解説します。

後見制度支援信託制度とは

後見制度支援信託

出典:後見制度において利用する信託の概要

後見制度支援信託制度とは、2012年に開始された、後見制度によって支援を受ける本人の財産を適切に管理する仕組みです。

後見制度支援信託制度では、日常的な支払いに必要な財産は成年後見人が預貯金等で管理し、日常的に使用しない財産を信託銀行等に信託することにより、成年後見人が本人の財産を自由に使用できなくなります。

また、信託契約の締結・変更・解約など重要な手続については、家庭裁判所の指示書に基づいて行われるため、本人の財産を安全に管理できます。

後見制度支援信託が導入される経緯

2000年に成年後見制度が開始された当初は、本人の親族が成年後見人に選任されて財産管理や身上監護を行うのが一般的でしたが、成年後見人による本人の財産の使い込みなどの不正が次々に発覚しました。

そのため、本人の財産が多く管理が難しい場合や、親族間に争いがある場合などは、弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任されるようになりましたが、将来的には専門職後見人の確保が難しくなると考えられるようになりました。

また、弁護士や司法書士など専門職の成年後見人による使い込みも発覚して大々的に報道され、成年後見人の不正が社会問題化して、後見制度に対する信頼が大きく揺らぎました。

こうした事態を受け、成年後見人による不正を防止するとともに、本人の財産管理を適切に行い、後見制度に対する信頼を取り戻すために開始されたのが、後見制度支援信託制度です。

後見制度支援信託制度の利用によって、本人の余剰財産を信託して成年後見人が管理する財産を減らし、後見事務の負担も軽減させることで、不正リスクを下げるとともに、親族を成年後見人に選任できるケースを増やすことが期待されています。

後見制度支援信託制度のメリットとデメリット

後見制度支援信託制度は、メリットばかりが注目されがちですが、利用を検討する場合はデメリットにも注意しておく必要があります。

後援制度支援信託のメリット

  • 本人の財産を信託銀行が管理
  • 元本保証
  • 預金保険制度の保護対象
  • 重要な手続には家庭裁判所が関わる

本人の財産を信託銀行が管理

後見制度支援信託制度を利用した場合、本人の財産のうち日常生活で使用しない余剰分を信託銀行等に信託して管理させるため、財産を安全に管理することができます。

また、本人の財産が多い場合、それを管理する成年後見人の事務負担を軽減することにもなります。

元本保証

元本保証とは、信託した財産(元本)が減らないことを、金融商品に保証することです。

後見制度支援信託制度では、信託銀行等に信託した財産は元本保証されており、元本割れのリスクがありません。

預金保険制度の保護対象

預金保険制度とは、金融機関が破たんした場合に預金を保護する制度です。

後見制度支援信託制度を利用する場合、信託財産は預金保険制度の保護対象となるため、信託銀行等が破たんしても本人の財産は保護されます。

重要な手続には家庭裁判所が関わる

信託銀行等が以下の手続を行うには、家庭裁判所の指示書が必要です。

  • 信託契約の締結・変更・解除
  • 定期交付金額の変更
  • 一時金の交付
  • 追加信託

信託に関する重要な手続については、家庭裁判所が必要性や相当性を踏まえて判断するため、本人の財産が安全に管理されます。

後見制度支援信託のデメリット

  • 信託できる財産は金銭のみ
  • 保佐類型、補助類型、任意後見では利用できない
  • 報酬が発生する
  • 手続に時間と手間がかかる

信託できる財産は金銭のみ

後見制度支援信託制度で信託銀行等に信託できる財産は、金銭のみです。

制度利用のために不動産を処分したり、有価証券を売却したりすることは想定されていません。

金銭以外の財産を処分して制度利用する場合は、事前に家庭裁判所に相談して許可を得る必要があります。

保佐類型、補助類型、任意後見では利用できない

後見制度支援信託制度の対象は、法定後見制度の後見類型(本人が後見開始の審判を受けた場合)です。

保佐類型、補助類型、任意後見制度では後見制度支援信託を利用することができません。

(※未成年後見制度では制度利用ができますが、記事内容と関係がないため割愛しています。)

報酬が発生する

後見制度支援信託制度を利用する場合、信託契約の締結に関わった専門職後見人に対する報酬と、信託銀行等への報酬を、本人の財産の中から支払うことになります。

信託銀行等への報酬には管理報酬と運用報酬の2種類があり、銀行等によって報酬が必要かどうかや金額が異なります。

手続に時間と手間がかかる

信託銀行等と信託契約を締結した後は、信託財産については成年後見人であっても自由に使用できなくなります。

また、契約の変更や解約、金銭の支出などに家庭裁判所の判断が入ることになり、手続きに時間と手間がかかります。

後見制度支援信託の利用手続

後見制度支援信託を利用する場合の手続の流れは、以下のとおりです。

後見制度支援信託

出典:後見制度において利用する信託の概要

申立て準備から審判まで

後見制度支援信託を利用するには、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、審判で本人について後見が開始される必要があります。

家庭裁判所は、成年後見の申立てがあると、申立時に提出された書類の審査、申立人や本人との面接調査、親族照会、鑑定などを行います。

その上で、後見制度支援信託の利用が相当だと判断した場合には、審判で本人について後見を開始するとともに、専門職後見人を選任します。

なお、後見開始の時点で専門職後見人と親族後見人が選任されることもあります。

成年後見の申立て準備から審理、審判の流れについては、関連記事で詳しく解説しています。

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成年後見制度の手続き!後見開始の審判の申立てから確定までの全過程を解説

審判から信託契約締結まで

家庭裁判所が本人について後見を開始し、専門職後見人が選任された後は、専門職後見人が後見制度支援信託の手続を進めます。

後見制度支援信託の利用を検討

家庭裁判所は、審理の段階で、申立人等が提出した本人の財産や収支状況に関する資料等を確認し、後見制度支援信託制度が利用できると判断した上で、専門職後見人を選任します。

しかし、実際に専門職後見人が本人の財産や収支状況を調査した結果、多額の借金の存在が発覚する、収支がマイナスで間もなく財産が底をつく見込みであるなど、制度利用が難しいまたは不適当な事情が明らかになることがあります。

こうした場合は、家庭裁判所に事情を報告すると、家庭裁判所が本人に制度を利用させるかどうか再検討します。

信託契約利用を家庭裁判所へ報告

専門職後見人が本人の財産や収支状況を調査した結果、本人の財産管理のために後見制度支援信託の利用が適当だと判断した場合、家庭裁判所へ報告書を提出します。

家庭裁判所へ報告する内容は、以下のとおりです。

  • 信託銀行等へ信託する預貯金の額
  • 本人の日常的な支払いに必要十分な預貯金の額(収支状況を踏まえて設定)
  • その他の事情により信託しない預貯金の額

家庭裁判所が指示書を発行

家庭裁判所は、専門職後見人の報告書を確認し、後見制度支援信託の利用が適当だと判断した場合、指示書を発行します。

指示書とは、後見制度支援信託を利用して信託銀行等と信託契約を結ぶために必要な書面です。

信託契約締結

専門職後見人は、信託銀行等に必要書類と家庭裁判所の指示書を提出し、信託契約を結びます。

専門職後見人が辞任、親族後見人が後見事務を引き継ぐ

通常、信託銀行等と信託契約を締結すると、成年後見人が管理できる本人の預貯金は、本人の日常的な支払いに関するものだけになり、報酬が必要な専門職後見人を選任しておく必要性がなくなります。

そのため、家庭裁判所は、専門職後見人を辞任させ、親族後見人を選任して後見事務を引き継がせます。

ただし、預貯金以外の財産が多く、それらの財産からの収入がある場合などは、引き続き専門職後見人が後見事務を続けることもあります。

なお、後見開始時点で専門職後見人と親族後見人が選任されている場合は、専門職後見人の辞任のみとなります。

専門職後見人への報酬付与

専門職後見人は、辞任する段階で報酬付与を申し立て、家庭裁判所が決定した金額を本人の財産から支出することができます。

信託銀行等と信託契約を結ぶときに報酬金額を考慮しておかないと、報酬を支出した結果、本人の日常的な支出に充てる預貯金が不足する事態に陥る可能性があります。

後見制度支援信託を利用できる信託銀行等

2017年時点で後見制度支援信託制度で利用できる信託商品を取り扱っている信託銀行等は、以下のとおりです。

  • 三井住友信託銀行
  • みずほ信託銀行
  • 三菱UFJ信託銀行
  • りそな銀行
  • 千葉銀行
  • 中国銀行

それぞれ、最低受託額、信託報酬、予定配当率、解約手数利用などが異なるため、事前に確認しておく必要があります。

後見制度支援信託に基づく信託契約を締結した後の後見事務

信託契約を締結した後の主な後見事務は、以下のとおりです。

  • 定期交付金の受領
  • 定期交付金の変更
  • 一時金交付の申請
  • 追加信託

定期交付金の受領

後見制度支援信託に基づく信託契約を締結するときは、本人の財産や収支、今後の予定などを慎重に考慮して信託財産の額と親族後見人が管理する財産の額を決めます。

親族後見人は、本人が日常生活を送るために必要十分な預貯金を管理することになりますが、本人の支出が収入を上回る赤字収支の場合、時間の経過とともに預貯金が目減りし、いずれ底をついてしまいます。

そこで、信託契約締結時、定期的に必要な金額が信託財産から送金されるよう取り決めておくことができます。

これが定期交付金です。

定期交付金の額は、本人の収支の月々の赤字額を踏まえて専門職後見人が出した意見を元に決められます。

また、定期交付金が送金される間隔についても、家庭裁判所が1ヶ月ごと、2ヶ月ごと、3ヶ月ごと、6ヶ月ごとのいずれかに決定されます。

支援信託が締結された後は、決められた時期に決められた口座に定期交付金の送金があったことを確認し、後見監督時に報告する必要があります。

定期交付金の変更

定期交付金の額や送金の間隔は、信託契約締結時に決めておきますが、本人の施設費用が値上がりして支出が増えた場合などは、定期交付金の金額や間隔を変更する手続きが必要になります。

定期交付金を変更するには、家庭裁判所に指示書を発行してもらい、信託銀行等に変更を請求します。

家庭裁判所に指示書の発行を求めるために必要な書類や添付資料は、以下のとおりです。

  • 報告書(家庭裁判所の定型書式を使用)
  • 交付金の変更を疎明する資料(施設費用の領収書など)
  • 信託財産状況報告書(信託銀行などから定期的に送付される)
  • 親族後見人が管理している預貯金通帳のコピー(表紙を含む全てのページ)

家庭裁判所が報告書に定期交付金の変更を指示する旨を追記すると、それが指示書となります。

親族後見人は、家庭裁判所が指示書を発行した日から3週間以内に信託銀行などへ指示書の謄本を提出し、定期交付金の額の変更を請求します。

指示書の提出があった信託銀行などは、指示書に記載されたとおり定期交付金の額を変更する手続きを行います。

一時金交付の申請(親族後見人が管理する預貯金が不足した場合)

親族後見人が管理する預貯金額は、信託契約締結時に、多少の臨時支出があっても直ちに支払いに困ることがないような金額に決められています。

しかし、信託契約締結時の予想を多額の支出が生じた、立て続けに臨時支出があり日々の生活に費消する預貯金が底をつくおそれがあるなどの場合は、一時金交付の申請をすることになります。

親族後見人は、家庭裁判所に一時金交付に関する報告書やその記載を疎明する資料を提出し、家庭裁判所に指示書を発行してもらった上で、金融機関などに指示書を提出して一時金の交付を請求します。

家庭裁判所に指示書の発行を求めるために必要な書類や添付資料は、以下のとおりです。

  • 報告書(家庭裁判所の定型書式を使用)
  • 交付請求が必要な事情を疎明する資料(自宅リフォームの見積書、手術費用の見積書など)
  • 信託財産状況報告書(信託銀行などから定期的に送付される)
  • 親族後見人が管理している預貯金通帳のコピー(表紙を含む全てのページ)

家庭裁判所は、一時金交付が相当であると判断すると、報告書に一時金の交付を指示する旨を追記します。

これが指示書となります。

親族後見人は、家庭裁判所が指示書を発行した日から3週間以内に信託銀行などへ指示書の謄本を提出し、一時金の交付を請求します。

指示書の提出があった信託銀行などは、指示書に記載された金額を親族後見人が管理する本人の預貯金口座に送金する方法により、一時金を支払います。

追加信託(親族後見人が管理する預貯金が多くなった場合)

本人に臨時収入があり、管理する預貯金額が一定額を超えた場合、親族後見人は家庭裁判所にその旨を報告し、追加信託の手続を行うことになります。

一定額の目安は地域によって異なりますが、一般的には500万円程度です。

一定額を超えたにも関わらず報告を怠り、その後の後見監督などで家庭裁判所が預貯金額の増加を知った場合、家庭裁判所から指導されたり、悪質な場合は解任されたりすることもあります。

追加信託の手続きには、家庭裁判所が発行する指示書を信託銀行等に提出し、追加信託を請求する必要があります。

家庭裁判所に指示書の発行を求めるために必要な書類や添付資料は、以下のとおりです。

  • 報告書(家庭裁判所の定型書式を使用)
  • 親族後見人が管理している預貯金通帳のコピー(表紙を含む全てのページ)

家庭裁判所は、追加信託が相当であると判断した場合は、報告書に追加信託が相当である旨をを追記し、それを指示書として親族後見人に交付します。

親族後見人は、家庭裁判所が指示書を発行した日から3週間以内に信託銀行などへ指示書の謄本を提出し、追加信託の手続きを行います。

指示書の提出があった信託銀行などは、指示書に記載された金額を追加信託する手続きを行います。

後見制度支援信託の信託契約の解約

後見事務を行う中で、後見制度支援信託に基づく信託契約を解約する必要が生じることがあります。

例えば、本人を自宅で介護することになり、信託財産をすべて自宅のリフォーム費用に充てる必要が生じた場合などが考えられます。

信託契約を解約する場合、親族後見人は、解約用の報告書に解約が必要な事情を記載して、その事情を疎明する資料を添付して家庭裁判所に提出し、家庭裁判所が発行した指示書を信託銀行等に提出して解約手続きを行います。

家庭裁判所に指示書の発行を求めるために必要な書類や添付資料は、以下のとおりです。

  • 報告書(家庭裁判所が作成した解約用の定型書式)
  • 解約が必要な事情を疎明する資料(リフォームの見積書など)
  • 信託財産状況報告書(信託銀行などから定期的に送付される)
  • 親族後見人が管理している預貯金通帳のコピー(表紙を含む全てのページ)

家庭裁判所が信託契約の解約が相当だと判断した場合、報告書にその旨を記載し、指示書として親族後見陰に交付します。

親族後見人は、指示書が発行された日から3週間以内に信託銀行などに指示書の謄本を提出し、解約手続きを行います。

解約手続きには手数料がかかることがあるので、事前に信託銀行などに確認しておく必要があります。

後見制度支援信託を利用したケースで本人が死亡た場合の後見事務

本人が死亡すると、当然に後見が終了します。

親族後見人は、本人の死亡診断書のコピーまたは死亡の事実が記載された戸籍謄本(除籍謄本)を家庭裁判所に提出します。

信託銀行等にも本人の死亡を報告し、定期交付金の送金を終了させるとともに、信託報酬などを清算した上で信託財産を本人の相続人に支払う手続きをしてもらいます。

また、本人の死亡から2ヶ月以内に、管理財産の収支を計算し、管理財産や信託財産に関する資料相続人に引き継いだ上で、家庭裁判所に後見事務の終了報告を行います。

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投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
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サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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