協議離婚時に離婚協議書を公正証書で作成しておきたいケース
- 協議離婚
最終更新日: 2019.03.5
協議離婚では、子どもの親権者以外の離婚に伴う諸条件(養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割)を取り決めたとしても、それだけでは約束が守られなかった場合にすぐ強制執行手続きを利用することができません。
協議離婚後、取り決めが守られなかった場合に裁判を経ずに強制執行を申し立てるには、離婚協議書を公正証書で作成しておく必要があります。
公正証書の作成は万単位で費用(手数料)がかかりますし、配偶者の同意を得られないと作成できないなどのハードルもあるため、作成せずに離婚する夫婦が少なくありません。
しかし、以下のような事情がある場合は、離婚後の紛争を防止するために、夫婦で離婚協議書をまとめて公正証書にしておくべきです。
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協議離婚で子どもの養育費を取り決める
協議離婚で子どもの養育費を取り決める場合は、離婚協議書を公正証書にしておくことが大切です。
協議離婚する場合、子どもの親権者は離婚届に書き込む必要がありますが、養育費については取決めの有無を任意で記載するだけです。
そのため、離婚時に取り決めた養育費が支払われなくなるケースが非常に多いのが実情です。
特に、離婚時に子どもが幼い場合は養育費の支払い期間が長期にわたるため、支払いが滞るリスクが高くなります。
例えば、再婚、失職、転職、降格、病気・怪我など元配偶者の状況が変化したことにより、養育費が支払われなくなることがあります。
また、非監護親は、子どもと離れて暮らす期間が長くなるほど、子どもの養育にかかる費用を低く見積もってしまう傾向があります。
通常、子どもの年齢が上がるほど養育にかかる費用は高くなりますが、子どもと一緒に暮らしていないと離婚前の養育費を基準に考えてしまい、「子どもの養育には大してお金がかからないのではないか。」と誤解したり、「親が自分のために養育費を使っているのではないか。」と妄想したりしがちです。
その結果、離婚当時は欠かさず養育費を支払っていても、時間の経過とともに養育費を支払う意欲が低くなり、ついには支払いを止めてしまうことがあります。
さらに、子どもとの交流の機会が乏しくなると親としての自覚も失われていきます。
一緒に住んでいれば、自分よりも子どものためにお金を使おうとする親が多いですが、離れて暮らしていると子どもの優先度が下がり、つい自分や新しい家族を優先する傾向があります。
例えば、養育費を支払わなければならないと頭では分かっていても、欲しい商品を買ったり、飲み会に誘われたり、再婚相手との間に生まれた赤ちゃんに必要なグッズを購入したりして養育費を費消し、期限までに養育費を支払えなくなることがあります。
いわゆる円満離婚をした場合や、婚姻中の元配偶者と子供の関係性が良好だった場合、「この人なら養育費を支払い続けてくれるだろう。」と思うかもしれません。
しかし、離婚すれば夫婦は他人同士になりますし、親子関係は切れませんが、非監護親の中での子どもの優先度は時間の経過とともに低下することが多いため、婚姻中の問題が少なくても過信するのは危険です。
以上のことを踏まえると、離婚時に子どもの養育費を取り決める場合は、養育費について夫婦が合意した内容を公正証書にしておくことが大切です。
協議離婚で面会交流を取り決める
面会交流は、子どもの健全な成長のために欠かせない親子の交流ですが、様々な事情によって円滑な実施ができていない家庭が多いのが実情です。
特に協議離婚の場合、面会交流を取り決めないで離婚したり、おおざっぱな内容で取り決めたりして離婚後に元夫婦間で争うケースが後を絶ちません。
残念なことですが、日本では離婚後に非監護親と子どもを交流させたくないと考える監護親が少なくありません。
例えば、婚姻中は子どもに無関心だった非監護親が離婚後になって会いたいと主張することへの不満、面会交流を実施すると子どもを非監護親に奪われるという不安、再婚相手への遠慮などの理由により、面会交流を拒否したり否定的な言動や態度に及んだりします。
酷い場合には、子どもに非監護親の悪口を吹き込んで洗脳し、子どもが非監護親を拒否するよう仕向ける監護親もいます。
離婚時に面会交流の条件を詰めて公正証書にしておくことにより、監護親に面会交流を実施する必要があることを自覚させるとともに、心理的圧力を与えることができます。
また、面会交流の条件が複雑な場合や、段階的に条件を変更していく場合にも、後になって元夫婦間で言い分が食い違うことがないように、公正証書にしておくことが大切です。
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財産分与の対象財産や分与方法が複雑
財産分与の対象財産が複雑な場合や、分与方法が複雑な場合も、公正証書を作成しておくことが大切です。
対象財産が預貯金のみであれば、金額の調整のみで比較的簡単に分与することができますが、対象財産が不動産、動産、保険、有価証券など多岐にわたる場合は、夫婦の口約束または夫婦で作成した離婚協議書だけでは不安が残ります。
これらの財産を分与する場合、対象財産の一部を現金化して分与する、不動産の名義を変更する、保険の契約者を変更する、互いの財産を交換する、有価証券の基準時を決めるなどの手続きを行う必要があるところ、夫婦の一方が手続きに協力しなかったり、手続き中に翻意したりするおそれがあるからです。
夫婦で合意した分与の内容や方法をまとめて公正証書にしておくことで、こうした問題を防止することができます。
慰謝料を分割払いさせる
配偶者の浮気やDV・モラハラ、悪意の遺棄などが原因で離婚する場合、配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
慰謝料は金銭の一括払いで取り決めるのが一般的ですが、金額や相手の資力によっては分割払いさせることがあります。
しかし、慰謝料を取り決めた当時は浮気などを反省して慰謝料を支払う意欲が高くても、時間の経過とともに罪悪感が薄れ、慰謝料を支払う意欲も低下します。
例えば、「浮気は悪かったが、相手にも否があった。」、「あの状況では仕方なかった。」などと自分を正当化するようになり、慰謝料の支払いを止めてしまう人は少なくありません。
また、一括払いが原則の慰謝料を分割払いにするのは、加害者に収入や財産がなく一括払いが困難であるケースがほとんどなので、資力の問題で慰謝料を支払えなくなるおそれもあります。
そのため、慰謝料の支払いが滞ったときに裁判をせず強制執行ができるように、慰謝料を取り決めた上で公正証書にしておく必要があります。
清算条項を入れる
清算条項とは、離婚後の紛争を防止するために、離婚時に取り決めた内容以外に、夫婦間に何らの債権債務も存在しないことを確認する条項です。
養育費や財産分与などを取り決めずに離婚した場合、離婚して時間が経過してから請求されるおそれがありますが、公正証書に清算条項を入れることにより、元配偶者から離婚後に慰謝料や財産分与などを請求されても、清算条項を理由に突っぱねることができます。
ただし、「慰謝料を除く」などと清算条項の内容を限定した場合、除外した内容については離婚後に請求を受ける可能性があります。
清算条項は、離婚協議書の公正証書または離婚調停の調停調書に記載する必要があり、夫婦が作成した離婚協議書に記載しても効果を主張できません。
甲及び乙は、本離婚に関する紛争は一切解決したものとし、今後は相互に名義のいかんを問わず何ら金銭その他の請求をしないことを確認する。 |
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