虚偽DVとは?DV等支援措置のデメリットと名古屋高裁の判決を解説

近年、虚偽DVの問題が社会問題となっています。

2018年4月には、DV等支援措置の目的外使用の違法性や、それを見逃した警察の過失を認定する判決が名古屋地裁で出され、大きな注目を浴びました。

虚偽DV(冤罪DV)とは

虚偽DVとは、離婚紛争や慰謝料請求を有利に進めたり、DV関連制度を悪用したりするために、実際には存在しないDVを主張することです。

冤罪(えんざい)DV、捏造(ねつぞう)DV、でっち上げDVなどと呼ばれることもあります。

虚偽DVが主張される理由

虚偽DVが主張される理由は、大きく2つあります。

悪意の虚偽DV

悪意の虚偽DVとは、離婚紛争を有利に進めるためなど、何らかの目的を持って確信犯的に存在しないDVを主張することです。

DVの問題が世間一般に広まり、DV被害者を保護する制度が整備される中で、制度を逆手にとって自分の都合の良いように利用する人が増加しています。

例えば、子どもの親権や多額の慰謝料を得るためのテクニックとして、弁護士から虚偽DVを主張するよう勧められることがあります。

特に多いのは、子どもの違法な連れ去り(無断の子連れ別居)とセットで虚偽DVを勧められ、実行するというケースです。

そして、子の奪取や虚偽DVによって子どもの親権を得たり、離婚紛争を有利に進めたりできたという情報がネット上に出回り、それを真似する人も出ています。

悪意の虚偽DVの加害者(DV被害者を装う人)は、虚偽DVを主張するために証拠を入念に準備するため、主張されると覆すことが難しいものです。

また、ありもしないDVを訴えられて取り乱し、粗暴な言動をしてしまった結果、それもDVの証拠として使用されるケースも少なくありません。

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夫婦の認識の違いによる虚偽DV

夫婦のDVに対する認識の違いによって虚偽DVが主張されることもあります。

DVが「配偶者などからの暴力」という意味であることは知られていますが、暴力の中身の認識については人によって差があります。

近年は、身体への直接的な暴力だけでなく、物を投げるなどの間接的な暴力、暴言を吐いたり威圧的な態度を示したりする精神的な暴力(モラハラ、モラルハラスメント)、性行為の強要などの性的暴力などもDVに含まれると考えられています。

しかし、身体的な暴力だけがDVだと認識している人も一定数おり、そうした人からすると、間接的な暴力などでDVを主張されると「虚偽DVだ。」ということになります。

また、客観的に見ると同じエピソードでも、夫婦で異なる認識をしていることもあります。

例えば、「夫婦喧嘩が高じて、夫が手帳を妻に投げつけた。」という状況について、夫が「手に持っていたスマホを投げつけたが、妻の頬をかすめただけでDVではない。」と主張し、妻が「夫に威圧的な態度で脅された上にスマホを投げつけられ、頬に当たって3日間くらい傷んだ。」と主張することがあります。

夫婦のいずれも嘘をついているわけではありませんが、同じエピソードを妻はDVと認識し、夫はDVではないと認識しているのです。

こうした、DVを行った側と受けた側の認識の違いによって、DVを行った側が虚偽DVを主張することもあります。

夫婦の認識の違いによって主張される虚偽DVの多くは、DVを行った側にとっては「濡れ衣」であっても、DVを受けた側にとっては「つらい経験」です。

虚偽DV(冤罪DV)は見分けられるか

結論からいうと、虚偽DVを見分けるのは極めて困難です。

「証拠の有無で虚偽DVか否かを判断できる。」と思うかもしれません。

しかし、悪意の虚偽DVを主張する場合、その気になれば、転んでできた傷を「殴られた」と偽って医師に診断書を作成させたり、幼い子どもに「パパがママを叩いてた。」などと証言させたりすることも可能です。

そうして周到に準備された証拠を突き崩すのは、弁護士や裁判官などでも難しいものです。

また、「DV加害者やDV被害者を見れば分かる。」という意見もありますが、証拠もないのに「DV加害者である。」、「虚偽DVだ。」と主張することは現実的ではありません。

実務上は、保護命令などDV関連措置が認められた(または認められなかった)ことをDV(または虚偽DV)の根拠とすることがあります。

しかし、いずれも当事者の主張や証拠に基づいて司法や行政が判断した結果であり、公的機関がDV(または虚偽DV)の存在を見抜けなかった可能性がないとは言い切れません。

DV等支援措置とは

DV等支援措置とは、DV被害者の保護を目的として総務省が規定し、全国の自治体に通知している措置です。

DV(配偶者からの暴力)、ストーカー行為、児童虐待などの被害者が申し出ることにより、加害者などによる住民基本台帳(一部)のコピーの閲覧や住民票のコピーの交付などについて制限を設けることができます。

DV等支援措置の要件

総務省のウェブサイトでは、DV等支援措置の要件が以下のとおり規定されています。

住民基本台帳に記録されている方又は戸籍の附票に記録されている方で、次に掲げる方は、住民票のある市区町村や戸籍の附票のある市区町村等にDV等支援措置を申し出ることができます。

  1. (1) 配偶者暴力防止法第1条第2項に規定する被害者であり、かつ、暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがある方
  2. (2) ストーカー規制法第7条に規定するストーカー行為等の被害者であり、かつ、更に反復してつきまとい等をされるおそれがある方
  3. (3) 児童虐待防止法第2条に規定する児童虐待を受けた児童である被害者であり、かつ、再び児童虐待を受けるおそれがあるもの又は監護等を受けることに支障が生じるおそれがある方
  4. (4) その他(1)から(3)までに掲げる方に準ずる方

引用:総務省

DV等支援措置の申出の流れ

DV被害者などは、相談機関(警察、配偶者暴力相談支援センター、児童相談所など)にDV被害を相談し、支援措置申出書を提出します。

相談を受けた機関の担当者は、申出書に相談機関としての意見を付して被害者に渡します。

その後、DV被害者などは、相談機関の意見が付された申出書を住民票または戸籍附票のある市区町村役場の市民課(地域によって名称は異なる)に提出し、支援措置の申出を行います。

申出を受理した市区町村役場の担当職員は、必要に応じて相談機関に事情を確認した上で支援するか否かを決定し、DVなどの被害者に連絡するとともに、関係市区町村へ申出書を転送します。

申出の流れをまとめると、以下のとおりです。

  1. DV被害者など:相談機関に相談し、DV等支援措置申出書を提出
  2. 相談機関:申出書に相談機関の意見を付す
  3. DV被害者など:市区町村役場に支援措置を申出
  4. 市区町村役場:支援措置の要否を検討し、結果をDV被害者などに連絡、関係市区町村へ申出書を転送

DV等支援措置の問題

DV等支援措置は、意見書を作成する相談機関の対応が問題視されています。

具体的には、相談機関がDV被害者などの主張を過剰に重視し、加害者とされる人の権利保護が軽視される傾向があり、結果として虚偽DVや冤罪DVを生んでいると指摘されています。

DVの主張が認められると覆すのは困難であるため、相談機関の段階で支援要件を満たすか否かを適切に判断することが求められますが、実務上は、DV被害者などの主張を鵜呑みにして意見書を作成するするケースが多くなっているのです。

名古屋地裁の虚偽DV(冤罪DV)裁判の判決

名古屋地裁は、2018年4月25日、虚偽DVをめぐる裁判において、原告(夫)が請求した被告(妻と行政)の賠償責任を認定する判決を下しました。

名古屋地裁の虚偽DV裁判の概要

名古屋地裁の虚偽DV裁判の概要は、以下のとおりです。

【当事者】

  • 原告:夫
  • 被告:妻、愛知県

【請求の内容】

妻と愛知県に慰謝料など合計330万円の損害賠償を請求

【概要】

  • 2006年:夫婦が婚姻
  • 2007年:子どもが出生
  • 2012年:被告が子どもを連れて別居(当時、子どもは5歳)
  • 2013年:離婚調停、面会交流調停申立て(父子の面会交流開始)
  • 2014年:名古屋家裁半田支部で父子の面会交流を認める面会交流審判
  • 2014年:被告が子どもを通院させ始め、面会交流中断
  • 2014年:原告が間接強制申立て(認容され、妻に間接強制金の支払いが課される)
  • 2014年:児童相談所が子どもを一時保護(性的虐待の疑い)
  • 2016年:被告が警察に相談(住所の秘匿)して意見書を作成させる(同時期に被告が子どもを連れて転居)
  • 2016年:自治体がDV等支援措置を開始

被告からDV支援措置の相談を受けた警察は、「被告はDV被害者で、今後もDVを受ける危険がある。支援の要件を満たす。」という旨の意見書を作成し、それに基づいて自治体がDV等支援措置(原告に対して、被告の住所が記載された住民基本台帳の閲覧などを制限)を開始しました。

その結果、原告は、被告の転居に加えて、住民基本台帳などからも被告の住所を把握できなくなり、父子の面会交流が断絶することになりました。

名古屋地裁の虚偽DV裁判の争点

主な争点は、「被告(妻)の支援申請は適切であったか」と「警察の対応は適切であったか」の2点です。

被告(妻)の支援要請は適切であったか

原告の主張の概要は、以下のとおりです。

「被告(妻)のDVに関する主張は虚偽(虚偽DV)であり、今後のDVの危険性はなくDV等支援法の支援要件を満たさない状況であった。それにも関わらず、被告(妻)は、原告と子どもの交流を断絶させる目的で支援を申請しており、制度を悪用した。」というものです。

これに対する被告(妻)の主張の概要は、以下のとおりです。

「過去に原告からDVを受けており、今後もDVを受ける恐れがあるため、原告に住所を知られないようにDV支援を申請したものであり、申請は適切であった。」と主張しました。

警察の対応は適切であったか

原告の主張の概要は、以下のとおりです。

「警察などの相談機関は、DV加害者とされる不利益の大きさを考慮し、支援要件を満たすか否かの適切な判断をするために、加害者とされる人への聞き取りなど十分な調査を果たす義務がある。それにも関わらず、警察は被告の絵説明だけで支援要件を満たすと判断しており、不当である。」

これに対する被告(愛知県)の主張の概要は、以下のとおりです。

「DV被害者の保護を最優先すべきであり、DVが認められないとはいえない程度の認定ができれば、支援要件を満たすと判断してもよいものである。また、DV防止法上、警察などの相談機関に加害者の権利を守る義務は課されていない。」

名古屋地裁の判断(判決文の内容)

名古屋地裁は、虚偽DVを訴える原告(夫)の主張を認め、被告(妻と愛知県)に対して55万円の賠償を命じる判決を下しました。

判決の理由の概要は、以下のとおりです。

「過去のDVが事実か否かは判然としない。時系列や事実関係からは、被告は支援申請時点でDVの危険性がなく、申請要件を満たさないと認識しながら、原告と子どもの交流を断つ目的で支援申請をしたと認められ、制度の目的外使用で違法性がある。」

「DV防止法では、相談機関は被害者だけでなく加害者側の権利も守る義務を負っていると解される。現行制度では、不当に加害者とされても救済が困難である以上、相談機関は支援要件の判断に当たって適切な調査などをする義務があるが、警察はそれを怠った。」

また、「DV加害者と認定されると容易に覆らない現行制度は見直すべき」という異例の注文をつけ、「被害者を迅速に保護した上で、加害者とされた側の意見を聴取して支援を見直す制度にすることで、虚偽DVを防止できる。」としています。

追記:名古屋高裁の決定(2019年1月31日)

名古屋高等裁判所は、2019年1月31日、名古屋地裁の判決を取り消して、男性敗訴の判決を言い渡しました

判決では「元妻への暴力があったと認められるほか、面会をめぐる紛争で子どもの心身が不安定になり、元妻も心労が重なっていた。」と指摘した上で、元妻による警察への支援措置申請について「DV防止法の被害者要件、危険性要件を欠いていたとは認められない。」という判断が示されています。

つまり、一審が「過去のDVが事実か否かは判然としない」としたのに対し、高裁は「暴力があった」と元夫から元妻への暴力を認定されたことになります。

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【参考】

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家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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