養育費の強制執行手続きの流れと費用は?給与債権差押えの特例とは?

養育費 強制執行 手続き 流れ

夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合の対応には、履行勧告、履行命令、強制執行があります。

履行命令は実効性が乏しいため、履行勧告を利用しても養育費が支払われない場合は、強制執行を検討することになります。

しかし、強制執行の手続きには手順があり、手続きのためにかかる費用や必要書類も離婚の調停や裁判とは異なるため、事前に確認しておくことが大切です。

強制執行とは

強制執行とは、調停や裁判で決まった金銭の支払いなどの約束が守られない場合に、調停調書や判決などの債務名義を得た人(債権者)の申立てにより、相手方(債務者)に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続きです。

養育費については、調停や裁判で養育費を取り決められているにも関わらず支払いが滞った場合に、強制執行によって強制的に支払わせることができます。

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強制執行手続きの内容

強制執行手続期の対象となるのは、大きく分けると不動産(土地、建物)、動産(貴金属類、高価な時計、骨とう品など)債権(給与、預貯金など)の3つです。

養育費の強制執行で多いのは、相手方の給与債権や預貯金債権の差押えです。

給与債権の差押え

まず、給与債権の差押えについて確認していきましょう。

給与債権の差押えの原則

給与債権の差押えとは、相手方が勤務する会社などに給与の差し押さえ命令をかけ、会社が相手方に支払う給与を差し押さえる手続きです。

給与債権は、原則として、手取り金額の4分の1までの範囲で差し押さえることが認められています。

給与全額の差押えを認めると、相手方の生活が立ち行かなくなり、ひいては債権者への支払いも滞ることになりかねないためです。

また、支払期限が到達していない金銭について給与債権の差押えを行いたい場合は、期限到達後に改めて手続を行う必要があります。

支払期限のある債権は、法律上、原則として、支払期限が到来する前に強制執行することが認められていないためです。

請求が確定期限の到来に係る場合においては、強制執行は、その期限の到来後に限り、開始することができる。

民事執行法第30条第1項

さらに、本来の債務とは別に間接強制金を課して債務の履行を促す間接強制も認められていません。

養育費の強制執行の特例

養育費など扶養に関する費用の強制執行については、以下の3つの特例が設けられています。

  • 給与などを2分の1まで差し押さえることができる
  • 将来分も差し押さえることができる
  • 間接強制ができる

つまり、養育費については相手方の給与(手取り)の2分の1まで差し押さえることができ、支払期限が到達していない将来分も差し押さえることができる上、間接強制も認められているのです。

また、相手方の給与(手取り)が66万円を超える場合、33万円を残してそれ以外の金額を差し押さえることもできます。

給与債権の差押えの具体例

相手方の給与(手取り) 差し押さえることができる金額
36万円 18万円
70万円 47万円(70万円-33万円)

預貯金債権の差押え

預貯金債権の差押えとは、相手方が預貯金口座を開設している金融機関などに給与の差し押さえ命令をかけ、預貯金債権を差し押さえる手続です。

原則として、差押えをした時点において預貯金口座に入っていた預貯金全額が差押えの対象となります。

注意したいのは、差押えをした後に入金された金銭です。

差押えの対象は「差押えをした時点において預貯金口座に入っていた預貯金」であり、差押えの後に入金された金銭は対象となりません。

差押えをした時点で預貯金口座残高が0であっても、その後に入金された金銭を差し押さえることはできません。

原則として、相手方の預貯金口座の有無や残高を金融機関などに問い合わせても回答してもらえないため、事前確認には弁護士会照会を利用することになります。

養育費の強制執行手続きを行う条件

調停や裁判などで養育費を取り決めていれば、必ず強制執行ができるわけではありません。

強制執行の手続を利用するには、①執行力のある債務名義があり、②相手方の住所、勤務先、預貯金口座開設先を把握している必要があります。

執行力のある債務名義がある

債務名義とは、強制執行による実現が見込まれる請求権とその範囲、債権者と債務者が表示された文書です。

養育費に関する債務名義は、以下のとおりです。

離婚の方法など 債務名義
裁判離婚
  • 確定判決(判決書)
  • 和解調書
  • 認諾調書
調停離婚 調停調書
協議離婚 公正証書(執行認諾文言が付されたもの)
養育費調停が成立した場合 調停調書
養育費審判で養育費を取り決めた場合 確定審判(審判書)

いずれも養育費の支払いについて、強制執行ができるかたちで取り決められていることが前提となります。

具体的には、養育費について以下の内容を決めておく必要があります。

  • 支払始期
  • 支払終期
  • 毎月の支払金額
  • 支払日(支払期限)
  • 振込先

家庭裁判所の手続を利用して養育費を取り決めた場合は、上記の内容を踏まえた内容で調停条項などが作成されますが、夫婦間の取り決めの内容で公正証書を作成する場合は注意が必要です。

執行認諾文言が付された公正証書とは

執行認諾文言とは、公正証書に記載する「養育費の支払いが滞った場合、強制執行をしても差し支えない。」という趣旨の文言です。

「債務者は、本証書記載の金銭債務を履行しないときは直ちに強制執行に服する旨陳述した。」という文言を執行認諾文言として記載するのが一般的です。

強制執行は、原則として、裁判所の手続で取り決めた内容が履行されない場合に利用できる手続です。

したがって、離婚協議書を公正証書で作成していても、それだけでは強制執行を利用することはできず、調停や裁判などで養育費を取り決めなければなりません。

しかし、養育費について取り決めた離婚協議書を公正証書で作成し、執行認諾文言が付されていれば、その公正証書を債務名義として強制執行の手続を利用することができる、つまり、別途、調停や裁判をする必要がないのです。

離婚協議賞を公正証書で作成して協議離婚する場合は、執行認諾文言を入れておくことで、離婚後の養育費不払いに備えることができます。

相手方の住所、勤務先、預貯金口座の開設先を把握している

強制執行の手続きを行うには、相手方の住所、勤務先、預貯金口座を開設している金融機関などを把握しておく必要があります。

裁判所が相手方の情報を調べることはなく、強制執行を行う前に全て調べておかなければなりません。

自力で調べることが難しい場合は、弁護士や探偵会社に依頼する方法を検討します。

ただし、当然ですが高額な費用が発生するため、強制執行で得られる見込みの養育費の金額と弁護士費用などを比較した上で判断してください。

養育費の強制執行手続きの準備

強制執行の手続を行うには、執行文の付与、債務名義の送達証明申請という事前準備が必要になります。

執行文の付与

執行文の付与とは、「債権者は、債務者に対して強制執行をすることができる。」という旨の記載です。

債務名義で強制執行を行うには、債務名義の正本に「執行文」が付与されていなければなりません。

執行文付与の申立先 調停や裁判をした家庭裁判所
必要書類
  • 執行文付与申立書:1通
  • 債務名義正本:1通
費用 収入印紙:300円分

なお、家庭裁判所の調停調書などは、執行文が不要になる場合があるため、事前に確認してください。

債務名義の送達証明申請

債務名義の送達証明申請とは、債務名義の正本または謄本を相手方(債務者)へ郵送し、送達したことを証明する手続きです。

強制執行の手続を行うには、債務名義の正本または謄本が相手方へ送達されている必要があり、強制執行の申立てには債務名義の送達証明書を添付しなければなりません。

債務名義の送達証明の申請先 調停や裁判をした家庭裁判所
必要書類 送達証明申請書:1通
費用 収入印紙:証明事項1項目につき150円

公正証書を債務名義とする場合は、執行文の付与や送達証明について、公正証書を作成した公証役場に確認する必要があります。

通常は、公正証書を作成した時点で、公証人が相手方へ謄本を手渡し(手数料1,650円を支払った場合)することで送達が完了したとみなされますが、強制執行前に確認しておくと確実です。

養育費の強制執行手続きの流れ

強制執行手続きの流れを確認していきます。

申立書を提出する裁判所

原則として、相手方の住所地を管轄する地方裁判所です。

ただし、地方裁判所の支部によっては強制執行の手続を取り扱っていないところもあるため、事前確認が必要です。

申立てにかかる費用

  • 収入印紙:4,000円(基本)
  • 郵便切手:各裁判所による(通常は3,000~4,000円程度)

収入印紙は、債権者や債務者が複数人である場合や、債務名義が複数ある場合は人数や債務名義の数に応じた金額が必要になります。

必要書類

  • 債権差押命令申立書:1通
  • 当事者目録:1通
  • 請求債権目録:1通
  • 差押債権目録:1通
  • 債務名義:1通
  • 債務名義の送達証明書:1通
  • 申立書の目録部分のコピー
  • 宛名入りの封筒:長形3号(120mm×235mm)×2通

債権差押命令申立書

申立書は、申立てを行う裁判所の窓口で交付してもらうことができる他、裁判所ウェブサイトからダウンロードすることもできます。

また、所定の書式を使用せず自分で作成することも認められています。

自分で作成する場合、以下の内容を満たす必要があります。

  • A4用紙に横書き
  • 左綴じで左側に3cmの余白を設ける
  • 申立書と各目録のページの間に割り印をする
  • 各ページに捨て印をする

当事者目録

強制執行を請求する人、相手方、第三債務者(相手方の勤務先など)の郵便番号、住所、氏名を記載します。

請求債権目録

請求する債権(養育費)の内容を、債務名義を確認しながら記載します。

債務名義の種類によって記載内容が異なるため、注意してください。

差押債権目録

強制執行を請求する相手方の財産を記載します。

給与の差押えを請求する場合は勤務先の情報、預貯金口座を差し押さえる場合は相手方の預貯金口座の情報(金融機関名、名義人、種別、口座番号)を記載し、裏付け資料を添付します。

裏付け資料としては、相手方の勤務先の登記簿謄本(給与差押えの場合)や住民票などが考えられますが、差し押さえる内容によって異なります。

債務名義

裁判離婚の場合は判決書、和解調書、認諾調書、調停離婚の場合は調停調書、調停や審判で養育費を取り決めた場合は調停調書や審判書が債務名義です。

協議離婚時に離婚協議書を公正証書で作成(執行認諾文言付き)した場合、その公正証書も債務名義となります。

債務名義の送達証明書

強制執行の準備として債務名義の送達証明申請を行い、債務名義の正本または謄本が相手方に送達されると、送達証明書が届きます。

この送達証明書を強制執行の申立て時に添付資料として提出します。

差押え命令

申し立てを受理した裁判所は、第三債務者と相手方(債務者)に対する債権差押命令正本を送達します。

そして、債権差押命令正本の送達が完了すると、強制執行を請求した人(債権者)に対して送達通知を送付します。

送付時期は、第三債務者と債務者に対する送達が支障なくいけば申立ての日から約2週間後ですが、支障があると数ヶ月かかることもあり、不送達となった場合はその旨が連絡されます。

養育費(債権)の取り立て

相手方に債権差押命令正本が送達された日から1週間が経過すると、債権者が差押債権を取り立てることができるようになります。

債権差押命令正本の送達通知を確認した上で、第三債務者に連絡し、取り立て方法を確認して取り立てを行います。

「裁判所が取り立ててくれるのではないの。」と思っている人が多いですが、強制執行を請求した人が自分で連絡を取り、具体的な取り立て方法を調整しなければなりません。

通常は、振込口座を指定して、毎月、指定した日に養育費相当額を振り込んでもらう方法で取り立てを行います。

預貯金口座の差押えは空振りに終わることがある

繰り返しになりますが、預貯金口座の差押えは、「差押をした時点で預貯金口座に入っていた金額」が対象となります。

したがって、差押時点で相手方の預貯金口座にまとまった金額が入っていれば養育費を取り立てることができますが、残高が0または少額だった場合、取り立てができずに終わります。

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離婚ハンドブック編集部

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家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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