面会交流拒否に伴う3つのリスク(強制執行、慰謝料請求、親権者変更)

欧米諸国では、親の離婚を経験した子どもが健全な成長を遂げるには、父母の両方が離婚後も子どもに関わり続けることが重要だと考えられており、離婚後共同親権に移行したり、非監護親の面会交流権が確保されたりしています。

日本では、離婚後単独親権制が採用されたままですが、離婚後共同親権を求める声が大きくなりつつあり、面会交流の重要性も認識されるようになってきています。

家庭裁判所も、原則として、面会交流を実施するという方針を示しており、調停・審判・訴訟では禁止・制限すべき特段の事情がない限り面会交流を実施する方向で協議が進行され、面会交流を認める判断が出されます。

そして、家庭裁判所の手続きで取り決めた面会交流に応じない場合、強制執行や慰謝料請求を受けたり、親権者変更を求められたりすることになります。

面会交流を拒否した場合の3つのリスク

監護親が家庭裁判所で取り決めた面会交流を拒否した場合、大きく3つのリスクがあります。

  • 強制執行(間接強制)
  • 慰謝料請求
  • 親権者変更

強制執行(間接強制)

強制執行とは、調停や審判で取り決めた約束が守られない場合に、債権者の申立てによって、債務者に対する請求権を裁判所が強制的に実現する手続きです。

家事事件で取り決めた内容について利用できる強制執行の種類は、大きく分けると直接強制と間接強制の2つあります。

直接強制調停や審判で取り決めた約束を債務者が守らない場合に、給与、預貯金、動産、不動産の差し押さえなど直接的に債務者の財産に実力を加えて、債務の履行があったのと同じ状態にする

例:養育費不払いの場合の給与債権の差し押さえなど

間接強制調停や審判で取り決めた約束を債務者が守らない場合に、裁判所が債務者に対して「一定期間内に履行しないときは、債務履行の確保のために相当と認めた一定の制裁金を支払え」という趣旨の命令を発し、心理的に強制して履行させる

例:子の引渡しに応じない債務者に対し、「一定期間内に子どもを引き渡さない場合は、月〇〇万円を支払え。」と強制するなど

面会交流の場合、調停や審判で面会交流を取り決めたのに監護親が応じない、取り決めた条件で面会交流が実施されないなどの場合に、強制執行手続きを利用することができます。

ただし、面会交流で認められているのは間接強制だけです。

調停や審判の取決めに違反して面会交流を実施しない監護親に対し、制裁金の支払いを命じて心理的圧力をかけることにより、面会交流の実施を間接的に強制するのです。

例えば、面会交流を1期日実施しないごとに10万円の制裁金の支払いを命じる間接強制が行われます。

間接強制が出されたにも関わらず面会交流を拒否した場合、制裁金の支払義務が発生します。

制裁金の支払いは金銭債務なので、給料や預貯金の差し押さえなどの直接強制を受けるおそれがあります。

面会交流の間接強制の制裁金の金額

面会交流の間接強制の制裁金の金額は、面会交流を1期日拒否するごとに10万円程度と設定されるのが一般的です。

制裁金を課すことで心理的に面会交流の履行を間接的に強制する手続きである以上、債務者が無理なく支払うことができる金額では意味がありません。

実際のところ、以前は制裁金を支払い続けて面会交流を拒否し続けるケースも散見され、問題となっていました。

そのため、近年は制裁金の金額が高額に設定されるケースが多くなり、債務者の資力によっては100万円以上の制裁金が課せられるケースも増えています。

面会交流で直接強制が認められない理由

面会交流で直接強制をするということは、執行官が監護親のところへ子どもを引き取りに行き、監護親の反対を押し切って子どもを非監護親の元まで連れて行き、面会交流をさせるということです。

執行官が強制的に子どもと監護親を引き離し、非監護親との面会交流を強制するという行為が、子どもに強烈な恐怖と不安を与えることは想像に難くないでしょう。

面会交流の許否は、取決めを守らないという点では養育費などの金銭債権と同じですが、子どものことを考えると直接強制には馴染まないのです。

慰謝料請求

慰謝料とは、不法行為によって精神的苦痛を与えた他人に対して支払う損害賠償金です。

調停や審判で取り決めた面会交流を拒否すると、非監護親から「子どもと会えないことによって精神的な苦痛を受けた。」という理由で慰謝料を請求されるおそれもあります。

一般的には「面会交流を拒否するなら養育費は支払わない。」という面会交流と養育費をバーターにする主張が多いですが、「子どもに会わせる約束をしたのに会わせないのなら、訴えてやる。」という主張も増えています。

面会交流拒否による慰謝料の相場

実務上、面会交流の拒否を理由として慰謝料請求を求める場合、100~200万円程度の慰謝料を請求しますが、認められるのは数十万円~100万円程度であることが多いです。

判例を確認すると、平成28年12月27日、熊本地方裁判所が、面会交流を拒否する母親に対して70万円、母親の再婚相手(調停段階で面会交流の連絡役になることに合意していた)に母親と連帯して30万円の支払いを命じる判決を出しています。

このケースでは、熊本県内に住む父親(40代)が、離婚後に離れて暮らすことになった長男(当時12歳)との面会交流を求めて熊本家庭裁判所に調停を申し立て、母親(元妻)の再婚相手を連絡役として面会交流を実施する内容で調停が成立しました。

しかし、母親が「体調不良」や「再婚相手と長男の父子関係構築」などを理由に面会に応じず、約3年5ヶ月間にわたって面会交流が実現しないままとなり、父親が「実現しないのは、母親(元妻)とその再婚相手の拒否しているためである。」と主張して、2人に対して慰謝料を請求する訴訟を提起するに至りました。

判決では、母親とその再婚相手の主張を「面会交流の日程調整を拒否することを正当化できるものではない。」と指摘し、約3年5ヶ月にわたって長男と交流できなかった父親の精神的苦痛が相当に大きいことを認めて、慰謝料の支払いを命じています。

慰謝料の金額は実務上の感覚とほぼ一致しますが、連絡調整役になることを合意した再婚相手の賠償責任も認めているところは注目すべきでしょう。

離婚協議書や離婚公正証書を作成した場合

家庭裁判所の手続き(調停、審判、訴訟)ではなく、夫婦間の話し合いで面会交流を取り決めて離婚協議書や離婚公正証書(離婚協議書の内容を公正証書にしたもの)を作成した場合でも、慰謝料を請求することができます。

慰謝料請求訴訟は、強制執行と違って債務名義を必要としないため、夫婦間で面会交流を取り決めた事実を明らかにできれば請求できるのです。

慰謝料請求訴訟が提起された後に面会交流に応じた場合

面会交流の許否を理由に慰謝料請求訴訟を起こされたことをきっかけとして、面会交流に応じるケースもあります。

しかし、訴訟提起後に面会交流に応じたとしても、非監護親が「面会交流拒否によって受けた精神的苦痛」がなくなるわけではありません。

そのため、過去に面会交流を拒否した事実があり、それによって非監護親が精神的苦痛を受けたと主張すれば、慰謝料が認められる可能性があります。

この点は、面会交流に応じれば制裁金の支払いをせずに済む間接強制と異なるところです。

親権者変更

離婚後単独親権制が採用されている日本では、離婚時に子どもの親権者を父母のいずれかに決めなければなりません。

そして、離婚時に決めた親権者を離婚後に変更するには、家庭裁判所に親権者変更の調停または審判を申し立てる必要があります。

原則として、親権者変更事件で親権者を変更するには、調停の場合は父母の合意が、審判の場合は親権者変更が「子の利益(子の福祉)」にかなうと認められることが必要です。

近年、監護親が面会交流を拒否したことを理由として非監護親から申し立てられた親権者変更事件について、家庭裁判所が親権者変更を認める審判を出すケースが出てきています。

平成26年12月4日に出された福岡家庭裁判所の審判もその一つです。

このケースでは、非監護親である父親(40代)が、監護親である母親が長男との面会交流を拒否したことを理由に親権者変更を求め、家庭裁判所が、父子関係が良好であったこと、父子の円滑な面会交流を実現するには親権者変更以外に方法がないことを理由として、長男の親権者を母親から父親に変更する判断を示しました。

フレンドリーペアレントルールに基づく判例

離婚時に子どもの親権者を指定する際にも、面会交流がポイントとなることがあります。

例えば、千葉家庭裁判所は、2016年3月29日、フレンドリーペアレントルールに基づいて、長女が両親の愛情を受けて健全な成長を遂げるためには、長女の親権者を非監護親である父親とすることが相当であるという判断を示しました。

フレンドリーペアレントルールとは、元配偶者とより寛容かつ友好的な関係を維持できる親を親権者として優先するという基準です。

千葉糧裁判所のケースでは、子連れ別居した母親が、別居後の約5年10ヶ月の間に6回程度しか父子の面会交流に応じず、今後も月1回程度の交流を希望したのに対し、父親が「緊密な親子関係の継続」を重視し、年間100日に及ぶ母子の面会交流を実施する計画を提示していました。

結果、家庭裁判所は、監護の継続性よりも、父親の「年間100日に及ぶ面会交流の予定」などを重視し、父親を親権者とする判断を下しています。

控訴審では監護の継続性が重視されて母親が親権者に指定され、最高裁が審理すべき事由なしで上告を退けたため、母親が親権者となって事件は終局しています。

しかし、近年の離婚後共同親権を目指す動きや、子の利益(子の福祉)のために面会交流を重視する傾向を踏まえると、今後も同様の判断が示されるケースが出てくると予想されます。

関連記事

フレンドリーペアレントルールとは?最高裁の判例と欧米の状況は?

面会交流を拒否できる事情

面会交流は実施するのが原則ですが、以下のような禁止・制限事由があることが明らかな場合は、例外的に面会交流を拒否できることがあります。

  • 非監護親による子どもの虐待があった場合
  • 非監護親から監護親に対する暴力があった場合(特に、子どもの面前で行われていた場合)
  • 面会交流中に、非監護親が子どもを連れ去るおそれが強い場合

また、15歳以上の子どもが非監護親との面会交流を明確に拒否した場合も、交流を制限または中断することになります。

ただし、面会交流の許否が認められたとしても、永久に面会交流を実施しなくて良いわけではなく、面会交流を禁止または制限する事情が改善・解消すれば、面会交流の再開を検討しなければなりません。

また、子どもが面会交流を拒否している場合、監護親の言動や態度が子どもの許否の原因となっていることがあります。

例えば、監護親が子どもに対して非監護親の悪口を言ったり、離婚を非監護親のせいにしたりした場合、子どもは非監護親に対して否定的な気持ちを抱くようになり、面会交流を拒否するようになることがあります。

いわゆる「片親引き離し症候群」や「片親疎外」と呼ばれる現象であり、こうした現象が見られる場合、監護親の親権者としての適格性を問われ、非監護親が親権者変更を求める事情の変更ともなり得ます。

関連記事

片親引き離し症候群と片親疎外とは?子供の症状と治療法は?

>>>「面会交流」の記事一覧に戻る

アバター

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

この著者の最新の記事

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権
    離婚後単独親権に対する問題提起や批判は以前からありましたが、近年、欧米諸国などで採用されている離婚後…
  2. 専業主婦 離婚 準備
    「専業主婦(主夫)だけど離婚したい。でも、離婚後の生活が不安。」、「離婚したいが、専業主婦は離婚後に…
  3. 離婚協議書 公正証書
    協議離婚する場合、離婚することと諸条件について夫婦で話し合い、合意した内容を離婚合意書にまとめた上で…
  4. 離婚調停 相手方 準備
    「ある日突然、見知らぬ住所と差出人の名前が書かれた茶封筒が自宅のポストに届き、中を開けてみると「調停…
  5. 弁護士会照会制度
    離婚紛争を弁護士に依頼すると高額な費用がかかりますが、依頼によって得られるメリットもあります。 …
  6. モラハラ 離婚
    配偶者のモラハラ(モラルハラスメント)を理由に離婚したいと考える人は少なくありません。 しかし…
  7. 離婚調停 成立 調停条項
    離婚調停は、夫婦間で離婚やそれに伴う条件面の合意ができると調停調書が作成され、調停が成立します。 …
  8. 養育費 強制執行 手続き 流れ
    夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合の対応には、履行勧告、履行命令、強制執行があります。 …
  9. 離婚 弁護士費用 相場
    離婚問題を弁護士に依頼する場合にトラブルになりやすいのが、弁護士費用です。 「離婚 弁護士費用…
  10. 離婚調停 弁護士
    「離婚調停で弁護士は必要か」と聞かれたら、弁護士の立場からは「必要です。ぜひご依頼ください!」と答え…

スポンサーリンク

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権

    選択的共同親権とは?法務省が検討する「離婚後の親権の選択制」の意味

  2. 専業主婦 離婚 準備

    専業主婦の離婚準備:仕事と生活費、親権や年金について分かりやすく解説

  3. 離婚協議書 公正証書

    離婚協議書の書き方:自分で作成する方法と公正証書の作り方(雛型付)

  4. 離婚調停 相手方 準備

    離婚調停の相手方が第1回期日までに準備すること(調停を申し立てられた人用)

ページ上部へ戻る