モラハラと離婚:モラルハラスメントでモラハラ夫・妻に離婚や慰謝料請求する方法
- 離婚
最終更新日: 2019.11.14
配偶者のモラハラ(モラルハラスメント)を理由に離婚したいと考える人は少なくありません。
しかし、夫婦の合意で離婚が成立する協議離婚や調停離婚ならともかく、裁判で離婚する場合やモラハラを理由に慰謝料請求する場合は、モラハラの意味を理解して適切な準備をしなければなりません。
モラハラ(モラルハラスメント)とは
モラルハラスメントとは、身体的暴力を伴わない、精神的な暴力や嫌がらせを意味する言葉です。
モラル(moral、道徳)とハラスメント(harassment、嫌がらせ)をつなげた「モラルハラスメント」という単語の略称であり、直訳すると「道徳による嫌がらせ」です。
モラハラに当てはまる行動
モラハラは、一般的には、相手の身体ではなく「心」を傷つける言動や態度という意味で用いられます。
しかし、人によってモラハラの基準が異なるため、「モラハラを受けていた。」と説明しても、相手に具体的な事情が伝わらなかったり、相手が知っているモラハラに置き換えて理解されたりします。
以下、離婚の手続きでモラハラとされる具体的な行動を挙げていきます。
配偶者を貶める(おとしめる)言葉を吐く
モラハラの代表的な行動が、配偶者を貶める言葉を吐くことです。
例えば、「お前はどうしようもない馬鹿だ。」、「何のとりえもないのに偉そうに。」、「専業主婦のくせに料理も間ともに作れないのか。」などとを暴言を吐きます。
暴言を聞かされ続けた配偶者は自尊心や自信を失い、自分が暴言の内容どおりの人間だと思い込んでしまいます。
配偶者を責める言葉を吐く
モラハラ加害者は、自分のことは棚上げして配偶者を責めます。
例えば、ゴミ出しの日を間違えると「曜日も覚えられないのか。」と責め、頼まれた物を買い忘れると「お使いも満足にできないのか。」と責めて、場合によっては何時間、何日にもわたって責め続けることもあります。
気分が悪くてつい身近な人に八つ当たりしてしまうことは誰でもありますが、モラハラの場合、責める言葉が日常的に繰り返されます。
配偶者を否定し続ける
配偶者が何をしても否定することもモラハラに当てはまります。
例えば、誕生日プレゼントをもらっても「専業主婦のくせに、俺が稼いだ金で高価な物を買いやがって。」と否定し、疲れているだろうと思って家事をこなしても「子どもの手伝いの方がましだ。」と否定します。
また、配偶者が他人から評価されたり褒められたりした話を聞くと、「単なるお世辞で喜ぶ馬鹿がいるか。」、「(評価者の)レベルが低い。」などと躍起になって否定することもあります。
配偶者を束縛する
相手を思うあまり束縛してしまうことは、常識の範囲内であれば問題はありません。
しかし、モラハラ加害者による束縛は、異常と言えるほど強いものです。
例えば、メールの返事がないと何百通もメールを送り続ける、電話に応答しないと会社まで駆けつける、在宅確認のため日中に何度も自宅電話を鳴らす、配偶者のスケジュールを細かく決めて守らせるなどして束縛しようとします。
また、里帰りや親族と会うことを嫌がり、きょうだいの結婚式や親の葬儀への出席も許可しないということもあります。
正しいのは常に自分だと言い張る
自分が間違っていることが客観的に明らかでも、「お前が悪い。」と言い張るのもモラハラ加害者の特徴です。
夫婦だけの場面では、正しいのは常に自分だと主張して絶対に間違いを認めず、誤ることはまずありません。
第三者がいる場面で配偶者から間違いを指摘されると、表面的に間違いを認めることはありますが、夫婦だけになると怒り狂って暴言を吐き、正しいのは自分だったと主張を翻して配偶者が認めるまで折れません。
感情の起伏が激しい
感情の起伏の激しさも、モラハラ加害者の特徴の一つです。
怒りや悲しみなどネガティブな感情の変化が急に起こりやすく、本人がはっきりした理由を自覚できていないこともあります。
些細なことで怒りを爆発させたり泣き出したりするため、配偶者は困惑しますし、いつ気分が分からず不安を感じながら過ごすことになります。
外面(そとづら)が良く、平気で嘘をつく
モラハラ加害者は、家庭内における配偶者への態度とは対照的に外面が良く、平気で嘘をつきます。
例えば、家庭では配偶者にワンオペを強いているにも関わらず、親族が集まる場で「妻は家事が苦手で、私がいないと家が回らないんです。」などと嘘をつき、その発言を周囲の人が鵜呑みにします。
結果、モラハラの被害者が、嘘に騙された周囲の人から厳しく評価され、弁解しても聞き入れてもらえず、つらい立場に追いやられます。
モラハラとパワハラの違い
モラハラと似た単語にパワハラがあります。
パワハラとは、パワーハラスメント(power harassment)の略称です。
厚生労働省は、職場におけるパワハラを定義するとともに、6つに類型化しています。
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為
- 身体的な攻撃:暴行・傷害
- 精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
- 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
- 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
- 過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
- 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
引用:厚生労働省
モラハラは、「身体的攻撃は含まない」、「ハラスメントが行われる場所が職場に限定されない。」、「職務上の地位などを背景としていない」、「夫婦間(または親子間に起こりやすい)」という点で、パワハラとは異なります。
モラハラと保護命令
保護命令とは、配偶者から身体的暴力を受けたり脅迫を受けたりした人が、配偶者の暴力により生命や身体に重大な危害を受けるおそれがある場合に、被害者の申立てを受けた裁判所が配偶者に発する命令です。
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下「DV禁止法」という。)第1条は、配偶者からの暴力を2つに分類しています。
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モラハラは、心を傷つける精神的な暴力として「これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」に当てはまると指摘する弁護士もいます。
しかし、裁判所の実務では、モラハラに加えて身体的暴力や生命などに関する脅迫があった場合に保護命令を認める運用です。
モラハラと離婚
モラハラを理由に離婚する場合、通常の離婚と同様、まず協議離婚を目指し、困難な場合に調停離婚、裁判離婚と手続きを進めることになります。
モラハラと協議離婚
協議離婚では、離婚の理由は問われず、夫婦が合意すれば離婚することができます。
したがって、離婚したい理由がモラハラであっても、配偶者が合意し、離婚届が受理されれば離婚が成立します。
協議離婚の注意点
モラハラ加害者と夫婦だけで離婚協議をすると、「誰のおかげで今まで生活できたと思っているのか。」、「恩をあだで返しやがって。」などと暴言を吐かれ、さらに追い詰められてしまうことが多いものです。
また、離婚を突きつけられて逆上したモラハラ加害者から暴力を振るわれるおそれもあります。
従前の夫婦関係からモラハラや暴力を受けるおそれがある場合、夫婦だけで話し合うのを避けるとともに、今後のモラハラ被害を避けるために別居をすることが大切です。
モラハラと離婚調停
離婚協議がまとまらない場合、夫婦だけで協議できない場合、協議すべきではない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚調停では、調停委員会を交えて離婚やそれに伴う諸条件を話し合いますが、モラハラ加害者がモラハラを否定したり、離婚に応じない意向を示したりして調停が難航するケースが少なくありません。
そのため、別居している場合は、婚姻費用分担調停も同時に申し立てておくと、離婚調停が難航しても、別途、婚姻費用の手続きを進めることができます。
調停離婚の注意点
調停離婚では、離婚を決意させたモラハラ被害の内容について、調停委員会が理解しやすいように説明することが大切です。
近年、モラハラという単語は社会に浸透しましたが、世相に疎い調停委員がモラハラ自体を知らないおそれがありますし、当事者の主張したいように理解してくれるとは限らないためです。
ポイントは、「5W1H(Who(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、 How(どのように))」で事実を淡々と具体的に伝えることです。
例えば、「夫が私を見下した発言をする」ではなく、「大卒の自分と比較して高卒の私を馬鹿にする」、「ことあるごとに、私がひとり親家庭で育ったから学がないと口にする」などと説明します。
モラハラが起こる頻度や回数も加えて説明すると、調停委員の中で信ぴょう性が高まります。
調停委員がピンと来ていないようであれば、別の例を挙げて説明することが大切です。
調停委員は一人ひとり感性や言語理解力が異なりますし、性別による差も大きいため、複数の場面を説明した方がより理解させることができます。
また、モラハラの主張を単なる夫婦喧嘩だと受け取られないための工夫も求められます。
調停委員に夫婦喧嘩と受け取られると、「お互い興奮した状態で言ったことだから、多少は仕方ないのではないか。」と思われ、モラハラにより夫婦関係が破たんしたという主張に疑問を持たれてしまいます。
「ただの夫婦喧嘩なのに調停まで申し立てられて。」というモラハラ加害者の主張を鵜呑みにされ、「夫婦喧嘩はどの家庭でもあるのだから、思い直してはどうか。」と夫婦関係修復を働きかけられることもあります。
そのため、以下のポイントを強調しながら、「モラハラが社会的に許されないこと」や、「配偶者の発言の異常性」を主張することが重要です。
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モラハラと離婚裁判
離婚訴訟では、民法第770条第1項に定められた法定離婚事由が存在することを裁判所に認めさせないと、離婚できません。
夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
(民法第770条第1項)
モラハラという法定離婚事由は存在せず、通常は、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」を主張して離婚を請求します。
離婚裁判の注意点
離婚裁判では、当事者の主張を裏付ける証拠が重要な意味を持ちます。
したがって、モラハラを理由に離婚を主張する場合、モラハラに関する客観的な資料を揃えておくことが大切です。
証拠 | 具体例 |
録音・録画 | モラハラ場面の音声や画像の録音・録画 例:暴言や説教の場面、粗暴な行動の場面など |
メールなど | 配偶者とやりとりしたメールなどのデータ 例:モラハラの文言が含まれるメール、LINE、SNSのデータ、スクリーンショット、写真など |
書類 | 配偶者が作成したモラハラに関する書類 例:誓約書、スケジュール票など |
日記 | モラハラ被害を記録したもの 例:モラハラの日時、場所、内容を示した日記など |
診断書 | モラハラによる精神的被害を理由に受診した場合の診断書 例:心療内科や精神科の診断書など |
相談履歴 | モラハラの相談先で交付された書類 例:法律相談の相談票など |
モラハラと慰謝料
モラハラを理由として慰謝料請求する場合、モラハラの客観的証拠を提出する必要があります。
証拠資料は、離婚裁判で提出する資料と同じです。
モラハラの慰謝料の金額は、モラハラの内容と証拠の量や質で決まります。
例えば、「週の半分は何らかの理由で説教され、長いと夕食時から翌朝未明まで暴言を吐かれ続けた」と主張し、過去1年分の録音データ、日記、モラハラによりうつ病を発症した旨が記載された診断書を提出した場合、相応の慰謝料が認められる可能性があります。
なお、モラハラによる慰謝料の一般的な相場は50~300万円とされています。
しかし、あくまで証拠が十分に揃っていた場合の相場であり、実際のところ、客観的にモラハラが認められるだけの証拠が十分に揃えられず、慰謝料が認められないケースの方が多くなっています。
「弁護士に依頼すれば、モラハラでも高額の慰謝料が取得できる。」というのは誤りで、相場以上の慰謝料が得られることはまずなく、通常は、「慰謝料が得られない」または「得た慰謝料の大半が弁護士費用で消える」ことになります。
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