物盗られ妄想とは?認知症の妄想の原因、症状、対応・治療は?

物盗られ妄想

物盗られ妄想は、認知症の代表的な周辺症状(BPSD)の一つです。

現金や貴金属など大事な物を誰かに盗まれたと主張し、家族を困惑させたり、家族関係を悪化させたりする原因になりやすい症状です。

この記事では、物盗られ妄想の原因、症状、対応について解説します。

物盗られ妄想とは

物盗られ妄想とは、認知症の周辺症状(BPSD)の一つで、客観的な事実や根拠がないにも関わらず大事な物が盗まれたと訴える症状です。

認知症の人によく見られる被害妄想で、現金、貴金属、預貯金通帳などの財産や実印、鍵など大事な物が見当たらない時に、盗まれてしまったと思い込んで他人を疑います。

多くの場合、本人が自分でしまい込んだり置き忘れたりしているのですが、自分の行動を忘れて「誰かに盗まれた」と他人のせいにしてしまいます。

妄想とは

妄想とは、事実とは異なることを真実だと確信し、訂正がきかない思い込みや誤った信念のことです。

家族など周囲の人が客観的な事実や根拠を示しても、訂正することができません。

物忘れ妄想でも、家族がいくら客観的な事実や根拠を示して説明しても本人の考えが変わることはなく、かえって思い込みを強めてしまいます。

認知症による妄想は、妄想の対象が身近な人であることが多く、思い込みの内容が頻繁に変わり、過去のエピソードに関連しているという特徴があります。

統合失調症でも妄想症状が現れますが、思い込みの内容が固定している点が認知症の妄想とは異なります。

物忘れ妄想の対象になりやすい人

本人が物忘れ妄想を抱いて「大事な物を盗んだ。」と疑いの目を向ける対象の多くは、本人の介護に従事してきた家族など身近な人です。

特に、同居している息子・娘・息子の妻、日常的に出入りしているヘルパー、居住している施設の職員など、本人が日常生活の中で頻繁に顔を合わせ、お世話をしてもらっている人が対象になりやすいものです。

物忘れ妄想と物忘れ(置き忘れ)の違い

私たちは、加齢により物忘れが増えていきます。

例えば、年齢を重ねるにつれて「財布を置いた場所が思い出せない。」、「カバンを置き忘れた。」などの置き忘れが増加します。

加齢による物忘れは、「物がなくなる」という状況は物忘れ妄想と共通していますが、本人が「忘れたことを自覚」しています。

つまり、置き忘れの例でいうと、「自分が物をどこかに置き忘れた」ことを覚えているため、他人のせいにすることはありません。

一方の物忘れ妄想は、記憶障害の影響で「自分が置き忘れた(なくした、しまい込んだなど)」という自覚がないため、「物がない=誰かに盗まれた」と思い込んでしまいます。

認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)

認知症の症状には中核症状と周辺症状(BPSD)があり、物忘れ妄想は周辺症状(BPSD)に分類されています。

中核症状とは、認知症患者なら誰にでも現れる進行性の症状です。

記憶障害、見当識障害、理解や判断力の障害、実行機能障害、失行・失語・失認識など、日常生活に必要な認知機能が低下します。

周辺症状とは、中核症状や本人の性格、成育歴、生活環境などに起因する症状です。

英語表記「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字をとってBPSDと呼ばれることもあります。

徘徊、抑うつ、せん妄、暴言・暴力、無気力、睡眠障害、介護の拒否など幅広い症状がありますが、人によって現れる症状が異なります。

また、単一の症状のみが現れることは稀で、通常は複数の症状が同時に現れます。

本人を介護する家族にとっては、中核症状よりも周辺症状に悩まされる人が多くなっています。

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物盗られ妄想の原因

物盗られ妄想の原因は、記憶障害と思考力の低下です。

物盗られ妄想の原因:記憶障害

認知症の人は、記憶障害によって記銘(刺激を情報として脳にインプットすること)ができなくなり、少し前の自分の行動や経験を覚えていられなくなります。

そのため、自分で大事な物をどこかに置いたこと自体を忘れてしまいます。

物盗られ妄想の原因:思考力の低下

認知症を発症すると、物事を理解し、考えて判断する力が低下します。

記憶障害により自分で大事な物をしまい込んだことを忘れ、大事な物がないという状況で身近な人が目に入ると、「大事な物がない=目に入った人が盗んだに違いない」と短絡的に考えてしまうことがあります。

通常は、「証拠もないのに疑ったら関係性が悪くなる。」、「お世話になっているし、証拠もないから黙っておこう。」などと考えますが、認知症の影響で思考力が低下していると、思ったことをすぐ口に出してしまいます。

そして、相手が否定したり怒ったりする様子を見て、「慌てているから犯人に違いない。」などと思い込みを強めます。

物盗られ妄想の原因:不安

転居、施設入所、ヘルパーによる介助や介護、家族の死亡、預貯金の現象など、本人は日常生活における様々なことに不安を感じています。

しかし、不安を和らげたり、周囲の人に伝えたりする力が低下しており、何かと自分の内に抱え込んでしまいがちです。

その結果、物事を否定的に受け止めがちになり、何か問題があると強い不安を抱えきれなくなって、身近な人に八つ当たり的にぶつけてしまうのです。

物盗られ妄想の対応

物盗られ妄想が起こった時の対応は、以下のとおりです。

  • 本人の主張を落ち着いて聞き、共感する
  • 本人の注意を他に向ける
  • 本人の不安を和らげる
  • 医師の診察を受ける

本人の主張を落ち着いて聞き、共感する

物盗られ妄想によって本人から疑いの目を向けられると、とてもつらい気持ちになり、本人に対する怒りや不満を抱くことも珍しくありません。

本人の主張を否定したり、疑われたことへの怒りをぶつけたりしたいと思うこともあるでしょう。

しかし、否定しても本人が納得することはなく、感情をぶつけても何の解決にもなりません。

まずは、本人の主張をしっかり聞き、共感してあげることが大切です。

肯定することも否定することもなく、「大変でしたね。」などと声をかけ、本人が感じている気持ちに寄り添ってあげるのです。

その上で、本人と一緒になくなった物を探します。

見つかった場合は、「見つかって良かったですね。」などと声をかけ、本人を否定したり、「誰が隠したんでしょうね。」などと本人の主張に沿ったことを言ったりしないようにしましょう。

本人の注意を他に向ける

物盗られ妄想が出ている間は、「大事な物を盗まれた」という思い込みによって興奮していることが多く、いかに落ち着かせてあげるかが重要になります。

本人の主張を聞いて気持ちに共感した上で、一緒になくなった物を探しながら会話を続け、本人の注意を他のことに向けてあげましょう。

例えば、窓の外を見て「今日は天気が良いから散歩に行ってみましょうか。」などと声をかけ、家の外に連れ出す方法が考えられます。

本人の不安を和らげる

物盗られ妄想は、本人の不安が原因で起こることが多いと考えられています。

本人が落ち着いている時に、日常生活における不安を聴き取り、不安を和らげられるような対応をしてあげると、物忘れ妄想が消失することがあります。

また、家族構成の変化、居住環境の変化、ヘルパーの出入り、ケガなどによる身体機能の低下などは、物忘れ妄想のきっかけとなりやすいため、本人の希望をできる限り尊重して対応し、物忘れ妄想を予防することも大切です。

医師の診察を受ける

認知症の初期段階で認知症と診断されることで、薬物療法や非薬物療法(リハビリテーション療法)によって症状が改善することがあります。

物盗られ妄想が始まった場合は、早期に医療機関を受診させてあげましょう。

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