内縁・事実婚の男女から生まれた子供の戸籍と苗字:認知で嫡出子になる?
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最終更新日: 2019.09.3
近年、内縁(事実婚)関係を選択する男女が増えていますが、その多くが直面する問題が子供のことです。
内縁関係にある男女の間に生まれた子供は非嫡出子と呼ばれ、法律上の婚姻をした夫婦の間に生まれた嫡出子とは戸籍や苗字などが違います。
内縁関係が破綻した場合に誰が子供を育てるかを決める場合にも、法律婚の夫婦とは違った難しさがあります。
内縁・事実婚関係を選択するのは男女の自由ですが、子供をもうける場合は子供への影響をしっかりと考えておかないと、親も子供も悩み苦しむことになってしまいます。
この記事では、内縁・事実婚の男女から生まれた子供の地位や戸籍・苗字の問題について解説します。
目次
内縁・事実婚関係の男女の間に生まれた子供は「非嫡出子」
内縁・事実婚関係にある男女の間に生まれた子供は、非嫡出子と呼ばれます。
民法では、親が法律上の婚姻関係にあるかどうかによって、子供の身分を2つに分けています。
子供の身分 | 親の関係 |
嫡出子 | 法律上の婚姻関係にある |
非嫡出子 | 内縁・事実婚関係にある(法律上は未婚) |
子供は、親が婚姻しているかどうかを選ぶことはできません。
しかし、親が法律上の婚姻をしているかどうかによって、生まれつき、法律上の地位や戸籍・苗字に違いが生じるのです。
嫡出子と非嫡出子の違い(戸籍や苗字)
嫡出子と非嫡出子の主な違いを一覧表にまとめました。
項目 | 嫡出子 | 非嫡出子 |
戸籍 | ・夫婦の戸籍に入籍 ・父母欄に父母の氏名が記載 | ・母親を筆頭者として作られた新しい戸籍に入籍 ・母欄に母の氏名が記載されるが、父欄は空欄※ ※父が認知すると父の氏名が記載 |
苗字 | ・父母の苗字を名乗る | ・母の苗字を名乗る |
親権 | ・父母の共同親権 | 母の単独親権※ ※父が認知し、父母の協議で父を親権者と定めた場合は父の単独親権 |
相続権 | ・あり | ・なし※ ※父が認知した場合、相続権が発生 |
相続分 | ・法定相続分 | ・嫡出子と同じ※ ※平成25年9月5日以降 |
扶養義務 | ・あり | ・なし※ ※父が認知した場合、扶養義務が発生 |
非嫡出子については、関連記事でも詳しく解説しています。
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内縁・事実婚の男女から生まれた子供の戸籍
法律上の婚姻をした夫婦の間に子供が生まれた場合、その子供は生まれながらに嫡出子の地位を持っています。
子供の出生届を提出すると、その子供が夫婦の戸籍に記載され、子供の続柄欄には「長男・長女」、「二男・二女」などと筆頭者から見た続柄が記載されます。
- 子供が入籍する戸籍:父母の戸籍
- 続柄欄:長男・長女など
- 父母欄:父母の氏名が記載される
一方で、内縁・事実婚関係にある夫婦の間に子供が生まれた場合、その子供は非嫡出子です。
子供の出生届を提出すると、母親を筆頭者とする新しい戸籍が作成され、生まれた子供は新しくできた母親の戸籍に入籍することになります。
続柄欄には、戸籍筆頭者である母親から見た続柄が「長男・長女」などと記載されます。
子供の父母欄には、母親の氏名が記載されますが、父親の氏名は空欄のままです。
母親が子供の父親と内縁・事実婚関係を継続していても、そのままでは父子関係を証明することができないので、戸籍に父親の氏名が記載されることはありません。
- 子供が入籍する戸籍:母の戸籍
- 続柄欄:長男・長女など
- 父母欄:母の氏名だけが記載される(父は空欄)
以前は、嫡出ではない子供の出生届が提出されると、戸籍の続柄欄に「男」または「女」と記載されており、嫡出子と区別されていました。
しかし、平成16年に戸籍制度が改正され、嫡出でない子供についても「長男・長女」などと嫡出子と同じ記載がされるようになりました。
内縁・事実婚の男女から生まれた子供の苗字
法律婚の夫婦から生まれた子供(嫡出子)は、民法第790条第1項の規定により、父母の苗字を名乗ることになります。
嫡出である子は、父母の氏を称する。ただし、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する。
(民法第790条第1項)
一方で、内縁・事実婚関係の男女から生まれた子供(非嫡出子)は、同条第2項の規定により、母の苗字を名乗ります。
嫡出でない子は、母の氏を称する。
(民法第790条第2項)
男女が法律上の結婚をしない限り、男女の苗字が同じになることはなく、子供も父親と同じ苗字になることはありません。
ただし、通称として父親の苗字を名乗る家庭は一定数います。
現在の日本の民法では、婚姻した夫婦の別姓は認められていません。
そのため、法律上の婚姻によって夫婦同姓になることを避け、夫婦別姓を維持するために内縁・事実婚を選択する男女もいます。
非嫡出子が嫡出子の身分を得る方法は「認知+婚姻」と「養子縁組」の2つ
内縁・事実婚関係にある男女の間に生まれた子供は、戸籍や苗字の取り扱いが嫡出子と異なることは、すでに解説したとおりです。
子供が小さいうちはそれほど影響がありませんが、子供が成長するにつれて、父親と戸籍や苗字が異なることの影響が大きくなっていきます。
例えば、父親と苗字が違うことを子供が気にしたり、何かの機会に学校でも知られて友だちに嫌がらせを受けたりすることがあります。
また、大きくなった子供が自分の戸籍を見て、父親欄が空欄になっていることに疑問を持ち、親を問い詰めるというケースも珍しくありません。
この場合、親の答え方次第では親子関係に亀裂が入ります。
こうしたリスクを避けるには、子供に嫡出子の身分を得させるのが確実です。
子供に嫡出子の身分を得させる方法は、2つあります。
- 父が子供を認知+父母が婚姻
- 父が子供を養子縁組
父が子供を認知+父母が婚姻
子供が嫡出子の身分を得るための一般的な方法は、父が子供を認知し、父母が婚姻する方法です。
認知とは、ある子供について「自分の子供である」と男性が認める手続きです。
女性と子供の親子関係は、分娩の事実によって当然に証明されますが、男性と子供の親子関係は分娩などで証明することはできません。
そこで、民法は嫡出推定という制度を設け、法律上の婚姻をした夫婦の間に生まれた子供は、夫婦の子供だと推定することにしています。
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
(民法第772条)
しかし、内縁・事実関係の男女の間に生まれた子供には嫡出推定がはたらかず、父子関係が推定されません。
そのため、子供の父親である男性が、「この子は自分の子供である」と認知することにより、法律上の父子関係を生じさせる仕組みが整備されているのです。
認知には、任意認知、調停認知、強制認知、遺言認知の4種類あります。
認知の種類 | 認知の方法 |
任意認知 | 父が自らの意思で認知届を作成し、市区町村役場に提出する |
調停認知 | 認知の調停を経て審判で裁判所が認知を判断する※ ※調停の場で父母が認知の問題を審判で解決することに合意し、前提事実にも争いがない場合、家庭裁判所が必要な調査をした上で相当と認めたときに審判を出す(合意に相当する審判) |
強制認知 | 認知の訴えを提起し、裁判所が認知を判断する |
遺言認知 | 子供を認知する旨を記載した遺言書を作成する |
非嫡出子に嫡出子になるには父母の婚姻が必要
父親の男性が子供を認知すると、法律上の父子関係が発生します。
戸籍の父親欄に認知した男性の氏名が記載され、父子間に扶養義務や相続権が生じます。
しかし、子供が嫡出子の身分を得るには、父母が婚姻する必要があります。
なぜなら、嫡出子というのは、法律上の婚姻をした夫婦の間に生まれた子供と定義されているからです。
認知と婚姻は、どちらが先でもかまいません。
認知してから婚姻した場合を「婚姻準正」、婚姻してから認知した場合を「認知準正」といいます。
父と子供が養子縁組
養子縁組とは、親子の血縁関係にない人同士の間に、法律上の親子関係を生じさせる手続きです。
非嫡出子とその父親の間には、そのままでは法律上の父子関係がありませんが、養子縁組をすることにより、父子関係を生じさせることができます。
ただし、戸籍には「養子」と記載されるので、実の親子かどうかは戸籍上明らかにできなくなってしまいます。