新養育費算定表とは?裁判所の算定表との違いと裁判所の反応は?

新算定表 養育費 婚姻費用分担

2016年11月29日、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言(以下「日弁連の提言」という。)」を最高裁判所長官、厚生労働大臣、法務大臣に提出しました。

日弁連の提言では、現在、家庭裁判所の実務で用いられている「簡易算定方式」や「裁判所の算定表」の問題点を指摘し、それらを修正したいわゆる「新算定方式」や「新算定表」を発表しています。

日弁連は、2012年3月の時点で「養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表」に対する意見書を発表し、その中で「(双方の総収入について、標準化した公租公課・職業費・特別経費を控除して、各基礎収入を算出し、その合計額について、指数化した生活費指数を用いて按分する考え方)を用いる場合に、子どもの福祉の視点を踏まえ、少なくとも公租公課を可能な限り実額認定し、その他、個別・具体的事情に応じ特別経費を控除しないなどの修正を加えて算定すべきである。」と意見を述べていました。

日弁連の提言は、この意見書の内容を具体化して取りまとめたものとなっています。

裁判所の算定表と簡易算定方式

現在、家庭裁判所の実務で用いられている養育費の算定表は、簡易算定方式(標準的算定方式)に基づいて作成されています。

簡易算定方式とは、養育費の簡易かつ迅速な算定を目的とした算定方式です。

簡易算定方式が採用されるまでは、離婚調停申立てから養育費の金額が決まるまでに相当な期間がかかっており、その主な原因が複雑かつ多くの実数を要する算定方式にあるとしてされていました。

そこで、養育費の算定を簡易迅速に行うために簡易算定方式とそれに基づく算定表が開発されたのです。

簡易算定方式による養育費の算定

養育費の簡易算定方式では、父母それぞれの総収入(年収)から、公租公課(税金)、職業費、特別経費などを差し引き、「基礎収入(算定の基礎となる金額)」を割り出します。

基礎収入=総収入(年収)-(公租公課+職業費+特別経費)など

給与や事業などで得た総収入は、その全てを生活費(婚姻費用)として使うことができるわけではなく、所得税や住民税などの税金が課され、交通費・交際費・被服費などの職業費や、子どもの養育費・教育費・医療費・住居費などの特別経費もかかります。

そのため、こうした事情を考慮し、総収入から公租公課(税金)、職業費、特別経費などを控除した基礎収入を算出して、基礎収入に一定の生活費指数を用いて按分することで養育費の相場を算出するのです。

日弁連の問題意識

日弁連の主な問題意識は、養育費の簡易算定方式やそれに基づく算定表では、基礎収入が総収入の4割程度となり、それに基づいて算出される養育費の金額も低くなるというものです。

具体的には、職業費が過大に算出されている、住居費・保険医療費・保険掛金などを特別経費として控除すると父母間の生活水準格差が固定化されるなどの問題が指摘されていました。

また、子どもの年齢区分が2区分しかなく生活実態と乖離している、税制改正や物価変動を反映していないという指摘もありました。

日弁連が提言した養育費の新算定表

日弁連の新養育費算定表は、現行の簡易算定方式に基づく算定表を修正したものです。

日弁連は、主な修正点として、以下の2点を挙げています。

1 総収入から算出する可処分所得(基礎収入)を見直しました。具体的には、総収入から特別経費として控除していた住居費等を一律には控除せずに可処分所得に含めたほか、最新の税率や統計資料を用いるなどしました。

2 算定のための指標となる生活費指数を、世帯人数や年齢に応じてきめ細かに区分して算出しました。これに伴い、算定表は19表から39表となりました。

引用:日本弁護士連合会:養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言

以下、簡易算定方式に基づく算定表と比較しながら、解説します。

基礎収入が総収入に占める割合

新養育費算定表と裁判所の算定表の最大の違いは「基礎収入の算定方法」です。

算定表の種類 基礎収入が総収入に占める割合
簡易算定方式・裁判所の算定表 4割程度
新算定方式・新算定表 6~7割程度

基礎収入に差が生じたのは、新養育費算定表が、公租公課を簡易算定方式以降の税制や保険料率に基づく理論値に修正し、交通費・通信費などの職業費を就労者分のみ含めるようにし、総収入から差し引く特別経費から保険医療及び保険掛金を除外したためです。

公租公課

簡易算定方式では、公租公課の理論値を経費として総収入から差し引きます。

しかし、簡易算定方式が公表された2003年以降の税制改正や保険料率改正が反映されておらず、問題視されていました。

そこで、新養育費算定方式では、最新の税制や保険料率による理論値に修正されています。

簡易算定方式・算定表 2003年時点の税法などによる理論値
新算定方式・新算定表 実額または最新の税法などによる理論値

職業費

職業費は、就労者の経費として総収入から差し引かれるものです。

しかし、簡易算定方式では、交通費や通信費などの職業費が非就労者についても経費として算定されていました(被服費及び履物費だけが就労者分)。

そこで、新養育費算定方式では、職業費の全ての費目について世帯の就労者分のみに限り、非就労者分の職業費を含まないように修正されています。

簡易算定方式・算定表
家計調査年報による統計値(被服費、履き物費以外は非就労者分も経費扱い)
新算定方式・新算定表
家計調査年報による統計値(全費目につき就労者分のみ)

特別経費

簡易算定方式では、住居関係費、保険医療・保険掛金について、総収入に占める割合で一律に経費が掛かるという考え方に基づいて、特別経費として総収入から差し引いて基礎収入を算定していました。

つまり、高収入であるほど特別経費として差し引かれる経費が多くなり、基礎収入が少なく算定されていたのです。

また、子どものための住居関係費、保健医療・保健掛金を、子どもを監護する人だけが負担することになっており、この点についても不公平だという指摘がなされていました。

そこで、新算定方式・新算定表では、特別経費として差し引かれていた住居関係費、保険医療・保険掛金を差し引かず、基礎収入に含めるように修正しました。

簡易算定方式・算定表
家計調査年報による統計値
新算定方式・新算定表
差し引かない(住居関係費、保険医療、保険掛金は基礎収入とする)

しかし、元々の出発点が「簡易算定方式で算出される養育費が低い」という問題意識であり、「算出される養育費を増額するという結論ありきである。」、「実際の支払い能力を考慮していない」などの指摘もあります。

また、依頼者の状況や主張に応じて簡易算定方式による算出を求めたり、新算定方式による算出を求めたりする弁護士もいるなどの問題も確認されています。

基礎収入の算定式

以上の修正が加えられた結果、基礎収入の算定式は以下のとおりとなっています。

簡易算定方式・算定表
  • 総収入-(公租公課+職業費+特別経費)
  • 基礎収入は、総収入の34~42%
新算定方式・新算定表
  • 総収入-(公租公課+職業費)
  • 総収入の59.86~67.51%

生活費指数

養育費と婚姻費用の目安となる金額は、権利者と義務者の基礎収入を算出し、それを義務者と子ども・権利者に配分して算出されます。

そして、配分割合の決定には、「生活費指数」という指数が用いられます。

簡易算定方式と算定表

簡易算定方式とそれに基づく算定表では、全ての生活費を「生活保護基準」に応じて割り振り、生活費指数が以下のとおり定められていました。

続柄 生活費指数
親(義務者) 100
親(権利者) 100
子ども(0~14歳) 55
子ども(15歳~19歳) 90

権利者と義務者を100とし、子どもの年齢区分は「0歳から14歳まで」と、「15歳から19歳まで」の2つに区分されています。

つまり、子どもの年齢が14歳以下(~概ね中学3年生以下)の場合と15歳以上(概ね高校1年生~)の場合によって、算出される養育費の金額に大きな差が生じていたのです。

しかし、実際の子育てでは子どもの年齢が上がるほど養育費が高くなるところ、乳幼児と小学生・中学生を同じ区分とする分け方は、生活実態と乖離しているという批判がありました。

そのため、新算定方式・新算定表では、生活費指数を世帯人数や子どもの年齢によって細分化し、より生活実態に即したものに修正されています。

新算定方式と新算定表

新算定方式では、生活費指数が以下のとおり定められています。

続柄 生活費指数
親(義務者) 100
親(権利者)
100(単身世帯の場合)
69(子ども1人世帯の場合)
57(子ども2人世帯の場合)
47(子ども3人世帯の場合)
41(子ども4人世帯の場合
子ども(0~5歳)
66(子ども1人世帯の場合)
54(子ども2人世帯の場合)
45(子ども3人世帯の場合)
39(子ども4人世帯の場合)
子ども(6~11歳)
69(子ども1人世帯の場合)
57(子ども2人世帯の場合)
48(子ども3人世帯の場合)
42(子ども4人世帯の場合)
子ども(12~14歳)
77(子ども1人世帯の場合)
65(子ども2人世帯の場合)
55(子ども3人世帯の場合)
49(子ども4人世帯の場合
子ども(15~19歳)
83(子ども1人世帯の場合)
71(子ども2人世帯の場合)
62(子ども3人世帯の場合)
56(子ども4人世帯の場合)

新算定方式と新算定表では、生活費指数のうち、食費や被服費など個人単位の費用については、生活保護基準に応じて割り振る(簡易算定方式と同じ)一方で、光熱費など世帯単位で発生する費用については、世帯人数で頭割りして割り振る方式が採用されました。

そのため、簡易算定方式や算定表と比較すると、子どもの生活費指数が高めに修正されています。

なお、新算定方式では、子どもの区分が年齢によって4つに分けられていますが、新算定表では、使いやすさを考慮して3区分(6~14歳を1区分にまとめた)となっています。

子ども(6~14歳) 72(子ども1人世帯の場合)
60(子ども2人世帯の場合)
50(子ども3人世帯の場合)
45(子ども4人世帯の場合)

新養育費算定表に対する裁判所の反応

2019年1月現在、新算定表に基づいて養育費が取り決められたケースは見当たりません。

しかし、時事通信などの発表では、2017年7月から、最高裁判所の司法研修所が、「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究(司法研究)」の中で養育費や婚姻費用の算定方式の調査や見直しを進めています。

研究機関は2019年3月29日まで、研究員は東京及び大阪家庭裁判所の裁判官4人とされ、生活保護費算出の基礎となる最低生活費、税制改正、教育費などの変化が反映される見通しとなっており、2019年5月には報告書が出される予定です。

現時点では、正式発表がいつになるのか、算定表まで発表されるのかなどは不明ですが、内容によっては家庭裁判所の運用が大きく変わる可能性があります。

【参考】

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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