認知症と離婚!認知症高齢者の夫や妻と熟年離婚できる?

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熟年離婚を希望する人の中には、認知症を発症した配偶者との生活への苦痛を理由に挙げる人がいます。

配偶者が認知症を発症すると、介護負担の大きさに加え、経済的困窮やそれに伴う老後の不安、夫婦間のコミュニケーションや協力扶助関係の希薄化による関係悪化など、それまでの夫婦関係にはなかった問題と直面することになります。

そして、そうした問題と向き合って解決するだけの気力や体力がなく、離婚を選択する人が一定数いるのです。

しかし、認知症を発症した配偶者と離婚するには、健常な配偶者との離婚とは難しさがあります。

認知症とは

認知症とは、何らかの原因で脳の神経細胞が障害されて死滅・減少することにより、脳の認知機能が継続的に低下して日常生活に支障が生じている状態です。

病名だと思われがちですが、「認知機能の低下に伴う諸症状が現れているものの、原因が特定されず確定診断が下せない状態」をまとめて認知症と呼んでいます。

以前は痴呆症と呼ばれていましたが、差別的な名称であるという指摘を受け、2004年に認知症と改められました。

認知症の分類

認知症は、脳の神経細胞が死滅・減少する原因によって、変性性認知症と二次性認知症に分類されます。

変性性 原因:脳の神経細胞の変性

例:アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、パーキンソン病(認知症を伴う)など

二次性 原因:外傷や病気

例:脳血管性認知症、脳腫瘍、正常圧水頭症など

認知症の原因として多いのは、アルツハイマー型認知症(認知症全体の約60%)、脳血管性認知症(約20%)、レビー小体型認知症(約10%)の3つです。

認知症の症状

認知症の症状には、中核症状と周辺症状の2つがあります。

中核症状 説明:脳の神経細胞が障害されることで生じる症状

例:記憶障害、見当識障害、判断力・理解力障害、実行機能障害など

周辺症状

(行動・心理症状)

説明:中核症状の進行や発症した人の気質、性格、生活環境などが組み合わさって生じる症状

例:暴言・暴力、徘徊、介護拒否、妄想、失禁、幻覚、異食、抑うつ、睡眠障害など

認知症を発症した人は、病識はありませんが、記憶障害や見当識障害などの中核症状に対して漠然とした不安や焦りを抱きます。

一方で、認知症の配偶者を介護する人は、中核症状よりも周辺症状への対応に苦慮することが多くなっています。

認知症の診断

認知症か否かは、医師の問診と各種検査の結果を総合して慎重に診断されます。

認知症の診断のために実施される主な検査は、以下のとおりです。

  • 身体検査(血液検査、尿検査、胸部X線検査、心電図検査、内分泌検査、血清梅毒検査など)
  • 脳検査(脳波検査、脳脊髄液検査、神経学的検査など)
  • 脳画像検査(CT、MRI、SPECT、PETなど)
  • 心理テスト(長谷川式認知症スケール(旧長谷川式簡易知能評価スケール、ウェクスラー式知能検査、MMSE、アルツハイマーアセスメントスケール(日本版)など)

認知症の治療

認知症の治療は、薬物療法と非薬物療法に分類されます。

薬物療法 説明:認知症の種類や症状に応じて処方

認可薬:アリセプト(ドネペジル)、レミニール(ガランタミン)、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチ(リバスチグミン)、メマリー(メマンチン)

非薬物療法 説明:認知症症状の進行を遅らせて、生活の質を維持するための治療

具体例:リアリティ・オリエンテーション、作業療法、回想法、音楽療法、芸術療法など

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認知症と離婚

認知症は、高齢者が発症しやすい病気であり、若年性認知症でも好発年齢は40~50代です。

そのため、認知症を理由に離婚を希望する場合、その多くが熟年離婚ということになります。

認知症の夫または妻と離婚できるか

認知症を発症した配偶者と離婚できるか否かは、認知症の症状の進行度や離婚の方法によって異なります。

配偶者が認知症と診断されていても、離婚の意味と離婚で生じる効果を理解できる状態であれば、夫婦間で離婚について話し合い、夫婦間で合意ができれば離婚することができます。

夫婦間で協議することが難しい場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、それでも解決できない場合は、離婚裁判を起こして離婚を目指すことになります。

一方で、認知症を発症した配偶者が、症状の進行によって離婚の意味や効果を理解できなくなっている場合、離婚するか否かを判断することが難しいため協議離婚や調停離婚はできません。

離婚裁判においても、家庭裁判所が、配偶者の手続行為能力に問題があると判断した場合は手続きが中断され、手続きを進めるためには、配偶者について成年後見制度を利用しなければなりません。

成年後見制度とは、認知症などの精神上の障害が原因で物事を判断する能力が低下した人を、その財産や権利を保護する後見人を選任することで法律的にサポートする制度です。

家庭裁判所に「後見開始の審判(配偶者の判断能力の程度によっては保佐開始または補助開始)」を申し立て、配偶者をサポートする後見人を選任してもらい、その後見人に本人を代理させることで離婚裁判を進めることができます。

離婚の方法 判断能力低下の程度
軽度 重度
協議離婚
調停離婚(審判離婚)
裁判離婚 ◯(後見人が本人を代理)

※軽度は離婚の意味や効果が理解できる状態、重度は理解できない状態です。

裁判離婚で認知症の配偶者との離婚が認められるには

裁判で離婚するには、民法第770条第1項に規定された離婚事由のいずれかが存在していなければなりません。

夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

  • 配偶者に不貞な行為があったとき。
  • 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
  • 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
  • 配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがないとき。
  • その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

(民法第770条第1項)

配偶者の認知症を理由に離婚を希望する場合、「回復の見込みのない強度の精神病」が当てはまると考える人が多いですが、「病気の性質等に照らせば、認知症が強度の精神病に該当するか否か疑問が残る」とした判例があります。

この判例では、以下の状況を考慮して、強度の精神病ではなく、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」が存在するとして、認知症の配偶者との離婚を認めています。

  • 妻がアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)などに罹患し、寝たきりで会話も成立しなくなり、禁治産宣告(現在の後見開始の審判)を受けている
  • 妻が夫婦間の協力扶助義務を果たせない状態の期間が長期にわたって継続し、夫婦関係の破たんが明らか
  • 妻の発症後、夫が家事や妻の介護を献身的にこなし、妻の後見人の仕事もこなしていた
  • 離婚を求める夫が、離婚後も妻への経済的援助や面会の継続を約束している
  • 妻の両親が既に他界し、親族ともほとんど交流がない
  • 妻は老人ホームに入所しているが、離婚後の老人ホームの費用は全額公費負担になる予定がある

(長野地判平成2年9月17日)

※平成2年当時、人事訴訟事件(離婚裁判)は家庭裁判所ではなく地方裁判所の管轄でした。

つまり、以下のような条件を満たせば、認知症の配偶者と裁判で離婚できる可能性はあると言えます。

  • 夫婦関係の破たん:配偶者が認知症を発症し、夫婦間の協力扶助義務を果たせなくなって夫婦関係が破たんしているなど
  • 婚姻中の献身的な対応:離婚を求める人が認知症を発症した配偶者の介護などを献身的に行ってきた実績があるなど
  • 離婚後の生活保障:離婚後も配偶者が衣食住や経済面で困らない見込みであるなど

しかし、上記判例において、妻がアルツハイマー病などを発症してから離婚裁判で離婚が認められるまでの期間は約7年間で、その間の夫の対応も並大抵のものではありません。

したがって、認知症の配偶者と離婚するには、相当な期間と手間がかかることを覚悟しておく必要があります。

成年後見制度を利用しても調停で離婚することは困難

「後見人を選任すれば、調停でも離婚できるのではないか。」と思うかもしれません。

しかし、離婚を含む身分に関する行為には、本人以外の人が代理することができないという性質(一身専属性)があるとされています。

したがって、後見人が選任されたとしても、認知症を発症した配偶者に代わって離婚調停で離婚に合意し、調停を成立させることはできません。

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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