認知症は治療できる?薬による治療の効果は?リハビリ療法とは?
- 認知症
最終更新日: 2019.06.25
現在の医学では、認知症を根本的に治療する方法はなく、完全に予防する方法もありません。
しかし、認知症の進行を遅らせたり、症状を緩和したりする治療はできるようになってきており、それによって日常生活への支障が軽減することも増えています。
この記事では、認知症の治療について解説します。
目次
認知症の治療法
現在の医学では、認知症を完全に治療する方法はありません。
脳の神経細胞が壊れて中核症状が起こると、壊れた神経細胞は二度と元に戻らず、その神経細胞が司っていた機能を回復させることはできません。
つまり、認知症の中核症状によって一度低下した認知機能が元通りになることはないのです。
一方で、中核症状に本人の性格や環境などが絡み合って起こる周辺症状については、脳に刺激を与えることで症状が改善する可能性があります。
人の脳の神経細胞には活用されず眠っているものがあり、リハビリテーションで刺激を与えて活性化させることで、壊れた神経細胞の代わりを担ってくれることがあるのです。
そのため、認知症の治療では、薬物療法と非薬物療法(リハビリテーション)を組み合わせることにより、中核症状の進行を遅らせて脳の機能低下を緩和するとともに、周辺症状の改善を目指します。
認知症の薬物療法
薬物療法とは、薬を使って認知症の進行を抑えたり、症状を緩和したりする治療法です。
現在のところ、世界各国における認知症治療は薬物療法を中心に行われています。
認知症の薬物療法では、中核症状と周辺症状を対象として治療を行います。
認知症の中核症状に対する薬物療法
認知症の中核症状とは、原因疾患によって引き起こされる、認知症の人に必ず見られる症状です。
日本においては、認知症に使用できる薬として、アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチ、メマリーの4種類が認可されています。
4種類の薬の分類や使用方法などは、以下の表のとおりです。
分類 | アセチルコリンエステラーゼ阻害薬 | NMDA受容体拮抗薬 | ||||
名称 | アリセプト (ドネペジル) | レミニール (ガランタミン) | リバスタッチパッチ イクセロンパッチ (リバスチグミン) | メマリー (メマンチン) | ||
適用 | アルツハイマー型 | 軽度 | 〇 | 〇 | 〇 | |
中等度 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
重度 | 〇 | 〇 | ||||
レビー小体型 | 〇 | |||||
使用回数/日 | 1回 | 2回 | 1回 | 1回 | ||
使用方法 | 内服 | 内服 | 貼付 | 内服 |
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬とは
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬とは、脳内の神経伝達物質の減少を抑える効果がある認知症の薬です。
日本で認可されている認知症の薬のうち、アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチがアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に分類されます。
一般的に、同じ分類のアリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ・イクセロンパッチは認知症の症状の程度によって使い分けます。
NMDA受容体拮抗薬とは
NMDA受容体拮抗薬とは、脳の神経細胞にカルシウムイオンが過剰流入するのを防ぐ効果がある認知症の薬です。
日本で認可されている認知症の薬でNMDA受容体拮抗薬に分類されるのは、メマリーのみです。
現在のところ、これらの薬が治療に適応されるのは、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症のみです。
いずれの薬もアルツハイマー型認知症の治療で使用されることが多いですが、アリセプトについてはレビー小体型認知症の治療でも使用されることがあります。
認知症の周辺症状に対する薬物療法
認知症の周辺症状とは、中核症状に本人の性格・環境等が絡み合って生じる行動の異常と精神症状です。
周辺症状の治療には、日常生活に大きな支障を及ぼしている症状を緩和する薬を使用します。
使用される薬は、抗精神病薬、睡眠薬、抗てんかん薬、双極性障害治療薬、抗うつ薬、漢方薬など幅広く、本人の状態や家族などの情報に基づいて医師が処方します。
いずれの薬も副作用があるため、医師と相談しながら、用法用量を守って服薬させることが重要です。
すでに失われた認知機能は回復できない
薬物療法の目的は、あくまで認知症の進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることです。
現在のところ、すでに失われた認知機能を回復させる薬は開発されていません。
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認知症の非薬物療法(リハビリテーション療法)
認知症の非薬物療法とは、薬を使用しない治療法のことです。
リハビリテーション療法と呼ばれることもあります。
非薬物療法では、本人の興味関心や残された機能を踏まえ、本人が動くこと、考えること、満足することを重視して、一人ひとりに合ったオーダーメイドの治療を行います。
認知症の非薬物療法は、世界中で無数に開発されており、日本においても認知症の治療に取り入れられています。
日本における主な非薬物療法は、以下のとおりです。
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作業療法
日常生活を送る中で、家事、適度な運動、軽作業などをして身体を動かすことで、刺激を与えて脳を活性化させる治療です。
掃除、洗濯、片付けなどの家事をする、趣味で習っていた太鼓を叩く、野菜を育てるなど、本人の状態や興味関心によって自由に内容を決めます。
家事や仕事で長年行ってきた動作は、認知症を発症しても覚えていることが多く、作業療法に取り入れやすいものです。
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リアリティ・オリエンテーション
リアリティ・オリエンテーションとは、認知症による見当識障害の改善を目的として行われる非薬物療法です。
元々は、アメリカ合衆国の退役軍人管理局病院の精神科医が、戦争の後遺症に悩まされる軍人を対象に行った治療の一つでした。
その後、見当識障害の改善に効果があることが認められ、現在は、認知症の人への非薬物療法の一つとして、施設などで実践されています。
リアリティ・オリエンテーションでは、言葉を使って見当識を補う手掛かりを与えます。
そのため、言語障害が少ないことに加え、近い時期のことは忘れる一方で過去の記憶は残っている段階の人が対象となります。
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回想法
回想法とは、あるテーマに沿って思い出を語らせることで、脳を刺激する治療法です。
認知症の人は、近い時期の記憶は忘れてしまいますが、古い過去の記憶は覚えていることが多いため、過去に使っていた生活用品や写真などを手掛かりにして、当時のことを語ってもらいます。
過去の話をするには、脳内に保持されている過去の記憶にアクセスし、それを言語化する必要があり、話す過程で脳に刺激が与えられます。
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音楽療法
音楽療法とは、音楽を聴いたり、歌を歌ったりすることで気持ちを落ち着かせることにより、症状の改善を目指す治療法です。
音楽療法には、流れてくる音楽を聴く受動的音楽療法と、本人自身が歌唱や楽器の演奏を行う能動的音楽療法があります。
いずれの方法でも脳の血流が良くなって脳が活性化し、認知症の周辺症状が改善されることがあります。
効果が高いのは、本人が好きな歌手や演奏家の音楽で、落ち着いたメロディーのものです。
また、日常生活の介助を行う場面で音楽療法を実践することにより、介助への抵抗感が弱くなることがあります。
芸術療法
芸術療法とは、粘土をこねたり折り紙を折ったりすることで、脳を活性化させる治療法です。
色々な物に触れ、手を動かして作業することにより、脳が活性化するとされています。
園芸療法
園芸療法とは、園芸に取り組むことで、脳を活性化させる治療法です。
土に触れ、手を動かして作業することに加えることが、脳の活性化に効果があるとされています。
アニマルセラピー
アニマルセラピーとは、動物と触れ合うことで認知症の症状を改善させる治療法です。
愛らしい動物と触れ合うことで、気持ちを落ち着かせる効果が期待されています。
アニマルセラピーでは、セラピー用にトレーニングされた動物と触れ合う中で、不安や焦りが和らいで気持ちに余裕を取り戻し、言葉や表情も豊かになることがあります。
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