認知症の理解力と判断力の障害とは?認知機能低下の影響は?
- 認知症
最終更新日: 2019.06.25
認知症を発症すると、物事を理解したり、状況に応じて適切に判断したりする能力が障害されていきます。
理解力や判断力が障害されると、会話や仕事、家事など日常生活のあらゆる場面で不具合が生じ、人間関係にも大きな影響を及ぼします。
この記事では、理解力と判断力の概要、認知症による理解力や判断力の障害について解説します。
目次
理解力、判断力とは
私たちは、日常生活を送る中で様々な物事を理解し、無数の判断をしています。
まず、理解力や判断力とはどのような能力なのかについて、確認しておきましょう。
理解力とは
理解力とは、物事の状況、仕組み、性質、内容、筋道などを正しく認識して分かる力のことです。
五感によって外界の刺激を知覚し、知識や経験などに照らして内的な意味や本質を把握することとも言えます。
物事だけでなく、他人の立場や気持ちを汲み取ることも「理解」に含まれており、また、「了解」と同じ意味で使われることもあります。
認知症を発症すると、特に、物事をまとまりのある概念として捉える力(抽象思考)が低下し、全体を把握したり、物事の中にある共通した部分に注目したりすることが難しくなっていきます。
判断力とは
判断力とは、物事を正しく認識・理解して、考えを決めたり物事を判定したりする力です。
一般的には、「あの人は判断力がある」、「判断力のある上司の下で働きたい。」など、「物事を決めるための力」を意味する言葉として使われています。
しかし、本来の判断力は、見当識、空間認識、注意力など複数の認知機能が合わさって機能するものです。
例えば、今いる場所や時間を把握したり、他人と電話で会話しながら家事をしたりするなど、日常生活の様々な場面で判断力が発揮されています。
関連記事
理解力、判断力が低下すると
理解力や判断力が低下すると、日常生活の至るところで様々な問題が生じるようになります。
曖昧な表現が理解できなくなる
抽象思考が低下することにより、曖昧な表現が理解できなくなります。
例えば、「青い服と紺色のズボンを出して」と言えば理解できるけれど、「着替えを出して」と言っても理解できない、「朝食用の食パンと牛乳を買いにスーパーに行くよ。」と言えば理解できるけれど、「スーパーに行くよ」と言っても理解できないなど、具体的に言わないと意図が伝わらなくなります。
また、「冷蔵庫の中にキュウリとキャベツとニンジンはある。」と聞けば確認できますが、「冷蔵庫の中に野菜はある。」と聞いても「野菜」が何を指すのか理解できず、戸惑ってしまいます。
「着替え」や「野菜」という抽象的な表現が理解できず、たとえ目の前にあったとしても求められていることが分からず、「ない」と答えることがあります。
会話が成り立ちにくくなる
曖昧な表現が理解できなくなると、他人との会話が成立しにくくなります。
私たちは、会話の中で抽象的な言葉をたくさん使っていますが、互いに言葉の意味を理解できているため会話が成立しています。
しかし、会話の相手が曖昧な言葉の意味を理解できていないと、一見、話は続いていても、双方向のコミュニケーションとしての会話は成立しなくなります。
会話が成立しにくくなった結果、それまでの人間関係が変化したり、気持ちや主張がうまく伝わらないことに本人がストレスを感じたりすることもあります。
善悪の判断がつかなくなる
理解力や判断力が低下すると、場に即した行動がとれなくなっていきます。
例えば、買い物に出かけて目当ての商品を清算せず店外に持ち出す、異性用トイレで用を足す、立ち入り禁止の場所に立ち入るなどすることがあります。
最近は、交通違反を繰り返して大きな事故につながるケースも注目されるようになっています。
本人には物を盗んだり、交通法規を破ったりしようという「悪意」はなく、社会のルールが理解できず不適切な行動を繰り返してしまうのです。
警察沙汰になったり、周囲の人に制止されたりして、家族が驚くことも珍しくありません。
危険なことが分からなくなる
善悪の判断だけでなく、危険なことも分からなくなっていきます。
例えば、車が行き交う道路の真ん中を平気で歩く、信号を無視する、高速道路を逆走する、体力を考えず徘徊する、夜間に無灯火で運転するなどの行動が見られます。
わざとやっているわけではなく、自分の行動が危険なことであることを理解できていないのです。
季節や状況に応じた服を選ぶことが出来なくなる
善悪の判断や危険性の判断に加え、日常生活動作にも様々な影響が出るようになります。
代表的なものが着替えです。
夏なのに冬服を着込む、冬なのに半袖短パンで外出する、上下がちぐはぐな格好をするなど、適切な服選びができなくなります。
結果的に、脱水症状を起こしたり、体調を崩したりすることもあります。
理解力、判断力の障害への対応
理解力や判断力が低下した本人への対応は、以下の内容を意識してください。
|
曖昧な表現を避けて具体的に伝える
認知症の人は、周囲の人から曖昧な表現で指示や要求をされると、理解できずに混乱してフリーズしてしまいます。
できるだけ具体的な表現で伝えてあげましょう。
私たちは、日常会話の中で意識せず抽象的な言葉をたくさん使っているため、最初のうちはうまくいかないことも多いはずですが、日々の声掛けの中で、本人が理解できる具体的な言葉を一つひとつ見つけていくことが大切です。
「どうせ理解できないだろうから頼まない。」と諦めてしまうと、介護する人の負担が増えますし、本人も自信を失い、より一層理解力が低下してできることが少なくなってしまいます。
「できないから頼まない」ではなく「できるように働きかける」ことを意識しましょう。
本人の行動を一歩先回りして対応する
理解力や判断力の低下した本人への対応には、一歩先回りして対応することがとても大切です。
例えば、本人が、歩道から車道に出てしまいそうになったらすかさず「危ないから歩道を歩こうね」と声をかける、商品をかごに入れたら「レジで精算しようね。」と伝える、夏になったら冬服は片づけるなど、本人が不適切な行動を取る前に対応してあげましょう。
ポイントは、何もかもお膳立てするのではなく、不適切な行動を未然に防ぐように動くということです。
「車道を歩くから外出はできるだけさせないようにする」のではなく、「車道に出ないよう工夫する」のです。
怒らない
認知症介護の基本ですが、怒らないことも大切です。
認知症の人には、自分が不適切な行動をしているという認識がなく、怒っても行動が改善されることはありません。
むしろ、怒られた経験だけが残り、その後の関係性が悪くなってしまう可能性があります。
成年後見制度の利用を検討する
成年後見制度とは、認知症などによって物事を判断する能力が低下した人を法律的に支援する制度です。
理解力や判断力が低下した人は、詐欺被害に遭うなど犯罪に巻き込まれるリスクが高くなります。
実際に被害に遭う前に、成年後見制度を利用して本人の財産などを保護することを検討しましょう。
ただし、成年後見制度にはデメリットも多く、本人の状態や家族の意向などを踏まえて慎重に検討する必要があります。
関連記事