児童相談所の臨検・捜索とは?手続の流れと実施件数は?

児童相談所は、児童虐待が疑われるケースについて保護者が出頭要求や立入調査などに応じない場合、強制的に児童の居所などに立ち入って児童を探し、身柄を確保するという実力行使の手段を持っています。

児童相談所の臨検・捜索とは

児童相談所の臨検・捜索とは、児童虐待防止法の改正(平成20年4月1日施行)で創設された手続です。

児童相談所は、児童の保護者が立入検査や再出頭要求に応じず、「児童虐待が行われている疑いがあるとき」は、児童の安全確認と安全確保のために、裁判所の許可状を受けて臨検・捜索ができるようになりました。

臨検法規の遵守状況や不審点の確認を目的として、現場に出向いて立ち入り検査を行うこと
捜索所在が分からない人や物を発見するための活動

法的根拠

児童相談所の臨検・捜索の法的根拠は、児童虐待防止法第9条の3です。

都道府県知事は、第8条の2第1項の保護者又は第9条第1項の児童の保護者が正当な理由なく同項の規定による児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する職員の立入り又は調査を拒み、妨げ、又は忌避した場合において、児童虐待が行われている疑いがあるときは、当該児童の安全の確認を行い、又はその安全を確保するため、児童の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該児童の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官があらかじめ発する許可状により、当該児童の住所若しくは居所に臨検させ、又は当該児童を捜索させることができる。

(児童虐待防止法第9条の3第1項)

臨検・捜索までの手続きの流れ

臨検・捜索が行われるまでの手続きの流れは、以下のとおりです。

  1. 通告・相談の受理
  2. 緊急受理会議・援助方針会議
  3. 家庭訪問
  4. 出頭要求
  5. 立入調査(警察への援助依頼)
  6. 再出頭要求(立入調査に応じない場合)
  7. 裁判所へ許可状請求
  8. 臨検・捜索(警察への援助依頼)

通告・相談

原則として、児童相談所の活動の出発点は通告または相談です。

児童相談所は、関係機関、虐待者本人、被虐待児、近隣住民、被虐待児の家族や親族などから通告または相談を受けると、以下のような事情を確認します。

  • 虐待の具体的内容と事実経過 (いつから、どこで、誰が、どんなふうに、どのくらいの頻度で)
  • 被虐待児や虐待者の具体的な言動
  • 虐待情報が目撃か、伝聞か、推測か
  • 保護者と通告者との関係
  • 保護者、きょうだい、親族、縁故者の情報
  • 所属集団(学校など)など関係機関の情報
  • 通告者の意図(なぜ通告したのか、調査を希望するのか、保護を希望するのかなど)
  • 生活保護、他の福祉制度の利用
  • 所属集団における児童の様子
  • きょうだいへの虐待の有無など
  • 通告者の今後の協力や電話連絡の可否
  • 秘密保持の確認(保護者に通告者を知らせても問題ないか)

緊急受理会議・援助方針会議

通告や相談の内容から虐待のおそれがある場合、緊急受理会議・援助方針会議を開き、介入の方針を決定します。

児童相談所では定例会議が開催されていますが、それを待つことなく緊急に開催され、迅速に対応が検討されます。

家庭訪問

児童相談所の職員が家庭訪問を行い、児童や家庭の状態を確認します。

児童や保護者と会うことができ、児童の生命の安全を確保するために親元から引き離す必要があると判断した場合は、一時保護や施設入所、里親委託などが検討されることになります。

児童や保護者と接触できなかった場合、出頭要求を検討します。

出頭要求

都道府県知事(実際は児童相談所長に委任されている)は、児童虐待が行われているおそれがあると認めるときは、児童の保護者に対して児童同伴で出頭を求め(出頭要求)、児童委員などに必要な調査や質問をさせることができます。

家庭訪問などで児童の姿を確認できなかったり、連絡に対して全く応答がなかったりして児童の安否確認ができていない場合、出頭要求が選択されます。

立入調査

保護者が出頭要求に応じない場合、立入調査やその他の必要な措置が講じられます。

ケースの緊急性の高さなどによっては、緊急受理会議または臨時に援助方針会議を開催して即時に立入調査を決定することもあります。

例えば、身体的虐待などで切迫した状況が想定される場合や、児童が衰弱して死に至るようなネグレクトが継続していると考えられる場合などは、可及的速やかな対応が必要になります。

保護者の抵抗や暴力のおそれがある場合、警察(管轄の警察署の生活安全課)に援助依頼がなされることもあります。

その他、必要に応じて以下のような関係機関に援助依頼が行われます。

市町村や保健所(精神保健担当課)保護者の精神疾患や心理状態の混乱が疑われる場合など
市町村(虐待関係担当部署)情報共有や支援の共通認識を持つために職員を同行させる場合など
保育所、学校など子どもに与える影響を少なくするため、子どもが信頼する人物を同行させる場合など

保護者が正当な理由なく立入調査を拒否したときは、拒否の態様やそこに至る経過などを考慮し、保護者の行為が悪質だと認める場合には警察に告発することも認められています。

再出頭要求

保護者が正当な理由なく立入調査を拒否し、虐待が行われているおそれがあると認めるとき(保護者の行為が悪質とまでは言えず告発が難しい場合など)は、保護者に対して児童同伴で出頭するよう求めることができます(再出頭要求)。

保護者や児童が出頭してきた場合、児童相談所の職員などが必要な調査や質問を行い、情報を収集します。

裁判所への許可状請求

保護者が再出頭要求も拒否し、児童の虐待が行われている疑いがあるときは、児童の安全確認や安全確保のため、臨検・捜索を検討します。

臨検・捜索を行うには、事前に児童の住所または居所の所在地を管轄する裁判所に許可請求をして、許可状を得なければなりません。

許可請求では、以下のような書類を添付します。

  • 児童記録票
  • 近隣住民や関係機関からの聴取結果
  • 市町村の対応記録のコピー
  • 臨検する住所の写真
  • 児童の住民票のコピー
  • 出頭要求・再出頭要求・立入調査の実施報告書

臨検・捜索

裁判所の許可を得た場合、自動の住所や居所を臨検し、捜索することができるようになります。

児童虐待対応の手引きには、臨検・捜索が必要とされる場合として、以下の内容が記載されています。

  1. 通告に基づく子どもの安全確認のために家庭訪問し、保護者に子どもの目視現認の必要性を告知し、協力を求めたにもかかわらず、在宅する子どもの調査を保護者が拒んだ場合。
  2. 学校に行かせないなど、子どもの姿が長期にわたって確認できず、また保護者が関係機関の呼び出しや訪問にも応じないため、接近の手がかりを得ることが困難であるとき。
  3. 子どもが室内において物理的、強制的に拘束されていると判断されるような事態があるとき。
  4. 何らかの団体や組織、あるいは個人が、子どもの福祉に反するような状況下で子どもを生活させたり、働かせたり、管理していると判断されるとき。
  5. 過去に虐待歴や援助の経過があるなど、虐待の蓋然性が高いにもかかわらず、保護者が訪問者に子どもを会わせないなどの非協力的な態度に終始しているとき。
  6. 子どもの不自然な姿、けが、栄養不良、泣き声などが目撃されたり、確認されているにもかかわらず、保護者が他者の関わりに拒否的で接触そのものができないとき。
  7. 入院や治療が必要な子どもを保護者が無理に連れ帰り、屋内に引きこもってしまっているようなとき。
  8. 施設や里親、あるいはしかるべき監護者等から子どもが強引に引き取られ、保護者による加害や子どもの安全が懸念されるようなとき。
  9. 保護者の言動や精神状態が不安定で、一緒にいる子どもの安否が懸念されるような事態にあるとき。
  10. 家族全体が閉鎖的、孤立的な生活状況にあり、子どもの生活実態の把握が必要と判断されるようなとき。
  11. その他、虐待の蓋然性が高いと判断されたり、子どもの権利や、福祉、発達上問題があると推定されるにもかかわらず、保護者が拒否的で実態の把握や子どもの保護が困難であるとき。

引用:児童虐待対応の手引き

立入調査の要件は「虐待のおそれ」ですが、臨検・捜索は「虐待の疑い」が要件となっており、虐待が行われている可能性が高い場合に限って行われるべきと考えられています。

したがって、児童の安全確認を迅速に行う必要がある場合には、まずは立入調査によって安全確認に努めるべきであり、臨検・捜索は立入調査が功を奏さない場合の次の一手とされています。

立入調査と同じく、保護者が攻撃的な言動や態度に出るおそれがある場合、警察に援助依頼を行います。

臨検・捜索の実行

裁判所の許可状をえて臨検・捜索を行う場合、臨検場所の所有者や管理人、成人している同居親族などを立ち会わせる必要があり、立ち会わせることができない場合は市区町村の職員を立ち会わせなければなりません。

通常は、親族などが立ち会う場合でも、市区町村の職員が立ち会います。

臨検・捜索時の主な流れは以下のとおりです。

保護者への呼びかけ玄関先に保護者を呼び出し、児童相談所の訪問であることを伝える
室内への立入り保護者の応答がない場合、室内に立ち入り、裁判所の許可状を提示した上で執行に着手する

保護者不在の場合は立会人に許可状を提示

養育状況の確認虐待が疑われる不適切な生活環境や状況は録音録画

時間経過も詳細に記録

児童の身柄の確保児童の身柄を速やかに確保し、保護者に対して「今後のことはあらためて相談することになります。」と伝えて退去

臨検・捜索実行後

臨検・捜索をした児童相談所職員は、「臨検・捜索長所」を作成・署名押印した上で、立会人にも著名押印してもらいます(できない場合はその旨を付記)。

その後、実施時の記録と合わせて都道府県知事に報告します。

臨検・捜索の実施件数

臨検・捜索制度が施行された平成20年4月から平成30年3月までで16件にとどまっています。

臨検・捜索を検討したケースは一定数あるようですが、実際に実施されたのは16件だけなのです。

児童虐待の相談件数は増加し続けており、虐待による児童の死亡が頻繁に報道されていますが、児童の安全確保のための実力行使である臨検・捜索はほとんど利用されていないのが実情です。

>>>「児童福祉」の記事一覧に戻る

アバター

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

この著者の最新の記事

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権
    離婚後単独親権に対する問題提起や批判は以前からありましたが、近年、欧米諸国などで採用されている離婚後…
  2. 専業主婦 離婚 準備
    「専業主婦(主夫)だけど離婚したい。でも、離婚後の生活が不安。」、「離婚したいが、専業主婦は離婚後に…
  3. 離婚協議書 公正証書
    協議離婚する場合、離婚することと諸条件について夫婦で話し合い、合意した内容を離婚合意書にまとめた上で…
  4. 離婚調停 相手方 準備
    「ある日突然、見知らぬ住所と差出人の名前が書かれた茶封筒が自宅のポストに届き、中を開けてみると「調停…
  5. 弁護士会照会制度
    離婚紛争を弁護士に依頼すると高額な費用がかかりますが、依頼によって得られるメリットもあります。 …
  6. モラハラ 離婚
    配偶者のモラハラ(モラルハラスメント)を理由に離婚したいと考える人は少なくありません。 しかし…
  7. 離婚調停 成立 調停条項
    離婚調停は、夫婦間で離婚やそれに伴う条件面の合意ができると調停調書が作成され、調停が成立します。 …
  8. 養育費 強制執行 手続き 流れ
    夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合の対応には、履行勧告、履行命令、強制執行があります。 …
  9. 離婚 弁護士費用 相場
    離婚を弁護士に依頼する場合、注意しなければならないのが弁護士費用です。 「離婚 弁護士費用 相…
  10. 離婚調停 弁護士
    「離婚調停で弁護士は必要か。」と聞かれたら、弁護士としての立場では「必要です。ぜひご依頼ください。」…

スポンサーリンク

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権

    選択的共同親権とは?法務省が検討する「離婚後の親権の選択制」の意味

  2. 専業主婦 離婚 準備

    専業主婦の離婚準備:仕事と生活費、子どもの親権、年金のことなど

  3. 離婚協議書 公正証書

    離婚協議書を自分で作成:書き方サンプル付き!公正証書の作り方も解説

  4. 離婚調停 相手方 準備

    離婚調停を申し立てられた相手方が調停第1回期日までに準備すること

ページ上部へ戻る