選択的共同親権とは?法務省が検討する「離婚後の親権の選択制」の意味

離婚後単独親権に対する問題提起や批判は以前からありましたが、近年、欧米諸国などで採用されている離婚後共同親権を求める動きが強まり、法務省も共同親権制度の導入について本格的な検討を始めました。

(注意:2019年2月19日時点に公表されている情報に基づいて離婚ハンドブックが執筆した記事であり、今後の動向などを踏まえて追記や修正を行う可能性があります。)

離婚後共同親権とは

離婚後共同親権とは、離婚後も父母の両方が子どもの親権者となり、共同して子どもの監護養育や財産管理に関わる制度です。

日本の民法は、婚姻中は父母が共同して親権を行使する共同親権制を採用する一方で、離婚後は父母の一方のみが親権者となる離婚後単独親権制を採用しており、「離婚後共同親権」というのは馴染みがないかもしれません。

しかし、欧米諸国では離婚後の共同親権や選択的共同親権を採用する国が多く、離婚後も父母が共同して子供の親権を行使し、子供の健全な成長を支える役目を果たしています。

諸外国は単独親権から共同親権に移行した

注目すべきなのは、欧米諸国が元から離婚後共同親権だったわけではなく、ここ数十年の間に離婚後共同親権を採用する国が増えてきたことです。

例えば、アメリカ合衆国は元々は離婚後単独親権制を採用しており、1970年代までは「母性優先の原則」に基づいて離婚時の親権者が決められていました。

しかし、男女平等の考え方が浸透するにつれ、「親権者についても性別ではなく「子どもの最善の利益(子の利益、子の福祉)」に基づいて決めるべき」という考えが広まりました。

また、子どもの最善の利益の実現には「父母の両方が子どもと十分に関わる必要」と考えられるようになり、離婚後の共同親権や面会交流権を前提とした単独親権が採用されるに至りました。

その他の国々も、似たような経緯を経て離婚後単独親権制から共同親権制または選択共同親権制へ移行を果たしています。

離婚後の共同親権や選択的共同親権を採用する主な国は、以下のとおりです。

イギリス、ドイツ、イタリア、フランス、カナダ、アメリカ、オーストラリア、オランダ、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、ベルギー、ニュージーランド、デンマーク、韓国、中国など

G7(主要国首脳会議)参加国の中では、日本だけが離婚後単独親権を継続している状態です。

離婚後共同親権については、別の記事で詳しく解説しています。

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法務省は離婚後の選択的共同親権制の導入を検討している?

報道によると、法務省は、離婚後の親権について、単独親権から共同親権に変更するのではなく、単独親権か共同親権下を選択できる選択的共同親権を導入する方向で検討しているようです。

法務省は離婚後に父母の双方に親権が残る「共同親権」制度の導入の本格的な検討に入った。現在の民法は父母のいずれか一方が離婚後の親権を持つ「単独親権」を規定しているが、共同親権も選べるようにし、両方の親が子育てに関わりやすくするのが狙い。欧米の多くで採用している選択制による共同親権の導入を検討する方向だ。

引用:選択的共同親権、法務省が本格検討へ:日本経済新聞|2019/2/17 1:34 日本経済新聞 電子版

離婚後の選択的共同親権とは

選択的共同親権とは、離婚後の子供の親権について、現行どおり父母の一方が親権者となる「単独親権」と、父母の両方が親権者となる「共同親権」を選択できる制度です。

離婚後の単独親権または共同親権を規定するのではなく、離婚後の親権を父母が共同で行使するか単独で行使するかについて選択することを認めるのです。

例えば、近いところでは韓国が離婚後の選択的共同親権を採用しています。

韓国では、1990年の親族法改正により、離婚後の親権について父母の協議で定めることが規定された上、面会交流も別居親の権利として規定されました。

また、家庭法院(韓国の家庭裁判所)は、離婚後の共同親権が望ましい(父母が良好な関係を維持できる場合)と周知しています。

離婚後の選択的共同親権のメリット

大きなメリットは、離婚後も父母が共同で親権を行使するという離婚後共同親権の選択肢が生まれることです。

離婚後共同親権のメリットとしては、以下のようなものを挙げることができます。

子の利益(子の福祉)にかなう

離婚後も父母の両方が親権を持つことで、子どもが父母の両方との関係を維持しやすくなります。

子供にとっては父も母も大切な親であり、父母の両方から愛情や教育を受けることによって心身ともに健全な成長を遂げやすくなります。

特に、離婚による子供の精神的な影響を最小限に抑えるためには、父母の両方が子どもに関わることが重要とされており、共同親権によって実現しやすい環境が整います。

また、親権という責任を持って父母が子どもに関わり、子の利益(福祉)を守ることで、非監護親と親の関係性が良好に保たれやすく、監護親との関係性もより良好になると考えられています。

養育費の支払い率が上がる

現在、養育費の支払い率の低さは大きな問題となっています。

離婚時に養育費を取り決めず離婚する、取り決めたが支払われない、支払われていたが途中で途絶えるなど状況は各家庭によって様々ですが、離婚後の貧困問題などと相まって改善が求められています。

そして、養育費の支払い率が低い原因の一つとして、日本においては非監護親と子どもが交流する時間が短く、親としての自覚を持ち続けるのが難しいということが指摘されています。

離婚後に父母が共同親権を持つことになれば、非監護親が子どもと接する時間が増え、親としての自覚を持ち続けて養育費も支払い続けるケースが増えると考えられています。

父母間の争いが減る

離婚するほど関係性が悪化したとしても、子供の親として、子供のために必要な連絡や調整は離婚後も父母間で続けなければなりません。

離婚後単独親権の場合、離婚時に子どもの親権の奪い合いで関係性をより一層悪化させるケースが多いですが、離婚後共同親権であれば子どもの親権で争う必要がなく、離婚後の協力体制を築きやすいものです。

ただし、離婚後の選択的共同親権が採用された場合、離婚時に単独親権にするか共同親権にするかという争いが勃発することが予想されます。

離婚率が低下する

すでに離婚後共同親権制へ移行した諸外国では、制度導入後に離婚率が低下するという現象が起こっており、日本でも同様の現象が見られる可能性があります。

ただし、協議離婚を認めていない国が多い上、日本では選択的共同親権が検討されているに留まるため、影響は限定的と考えられます。

選択的共同親権制になること自体のメリット

離婚後の選択的共同親権になること自体のメリットは、単独親権が選択された場合でも、非監護親の面会交流権権が現行よりも拡大される可能性があることです。

例えば、アメリカ合衆国では、共同親権または非監護親の面会交流権を前提とした単独親権を選択できる州がありますが、日本でも似たような制度が採用される可能性があります。

離婚後の選択的共同親権の限界

離婚後の選択的共同親権の限界としては、以下のようなものが考えられます。

子供が連れ去られた場合は共同親権を選択しにくい

子連れ別居をした親が、「監護の継続性」の原則に基づいて親権者に指定されるケースが多いのが現状です。

ハーグ条約締結後は、子供の違法な連れ去りがあったことが明らかな場合には、連れ去り親を親権者とすることに慎重な姿勢がとられますが、それでも連れ去り親が親権者になるケースは少なくありません。

選択的共同親権制が採用されたとしても、子連れ別居や子供の違法な連れ去りが行われたケースでは、非監護親が単独親権か共同親権かを選択する余地がほぼなくなります。

つまり、連れ去り親が「子どもとの面会交流を実現したい場合は、親権を諦めろ。」と主張すれば、共同親権を選択することは困難になります。

そうした主張が不適切だと不満を述べても、監護親が聞き入れるとは考えにくく、裁判などで親権者を指定する家庭裁判所が非監護親の主張をどこまで聞き入れるようになるかは未知数です。

DVのおそれがあると主張された場合も共同親権を選択しにくい

監護親が非監護親によるDVのおそれを主張した場合も同様です。

例えば、虚偽DVをでっち上げられた場合、虚偽であることを非監護親が証明できない限り、家庭裁判所が単独親権の判断を下す可能性があります。

虐待防止になるとは限らない

選択的共同親権制が採用され、共同親権を選択したとしても、虐待防止につながるとは限りません。

虐待防止には、非監護親が日常的に子どもと交流していることが重要であるところ、共同親権が選択されても面会交流が十分に確保されなければ効果が薄いのは自明です。

したがって、選択的共同親権制を採用すると同時に、現行の月1回が原則という現行の面会交流の在り方を改善しない限り、虐待防止効果は限定的です。

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子供の養育放棄を助長するおそれがある

監護親が共同親権を求めても、非監護親が離婚後の新しい生活を思い描いて単独親権を希望することもあり得ます。

つまり、親として子供を養育する義務を放棄するおそれがあるのです。

これでは現行の離婚後単独親権制と何ら変わるところはなく、むしろ、「あえて単独親権を選択した(親権を相手に譲った)のだから、子供のことに責任を持つ気はない。」という主張をする非監護親が出てくる可能性もあります。

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離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
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サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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