親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判の申立て!審理と審判前の保全処分

親権制限 親権喪失 親権停止 管理権喪失

日本の民法は、親権について「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。(民法第820条)」と規定し、子どもを育てることが親の権利であり、義務でもあることを明示しています。

しかし、子どもを育てる権利と義務を濫用し、子どもに暴力を振るったり、暴言を吐いたり、養育を放棄したりする児童虐待に及ぶ親が増加しています。

また、子どもの財産を管理できる立場を利用して、子どもの財産を使い込む事例も後を絶ちません。

こうした「子の利益(子どもの福祉)を害する」状況から子どもを守る制度の一つが親権制限制度です。

親権制限制度とは

親権制限制度とは、子の利益(子どもの福祉)を守るために、親権を濫用して児童虐待などに及ぶ親の親権を制限する制度です。

親権制限制度には、親権喪失、親権停止、管理権喪失の3種類があります。

いずれも、子の利益(子どもの福祉)を害するときに、子やその親族などが親の親権制限を家庭裁判所に請求し、家庭裁判所が制限するか否かを判断しますが、要件はそれぞれ異なります。

親権喪失 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき

(民法第834条)

親権停止 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき

(民法834条の2)

管理権喪失 父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき

(民法835条)

親が子の利益(子どもの福祉)を害する状況が2年以上継続する見込みがある場合は親権喪失の審判、2年以内に改善される見込みがある場合は親権停止の審判を申し立てることになります。

親権制限制度の件数

2012年以降の親権制限制度に関する審判の新受件数(1月~12月)は、以下のとおりです。

親権喪失 親権停止 管理権喪失
2012年 111 120 6
2013年 111 185 14
2014年 108 153 10
2015年 63 192 6
2016年 108 202 4

※2016年は速報値

関連記事

親権制限制度は親権停止、親権喪失、管理権喪失!申立権者と審判の効力

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判の申立て

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判は、請求の要件が異なりますが、申立権者、申立先(管轄の家庭裁判所)、申立書の書き方、必要書類や費用、審理の流れなどは似ているため、まとめて解説します。

申立権者

申立権者は、以下のとおりです。

  • 子ども本人
  • 子どもの親族
  • 未成年後見人
  • 未成年後見監督人
  • 検察官

これらの申立権者は民法第834条、第834条の2、第835条に規定されています。

加えて、児童福祉法第33条の7の規定により、児童相談所長にも申立権があります。

おおむね10歳前後の子どもには意思能力があると解されており、未成年後見人などの法定代理人ではなく子ども本人が申立てを行うことができます。

しかし、通常、10歳前後の子どもが申立てに必要な資料を不備なく揃えたり、裁判官の前で請求の理由を理路整然と説明したりすることは困難です。

そのため、家庭裁判所は、必要であると認めるときは、申立てまたは職権により、子どもの手続代理人として弁護士を選任することができます(家事事件手続法第23条第1項、同法第2項)。

実際のところ、家庭裁判所には家庭裁判所調査官が配置されており、彼らが子どもの意向や心情を把握することが多く、子どもの手続代理人が選任される事例はほとんどないのが現状です。

申立先(管轄の家庭裁判所)

子どもの住所地の家庭裁判所です。

申立てにかかる費用

  • 収入印紙:子ども1人につき800円分
  • 郵便切手:数百円分

郵便切手の金額や枚数は、家庭裁判所によって異なるため、事前に確認する必要があります。

申立ての必要書類

  • 申立書
  • 子どもの戸籍謄本(全部事項証明書):1通
  • 審判を受ける親権者の戸籍謄本(全部事項証明書):1通(子どもと親権者の戸籍が異なる場合のみ)
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書):1通(子どもの親族、未成年後見人、未成年後見監督人が申し立てる場合のみ)
  • 請求の理由を説明する資料:適宜
  • 認印
  • 申立人の身分証明書:窓口での提示のみ

子どもの親族、未成年後見人、未成年後見監督人が申し立てる場合、家庭裁判所が申立権の有無を確認するために、戸籍謄本の提出を求められます。

申立人本人の戸籍謄本だけでなく、子どもや親権者との関係が分かる戸籍謄本を提出する必要があるので、注意してください。

請求の理由を説明する資料とは、親が親権を濫用し、子の利益(子どもの福祉)が侵害されていることを示す資料です。

例えば、親から暴力を受けた場合の医師の診断書、親の暴言を録音したデータやその録音反訳(録音から文字を起こして書面化したもの)、子ども名義の預貯金通帳のコピー(管理権喪失の場合)などが、資料となり得ます。

ただし、審判の証拠となるような資料を提出することが困難な事例も多く、申立人の陳述、家庭裁判所調査官による子どもや関係者の調査結果などが証拠とされることが多くなっています。

親権喪失、親権停止、管理権喪失の申立書の書式と書き方

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判の申立書の書式と書き方を確認していきましょう。

申立書の書式の入手方法

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判には専用の申立書の書式はなく、家事審判申立書の定型書式を使用することになります。

家事審判の申立書は、家庭裁判所の窓口や手続案内でもらうか、裁判所ウェブサイトから書式をダウンロードして入手します。

なお、申立書には子どもの情報を記載する欄がないため、別途、当事者目録を作成しなければなりません。

当事者目録は、家庭裁判所の窓口や手続案内でもらうか、裁判所ウェブサイトからのダウンロードして入手することができます。

手続代理人を選任する場合

子どもの手続代理人として弁護士を選任する場合、手続代理人目録を提出する必要があります。

手続代理人目録の書式は、全国の家庭裁判所が独自に作成しているため、事前に家庭裁判所の窓口や手続案内で交付を受けてください。

裁判所ウェブサイトで書式がダウンロードできる家庭裁判所もあります。

記載する欄

申立人が記載するのは、事件名と申立書の太枠で囲まれた部分です。

具体的には、以下の欄に必要事項を記載します。

  • 裁判所名、記入年月日
  • 申立人の記名押印
  • 添付書類
  • 申立人
  • 空欄(親権者の情報を記載する欄)
  • 申立ての趣旨
  • 申立ての理由
  • 裁判所名・作成年月日

事件名

家事審判申立書の定型書式には事件名が空欄になっています。

家事審判申立書という記載の横の「事件名()」に、親権喪失、親権停止、管理権喪失のいずれかの事件名を書きます。

裁判所名、記入年月日

裁判所名の欄に、申立てを行う家庭裁判所名(家庭裁判所は印字されているため、その前の部分)を記入します。

家庭裁判所の支部や出張所に申し立てる場合、家庭裁判所の左に裁判所名を記入し、下に支部名や出張署名を書きます。

【記載例】

  • 大阪家庭裁判所
  • 大阪家庭裁判所堺支部

記入するのは赤字部分のみです。

記入年月日には、申立書を作成した年月日を記入します。

申し立てる日の年月日またはその1週間前くらいの間の年月日にしてください。

1ヶ月以上古い年月日を書くと、受付窓口で事情を聞かれることがあります。

申立人の記名押印

申立人が、氏名を記入して印鑑を押します。

未成年後見人や未成年後見監督人が申立人の場合、①子どもの氏名、②子どもの法定代理人であること、③未成年後見人などの氏名を記入して押印ます。

【記載例】

  • (1段目)○○(子どもの氏名)の未成年後見人(未成年後見監督人)、(2段目)未成年後見人(未成年後見監督人)の氏名

添付書類

添付書類の名称と通数を手書きで記入します。

揃っていない書類については記入せず、申立て時に窓口で事情を説明します。

【記入例】

  • 子どもの戸籍謄本(全部事項証明書)1通

申立人

記入欄の項目どおりに、本籍、住所(電話番号)、連絡先(電話番号)、氏名(フリガナ)、生年月日、年齢、職業を記入します。

申立人が外国籍の場合、本籍欄には国籍を書きます。

住所と連絡先が同じ場合は、連絡先欄に「上記住所と同じ」と記入します。

本籍や住所は、添付する戸籍謄本などに記載されているとおり書かなくてはならず、「丁目」、「番地」、「号」などを省略すると、修正を求められることがあります。

空欄(親権者の情報を記載する欄)

申立人欄のすぐ下に、項目が空白になっている欄があります。

左の縦長の枠内に「審判を受ける者」または「親権者」と記入し、子どもの親権者の本籍、住所(電話番号)、連絡先(電話番号)、氏名(フリガナ)、生年月日、年齢、職業を書きます。

申立ての趣旨

申立ての趣旨欄には、申し立てる審判の種類によって、記入する内容が異なります。

親権喪失 「親権者の未成年者に対する親権を喪失させる。」との審判を求める。
親権停止 「親権者の未成年者に対する親権を平成○○年◯◯月○○日までの間停止させる。」との審判を求める。
管理権喪失 「親権者の未成年者に対する管理権を喪失させる。」との審判を求める。

いずれも記載例であり、同じ意味のことが書かれていれば、多少は文章の内容が違っても問題はありません。

親権停止は、2年以内の期限付きで親権者が親権を行使できなくする手続であり、申立ての趣旨にも期限を記載しなければなりません。

年月日を書く以外に、「1年の間停止させる。」など制限を求める期間を書くこともできます。

申立ての理由

親権喪失、親権停止、管理権喪失を求める事情を記載する欄です。

親権者が親権を濫用し、それによって子の利益(子どもの福祉)が害されていることを具体的に書かなくてはなりません。

多くの事例では、申立書には書ききることができず、申立ての理由欄には「別紙記載のとおり。」と書き、別紙に詳細な事情を書きます。

別紙の様式は指定されておらず、ワードなどで作成しても、手書きで作成しても問題ありません。

申立ての理由に書くべき事項は、以下のとおりです。

  • 子どもと親権者の関係(同居か別居か、現在の監護に至る経緯など)
  • 子どもの親族が申し立てる場合、親族と子ども、親権者の関係(続柄、同居か別居か、子どもや親権者との関わりの程度など)
  • 親権者による子どもの監護や財産管理状況(DV、育児放棄、子どもの財産の浪費など、子の利益を害する事情など)
  • 審判後の対応(審判で親権喪失などが認められた後の子どもの監護方法など)

最後に、「現状の親権者による監護または財産管理は子の利益(子どもの利益)を害するため、申立ての趣旨のとおりの審判を求める。」と書き、次の行に「以上」と書いて締めくくります。

当事者目録の書き方

当事者目録には、身分関係、本籍、住所(電話番号)、氏名(フリガナ)、生年月日、年齢欄があります。

身分関係欄には「子」または「未成年者」と記入します。

本籍や住所(電話番号)が親権者と同じ場合は、「上記親権者の本籍(住所)と同じ。」と書きます。

審判前の保全処分

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判では、審判前の保全処分を申し立てることができます。

審判前の保全処分とは

審判前の保全処分とは、審判などの確定を待つと当事者の権利実現が困難になったり、権利者が重大な損害を受ける恐れがあったりする場合に、必要な保全をする手続です。

本案が終局するまでの暫定的な措置であり、保全処分を申し立てるには、審判などを本案として申し立てなくてはなりません。

保全処分が認められるためには、保全の必要性と本案認容の蓋然性の要件を満たす必要があります。

関連記事

審判前の保全処分とは?後見、財産分与、子の引渡しで申立てができる?

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判の保全処分

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判で請求できる審判前の保全処分は、親権者の職務執行停止または親権代行者の選任です。

親権者の職務執行停止 暫定的に、親権者が親権の行使をできないようにする
親権代行者の選任 暫定的に、親権を代わりに行う人を選任する

親権代行者に選任された人は、本案審判までの間ですが、親権者と同じ権限を行うことができます。

その効力は第三者に対しても及ぶ強力なものです。

そのため、申立人が親権代行者に選任されるとは限らず、家庭裁判所が親権を代行させることが相当だと判断した人を選任します。

審判前の保全処分の即時抗告

審判前の保全処分の審判の結果に対しては、即時抗告することができます。

保全処分が認容されるか却下されるかによって、即時抗告できる人が異なります。

審判結果 即時抗告できる人
認容 本案に即時抗告できる人(親権者やその親族など)
却下 申立人

親権者は、本案だけでなく保全処分にも即時抗告することができます。

しかし、保全処分が認容されるのは、家庭裁判所が「保全の必要性」と「本案認容の蓋然性」があると判断した場合であり、即時抗告は認められにくいものです。

また、保全処分には執行力があり、即時抗告があっただけでは執行力が停止することはありません。

保全処分の執行停止の要件は、家事事件手続法第111条第1項に「原審判の取消しの原因となることが明らかな事情及び原審判の執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることについて疎明があったとき」と規定されています。

つまり、即時抗告した親権者などが、保全処分の取消し原因となることが明らかな事情などを自ら疎明しなければならないのです。

保全処分の審判の取消し

家事事件手続法第112条は、保全処分の審判の確定後にその取消しの審判を行う場合の要件を「審判前の保全処分が確定した後に、保全処分を求める事由の消滅その他の事情の変更があるとき」と規定しています。

保全処分を求める事情がなくなったり、事情の変更があったりした場合、保全処分の審判が取り消されることがあるのです。

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判の審理の流れと期間

審理の流れと期間について解説していきます。

審理の流れ

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判の一般的な審理の流れは、以下のとおりです。

  1. 申立てを受理した後、審問期日を設定して申立人に通知
  2. 審問期日において、申立人から事情を聴取して親権者の親権行使の状況を確認する
  3. 審問期日を親権者に通知
  4. 審問期日において、親権者から申立てに対する反論を聴取する
  5. 家庭裁判所調査官が子ども(子どもが15歳以上であれば必ず陳述を聴取し、15歳未満の場合は必要に応じて聴取する。)、申立人、親権者、その他親族の調査を行い、子どもの状況や緊急性の有無を把握する
  6. 審問期日において、調査結果を踏まえて申立人と親権者から意見を聴く
  7. 審判または取下げ

事案によっては、申立人と親権者を同じ審問期日に呼び出して主張を聴取することもあります。

審理期間

最高裁判所事務総局家庭局が作成した「親権制限事件及び児童福祉法28条事件の概況―平成28年1月~12月―」によると、審理期間は以下のとおりです。

審理期間 親権喪失 親権停止
1ヶ月以内 10件 21件
1ヶ月超

2ヶ月以内

6件 39件
2ヶ月超

3ヶ月以内

14件 41件
3ヶ月超

4ヶ月以内

8件 36件
4ヶ月超

5ヶ月以内

15件 11件
5ヶ月超

6ヶ月以内

17件 19件
6ヶ月超 18件 49件
合計 78件 216件

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判は、子の利益(子どもの福祉)を守るために迅速な対応が求められる手続ですが、審理期間が3ヶ月を超える事案が多いのが現状です。

親権喪失、親権停止、管理権喪失の審判の確定後

審判確定後、家事事件手続規則第76条第1項第1号の規定により、家庭裁判所書記官が子どもの本籍地の市区町村長に嘱託します。

したがって、申立人が手続をすることはありません。

婚姻中の父母の一方のみの親権が喪失または停止された場合、もう一方が子どもの親権を行使します。

しかし、父母の両方、または、離婚して単独親権者となった父または母の親権が喪失または停止された場合、子どもの親権を行使する人がいない状態となります。

その場合、審判で親権を喪失または停止された父または母や子どもの親族などが「未成年後見人の選任」の審判を申し立て、家庭裁判所が、親権者の代わりに子どもの監護や財産管理を行う人を選任します。

関連記事

未成年後見とは?親権者がいない子どもの未成年後見人になれる人は?

審判の終局結果

最高裁判所事務総局家庭局が作成した「親権制限事件及び児童福祉法28条事件の概況―平成28年1月~12月―」では、審判の終局結果についても公表されています。

親権喪失 親権停止
認容 14件 94件
却下 13件 25件
取下げ 46件 96件
その他 2件 1件

【参考】

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って11年になります。
これまでの実務経験から、当事者自身が離婚に関する知識を得て、自分で考えて判断することが「後悔の少ない離婚」につながるという考えており、その考えに基づいて「離婚ハンドブック」を運営しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

この著者の最新の記事

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る