親権を母親が取れない場合の理由は?子どもの意思や浮気が影響する?
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最終更新日: 2019.03.5
日本の民法は離婚後単独親権制を採用しているため、子どものいる夫婦が離婚するときは夫婦の一方のみを親権者とする必要があります。
家庭裁判所は、建前上は「子どもの福祉(子どもの利益)」の観点から親権者を判断することになっていますが、古くは母性優先の原則、現在は監護の継続性の原則などに基づいて、ほとんどのケースで母親が親権者に選ばれているのが実情です。
しかし、そうした実情においても、親権を母親が取れない場合があります。
親権を母親が取れない場合の理由
親権を母親が取れない、つまり、離婚時に母親が親権者になれない理由としては、以下のようなものを挙げることができます。
子どもを虐待している(児童虐待)
児童虐待とは、保護者(親権者、未成年後見人など子どもの監護者)が子どもを身体的または精神的に虐待することです。
児童虐待防止法第2条では、児童虐待の4つの類型が定義されています。
種類 | 具体例 |
身体的虐待 | 子どもの身体に外傷ができる、または、外傷ができるおそれのある暴行を加えること 具体例:子どもの身体に殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせるなど |
性的虐待 | 子どもにわいせつな行為をすること、または、わいせつな行為をさせること 具体例:子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にするなど |
ネグレクト | 子どもの心身の発達を妨げる著しい減食、長時間の放置、保護者以外の同居人による虐待の放置など、保護者としての監護を著しく怠ること 具体例:家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど |
心理的逆地 | 子どもへの著しい暴言、拒絶的対応、配偶者への暴力など、子どもに著しい心理的外傷を与える言動をすること 具体例:言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子供の目の前で家族に対して暴力をふるう(DV)など |
児童虐待は子どもの健全な成長に深刻な悪影響を及ぼす行為であり、母親が子どもを虐待している事実が明らかになった場合は、子どもの福祉(子どもの利益)の観点から、母親が親権者に指定されることはほぼありません。
ただし、父母両方が児童虐待を行っていた場合、父母について親権制限(親権喪失または親権停止)の手続きがとられ、子どもは祖父母などの親族に引き取られるか、施設入所する可能性があります。
親権制限によって親権者がいなくなった場合、祖父母などが子どもの未成年後見人に選任され、父母の代わりに子どもの監護養育や財産管理を担います。
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父親が主たる監護者である
家庭裁判所の実務では、親権者を決める場合に「監護の継続性」という原則が重視されます。
監護の継続性とは、子どもが父または母の監護下で一定期間以上特段の問題なく生活している場合に、環境の変化が子どもに与える身体的または精神的負担を考慮し、現状の監護を継続させるべきという原則です。
子どもは、父母の離婚紛争に巻き込まれて傷を負っており、生活環境や人間関係まで急変すると傷がさらに大きくなることから、できる限り監護状況を変更しないことが子どもの福祉(子どもの利益)に適うというのが家庭裁判所の考え方です。
多くの家庭において、平時においても子どもの主たる監護者は母親であり、夫婦関係が悪化した後も母親が中心となって監護している(子連れ別居の場合も含む)ため、「現状の監護を継続=母親との生活を継続」となり、母親が親権者に選ばれる傾向があります。
しかし、父親が主たる監護者である場合は、監護の継続性に基づいて父親が親権者になれる可能性が残ります。
例えば、父親が専業主夫として子どもの監護を行ってきた、夫婦の別居時に子どもを引き取って何年間も監護を継続してきたなどの事情があれば、家庭裁判所が母親ではなく父親を親権者とする判断を下す可能性があります。
なお、近年は、ハーグ条約締結の影響などもあり、機械的に監護の継続性で親権者を決めることへの批判が強まっており、子どもの連れ去りなど違法行為によって子どもの監護が開始された場合は監護の継続性を認めない判断が増えています。
したがって、面会交流中に子どもを奪取したり、自宅から母親を追い出したりして監護を開始した場合、たとえ父親が長期にわたって子どもを監護していたとしても、母親が親権を取れないという事態にはなりにくいでしょう。
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母親の浮気が原因で婚姻が破綻した
母親が異性と浮気した場合、母親が親権を取れない場合があります。
例えば、以下のような事情は婚姻関係を破綻させる原因となり、母親が親権を取れない理由となりえます。
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端的に言うと、浮気によって子どもの監護をおろそかにしたり家庭を放棄したりして子どもに悪影響を与えた場合には、母親が親権を取れない可能性が高くなります。
ただし、浮気は夫婦の問題、親権は親子の問題です。
そのため、浮気をしたとしても、子どもの世話は献身的に行い、子どもとの関係性も良好であるなど子どもの親として特段の問題が認められない場合は、母親が親権者になる可能性は残ります。
子どもの意思
家庭裁判所は、一定の年齢を超えた子どもの親権者を決める場合、子どもの福祉(子どもの利益)の観点から、子どもの意思を尊重して判断を示します。
法律上は、満15歳を超えた子どもは陳述を聴かなければならないと規定されていますが、家庭裁判所の実務では、子どもが自分の意思を表現できるようになる「おおむね10歳前後以降」の子どもの意思を把握する傾向があります。
ただし、満15歳未満の子どもについては、子どもの陳述を聴くとともに、父母の陳述、家庭環境・周辺環境、関係機関(学校、幼稚園、保育園など)から得た情報などを総合し、子どもの意思が推測されます。
乳幼児~小学校低学年までの子どもは、言葉で自分の意思を表現することが難しいため、周辺情報から子どもの意思が推測される度合いが高くなります。
通常は、子どもが満15歳以上の場合、家庭裁判所調査官が子どもと面接し、陳述を聴取します。
能力的な制限がない場合、満15歳以上の子どもは自分の意思を適切に述べることができると考えられているため、親権者についても意思を確認し、子どもの意思が親権者を決める上で最大限尊重されます。
したがって、子どもが「父親を親権者にしてもらいたい。」と希望すれば、母親が親権を取れない可能性が高くなります。
一方で、子どもが満15歳未満の場合は、子どもの陳述と周辺情報を総合的に考慮して親権者が判断されるため、子どもが父親を親権者にしてほしいと希望したからといって、必ず母親が親権を取れないわけではありません。
特に、子どもの年齢が低い場合は、子どもがいくら父親と暮らしたいと希望しても、父母双方の監護態勢などを考慮して母親を親権者とする判断が下されることがります。
ただし、一般的には年齢が低いほど母親と一緒にいたがる傾向があるため、父親と暮らしたいと希望した場合は、子どもがそう主張した理由が丹念に調査されることになります。
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