失踪宣告の取消しとは?手続きの流れと効力、再婚への影響は?
- 家事事件
最終更新日: 2019.03.5
失踪宣告は、失踪者(生死不明の人)について、法律上、死亡したものとみなす家庭裁判所の手続きです。
失踪者の死亡によって生じる婚姻解消や相続開始などのために、配偶者や親族などの利害関係人から申し立てられる手続きですが、家庭裁判所の審判確定後に失踪者の生存が明らかになることがあります。
失踪宣告を受けた人が生存していた場合、生存を証明するだけでは失踪宣告は覆らず、別途、失踪宣告の取消しを家庭裁判所に申し立てなければなりません。
目次
失踪宣告の取消しとは
失踪宣告の取消しとは、失踪宣告の審判の取消しを求める家事事件(別表第1事件)の手続きです。
民法第32条第1項に規定されています。
失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
(民法第32条第1項)
失踪宣告とは
失踪宣告とは、生死が明らかでない失踪者について、、法律上、不在者を死亡したものとみなす宣告をする手続きです。
法律上、普通失踪と特別失踪の2種類が規定されています。
普通失踪 |
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特別失踪 |
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失踪宣告の審判が確定すると、審判を受けた失踪者は、法律上、死亡したものとみなされます。
死亡を推定する「認定死亡」ではなく、死亡したものとみなす「擬制的死亡」です。
死亡したものとみなす | 生存を証明しても覆らない(反証が許されない) |
死亡したものと推定する | 生存を証明すれば覆る(反証が許される) |
したがって、失踪宣告の審判確定後に失踪者の生存が確認された場合、生存を証明しても審判結果は覆らず、失踪宣告によって生じた効力も消滅せず、失踪宣告の取消しの審判を家庭裁判所に申し立て、失踪宣告の審判を取り消すよう求めなければなりません。
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失踪宣告の取消しができる場合
失踪宣告の取消しができるのは、失踪者の生存が確認された場合と、異時死亡(失踪者が失踪宣告の審判で認定された時期とは異なる時期に死亡したことが確認された)の場合です。
前者による申立てが多いですが、失踪者の死亡時期が重要になる場合には、後者の申立てがなされることもあります。
失踪宣告の効力
失踪宣告の審判が確定すると、法律上、失踪者は死亡したものとみなされ、以下のような効力が生じます。
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離婚したいが配偶者不在で協議や調停ができない場合や、遺産分割協議をしたいが相続人の一人が不在で協議ができない場合などは、失踪者について失踪宣告がされることで、手続きを進めることができるようになります。
失踪宣告の取消しの効力
家庭裁判所が失踪宣告の取消しを認める審判を出し、その審判が確定した場合、失踪宣告の効果(失踪者の死亡を原因とする権利変動)は、原則として、「はじめから生じなかった」ことになります。
つまり、婚姻関係は回復し、相続財産や保険金などは不当利得として返還しなければならなくなります。
ただし、失踪宣告によって生じた権利変動で利害関係人となった人が、失踪宣告の取消しによって不測の損害を受けることを回避するため、民法第32条後段では「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」と規定されています。
過去の判例では、「善意でした行為」とは「契約の当事者双方が善意であることが必要」と解釈されていますが、通説は、「契約の相手方が善意であれば足りる」というものです。
失踪宣告の取消しと再婚
夫婦関係に関して失踪宣告の取消しが問題となるのは、失踪宣告後に再婚していた場合です。
失踪宣告の取消しによって前婚が復活するため、前婚と後婚の重婚状態が発生します。
失踪宣告が善意でした行為に当てはまると考える立場に立つと、失踪宣告の申立人とその再婚相手の両方が失踪者の生存を知らなかった場合には、重婚として取り扱わないこともあり得ます。
しかし、実際のところは重婚状態と判断されることが多く、離婚による前婚の解消または婚姻の取消しによって重婚状態を解消する必要があります。
現存利益の返還
繰り返しになりますが、失踪宣告の取消しの審判が確定すると、失踪宣告によって得た失踪者の相続財産や保険金などは不当利得として返還する義務を負います。
失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
(民法第32条第2項)
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(民法第703条)
ただし、民法第32条第2項ただし書では、「ただし、現に利益を受けている限度においてのみ。」と規定されており、利益が残った範囲に限定して変換すれば足りることが分かります。
失踪宣告の取消しの申立て
失踪宣告の取消しは、家庭裁判所の家事事件手続の一つであり、裁判所への申立てが必要です。
申立手ができる人(申立権者)
申立権者は、失踪者本人または利害関係人です。
利害関係人は、失踪者の配偶者、推定相続人(失踪者の配偶者、子、父母、きょうだい)、受遺者(遺贈を受ける人として、失踪者の遺言によって指定された人)、不在者財産管理人などです。
申立先(管轄の家庭裁判所)
失踪者本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
必要書類
【失踪者本人が申立人の場合】
【失踪者以外が申立人の場合】 上記に加え、以下の書類を添付
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申立てにかかる費用
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郵便切手については、各家庭裁判所が個別に金額や枚数を指定しており、申立先への事前確認が必要です。
家庭裁判所における失踪宣告取消しの審理の流れ
申立てが受理された後の審理の流れは、以下のとおりです。
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失踪宣告の取消しの審理では、失踪者が失踪宣告を受けた人と同一人物であるか否かが慎重に確認されます。
失踪者本人、親族、利害関係人に対する書面や面接による調査、必要資料の収集などが行われ、それらを踏まえて失踪宣告を取消す事情が認められるか否かが判断されます。
失踪宣告の取消しを認める審判が出され、2週間の即時抗告期間が経過して審判が確定すると、失踪宣告の効力が解消します。
つまり、死亡したものとみなされた状態が解消され、配偶者との婚姻関係などが回復するのえす。
なお、失踪宣告の取消しの審判が確定するまでは、失踪宣告の効力が継続しており、失踪者は死亡したものとみなされたままです。