胎児認知とは?胎児認知届の必要書類と戸籍・出生届の記載は?調停になる可能性は?
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最終更新日: 2019.10.26
認知は、子供が生まれる前の胎児の段階でもすることができます。
子供が胎児のうちにする認知は「胎児認知」と呼ばれ、通常の認知と区別されますが、違いについて理解している人は多くありません。
この記事では、胎児認知とはどのような手続なのか、胎児認知届に必要なものと戸籍・出生届の記載、胎児認知のメリット・デメリットについて解説します。
目次
胎児認知とは
胎児認知とは、子供が母親の胎内にいる段階で、子供の父親が「母親が妊娠しているのは自分の子供である。」と認めて認知の届出をすることです。
胎児認知は、民法第783条第1項に規定されています。
父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。
(民法第783条第1項)
認知の効果
婚姻関係のない男女の間に生まれた子供(非嫡出子)は、母子関係は分娩の事実によって明らかになります。
しかし、父子関係については嫡出推定がないので明らかにならず、出生後は母親の戸籍に入りますが、父親欄は空欄のままです。
こうした状態で、子供の父親が「自分の子供である」と認めて認知の届出をすることにより、法律上の父子関係が発生し、親子関係に基づく以下のような効果が生じます。
- 子供の戸籍:父親欄に認知をした男性の氏名が記載される
- 親子の扶養義務:父親が子供を扶養する義務が生じ、養育費を請求できる
- 相続権:父親死亡時に子供に相続権が発生する
- 準正:父親が子供を認知し、父母が婚姻すれば、子供は嫡出子の身分を取得する
胎児認知の目的
胎児認知の制度は、明治民法において、父親が病気や怪我などで死亡するおそれがある場合などに、子供が生まれてくる前に認知をして父子関係を明らかにしておく目的で規定されました。
当時の規定が、現行民法にもそのまま残っているのです。
胎児認知がされるケース
近年は、父親が死亡するおそれがあるケースで胎児認知がなされるのはごく稀で、事実婚関係にある男女や外国人女性と日本人男性が子供を授かった場合に利用されています。
特に、法律上の婚姻をしていない外国人女性と日本人男性が子供を授かった場合については、子供に日本国籍を取得させるために日本人男性が胎児認知するケースが多くなっています。
日本の国籍法では、子供は、「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」に出生と同時に日本国籍を取得すると規定されています。
子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。
(国籍法第2条)
日本人女性から生まれた場合、分娩の事実により母子関係が明らかであるため、子供は当然に日本国籍を取得できます。
また、外国人女性と日本人男性が法律上の婚姻をしている場合は、嫡出推定により子供は日本人男性の子供と推定され、やはり子供は日本国籍を取得します。
しかし、外国人女性と日本人男性が法律上の婚姻をしていない場合、母親は外国籍なので「母が日本国民であるとき」に当てはまらず、法律上の父子関係が未確定なので「父が日本国民であるとき」にも当てはまらず、出生と同時に日本国籍を取得できません。
そこで、外国人女性が妊娠した時点で、日本人男性が胎児認知をして父子関係が明らかにすることで、「父が日本国民であるとき」という規定によって子供が出生と同時に日本国籍を獲得できるようにしているのです。
胎児認知のメリットとデメリット
胎児認知のメリットとデメリットについて確認していきます。
胎児認知のメリット
胎児認知の最大のメリットは、早期に法律上の父子関係を確定させることにより、子供の身分を安定させられることです。
父子関係が確定することで、子供の戸籍に父親が記載され、父親に子供に対する扶養義務や相続権が生じます。
例えば、子供の出生前に父母の関係が悪化して破たんしても、子供が出生した後は、親子の扶養義務に基づいて父親に養育費を請求することができます。
また、子供の出生前に父親が死亡しても、子供は父親の相続人として財産を取得することができます。
「認知+父母の婚姻」という条件が揃えば、非嫡出子(婚姻関係にない父母から生まれた子)が嫡出子の身分を取得できます(準正)。
胎児認知のデメリット
胎児認知では、子供が生まれる前に認知をするので、実際に親子関係が存在するかどうかを確認する術がなく、実の父親ではない男性が胎児認知をしてしまうことがあります。
例えば、母親となる女性が交際相手(胎児認知した男性)とは別の男性とも性的関係を持ち、その男性の子供を妊娠していた場合に、交際相手が自分の子供だと思い込んで胎児認知をするケースが起こり得るのです。
子供が生まれた後に親子関係がないことが明らかになったとしても、認知を取り消すことは認められていないので、認知無効の訴えを提起して、裁判所に認知の無効を認められないと親子関係が解消されません。
認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。
(民法第785条)
認知無効の訴えが認められない限り、父子関係がないことが明らかでも扶養義務を負い、死亡時にはあかの他人の子供に財産を相続されるおそれがあります。
また、戸籍にも認知の事実が記載されたままとなり、婚姻などにも影響を及びかねません。
胎児認知はいつからできるか
民法には、いつから胎児認知ができるかについては規定されていません。
また、胎児認知をするときに、母子健康手帳など妊娠を証明する資料の提出を求められることもありません(後述のとおり、母親の承諾書は必要です。)。
したがって、女性の妊娠が分かった時点で胎児認知をしても、書類上の不備不足がなければ届出は受理されます。
実務上は、妊娠発覚直後よりも、妊娠届出書を作成して市区町村役場に妊娠を届け出て母子健康手帳を発行してもらう時期や、女性が安定期に入った後に、男女が一緒に市区町村役場へ行って胎児認知を行うケースが多くなっています。
胎児認知届出書の用紙の入手方法・書き方、必要書類
胎児認知届の準備について確認していきます。
胎児認知届出書の入手方法
胎児認知届に使用する用紙(通常の認知届の書式と同じ届出書)は、市区町村役場の戸籍担当課(名称は自治体によって異なる)で交付してもらうか、ネット上でダウンロードして入手します。
戸籍法第60条から第65条や戸籍法施行規則に基づく全国共通の様式なので、他地域の自治体のウェブサイトからダウンロードした認知届でも使用できますが、届出先が印字されていることがあるので、注意してください。
札幌市役所ホームページからダウンロードできる認知届は宛先などの記載がなく、プリントアウトすれば他地域でも使用できます。
プリントアウト時はA4用紙を使用してください。
認知届の入手方法や一般的な書き方については、関連記事で詳しく解説しています。
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胎児認知届出書の書き方
出典:札幌市役所ホームページ
基本的には、通常の認知届と同じく記載例を参考にして作成することになります。
ただし、胎児認知届出書の作成時点で子供が生まれておらず、氏名も決まっていないことが多いので、通常の認知届とは異なる記載をする箇所があります。
「認知される子」欄の「氏名(よみかた)、生年月日」
「認知される子」欄の認知をする子供の氏名(よみかた)には「胎児」と記載します。
生年月日は空欄、父母との続き柄も空欄にしておきます。
「認知される子」欄の「住所、本籍」
妊娠中の母親の住所と本籍(筆頭者の氏名)を記載します。
認知の種別
胎児認知という欄はありません。
胎児認知は父親が任意で行う認知なので、任意認知にチェックしてください。
その他
胎児認知にチェックをします。
胎児認知届には、子供の母親の同意が必要となります。
通常は、母の承諾書(母親が胎児認知に同意した旨を記載して署名押印した文書)を添付する必要がありますが、その他欄に同様の内容を記載して署名押印することで代えることも認められています。
胎児認知届の必要書類
胎児認知届に必要な書類は、以下のとおりです。
- 胎児認知届書:1通
- 印鑑:認印可
- 戸籍謄本(全部事項証明書):父及び認知される胎児の母)の戸籍謄本(本籍地以外で届出を行う場合)
- 承諾書:認知される胎児の母の承諾書
- 届出人の本人確認書類:運転免許証、パスポート、住民基本台帳カードなど
胎児認知届の提出と戸籍記載、出生届の提出
胎児認知届出書を作成して必要書類を揃えたら、胎児認知届を提出します。
届出人
認知する父です。
届出先
認知される胎児の母の本籍地です。
届出期限
設定されていません。
生まれてくる子供の国籍を気にする場合は、出産前に行って行っておく必要があります。
胎児認知届が受理された後
胎児認知届は、受理されても通常の認知届のように父親の戸籍の記載に変動はなく、子供の母親の戸籍附票にだけ胎児認知がされた事実が記載されるだけです。
父親の戸籍に認知をした事実が記載されるのは、子供が生まれて母親の戸籍に入った時点です。
子供の戸籍 |
|
父親の戸籍 | 認知日、認知した子の氏名、認知した子の氏名が記載 |
なお、胎児認知した後に流産などで胎児が生まれなかったときは、母親の戸籍附票から胎児認知の記載が削除されるだけで、父親の戸籍には何も変動はありません。
出生届の記載
婚姻関係にない男女の間に生まれた子供の出生届を提出する場合、そのままでは法律上の父親が未確定の状態なので、父親欄を空欄にしておかないとが受理されません。
一方で、胎児認知した子供の場合は、出生前に認知によって法律上の父子関係が確定しているので、出生届の父親欄に胎児認知した父親の氏名を記載する必要があります。
父親が胎児認知を拒否した場合
胎児認知は扶養義務など子供に対する重い義務を背負う行為であり、「妊娠した女性と添い遂げたい」、「親としての責任を果たしたい」などの強い意思がない父親の場合、「自分の子供だとは思うが、認知したくない。」と認知を拒否することがあります。
父親が胎児認知を拒んだ場合、母親は認知の訴えを提起して強制的に認知させる方法を選択することができます。
ただし、「認知に関する問題については、第一次的には父母間の協議によって解決すべきであり、協議で解決できない場合に判断を示す」というのが家庭裁判所の方針(調停前置主義)です。
したがって、父親が胎児認知を拒否したら、認知調停(特殊調停事件)を申し立てて、調停委員会を交えて認知について協議しなければなりません。
そして、認知調停を経ても父親が認知を拒み続けて調停が不成立で終了した場合に、最終的な手段として認知の訴えを起こすことになります。
父母の協議:父母が合意すれば、認知届を市区町村役場に提出する
↓
認知調停:特殊調停(父母の合意、事実関係に争いがないことの確認)を経て、家庭裁判所が合意に相当する審判(必要な調査をした上で)をする
↓
認知の訴え:証拠に基づいて裁判所が認知を認めるかどうかを判断する(強制認知)
まとめ
胎児認知は、明治民法下で制定された制度で、子供が生まれる前に父親が死亡した場合に備え、出産前に「自分が父親であること」を認める手続きです。
戦争や内乱で命を落とすか可能性があり、病気や怪我で死亡するリスクも高かった時代に定められた規定が、今もそのまま残されているもので、現代において胎児認知が活用されるケースは限られています。
しかし、事実婚関係の男女や国際結婚をした人の間では今でも胎児認知を活用するケースがあり、特に、後者では子供の地位を安定させる重要な制度と位置付けられています。
日本人同士の法律婚でなく、男女間に子供がいる場合は、子供の地位の安定のために胎児認知という方法があることを押さえておくと良いでしょう。
胎児認知は、通常の認知と同じく認知届を役場に提出しますが、認知について同意が得られない場合は、認知調停や認知の訴えを起こすことになります。
認知は、子供が生まれていても父母間で争いになりやすい事柄です。
胎児認知の場合はそのハードルがさらに高くなる傾向があり、認知の訴えまで進むケースが一定数あるのが実情です。