うつ病で離婚や慰謝料請求はできる?うつ病の妻と離婚する方法

夫婦関係が悪化した後の婚姻生活は夫婦にとって大きなストレスとなり、うつ病発症の原因となることがあります。
また、離婚紛争中に心の健康状態が悪化してうつ病を発症する人もいます。
離婚を望んでいない人だけでなく、離婚を切り出した人が疲弊して心を病むケースも少なくありません。
目次
うつ病とは
うつ病とは、気分の落ち込み、憂鬱な気分、意欲の低下、興味関心の減退、喜びなどの感情の減退などの症状が長期にわたって続き、日常生活に支障をきたしている状態です。
うつ病を発症すると、自尊心や自己肯定感が低下し、物事の見方が否定的になるため、些細なことで気分が落ち込み、さらに状態を悪化させるという悪循環に陥ります。
また、夫婦間のコミュニケーションがうまくいかなくなる、仕事や家事育児に支障をきたす、生活習慣が大きく変化するなどして夫婦関係が悪化し、関係を修復することができず離婚に至ることがあります。
うつ病の患者数
厚生労働省の患者調査の結果を確認すると、2014年に医療機関を受診したうつ病と躁うつ病の総患者数(調査日現在において、継続的に医療を受けている患者の推計数)は112万人です。
一方で、WHO(世界保健機関)は、2015年時点で、うつ病に苦しむ人は世界中に推計3億2200万人(全人口の約4%)、日本には約506万人いると発表しています。
つまり、医師にうつ病と診断された人以外にも、うつ病に苦しむ人が相当数いることと考えられているのです。
また、WHOは、うつ病が男性より女性に多く、55~74歳の発症率が高く、15~29歳の自殺の主たる要因になっているとしています。
うつ病の診断基準と簡易テスト
医療現場では、アメリカ精神医学会が出版する「DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)」に基づいてうつ病が診断されています。
DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)の診断基準
DSM-5におけるうつ病の診断基準は、以下のとおりです。
A. 以下の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在して機能変化を起こしていること。
- 抑うつ気分
- 興味・喜びの喪失
- 体重減少/増加、食欲減退/増加
- 不眠/過眠
- 精神運動焦燥/制止
- 疲労感、気力減退
- 無価値観、罪責感
- 思考力や集中力の減退、決断困難
- 自殺念慮、自殺企図(症状には1または2が含まれることが必要)
B. 症状により臨床的、社会的に障害を引き起こしている。
C. 物質の影響、他の医学的疾患によるものでない。
D. 精神病性障害(統合失調症および類縁疾患)ではうまく説明できない。
E. 躁病 / 軽躁病エピソードが存在したことがない。
引用:DSM-5
簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)
簡易うつ症状尺度(OIDS-J)とは、16項目の質問に答えることで、簡単にうつの重症度が評価できるツールの日本語版です。
DSM-5は医師が用いる診断基準であり、専門外の人は文言を理解するのも難しいものですが、OIDS-Jであれば個人でも短時間で実施し、自分のうつ度を確認することができます。
質問項目や採点方法は、以下の厚生労働省ウェブサイトに掲載されています。
うつ病の症状
うつ病を発症すると、気分の落ち込み、喜びの減退、意欲の低下、興味関心の減退などの精神症状が現れ、慢性化します。
患者本人には、抑うつな気分、イライラ感、集中力の低下、意欲の低下などの自覚症状があります。
また、客観的な変化としては、元気がない、表情が暗く乏しい、刺激に対する反応が遅い、イライラしているなどを挙げることができます。
うつ病の主な精神症状は、以下のとおりです。
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うつ病は精神疾患の一つですが、以下のような身体症状も現れます。
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うつ病の症状が身体症状から現れる場合もあり、「精神的な症状がないからうつ病ではない。」と判断するのは危険です。
うつ病の原因
うつ病は、「ストレス・脆弱性モデル」に基づいて、個人の素質と環境要因からのストレスが複雑に絡み合って発症すると考えられています。
つまり、ストレス耐性が強い人でも離婚や親族の死などの問題が重なるとうつ病を発症する可能性がありますし、同じストレス状況下に置かれてもうつ病を発症する人とそうでない人がいるということです。
うつ病を発症しやすい個人の素質には、以下のようなものがあります。
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また、うつ病を発症しやすい環境要因としては、以下のようなものを挙げることができます。
生活 | 人間関係の変化(特に悪い変化)、病気、事故・事件に巻き込まれる、親しい人との死別・離別、転居、子どもの独立、出産など |
仕事 | 昇進、単身赴任、降格、解雇など |
うつ病の治療
うつ病の原因が明らかな場合は、その原因を取り除く治療が行われます。
例えば、薬の副作用が原因の場合は服薬の中止を検討し、身体の病気が原因の場合は病気の治療を行います。
服薬治療
うつ病と診断された場合、抗うつ薬による治療が行われるのが一般的です。
うつ病の治療に用いられる抗うつ薬は、SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬)などです。
また、不安が高い場合は抗不安薬、睡眠障害がある場合は、睡眠導入剤など抗うつ薬以外の薬が処方されることもあります。
薬の使用方法は医師の指示に従う
うつ病の治療に用いられる薬は、いずれも強力な効力を持つ薬ばかりであり、用法用量を間違えると症状が悪化したり、思わぬ副作用に悩まされたりします。
そのため、薬に関する医師の説明をしっかり理解し、医師の指示に従って服用する必要があります。
薬の効果が出るまでには一定の期間が必要なので、「効果がない」と勝手に判断し、服薬を止めてしまわないようにすることが大切です。
また、「症状に比べて薬の種類や量が多すぎる」、「副作用が怖い」などの理由で、医師に黙って薬の量や回数を減らすと、医師が「薬の効果が出ていない。」と考えて薬の量を増やしたり薬を変えたりしてしまいます。
薬に関して不安や悩みがある場合は、勝手に判断せず、まず医師に相談しなければなりません。
精神療法(カウンセリング)
心療内科や精神科に通院してカウンセリングを受ける中で、抱えている悩みや不安を少しずつ取り除いていきます。
精神療法では、個人の悩みや不安など、普段は他人に触れられたくない部分を話題にするため、心に大きな負担がかかります。
そのため、まずは服薬治療や休養によって症状を落ちつけ、気持ちの強さを取り戻した後で実施されます。
また、精神療法と服薬治療は同時併行で行うのが一般的です。
入院治療
自力で日常生活を送ることが困難な程度に症状が悪化したり、希死念慮が強くなって自殺の危険が高まったりした場合、入院治療が必要になることもあります。
うつ病と家族
配偶者がうつ病を発症すると、本人が悩み苦しむだけでなく、家族にも様々な影響が及びます。
夫婦関係の悪化
うつ病の配偶者は、気分が落ち込んだ状態で何をする意欲も持てない状態であり、夫婦で会話しようという意欲もエネルギーも乏しくなっています。
そのため、夫婦のコミュニケーションが減って家庭の雰囲気が暗くなり、家族関係がぎくしゃくします。
夜の夫婦生活や何気ない身体接触なども減少し、身体の結びつきの乏しさが心の結びつきに影響を与えることもあります。
また、仕事や家事育児が手につかず、自宅に引きこもって一日中寝て過ごすことも多く、それが夫婦喧嘩の原因になることも少なくありません。
さらに、うつ病の治療にも消極的になって通院を嫌がったり、処方薬を飲まなかったりすると、「必死で支えているのに、治す気がないのか。」と感じ、夫婦関係を継続しようという維持しようという気持ちが揺らぎます。
家族の負担感とストレス
専業主婦など主に家事育児を担っていた配偶者がうつ病を発症すると、それまでどおりに家の中のことができなくなり、幼い子どもが体調を崩したり、家の中が荒れ果てたりします。
健康な配偶者が、仕事をしながらうつ病の配偶者の代わりに家事育児を担うことになりますが、時間もエネルギーも限られているため、負担を感じ、ストレスを募らせます。
家庭によっては、家事育児の一部または全部を子どもに担わせることもあり、子どもも負担を感じるようになります。
また、うつ病の症状の一つに、死にたいと願う「希死念慮」という症状があります。
平たく言えば自殺願望のようなもので、一人にしておくと自傷行為や自殺を図るため、うつ病の配偶者から目が離せなくなります。
しかし、四六時中傍にいるわけにはいかず、仕事中でもこまめに安否確認をしたり、自殺未遂後に119番通報したりして対応せざるを得ず、対応する家族には相当な負担感とストレスがかかります。
症状が悪化すると入院治療となりますが、入院していられる期間には限りがあり、費用もかさみます。
経済的に困窮する
働いて家計を支えていた人がうつ病を発症した場合、家計に影響が及びます。
会社員であれば、会社の規定によっては、負担の少ない業務内容や部署に変更してもらって就労を継続できることもありますが、昇給や昇進に影響が出ますし、減給や降格となることもあります。
休職すると収入が大幅に減少し、休職期間が長期になると退職を余儀なくされて収入が途絶えます。
また、再就職しようにも、就労できる状態に回復するまでに時間を要する上、うつ病が原因で退職した場合は再就職も困難な傾向にあります。
健康な配偶者が働きに出るという選択肢もありますが、専業主婦やパート・アルバイト勤務だった場合は、安定した収入が得られる就職先を見つけるのが難しいものです。
また、仕事が見つかったとしても、うつ病の配偶者が家事育児をこなすことは難しいため、健康な配偶者が仕事も家事育児も背負うことになります。
自営業の場合、うつ病を発症して働けなくなると、その時点で収入が途絶えます。
家族経営であれば一時的に家族が代わることもできますが、一人で経営していた場合は事業継続も困難になり、うつ病が回復しても仕事がない状態に陥ります。
子どもへの影響
うつ病を発症すると、子どもに対する意欲や関心も低下する傾向があります。
例えば、子どもの食事を作らなくなる、保育園や幼稚園の準備をしなくなる、子どもの話しかけに対して無視したり怒りを向けたりするなど、子どもに対する不適切な態度が目立つようになります。
子どもは、親の態度が急変したことに戸惑い、原因が自分にあると考えて自分を責めたり、過剰に良い子を演じたり、ふさぎ込む親に代わって家事やきょうだいの世話を担ったりする(過熟反応)ようになります。
また、うつ病の配偶者の影響で家庭の雰囲気が暗くなると、子どもはそれを敏感に感じ取って様々な影響を受けます。
例えば、うつ病の配偶者を刺激しないよう家の中で騒がなくなる、自室に引きこもりがちになる、夜遅くまで帰宅しなくなる、眠ることができなくなるなどの影響が出ます。
また、子ども自身が精神的に不安定になり、うつ病を発症することもあります。
うつ病の夫・妻と離婚する方法
うつ病の配偶者と離婚することは可能ですが、健康な夫婦の離婚とは異なる点に注意しなければなりません。
以下、うつ病の配偶者との離婚について、協議離婚、調停離婚、裁判離婚に分けて解説します。
協議離婚
うつ病の妻が自ら離婚を判断できる(意思能力がある)状態であれば、離婚やそれに伴う諸条件について夫婦の合意ができた段階で離婚届を提出し、離婚することができます。
うつ病の症状が落ち着いているときに離婚したいと切り出すことが大切です。
うつ病の症状は、体調、服薬の有無、時間帯などの要因によって変動するため、あらかじめ症状が落ち着きやすい状況を確認しておく必要があります。
一般的に、休日の夕方以降で、処方薬の効果が出ている間が話しやすいとされていますが、個人差があるため個別に確認してください。
離婚協議では、まず、離婚するか否かを話し合い、離婚する合意ができた後は条件面の調整に入ります。
具体的には、未成年の子どもの親権は必ず決める必要があり、その他、養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割などを取り決めます。
協議離婚の注意点
問題になりやすいのは、うつ病の配偶者の離婚後の生活です。
配偶者がうつ病の影響で働けない場合、子どもの養育費以外の経済的支援や多めの財産分与を求められ、応じないと離婚できないことがあります。
応じるか否かは自ら判断すべきですが、応じる場合は、支払額や支払終期を明確にしておくことが大切です。
また、最初から調停離婚を視野に入れておくことも、ポイントの一つです。
うつ病を発症すると、些細なことでも落ち込みやすくなるところ、離婚という大問題を突きつけられると、言葉を失ったり気を失ったりするほどの衝撃を受けて協議どころではなくなることがあります。
落ち着いたとしても、見捨てられる不安などから離婚を拒否したり、法外な条件を出して事実上離婚を拒んだりして、離婚協議が進まなくなるケースも珍しくありません。
うつ病の症状が進行すると冷静な判断を下しにくくなり、協議自体に応じなくなる人もいます。
そのため、協議ができない可能性を考えて、早い段階で調停離婚を検討することが大切になるのです。
調停離婚
夫婦で協議できない場合や、協議では離婚できない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて離婚を目指すことになります。
調停離婚の注意点
うつ病の配偶者との離婚調停では、以下の点に注意する必要があります。
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離婚調停は長引くことが多いため、配偶者の状態の変化にも注意しておかなければなりません。
離婚調停の初回期日は申立てから約1ヶ月後、第2回期日以降もおおむね1ヶ月ごとに指定されるため、ケースによっては1年近く調停が続くこともあり、その間に配偶者の状態が悪化してしまうリスクがあるのです。
なお、弁護士に相談すると、うつ病の配偶者に対応するストレスから解放され、精神状態を落ち着かせた上で離婚調停に臨むため、離婚調停前の別居することを勧められることがあります。
しかし、夫婦の合意なく別居すると悪意の遺棄を主張されることがありますし、配偶者の状態が分からなくなる不安もあります。
したがって、別居するか否かは、他人の意見を鵜呑みにせず、慎重に検討しなければなりません。
裁判離婚
離婚協議や離婚調停で離婚ができない場合、離婚訴訟を提起して離婚を目指すことになります。
離婚訴訟では、夫婦関係を破たんさせた法定離婚事由があることが裁判所に認定されないと、離婚することができません。
民法770条第1項では、離婚事由が5つ規定されています。
夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
- 配偶者に不貞な行為があったとき。
- 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
- 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
- 配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがないとき。
- その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
(民法第770条第1項)
うつ病と不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外と性的関係を持つことです。
うつ病と不貞行為を関連づけて離婚を求めて認められた判例やケースは見当たりません。
一方で、不貞行為に対する言い訳として「うつ病を発症して冷静な判断ができず、言い寄られるままに不貞に及んだ。」などと主張することはあります。
うつ病と悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、正当な理由なく、夫婦の法律上の義務である同居・協力・扶助義務を果たさないことです。
うつ病の配偶者が悪意の遺棄を主張するケースは多いですが、悪意の遺棄と配偶者のうつ病を関連づけて離婚を求めて認められた判例やケースは見当たりません。
うつ病と生死不分明
うつ病と生死不分明を関連づけて離婚が認められたケースは見当たりません。
うつ病と強度の精神病
過去の判例では、配偶者の強度の精神病を理由として離婚が認められる基準が示されています。
- 婚姻相手が、夫婦の協力・扶助義務を果たせなくなるくらい重度の精神病を発症している
- 精神病により、夫婦としての精神的なつながりがなくなっている
- 精神病が回復する見込みがない
- 精神病の治療が長期間に及び、離婚を主張する人が献身的に看病を続けてきたことが認められる
- 離婚後の看病や治療費など、精神病を発症した人の今後の生活の見通しがついている
※最高裁昭和33年年7月25日判決、最高裁昭和45年11月24日判決を参考に離婚ハンドブック編集部がまとめたもの
引用:離婚ハンドブック
法律上の婚姻をした夫婦には協力・扶助義務が課せられているところ、夫婦の一方が強度の精神病を発症して義務を果たせなくなっても、もう一方の義務が免除されることはありません。
したがって、配偶者が強度の精神病を発症しただけでは離婚は認められず、離婚後の配偶者の生活保障まで具体的に示す必要があるのです。
実務上は、以下の事情が考慮される傾向にあります。
事情 | 具体的な説明 |
重症度 | 回復の見込みがない程度に重症である
うつ病は「回復の見込みがない」病気ではなく、単体では認められにくい |
治療期間 | 長期に及んでいる
発症からの期間が長いほど強度の精神病と認められやすい |
治療内容 | 治療に積極的に取り組んだが回復しない
具体的にどのような治療を受けて症状が改善しなかったかを明らかにする 回復のための協力や、婚姻生活維持のための努力をしているほど、強度の精神病と認められやすい |
診断書 | うつ病の診断を受けている
通院や入院の期間、治療内容、うつ病の程度などが記載された診断書を提出する必要がある |
生活保障 | 離婚してもうつ病の配偶者が生活に困らないよう、環境が整えられている |
うつ病と婚姻を継続し難い重大な事由
婚姻を継続し難い重大な事由とは、不貞、悪意の遺棄、生死不分明、強度の精神病に当てはまる事情がないが、夫婦関係を継続することが困難な事情のことです。
例えば、DV、モラハラ、性的強要、児童虐待などが「婚姻を継続し難い重大な事由」となります。
うつ病と婚姻を継続し難い重大な事由を関連づけられるのは、以下のような事情がある場合です。
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裁判離婚の注意点
離婚訴訟では、主張を裏付ける証拠が大きな意味を持ちます。
配偶者のうつ病を理由として離婚を求める場合、診断書、診療報酬の明細書、領収書、通院・入院証明書、求職証明書、離職証明書、給与明細、源泉徴収票など、うつ病やそれに伴う状況の変化を証明する資料を準備しておく必要があります。
いずれも、うつ病の配偶者自身は提出を拒否することがあるため、事前に自ら準備しておかなければなりません。
うつ病の夫または妻に離婚を判断する能力がない場合
うつ病の配偶者が自ら離婚を判断することができない場合、夫婦の合意を要する協議離婚や調停離婚はできず、離婚裁判もそのままでは進めることができません。
離婚訴訟を進めるには、成年後見制度を利用して配偶者に後見人を選任し、後見人を相手として訴訟を起こさなければなりません。
成年後見制度とは、うつ病などの「精神上の障害」によって物事を判断する能力が不十分な人の権利や財産を、後見人を選任することで法律的に保護する制度です。
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2つの種類があり、それぞれ内容や申請手順が異なります。
種類 内容 法定後見制度 すでに判断能力が低下した人に対して、家庭裁判所が後見人などを選任し、その財産管理や法律行為を代わりに行うことで財産や権利を守る制度 判断能力低下の度合いにより、後見制度、保佐制度、補助制度に分類され、それぞれ成年後見人(保佐人、補助人)に付与される権限が異なる
任意後見制度 判断能力が低下した場合に備えて本人と援助者が「任意後見契約」を結び、実際に判断能力が低下した場合に契約に応じた援助を受ける制度 家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約が発効し、援助者が任意後見人として本人を援助する
引用:離婚ハンドブック
うつ病の場合、判断能力の程度によって後見、保佐、補助いずれの類型を利用するかを検討します。
類型によって後見人などに付与される権限が異なるため、事前に内容を詳しく確認し、分からないことがあれば家庭裁判所の職員に説明を求めた上で類型を選択しなければなりません。
うつ病と慰謝料請求
うつ病で慰謝料請求する場合、うつ病そのものではなく、うつ病を発症する原因となった事実を根拠として慰謝料請求するのが一般的です。
うつ病の原因が浮気(不貞行為)の場合の慰謝料請求
うつ病の原因が夫または妻の浮気(不貞行為)の場合、浮気によって婚姻関係が破綻した(離婚原因を作った)として慰謝料を請求することができます。
浮気(不貞行為)は法定離婚事由の一つであり、浮気の事実を明らかにする客観的資料があれば、高い確率で慰謝料が認められます。
また、浮気によって精神的苦痛を受けたことに対する損害賠償として夫または妻と浮気相手の両方に慰謝料を請求することもできます。
うつ病と診断された場合、浮気による精神的苦痛の程度を推認する資料となるため、証拠資料として準備、提出するのが基本です。
浮気による慰謝料の相場は50~300万円程度ですが、浮気の頻度、継続期間、夫婦の関係性と、それらを裏づける資料の内容によって変動します。
うつ病の原因がDVの場合の慰謝料請求
夫または妻のDVが原因でうつ病を発症した場合、DVによって婚姻関係が破綻したと主張して慰謝料請求を行います。
DVは法定離婚事由に明記されていませんが、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として主張し、DVを裏付ける資料を提出すれば離婚の慰謝料が認められることがあります。
DV被害自体に対する慰謝料請求も可能であり、通常は、婚姻の破綻と精神的苦痛を合わせて慰謝料を請求します。
DVにより精神的苦痛を受けたことの証明として、うつ病の診断書を提出すれば、客観的資料として慰謝料が認められる可能性が高まります。
DVを請求根拠とする慰謝料の相場は50~500万円ですが、DVの程度、継続期間、夫婦の関係性や行為の態様、DVによる被害の程度などと、それを裏づける資料の内容によって変動します。
うつ病の症状が重く、そのことが診断書などから明らかな場合は、請求金額に近い慰謝料が認められる見込みが上がりますが、うつ病ではなく「うつ状態」とされた場合や、DVとうつ病の因果関係が不明確な場合は、慰謝料が認められないおそれもあります。
うつ病の原因がモラハラの場合の慰謝料請求
モラハラが原因でうつ病を発症した場合も、慰謝料を請求できることがあります。
ただし、モラハラは法定離婚事由に明記されておらず、判例を確認してもモラハラ単体で離婚の慰謝料が認められたケースは見当たらず、浮気やDVと比較すると慰謝料請求の難易度が上がります。
難易度が上がるのは、モラハラと婚姻関係の破綻の因果関係を証明する資料を揃えるのが難しいことと、現状、モラハラという新しい概念が裁判所に受け入れられているとは言い難いことが原因です。
したがって、浮気やDV、悪意の遺棄などの法定離婚事由とセットでモラハラを主張して慰謝料請求を行うのが無難です。
モラハラの慰謝料の相場は50~300万円程度ですが、モラハラの程度や内容、継続期間などに加え、その他の要因と主張を裏づける資料の内容によって変動します。
【参考】