民事執行法改正で養育費の取り立てに追い風!公正証書で強制執行可能に

令和元年5月10日、民事執行法の改正法が国会で成立しました。

民事執行法は、養育費を強制的に回収する「強制執行(民事執行)」の手続きを定めた法律です。

今回の改正により、強制執行による養育費の取り立てが現実的になるとともに、自主的な支払いも増える可能性があります。

この記事では、養育費の取り立て(強制執行)手続きの現状と、改正法で定められた強制執行の方法について解説します。

養育費の取り立て(強制執行)手続きの現状

2019年6月現在、取り決めた養育費が支払われなくなった場合は、以下の手順で請求・取り立てを行うことになっています。

手続き内容
当事者同士の話し合い父母間の話し合いで、取り決めどおり養育費を支払うことを求める
履行勧告家庭裁判所に履行勧告の申し出を行い、義務者に養育費を支払うよう促してもらう
強制執行地方裁判所に強制執行を申し立て、強制的に養育費を取り立てる

関連記事

養育費の強制執行手続きの流れと費用は?給与債権差押えの特例とは?

強制執行に必要な文書

強制執行の手続きを利用するには、養育費を公正証書で取り決めた場合は「執行認諾文言付きの公正証書」、裁判所で取り決めた場合は調停調書や審判書などが必要になります。

取り決めの方法必要な書類
公正証書執行認諾文言付きの公正証書

(支払いが滞った場合は強制執行されてもよいという趣旨の条項を記載した公正証書)

調停調停調書
審判審判書
離婚訴訟判決書、和解調書、認諾調書のいずれか

上記以外の方法で養育費を取り決めた場合、そのままでは強制執行を利用することはできず、執行認諾文言付きの公正証書を作成するか、裁判所の手続きで養育費を取り決めなおす必要があります。

義務者の勤務先や預貯金口座の情報

強制執行の手続きでは、申立人自身が義務者の勤務先や預貯金口座の情報を調べる必要があり、把握できた情報によって差し押さえる対象と手続きの流れが違ってきます。

義務者の勤務先を把握している

義務者の勤務先を把握している場合、以下の手順で給与を差し押さえます。

【基本】

1.間接強制の申立て

2.間接強制の決定

3.支払い

【3.で支払いがなかった場合】

4.給与差押えの申立て

5.差押え命令

6.取り立て

上記の流れは、義務者の勤務先に差押命令書が届くことで、義務者が勤務しづらくなるような事情がある場合の手順です。

そうした心配がない場合は、いきなり4.給与差押えの手続きから始めても問題はありません。

強制執行に必要なのは、勤務先の給与支払者の住所と会社名・氏名です。

給与を差し押さ得ることができれば、義務者の月々の給料から一定額を養育費として取り立てることができるようになります。

困るのは、義務者が転職した場合です。

離婚して他人同士になった義務者の転職先を割り出すのは想像以上に難しく、探し出さない限りは差し押さえることもできません。

義務者の預貯金口座を把握している

義務者の取引銀行などを把握している場合、預貯金の差し押さえを行います。

1.預貯金差押申立て

2.差押命令

3.取り立て

預貯金を差し押さえるには、義務者の取引銀行と口座の取扱支店を特定しなければなりません。

取引銀行と講座の取扱支店が分からない場合

預貯金口座の取扱支店が分からない場合、義務者の預貯金が残っている銀行と支店を推測して、預貯金の差し押さえを申し立てるしかありません。

この場合、差し押さえを申し立てた銀行・支店に預貯金の残高があれば取立てができますが、なければ他を当たることになります。

差し押さえが成功したとしても、それに気づいた義務者が預貯金を別の口座に移してしまうと、再び当てずっぽうで差し押さえを申し立てることになり、養育費の取立ては困難になってしまいます。

養育費の金額の割り振りが大変

複数の銀行・支店の預貯金を差し押さえる場合、支払が滞っている養育費の総額を分割して、口座のある銀行・支店に割り振る必要があります。

【例】

養育費の滞納額が総額50万円で、義務者の取引銀行の支店5ヶ所の預貯金の差し押さえをする場合、5ヶ所に10万円ずつ割り振る

これは、権利者(強制執行を申し立てた人)にとって非常な仕組みです。

差し押さえをかけた銀行・支店の全てに残高があれば良いですが、一部しか口座または残高がなかった場合、残高があったところから回収できるのは割振分だけで、割振分を超える金額は払い戻されるからです。

例えば、ある銀行・支店に10万円割り振っていた場合、預貯金残高が50万円あったとしても、残り40万円は差し押さえることができず、払い戻されます。

義務者の不動産を把握している場合

義務者が不動産を所有している場合、不動産を差し押さえて競売にかける方法もあります。

しかし、不動産の競売には60万円以上の費用を予納する必要があり、経済的な余力がないと厳しいですし、養育費の強制執行で利用しても費用だおれになるリスクがあります。

また、不動産に抵当権が設定されていたり、税金を滞納したりしていると、それらの支払いが優先されます。

競売の手続きが進んだとしても、滞納養育費が支払われるまでに1年以上かかるケースもありますし、現実問題として、養育費を滞納するような義務者が、差し押さえができる不動産を所有していることも希です。

そのため、養育費の強制執行で不動産の差し押さえが利用されることはほとんどありません。

義務者の財産を把握できていない場合

勤務先(給与支払者)が分からない場合、家族や知人友人に聞きまわるか、探偵や興信所に依頼して突き止めてもらうことになります。

預貯金口座が分からない場合は、弁護士会照会制度を利用して、弁護士に調べさせる方法があります。

弁護士会照会制度とは、弁護士が、所属する弁護士会を通して照会をかけ、受任した事件に必要な範囲で証拠・資料の収集や事実の調査などを行う制度です。

弁護士会照会制度を利用すれば、銀行の本店に対して、その銀行の全ての店舗について以下の情報を照会することができます。

義務者の預貯金口座の有無

【ある場合】

  • 支店名
  • 口座科目
  • 預貯金残高

弁護士会照会制度を利用する条件は、①裁判所の手続きで養育費を取り決めていることと、②弁護士に依頼することです。

実際は、弁護士への相談段階でも利用できますが、依頼するまでは制度利用に消極的な姿勢を示す弁護士も少なくありません。

なお、公正証書で養育費を取り決めた場合、原則として、弁護士会照会制度を利用しても回答してもらえません。

弁護士会照会制度とは?相手方の財産や住所を照会できる?

財産開示請求

義務者に自ら財産目録を作成して提出するよう求める手続きもありますが、無視しても30万円以下の過料が課されるだけなので、実効性は乏しいと言わざるをえません。

そもそも、過料(制裁金)は国が徴収して収入とするものであり、養育費に充てることはできません。

改正民事執行法における養育費の取り立てのポイント

改正民事執行法において、養育費の強制執行に関してチェックしておきたい重要な変更点は、4つあります。

  1. 財産開示手続の開示拒否と虚偽に対する制裁の強化
  2. 第三者からの情報取得手続(金融機関の本店に対して情報提供(取引の有無・取引店舗など)を命ずる手続き)の新設
  3. 第三者からの情報取得手続(財産開示手続の後、市町村や日本年金機構・共済組合に対して給料支払者の情報提供を命じる手続き)の新設
  4. 執行認諾文言付き公正証書で財産開示手続きが利用可能

簡単に言うと、「公正証書の効力が高まる」、「裁判所や公的機関が、養育費の支払義務者の財産を把握する手伝いをしてくれるようになる」ということです。

以下、各ポイントについて解説していきます。

財産開示手続きの開示拒否・虚偽に対する制裁の強化

財産開示手続の開示拒否・虚偽に対する制裁が強化されます。

現在改正法
30万円以下の過料6月以下の懲役または50万円以下の罰金

金額の違いに目がいくかもしれませんが、重要なのは「過料」が「懲役」または「罰金」になっているところです。

過料というのは行政罰の一種で刑罰ではないので、養育費を支払わなくても前科にはなりませんし、身体を拘束されることもありません。

しかし、改正法においては、制裁が「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」という刑罰になっています。

罰金を支払わないと身体拘束を伴う労役場留置となる可能性もありますし、懲役を受ける可能性もあるので、不払いを続ける義務者には強い圧力になります。

金融機関本店に情報提供を命ずる手続き

地方裁判所を通して金融機関の本店に照会すれば、義務者との取引の有無や取引がある店舗、預貯金残高について情報提供してもらえる制度が新設されます。

強制執行の前に取引のある店舗や預貯金残高が特定できるようになれば、現在のように当てずっぽうに差し押さえをかける必要がなくなります。

預貯金のある店舗に絞り、預貯金残高に応じて金額を振り分けて差し押さえれば、養育費滞納分を効率的に取り立てることが可能です。

義務者が株式投資をしている場合、証券保管振替機構に照会すれば、上場株式や社債を保有している証券会社を確認できるようになると思われます。

この手続きを利用するには、相手の財産を全く把握できていない場合や、把握している財産について強制執行をしても全額が支払われないような場合に、調査報告書によって説明する必要があるとされています。

また、義務者の取引銀行を自力で特定する必要があるところは変わらないので、注意が必要です。

市町村などに給与支払者の情報提供を命令する手続

財産開示手続きを利用した後、地方裁判所を通して、市町村、日本年金機構、共済組合に対して、義務者の給与支払者に関する情報提供を求めることができる制度が新設されます。

市町村などは、業務上、義務者の給与支払者の情報を把握することができます。

機関給与支払者の情報を把握する方法
市町村住民税の特別徴収の手続き
日本年金機構厚生年金保険料の徴収の手続き
共済組合

義務者が仕事をしていれば、市町村などからの情報提供によって給与支払者を特定し、義務者の給与を対象とした差し押さえができるようになります。

公正証書の効力が高まる

改正民事執行法では、執行認諾文言付きの公正証書でも、財産開示手続きを利用できるようになります。

現在は、強制執行の手続きは利用できますが、財産開示手続きが使えません。

そのため、差し押さえの対象を自力で探さなければならず、「高い費用を出すだけの効果がない」という批判がありましたが、改善されることになったのです。

改正後も、数万円単位の費用がかかることに変わりはなく、強制執行以外の手続き(履行勧告や履行命令)は利用できませんが、強制執行の手続きについては大きく改善されたと言えます。

改正民事執行法が施行された後は、施行前に作成した公正証書でも財産開示手続きを利用することができるので、近いうちに公正証書を作成する予定だとしても、心配はいりません。

公正証書を作成するときは、執行認諾文言を条項に加えることを忘れないようにしてください。

そもそも、なぜ養育費が滞るのか

養育費は、子供の生活費であり、子供が健全に成長するために必要な費用なので、義務者には自分の意思で支払い続けてもらうのが理想です。

義務者の自発的な支払いを促すには、権利者(養育費を受け取る人)の義務者への関わり方や態度が重要な意味を持ちます。

そのため、最後に少し、養育費が滞る理由についても触れておきます。

義務者の生活が変化した

養育費の支払いが滞る原因として最も多いのは、義務者の生活の変化です。

例えば、義務者が再婚し、再婚相手やその間に生まれた子供を扶養することになり、養育費を支払うだけの経済的余裕がなくなったというのは、よくある話です。

また、再婚相手に気兼ねして支払わなくなるケースも少なくありません。

その他、仕事のリストラや降格人事、病気やケガによる休職などで義務者自身の生活が苦しくなることもあります。

こうした場合には、義務者から養育費の減額を求められることも覚悟しなければなりません。

養育費減額・増額請求調停の必要書類と費用、減額・増額事由を解説

養育費を支払うモチベーションが低下した

離婚の朝廷や訴訟では、「離婚して夫婦関係は終わっても、親子関係はなくならない」という主張をよく見聞きします。

しかし、離れて暮らす時間が長くなるほど、子供への気持ちや親としての自覚が薄れ、養育費を支払い続けるモチベーションも低下する傾向があります。

特に、定期的に面会交流が実施されていない場合や、監護親との関係が悪い場合、「会えもしない子供のために養育費は支払いたくない。」、「支払っても監護親が自分のために使うに決まっている。」などという気持ちが強くなり、養育費の不払いにつながります。

監護親にできること

まずは、義務者と子供との面会交流が円滑に続けられるように努力することです。

離れて暮らしていても、子供との関わりが維持されていれば、養育費の支払いに対するモチベーションは低下しにくいものです。

また、養育費を支払う義務者への認識を変えることも重要です。

「養育費は、子供のための費用だから支払われて当然」だと思うかもしれませんが、養育費として支払われる金銭は、義務者が汗水たらして働いて得たものです。

感謝や労いの言葉をかけるまではしなくても、義務者の努力を認めることは大切でしょう。

「支払われて当然」と思っていると、義務者に対する言動や態度に現れてしまい、支払いへのモチベーションを低下させてしまうおそれがあります。

>>>「養育費」の記事一覧に戻る

【参考】

アバター

離婚ハンドブック編集部

投稿者プロフィール

家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
また、マイナンバー、国民年金、税金、養子縁組、青年後見など、日常生活の中で利用する制度や手続きを分かりやすく解説する記事も掲載しています。
サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

この著者の最新の記事

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権
    離婚後単独親権に対する問題提起や批判は以前からありましたが、近年、欧米諸国などで採用されている離婚後…
  2. 専業主婦 離婚 準備
    「専業主婦(主夫)だけど離婚したい。でも、離婚後の生活が不安。」、「離婚したいが、専業主婦は離婚後に…
  3. 離婚協議書 公正証書
    協議離婚する場合、離婚することと諸条件について夫婦で話し合い、合意した内容を離婚合意書にまとめた上で…
  4. 離婚調停 相手方 準備
    「ある日突然、見知らぬ住所と差出人の名前が書かれた茶封筒が自宅のポストに届き、中を開けてみると「調停…
  5. 弁護士会照会制度
    離婚紛争を弁護士に依頼すると高額な費用がかかりますが、依頼によって得られるメリットもあります。 …
  6. モラハラ 離婚
    配偶者のモラハラ(モラルハラスメント)を理由に離婚したいと考える人は少なくありません。 しかし…
  7. 離婚調停 成立 調停条項
    離婚調停は、夫婦間で離婚やそれに伴う条件面の合意ができると調停調書が作成され、調停が成立します。 …
  8. 養育費 強制執行 手続き 流れ
    夫婦間で取り決めた養育費が支払われない場合の対応には、履行勧告、履行命令、強制執行があります。 …
  9. 離婚 弁護士費用 相場
    離婚問題を弁護士に依頼する場合にトラブルになりやすいのが、弁護士費用です。 「離婚 弁護士費用…
  10. 離婚調停 弁護士
    「離婚調停で弁護士は必要か」と聞かれたら、弁護士の立場からは「必要です。ぜひご依頼ください!」と答え…

スポンサーリンク

ピックアップ記事

  1. 離婚後 選択的共同親権

    選択的共同親権とは?法務省が検討する「離婚後の親権の選択制」の意味

  2. 専業主婦 離婚 準備

    専業主婦の離婚準備:仕事と生活費、子どもの親権、年金のことなど

  3. 離婚協議書 公正証書

    離婚協議書の書き方:自分で作成する方法と公正証書の作り方を解説(雛形付)

  4. 離婚調停 相手方 準備

    離婚調停を申し立てられた相手方が調停第1回期日までに準備すること

ページ上部へ戻る