有責配偶者からの婚姻費用分担請求について判例や学説を踏まえて解説

婚姻費用は「婚姻から生ずる費用」、つまり、夫婦が共同生活を送るためにかかる費用です。

夫婦は、離婚するまでは互いに婚姻費用を分担する義務を負います。

夫婦関係が悪化して別居したとしても、収入の多い方が少ない方に婚姻費用を支払うことになります。

しかし、夫婦関係の破たんの原因が夫婦の一方にある場合、破たんの原因を作った有責配偶者からの婚姻費用分担請求を認めるか否かについては、判例や学説が分かれています。

この記事では、有責配偶者からの婚姻費用分担請求について解説します。

有責配偶者とは

有責配偶者とは、離婚原因を作って夫婦関係を破綻させた夫または妻のことです。

例えば、妻以外の異性と性的関係を持って夫婦関係を破たんさせた夫が有責配偶者です。

過去の判例は、有責配偶者からの離婚請求を認めていませんでしたが、1987年に9月2日、最高裁判所大法廷が一定要件を満たす場合には有責配偶者からの離婚請求を認める判決を出しました。

1 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。

2 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が三六年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。

最高裁判所大法廷昭和62年9月2日判決|判決要旨

この判決では、別居が長期間に及ぶこと、未成熟子がいないこと、離婚によって相手が精神的・社会的・経済的に困らないことなどを条件として有責配偶者からの離婚請求を認めています。

その後、有責配偶者からの離婚請求を認める判決が増加していますが、有責性のない配偶者からの離婚請求に比べると、上記のとおり厳しい条件が課せられています。

婚姻費用分担についても、有責性を考慮して分担請求を認めない、または分担額を減額するとする判例や学説があります。

有責配偶者からの婚姻費用分担請求

有責配偶者からの婚姻費用分担請求に関する主な判例や学説は、以下の4つの立場のいずれかをとっています。

  1. 夫婦関係破たんに関する有責性を考慮せず請求を認める
  2. 請求は認めるが、有責性を考慮して減額する
  3. 請求は認めるが、婚姻関係の破たんを考慮して減額する
  4. 有責性を考慮して請求を認めない

1.有責性を考慮せず請求を認める

婚姻費用の分担義務と夫婦関係破たんの有責性を関連付けず、有責配偶者からの婚姻費用分担請求を認める立場です。

有責配偶者からの請求でも、無責配偶者からの請求と同じように婚姻費用を分担する義務があり、有責性については、離婚時に不法行為に対する損害賠償請求として、慰謝料請求や財産分与(慰謝料的財産分与)として請求すれば足りるとされています。

有責配偶者によって夫婦関係が破たんしているにも関わらず、収入が多い夫または妻は、夫婦の扶助義務(生活保持義務=自分の生活と同じ水準の生活を相手にも保持させる義務)に基づいて婚姻費用を支払うことになります。

2.請求は認めるが、有責性を考慮して減額する

有責配偶者からの婚姻費用分担請求は認めるものの、その有責性を考慮して婚姻費用分担の金額を減額する立場です。

夫婦の同居協力扶助義務に違反して夫婦関係を破たんさせた有責配偶者が婚姻費用分担を請求するのは、義務を履行せず権利だけを請求するのは権利の濫用に当たり、減額が相当だと考えられています。

具体的には、通常、収入が多い夫または妻は、生活保持義務の範囲で婚姻費用分担の義務を負いますが、生活扶助義務(自分の生活に影響を与えない範囲で、相手を扶助する義務)の範囲で分担すれば足りるとしています。

3.請求は認めるが、婚姻関係の破たんを考慮して減額する

有責配偶者からの婚姻費用分担請求は認めるものの、婚姻関係の破たんを考慮して婚姻費用の分担額を減額する立場です。

有責配偶者の有責性については、慰謝料請求や財産分与で請求すれば足り、婚姻費用分担では考慮しない一方で、夫婦関係に破たんが認められる場合は、減額が相当だと考えられています。

有責性を考慮して婚姻費用分担額を減額する場合と同じで、生活保持義務から生活扶助義務の範囲に落として分担すれば足りるとされています。

婚姻関係の破たんが認められるか否かは、夫婦が離婚を希望しているかどうかで判断されます。

夫婦がともに離婚を場合、婚姻関係が破たんしていると判断されて生活扶助義務の範囲まで婚姻費用が減額されますが、婚姻費用を支払う夫または妻が復縁を希望する場合、破たんしているとは判断されず、生活保持義務の範囲で婚姻費用が決まります。

4.有責性を考慮して請求を認めない

有責配偶者からの婚姻費用分担請求は、権利の著しい濫用に当たるため認められないという立場です。

生活扶助義務の範囲内での婚姻費用分担も認められません。

有責配偶者は、婚姻費用を得られないだけでなく、離婚していないためシングルマザーやシングルファザーに関する公的支援制度を利用できません。

生活に困窮した場合は生活保護を受給することになりますが、生活保護法では私的扶養が公的扶養に優先されると規定されており、生活保護を申請しても審査などに時間を要することがあります。

子どもの養育費相当分

夫婦の間に未成熟な子どもがいる場合、婚姻費用には子どもの養育費相当分も含まれることになります。

いずれの立場でも、有責配偶者が未成熟な子どもと同居している場合、婚姻費用のうち子どもの養育費相当分については減額や免除されることはありません。

無責配偶者から有責配偶者に対する婚姻費用分担請求

有責配偶者からの婚姻費用分担請求では婚姻費用が減額されるという話を聞き、「無責配偶者が婚姻費用分担請求をする場合、相手の有責性を考慮して婚姻費用を増額できるのではないか。」と勘違いする人がいます。

しかし、有責配偶者の有責性については慰謝料や慰謝料的財産分与で請求すべきであり、婚姻費用分担請求で考慮されることはありません。

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婚姻費用分担とは?婚姻費用の内訳と負担を請求できる期間は?

婚姻費用分担調停や審判における取扱い

判例上、婚姻関係の破綻原因が婚姻費用の権利者にある場合、請求を認めないか制限的に認める傾向にあります。

ただし、婚姻費用分担調停や審判の申立てについては、婚姻中の夫婦であれば有責配偶者でも申し立てることができます。

有責配偶者から婚姻費用分担調停が申し立てられた場合

有責配偶者からの申立てであっても、管轄のある家庭裁判所に必要書類と費用が揃っていて、書類審査で不備が見つからなければ、家庭裁判所は申立てを受理します。

また、調停の手続きの中で申立人が有責配偶者かどうか判断することは困難なので、原則として、有責性に関する事情は考慮されずに調停が進行することになります。

例外的に、申立人が自ら有責配偶者であることを認めている場合は、その有責性を考慮して、婚姻費用のうち申立人と同居中の子どもの養育費に相当する部分のみを認める調停案が示されることがあります。

しかし、調停はあくまで夫婦の話し合いであり、夫婦の合意ができて初めて成立するものです。

そのため、申立人が有責性を認めながら通常の婚姻費用(夫婦の扶助義務に基づく費用+子どもの扶養義務に基づく費用)の分担を主張した場合、その主張を認めず調停を成立させることはできません。

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婚姻費用分担請求調停の申立てと流れは?欠席すると不成立で審判移行?

調停不成立で審判移行した場合

調停を経ずに審判が申し立てられた場合、原則、家庭裁判所の職権で調停に付され、まずは調停での話し合いが行われます。

そして、調停が不成立で終了すると、自動的に審判の手続きに移行します。

婚姻費用分担請求審判では、夫婦の収入、子どもの年齢や人数など通常の婚姻費用分担の判断基準に加え、有責配偶者の有無や別居の経緯など夫婦の有責性についても考慮されます。

現在の判例は、有責配偶者の有責性を考慮し、減額して請求を認める傾向があります。

有責配偶者からの婚姻費用分担審判の申立てがされた場合には、申立て自体が権利の濫用であるとし、婚姻費用分担額を零円とする趣旨で申立てを却下するか、そうでないとしても、通常の夫婦間における扶助義務(いわゆる生活保持義務)よりも程度を減じて分担を命ずるのが相当である。

引用:大阪高等裁判所平成16年1月14日判決

ただし、有責配偶者が子どもと同居している場合、婚姻費用のうち子どもの養育費に相当する部分については、有責性に関わらず認められます。

別居の原因は主として申立人である妻の不貞行為にあるというべきところ、申立人は別居を強行し別居生活が継続しているのであって、このような場合にあっては、申立人は、自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず、ただ同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。

引用:東京家庭裁判所平成20年7月31日審判

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家事事件(離婚、遺産分割、成年後見など)を専門に取り扱って12年の経験を踏まえ、「離婚ハンドブック」では、離婚に関する制度や手続きについて行政・司法機関よりも詳しく分かりやすく解説しています。
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サイト上では詳細なプロフィールは明かしておらず、仕事の依頼も受けていません。

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